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てん菜直播、ばれいしょソイルコンディショニングを核とする新体系の導入効果

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最終更新日:2016年4月11日

てん菜直播、ばれいしょソイルコンディショニングを核とする新体系の導入効果

2016年4月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター 大規模畑作研究領域
主任研究員 若林 勝史

【要約】

 てん菜直播栽培やばれいしょソイルコンディショニング栽培の導入は、各作物の労働負担を大幅に減らすだけでなく、作業競合が軽減されることで規模拡大や根菜類の作付拡大が可能となり、畑作経営に大きな所得拡大をもたらすと期待される。

はじめに

 てん菜、ばれいしょは、小麦や豆類とともに、北海道の畑作経営にとって輪作上、欠かすことのできない作物である。同時に、北海道のてん菜が砂糖の国産原料に占める割合は8割強、また、ばれいしょも国内生産量の8割近くを占めていることから、北海道の畑作地域はそれら作物の供給 産地として重要な役割を担っている。しかしながら、道内のてん菜、ばれいしょの作付面積は減少傾向にある。てん菜の作付面積は、2000年の6万9200ヘクタールから2014年の5万7400ヘクタールと15年間で17%減少している。また、ばれいしょも5万9100ヘクタールから5万1500ヘクター ルと13%減少している。

 こうした傾向は主産地である十勝地域やオホーツク地域においても同様である。両地域における2000年から2014年までの作付面積の変化を見ると、てん菜で16%(5万8000ヘクタールから4万8500ヘクタールへ)、ばれいしょで9%(4万3400ヘクタールから3万9400ヘクタールへ)減少している。その一方で、作付面積を伸ばしているのが小麦(6万7500ヘクタールから7万5600ヘクタールへ)である。このような作付構成の変化の要因の一つは、農家数の減少とそれに伴う経営の規模拡大である。後述するように、てん菜であれば育苗作業や移植作業に、ばれいしょであれば収穫作業に多くの労働負担を要する。従って、経営面積が拡大した場合には、労働集約的なてん菜、ばれいしょの作付面積はある一定以上に拡大することができず、省力的な小麦の作付拡大が進むこととなる。

 こうした状況の下、省力的なてん菜直播栽培の面積が拡大傾向にある。また、ばれいしょでは効率的な収穫作業を可能にするオフセットハーベスタやソイルコンディショニング栽培の導入、さらに、一部地域では作業受託体制の整備も始まっている。

 そこで本稿では、てん菜直播栽培やばれいしょソイルコンディショニング栽培を核とした省力技術体系の経営的効果について紹介する。なお、ここで示すデータは、農林水産省委託プロジェクト研究「担い手の育成に資するIT等を活用した新しい生産システムの開発」および「水田の潜在 能力発揮等による農地周年有効活用技術の開発」の下、2007〜2011年に実施した実証試験に基づいている。

1. 畑作経営の現状と新体系の特徴

 まず、北海道の畑作経営の現状について、実証経営である十勝管内A町のB畑作経営を例に見ていきたい。

 B経営の経営面積は、2006年時点で44ヘクタールであり、その後徐々に規模拡大が進み、2011年に52ヘクタールに達 している。労働力は、経営主と両親の3名(うち、経営主と父が主たる作業を担当し、母は補助作業を担当)である。作付品目は、小麦、てん菜、加工用ばれい しょ、豆類(大豆または小豆)のいわゆる畑作4品目を中心に、加工用スイートコーンやかぼちゃ等で構成される。実証試験に取り組む前の2006年の作付面積は、小麦14.5ヘクタール、てん菜7.5ヘクタール、ばれいしょ5.6ヘクタール、豆類11.0ヘクタール、その他5.4ヘクタールである。

 図1は2006年の作付構成を基に年間の旬別労働時間を示したものである。これが示すように、畑作経営では季節による繁閑の差が非常に大きいことが特徴である。その中で注目すべきは、4月下旬から5月中旬、さらに9月上旬から9月中旬にかけて200時間を超えるような大きな労働ピークが形成されている点である。前者について言えば、てん菜の移植作業とばれいしょの播種作業が大きな要因であり、適期作業のためにそれらを同時または連続して作業を行わなければならないため大きな労働ピークが形成されている。また、後者のピークは、ばれいしょの収穫作業が要因となっている。慣行の収穫体系では、機上選別等、組作業を必要とし、かつ収穫機の作業速度も極めて低速のため、多くの労働時間を要している。さらに、ばれいしょは小麦の前作となるため、小麦の播種時期に当たる9月下旬までに多くの面積を収穫し、小麦の播種のためにすぐさま整地作業を行わなければならない。
 
 こうした労働ピークは、経営規模が大きくなるほど先鋭化するため、一定規模以上ではてん菜やばれいしょの作付面積を増やすことが困難となる。その結果、小麦等の省力的な作物に作付けが偏り、小麦の連作・過作が問題となっている。B経営がそうであったように、周辺農家の離農を背 景に徐々に規模拡大は進んでおり、今後そうした傾向はより加速化していくものと懸念されている。適正な輪作体系を維持し、さらに地域として、てん菜、ばれ いしょの作付面積を維持していくには、それら作物の省力化が大きな課題と言える。

 こうした背景の下、将来の担い手と想定される60ヘクタール規模の家族経営を念頭に、てん菜の春作業やばれいしょ収穫作業の省力化を目的とした新たな生産体系の実証試験を進めた。また、そこでは収量向上等による低コスト化も狙いとしている。

 具体的に、てん菜については春作業の省力化に向けて移植栽培から直播栽培への転換を図るが、その際、直播栽培導入のネックとなる収量低下に対応するため、畦幅50センチメートルの狭畦栽培や、精度の高い真空播種機の利用、春先の風害対策としてカバークロップ(えん麦)を導入す る(図2)。また、収穫作業については狭畦栽培への対応と効率的な外部作業委託体制の構築を前提に、6畦の自走式収穫機を導入する(以下、これら技術の組み合わせを「てん菜直播」とする)。
 
 ばれいしょについては、収穫作業の効率化を図るために高速で収穫できるオフセットハーベスタを導入する。オフセットハーベスタは慣行のポテトハーベスタよりも大型の機械で、土塊の分離能力が高いことから、収穫速度を規定する機上選別の省力化が可能となり効率的な収穫作業が実現できる。しかし、沖積地帯など石礫(せきれき)の多いほ場条件下においては、礫の選別作業やキズ、打撲の発生による歩留まり低下が生じるケースもある。そこで、より効率的な収穫を実現するため、栽培前に播種床そのものから土塊・石礫を除去するソイルコンディショニング栽培を組み込む(図3)。
 
 ソイルコンディショニング栽培は、ベッドフォーマで畦立てをした後、セパレータで土塊・石礫を除去(畦間またはほ場外に排 出)した播種床を形成し、深植えプランタで種いもを植え付けする。また、ここでは春作業のさらなる省力化を図るため、全粒種いもを利用し、種いも切り作業を省略する(以下、「ばれいしょソイルコン」とする)。これら技術の組み合わせにより効率的な収穫作業を実現するとともに、キズや打撲の軽減により歩留まり向上を図る。

 その他、実証試験ではてん菜直播で用いた真空播種機の汎用利用と収量向上を目的として、大豆についても狭畦栽培(以下、「大豆狭畦」とする)を導入する。また、適正な輪作体系構築のため、休閑緑肥の導入も視野に入れている。

2. 新技術体系の導入効果

 実証試験で想定する生産体系では一部に大型機械の導入を念頭に置いているが、家族経営では十分な稼働率を確保できないものもある。逆に言えば、高能率な大型機械であれば、コントラクタなど作業受託体制の構築も可能であることから、一部作業については外部への作業委託を前提に組み込むことを想定している。

 表1は、新体系とその作業実施体制について示したものである。てん菜直播においては、先に述べたように収穫機を地域で運用し、収穫作業を外部委託によって実施するものとしている。また、ばれいしょソイルコンにおいては、春の整地、播種、収穫作業において外部委託を前提とするが、組作業となるベッドフォーマのオペレータ、播種時の補助作業、収穫の機上選別作業は生産者自身が行うものとしている。また、実証地域の実情に合わせ、 慣行同様に大豆狭畦の収穫は外部委託するものとしている。
 
 以上の前提の下、新体系を導入した場合の省力効果を示したのが表2である。

 てん菜では、新体系の導入により10アール当たり家族労働時間は3.54時間となり、慣行体系の9.74時間に比べて63.7%省力化が図られた。そのうち大きな割合を占めているのが育苗作業で、30.9%分の省力化に寄与している。また、移植・播種作業も24.4%の省力化に寄与し、その二つの作業が全体の省力化に大きく寄与していることが分かる。その他、収穫作業についても外部委託により11.2%の省力化に寄与している。

 また、ばれいしょについても、10アール当たり家族労働時間は6.88時間と、慣行体系に比べ52.8%の省力化が実現され た。そのうち40.8%分は収穫作業の省力化によるものだが、オペレータの外部委託のみならず、収穫作業の効率化によって10アール当たり9.96時間から同4.01時間までに削減できたことが大きな要因である。
 
 このように新体系においては、当初の目的通り作業競合の生じる春作業やばれいしょ収穫作業で大幅な省力化を図ることが可能となった。

 さらに、こうした省力化が経営全体にいかなる影響を及ぼすかを確認するため、数理計画法を用いた経営モデルの試算を行った。経営モデルは、各作物の収益の他、それぞれの労働時間や輪作順序等を条件としながら、その下で実現される作付構成や新技術の導入可否等を試算する方法である。

 表3はその試算結果である。試算(a)はB経営の現状を念頭に、選択できる技術を慣行体系のみとし、さらに経営規模を45ヘクタールとして試算した結果である。導き出された作付構成は、おおむね2006年時点のB経営の様子を表している。また試算(b)は慣行体系の下で60ヘクタールまで規模拡大が可能かどうかを試算した結果である。規模拡大に伴い、てん菜、ばれいしょの作付面積は減少し、その他の省力的な作物が拡大することが見て取れる。また、ここでは適正な輪作体系を維持できなくなるため、拡大できる面積は54.2ヘクタールが限界となる。従って、慣行体系の下で60ヘクタール規模の経営を成立させるには、小麦の連作を増やす等、輪作体系を崩さざるを得ない状況にあると言える。
 
 試算(c−1)〜(c−4)は、各新技術を導入可能とした場合の試算結果で、試算(c−5)は全ての新技術を導入可能とした場合の試算結果である。まず、(c−1)〜(c−4)を見ると、いずれのケースも新技術が選択され、かつ経営面積も60ヘクタール近くまで拡大可能となる。中でも、てん菜直播を導入可能としたケースでは、移植 と直播が併用されるものの、てん菜の作付面積を15ヘクタールまで拡大できる。また、ばれいしょソイルコンについては、作付面積全てで新技術が導入され、 11.9ヘクタールまで作付面積を拡大できる。さらに、春作業の競合解消によりてん菜の作付拡大も可能となるため、結果的に収益性の高い根菜類の作付割合が高まり、所得増加額は756万円と大幅な向上が見込まれる。

 また、新技術を全て導入可能とした場合(試算 (c−5))では、各新技術の相乗効果によって経営全体で大きな効果が期待できる。ばれいしょソイルコンは、単独でもばれいしょの作付拡大に大きく寄与するが、てん菜直播と組み合わせることでさらに拡大が可能となる。また、 てん菜も直播の一部導入によって作付拡大が可能となることから、小麦の作付比率が大きく低下し、所得は1000万円以上の増加が見込まれる。このように新体系では、各作物の省力化をもたらすだけでなく、農繁期の作業競合が解消されることで、より収益性の高い根菜類の作付面積や経営面積の拡大が可能となり、所得の面でも大きな効果をもたらすと期待される。

 最後に、60ヘクタール規模の経営において新体系を導入したときの生産コストについて比較した結果が表4である。ばれいしょは作業の外部委託により賃借料料金が大幅に増加する一方、委託に伴う農機具費の低下や省力化による労働費の低下により、10アール当たり生産費はわずかではあるが95%にまで低下した。さらに規格内収量の向上により、生産物当たり生産費は2011年度で慣行の90%程度に減少、収量の低い年を含めても慣行以下の水準となった。

 また、てん菜についても賃借料料金が増加するが、労働費や農機具費、さらには育苗資材が不要となることで、10アール当たり生産費は88%にまで低下した。ただし、慣行の移植体系に比べ収量が劣るため、生産物当たりの生産費は2011年度の値で95%にとどまり、天候等の影響によりさらに減収する場合には、慣行を上回ることもあった。生産物当たりの生産費削減には、天候等の収量リスクへの対策が今後の課題であると言える。
 

おわりに

 以上、実証試験結果を基にてん菜直播栽培やばれいしょソイルコンディショニング栽培の経営的効果について述べた。これら省力技術は、規模拡大に伴い減少する根菜類の作付維持・拡大に寄与するとともに、畑作経営においても所得の向上をもたらすと期待される。今後、こうした省力技 術体系を広く普及するには、大型機械を地域で効率的に運用するための作業支援体制の整備が求められる。また、今後の国際化の進展を見据えた場合には、生産物のさらなる低コストが求められるが、近年の天候リスクに対応できる栽培技術の改善が課題である。
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