ホーム > でん粉 > 調査報告 > JA鹿児島きもつきにおけるかんしょでん粉粕を利用した飼料製造の現状と課題
最終更新日:2016年6月10日
そのような状況下において、しょうゆ粕や焼酎粕といった食品製造副産物、売れ残り弁当や廃食油といった余剰食品および調理残さ、規格外農産物といった農場残さは、輸入される濃厚飼料の代替として飼料に利用することで、飼料自給率の向上につながると期待されている。
これらの食品製造副産物などを利用して製造された家畜飼料は、エコフィードと呼ばれ、飼料自給率の向上のほか、食品リサイクルの点でも意義を持ち、飼料を利用する畜産業側においては、飼料費の削減や品質・生産性の向上、食品残さなどを排出する食品産業側においては廃棄物処理費の削減というメリットがある。
本稿では、かんしょでん粉粕を用いた繁殖雌牛用の完全混合飼料(以下「TMR」という)を製造している、鹿児島きもつき農業協同組合(以下「JA鹿児島きもつき」という)のJA鹿児島きもつきTMRセンター(以下「きもつきTMRセンター」という)と、そのTMRを給餌して繁殖雌牛を飼養している株式会社きもつき大地ファーム(以下「きもつき大地ファーム」という)を取り上げ、かんしょでん粉粕の飼料化の状況を紹介する。
かんしょでん粉の製造工程では、かんしょを洗浄して、磨砕機によって細かく砕いた後、分離器ででん粉粒を含む「でん粉乳」を抽出し、残りはでん粉粕として取り除かれる(図2)。
かんしょでん粉粕の主な利用用途は、畜産飼料やクエン酸原料、農地還元などがあるが、鹿児島県が24年1月に策定した「鹿児島県バイオマス活用推進計画」において、対象バイオマスの1つとして挙げられ、活用方針や目標が設定されている。
同計画では、クエン酸原料は輸入クエン酸などとの競合、肥料用としての生でん粉粕の農地還元は窒素飢餓や水分過多による収量低下などの課題を挙げている。一方、畜産飼料としては、たんぱく質やミネラルなどの不足、生でん粉粕の貯蔵性の悪さはあるものの、サイレージ化(乳酸発酵させて貯蔵性を高める)などによる飼料利用が可能であり、飼料原料としてのでん粉粕の利用拡大が期待されるとしている。
27年度の県内のかんしょでん粉粕の発生量は約2万トンである。
利用用途としては、約1万トン(全体の50%)が畜産飼料に向けられた(表2、図3)。
なお、かんしょでん粉粕の発生時期はでん粉工場稼動時期である9月から12月に限られ、また、他のエコフィードの原料となる食品残さなどと同様、水分が多く腐りやすいため、そのままでは給餌できる期間が限られてしまう。
でん粉粕を長期間利用できるようにするためには、サイレージ化などの加工が必要である。
(注1) 肉用牛飼養戸数と肉用種飼養頭数の表記について
農林水産省「畜産統計」の表記に基づき、飼養戸数は「肉用牛」を使い、飼養頭数は「肉用種(乳用種以外の肉用牛をいう)」を使っている。
県内有数の畜産地域の1つである肝属地域も例外ではなく、平成10年に約4000戸あったJA鹿児島きもつき管内の肉用牛飼養戸数は、26年には約1600戸まで減少した。さらには、将来的にも高齢化などの影響により生産基盤の縮少が懸念されている。
そのため、地域の生産者の飼料調達にかかる労力を軽減し、かつ肉用牛の生産基盤拡大などを図るため、JA鹿児島きもつきと鹿児島県経済農業協同組合連合会(以下「鹿児島県経済連」という)が一体となり、地域における大規模肉用牛繁殖経営の分業化体制の構築が進められ、その一環として、23年にきもつきTMRセンターが鹿屋市に設立され、24年に稼動を開始した。
それにより、粗飼料(乾草や稲わらなど)の生産を地域のコントラクター組織が、繁殖雌牛用の飼料の調製をきもつきTMRセンターが、繁殖雌牛の飼養管理をきもつき大地ファームが、子牛の哺育育成を鹿児島県経済連の肉用牛哺育・育成センターが、それぞれ担うこととなった(図5、図6)。
一方、粗飼料については地域の生産組合など4者からなるコントラクター組織が生産しており、イタリアンライグラス、エンバク、スーダングラス、WCS、稲わらを年間約3500トン供給している。きもつきTMRセンターでは、品質を保つため、粗飼料の出荷に当たっては水分が20〜30%程度になるまで乾燥させてからラッピングするよう、このコントラクター組織に依頼している。搬入された粗飼料は、ラップに飼料名と入荷日を記載の上、敷地内に保管し、入荷日の古いものから順に使用している。
かんしょでん粉は全国で鹿児島県のみで製造されていることから、かんしょでん粉粕も鹿児島県特有の未利用資源である。そのため、かんしょでん粉粕の利用に関する研究の大部分は鹿児島県で行われてきたが、かんしょでん粉粕の繁殖雌牛向けの飼料化に関する研究は限られており、上述の配合割合が決まるまでは試行錯誤が繰り返された。
現在も、攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業を利用して、鹿児島県農業開発総合センター畜産試験場でTMRの成分分析を、きもつき大地ファームでは繁殖雌牛の脂肪の蓄積状態を示すボディコンディションの計測を行い、配合割合についての検証を続けているところだ(表3)。