試算(c−1)〜(c−4)は、各新技術を導入可能とした場合の試算結果で、試算(c−5)は全ての新技術を導入可能とした場合の試算結果である。まず、(c−1)〜(c−4)を見ると、いずれのケースも新技術が選択され、かつ経営面積も60ヘクタール近くまで拡大可能となる。中でも、てん菜直播を導入可能としたケースでは、移植 と直播が併用されるものの、てん菜の作付面積を15ヘクタールまで拡大できる。また、ばれいしょソイルコンについては、作付面積全てで新技術が導入され、 11.9ヘクタールまで作付面積を拡大できる。さらに、春作業の競合解消によりてん菜の作付拡大も可能となるため、結果的に収益性の高い根菜類の作付割合が高まり、所得増加額は756万円と大幅な向上が見込まれる。
また、新技術を全て導入可能とした場合(試算 (c−5))では、各新技術の相乗効果によって経営全体で大きな効果が期待できる。ばれいしょソイルコンは、単独でもばれいしょの作付拡大に大きく寄与するが、てん菜直播と組み合わせることでさらに拡大が可能となる。また、 てん菜も直播の一部導入によって作付拡大が可能となることから、小麦の作付比率が大きく低下し、所得は1000万円以上の増加が見込まれる。このように新体系では、各作物の省力化をもたらすだけでなく、農繁期の作業競合が解消されることで、より収益性の高い根菜類の作付面積や経営面積の拡大が可能となり、所得の面でも大きな効果をもたらすと期待される。
最後に、60ヘクタール規模の経営において新体系を導入したときの生産コストについて比較した結果が
表4である。ばれいしょは作業の外部委託により賃借料料金が大幅に増加する一方、委託に伴う農機具費の低下や省力化による労働費の低下により、10アール当たり生産費はわずかではあるが95%にまで低下した。さらに規格内収量の向上により、生産物当たり生産費は2011年度で慣行の90%程度に減少、収量の低い年を含めても慣行以下の水準となった。
また、てん菜についても賃借料料金が増加するが、労働費や農機具費、さらには育苗資材が不要となることで、10アール当たり生産費は88%にまで低下した。ただし、慣行の移植体系に比べ収量が劣るため、生産物当たりの生産費は2011年度の値で95%にとどまり、天候等の影響によりさらに減収する場合には、慣行を上回ることもあった。生産物当たりの生産費削減には、天候等の収量リスクへの対策が今後の課題であると言える。