加工デンプンのお話をする前に、デンプンの特有現象である糊化と老化について触れたい。デンプンは水には溶解せず、白濁した懸濁液となるが、加熱すると粘りが出て、懸濁液が透明な状態に変化する。これを一般的に糊化という。
糊化したデンプンは、ヒトの持つデンプン分解酵素の作用を受けて糖になることにより、おいしさも増すし消化性も向上する。このようにデンプンに火を加えて糊化した状態で摂取するのは、ヒトに特徴的な現象である
1)。火を使えないサルは、手っ取り早く糖分を摂取するためには、既に分解された状態で糖質を多く含む果実を摂取する必要がある。そのために木の上で生活することを余儀なくされた。ヒトは進化の過程でサルから分かれる際に、樹上から地上での生活を余儀なくされた。果実を摂取する代わりに効率よく栄養価を取るためには、デンプンを使わない手はない。いつしか、ヒトは火を使うことを覚えることにより、デンプンを糊化させて、栄養価の高い状態でおいしく摂取することを会得したという。さらにデンプンを多量に蓄積する植物を見つけ、これらを作物として栽培することにより、確実に大量に効率的なエネルギー取得方法を得ることが可能になった。地球上でヒトがこれだけ繁栄できたのは、デンプンを糊化して摂取することを見いだしたことも重要なポイントなのでは、と筆者は考える。
話がそれたが、それだけ、デンプンの糊化は重要なのである。デンプンの糊化は、ミクロな視点で見ると、デンプンを構成する高分子成分であるアミロースやアミロペクチンが水を吸うことにより、結晶状態から、ばらばらな状態に変化する一種の相転移現象と考えられる。
一方、老化現象は、温度が低くなることにより、糊化したデンプンの鎖がよりエネルギー的に安定な状態に戻るためにお互い水素結合を作り、再び会合する現象と考えられている(
図2)。日本語では、“老化”というが、英語では、“retrogradation” と呼ぶ。“retro-”とは“さかのぼって”、“gradation”は、“徐々なる変化”という意味で、デンプンが糊化した状態から、徐々に糊化する前の結晶構造に近い形に戻っていくという意味をとることができる。ただ、完全に糊化する前の結晶状態に戻ることができるわけもなく、一般に老化したデンプン食品は、食感が硬く、ぼそぼそとしたものとなり、見かけも透明感が失われ、離水が起きることもある。老化に影響を与える因子として大きく4つが挙げられる。
1) 温度
水が凍結しない程度の低温が最も老化しやすいと考えられるため、食品を冷凍する場合は、この温度域を素早く通過させてあげることが必要である。
2) 水分
50〜60%の時が最も老化しやすいと言われている。水分を極力減らした食品である即席麺やせんべいなどは老化が起きない。
3) アミロース含量
デンプンの成分としては、アミロペクチンよりアミロースのほうが老化しやすい。デンプンの種類としては、コーンスターチや小麦などの穀物系のデンプンのほうが、タピオカなどの芋系のデンプンに比べ、老化しやすい性質がある。
4) 共存物質
糖質や一部の乳化剤は老化を抑える効果がある。また製パンなどでは、β-アミラーゼなどのデンプン分解酵素とデンプンを併用することにより、老化を遅延させる工夫が取られる。
しかし、老化を完全に抑制することは難しく、多くは次に述べる加工デンプンを使うこととなる。