ホーム > でん粉 > 調査報告 > 低温糊化性でん粉原料用サツマイモ「こなみずき」の多収栽培法
最終更新日:2016年12月9日
サツマイモでん粉で低温糊化性や耐老化性などの特性を持った品種「こなみずき」が育成された。しかし、でん粉原料用の主要品種「シロユタカ」に比べ、収量がやや低かったことから、「こなみずき」の品種特性を生かした多収栽培法を確立した。11月末収穫をめどに200日以上の栽培期間を確保できる5月上旬までに植え付け、1個重を重くするために基肥窒素施肥量を基準の5割増しの10アール当たり12キログラムとし、上いも個数を多くするために水平植えでの栽培が適当である。
サツマイモは鹿児島県本土および種子島の畑作地帯における夏作の基幹作物で、2015年の栽培面積が1万2400ヘクタールである。このうちの38%、4710ヘクタールがでん粉原料用で、栽培品種は「シロユタカ」が約8割を占める。生産されたサツマイモでん粉は、固有用途が少なく、約8割が異性化糖などの糖化原料として利用されている。このような中、これまでのサツマイモでん粉とは異なり、食品に利用した時に品質が向上するなどの加工適性の高い低温糊化性や耐老化性などの特性を持ったでん粉を含有する品種「こなみずき」が育成された(片山ら2012)。鹿児島県農業開発総合センターでは、サツマイモでん粉の利用拡大を図るために、その特性を生かした新たな用途開発も行ってきた。しかし、生産場面においては、でん粉原料用主要栽培品種の「シロユタカ」に比べ、「こなみずき」は収量がやや低いことが指摘されていた。これを受けて、「こなみずき」の収量性を最大限に引き出す栽培法を確立する必要があり、品種特性に基づいた多収栽培法を検討した。なお、本研究は2011〜2013年に農林水産省の農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業で行った。
試験は鹿児島県農業開発総合センター大隅支場(多腐植質厚層黒ボク土)で、「こなみずき」を供試し、8節苗を用い栽植密度1アール当たり278本のマルチ栽培で行った(以下の試験も同じ)。2011年は4月20日に植え付け、栽培期間161日(9/28)、180日(10/17)、201日(11/7)で収穫した。2012年は5月10日に植え付け、栽培期間159日(10/16)、179日(11/5)、201日(11/27)、221日(12/17)で収穫した。施肥は専用化成肥料で、Nを1アール当たり1.2キログラム、P2O5を1アール当たり1.8キログラム、K2Oを1アール当たり3.6キログラムとした。
栽培期間と収量および品質の調査結果を表1に示す。2011年の各栽培期間の上いも収量は、161日で1アール当たり385キログラム、180日で1アール当たり410キログラム、201日で1アール当たり536キログラムであった。前の収穫日からの増加重量を経過日数で除して期間の上いも重の日増加量を算出すると、161〜180日は1日当たり1.3キログラム、180〜201日は1日当たり6.0キログラムで、180〜201日の増加量が多かった。2012年の各栽培期間の上いも収量は、159日で1アール当たり315キログラム、179日で1アール当たり330キログラム、201日で1アール当たり366キログラム、221日で1アール当たり377キログラムであった。期間の上いも重の日増加量は、159〜179日が1日当たり0.8キログラム、179〜201日が1日当たり1.7キログラムで、179〜201日の増加量が多く、2011年と同様の結果であった。これらの結果から、1アール当たり350キログラム以上の収量を安定的に得るためには栽培期間が200日以上必要であることが分かった。しかし、2012年の栽培期間221日の12月17日収穫では、腐敗いもが発生し、切干歩合およびでん粉歩留まりとも低下した。この時の上いも収量は1アール当たり377キログラムであったが、でん粉歩留まりが低く、でん粉重は減少した。
サツマイモの塊根肥大性には早晩性があり、品種により塊根肥大特性は異なる。「こなみずき」は、2カ年とも栽培期間で180〜200日間の増加量が、160〜180日間の増加量に比べて大きかった。このことから、「こなみずき」の塊根肥大の特性を生かし、多収を得るためには栽培期間が200日以上必要と判断した。しかし、12月以降に収穫したものには一部腐敗が発生し、上いも収量は低下しないものの、品質の低下を伴うでん粉重の減少が認められた。図に収穫時期の平均地温の推移を示す。サツマイモは10〜13度以下の温度では低温障害を被ることや、でん粉白度が低下すること(時村ら2014)が報告されている。12月になるとこの温度帯に地温が低下することで低温障害を受け、でん粉収量や品質の低下が起こったと推察された。このため、「こなみずき」の収量や品質を維持するためには、11月末までに収穫する必要があると考えられた。
植え付けは、2011年が4月20日、2012年が4月17日、2013年が4月15日に行った。供試した肥料は、でん粉原料サツマイモ専用の化成肥料を用いた。試験区の施肥窒素成分量(kg/a)は、でん粉原料用基準量の1アール当たり0.8キログラム区と基準の1.5倍量の1アール当たり1.2キログラム区の2水準とした。また、K2Oは窒素の2倍または3倍量の2水準とした。P2O5は窒素の1.5倍量で、窒素1アール当たり0.8キログラム区が1アール当たり1.2キログラム区、1アール当たり1.2キログラム区が1アール当たり1.8キログラムであった。収穫は各年とも栽培期間約200日を目安に行った。
施肥法と収量および品質の調査結果を表2に示す。上いも収量は窒素施肥量で有意差があり、1アール当たり1.2キログラム区が1アール当たり0.8キログラム区に比べて多かった。上いも個数は、施肥法による影響がなかった。上いも1個重は、1アール当たり1.2キログラム区が1アール当たり0.8キログラム区に比べて重かった。でん粉歩留まりは同程度で、品質に施肥法の違いによる影響はなかった。でん粉重は上いも収量と同様の傾向で、1アール当たり1.2キログラム区が1アール当たり0.8キログラム区に比べて重かった。窒素と加里の配合割合は、収量および品質に及ぼす影響はなかった。
サツマイモの収量構成要素は、上いもの個数と1個重であるため、多収栽培を実現するためには、この2つを増やすことが必要である。施肥窒素量をでん粉原料用基準量の1アール当たり0.8キログラムから、基準の1.5倍量の1アール当たり1.2キログラムに増やすと、上いも個数は変わらなかったものの、上いも1個重が重くなり、上いも収量が多かった。このことから、1個重を重くするためには、窒素施用量をでん粉用の基準量の1.5倍の1アール当たり1.2キログラムにすることが適当と考えられた。
植え付け法は、水平植え、斜め植え、垂直植えの3水準で、2013年4月15日に植え付けた。水平植えは畦面に対しておおむね水平に挿苗し、垂直植えは畦面に対して垂直に挿苗した。斜め植えは、畦面に対して45度に調製した三角形の台を用い、畦面に対して45度で挿苗した。収穫は11月5日で栽培期間204日であった。施肥は専用化成肥料で、Nを1アール当たり1.2キログラム、P2O5を1アール当たり1.8キログラム、K2Oを1アール当たり3.6キログラムとした。
生産現場におけるでん粉原料用途での主な植え付け法は、垂直植えである。植え付け後58日目の初期生育を調査した結果、垂直植えでは他の植え付け法に比べ変動係数が大きく、生育のそろいが悪かった(データ略)。植え付け法と収量および品質の調査結果を表3に示す。上いも個数および上いも収量は、垂直植えに比べ、水平植えが多かった。上いも1個重は、水平植えに比べ、個数の少なかった垂直植えが重かった。垂直植えは、1個重が重くなるものの、裂開いもがあった。切干歩合およびでん粉歩留まりは同程度で、品質に植え付け法の違いによる影響はなかった。でん粉重は上いも収量と同様の傾向で、水平植えが重かった。
原料用の主な植え付け法である垂直植えに比べ、水平植えでは生育が早く、そろいも良く、1株当たりの上いも個数が多く、上いも個数や上いも収量が多かった。このことから、上いも個数を多くするためには、水平植えが適当と考えられた。
今回の試験結果から、「こなみずき」の品種特性を生かした多収のための栽培法は、11月末収穫をめどに200日以上の栽培期間を確保できる5月上旬までに植え付け、1個重を重くするために基肥窒素施肥量をでん粉用基準の5割増しの1アール当たり1.2キログラムとし、上いも個数を多くするために水平植えでの栽培が適当であることが明らかとなった。
引用文献
片山健二・境哲文・甲斐由美・中澤芳則・吉永優 2012. サツマイモ新品種「こなみずき」の育成. 九州沖縄農研報告 58:15-36.
時村金愛、下園英俊、久米隆志、西原悟、小山田耕作、福元伸一、藤田清貴、北原兼文 2014. 栽培条件の異なるサツマイモ新品種「こなみずき」塊根の澱粉品質. 応用糖類科学 4(3):234-240.