ホーム > でん粉 > 調査報告 > 土づくりの工夫および地域との連携によりかんしょの高単収を実現
最終更新日:2016年12月9日
鹿児島事務所 小山 陽平
南種子町の柳田陽介氏はさとうきびとの輪作における緑肥のすき込みや自作の液肥の散布など土づくりに工夫を凝らすことにより、町平均と比較し、でん粉原料用かんしょ生産で高単収を実現している。また、地域内での連携により植え付けや収穫作業を円滑に行っており、今後も地域での中心的役割が期待される。
種子島は鹿児島市の南東およそ115キロメートルに位置し、南北60キロメートル、東西5〜12キロメートルの細長い島であり、西之表市、中種子町、南種子町の1市2町で構成されている(図1)。全国的には、鉄砲伝来の地、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の種子島宇宙センターのロケット発射場がある島として広く知られており、歴史と最先端の産業が息づく地である。
気候は、年平均気温が19.6度と温暖であり、年間降水量は2345ミリメートル、年間日照時間は1804時間である。鹿児島市と比較すると年平均気温は1度高く、年間降水量は80ミリメートル多いが、冬場は北西の季節風の影響を受けやすいため曇りがちになる日が多く年間日照時間は130時間少ない。
平成22年度における産業別の就業者数の割合は、第1次産業が31.5%、第2次産業が12.0%、第3次産業が56.5%であり、第1次産業のうち農業の従事者の割合が93.3%となっている。また、全国平均ではそれぞれ、4.2%、25.2%、70.6%となっていることから農業が盛んな島であるといえる。
種子島における平成26年度の農業産出額は141億2237万円であり、その内訳は耕種部門が85億8806万円、畜産部門が55億3431万円となっている。耕種部門における農業産出額は、さとうきびが最も多く、次いで青果用さつまいも、原料用さつまいも(注)、水稲、ばれいしょの順に続いており、土地利用型作物が生産の中心となっている。また、青果用および原料用を合わせたさつまいもの生産額は30億998万円と耕種部門の生産額の35.1%を占めており、さつまいもはさとうきび(農業産出額25億3447万円)と並ぶ基幹作物であることがうかがえる(表1)。
(注)でん粉用のほか、焼酎用・その他加工品に向けられるさつまいものこと。なお、島内での焼酎用の割合は1割弱と、県本土の5割程度と比較するとかなり少なくなっている。
平成27年度のでん粉原料用かんしょの生産者数は、でん粉の価格調整制度が開始された19年度と比較すると、約45%も減少している(図2)。同様に、作付面積は生産者数の減少より緩やかであるものの約35%減少している。また、過去5年間のでん粉原料用かんしょの収穫量は年により増減があるが、3万トン前後で推移しており、26年度は生育初期の低温および10月の台風襲来などの天候不良の影響から過去最低の水準となった(表2)。これらのことから、でん粉原料用かんしょの生産基盤の維持およびでん粉工場における安定的な原料の確保が課題となっている。
このような厳しい状況の中、南種子町の柳田陽介氏(37歳)は、バイオ苗の導入、土づくりの工夫、地域との連携などにより、町平均を常に上回る高単収を実現している(表3)。26年には島内全域の生産者を集めた「種子島さとうきび・でん粉原料用さつまいも研修会」において、自身のでん粉原料用かんしょ生産の取り組みを発表するなど、島内の優良生産者としての活躍が期待されている。本稿では、柳田氏の単収向上に向けた取り組みや地域との連携について報告する。
柳田氏(写真1)は高校卒業後の平成10年に就農してからしばらくは、父親をサポートする形で従事していた。3年前に経営を継承し、現在は父親がサポートに回り、母親を加えた3人の家族経営である。また、10月から翌年4月にかけてのかんしょおよびさとうきびの収穫繁忙期においては、2名の臨時雇用も行っている(表4)。
自作地および借地の圃場の大半は地元である町内北西部の島間地区に所在している。柳田氏は経営を承継する前は、自作地および借地の圃場ともに、父親の代から作付けを行っていた圃場の一部で生産を行っていたが、26年度からは、父親のかんしょ生産圃場をすべて引き継いで生産している。また、圃場のうち9割以上が借地であるが、地域内でのつながりや管理作業の効率を考え、地元地域の方の圃場を優先して借り受けている。作付け品目は、さとうきび、かんしょ、水稲の3品目で、かんしょの作付け品種はでん粉原料用品種のシロユタカである。
近年のかんしょの作付面積は6ヘクタール前後を維持しており、さとうきびも合わせた作付面積は20ヘクタールほどである。これは、経営を行っていく上で労働力に見合った面積配分であることから、当面はこの規模で営農を続けたいと考えている。
かんしょを生産したきっかけは、種子島では昔から生産されており幼少の頃から馴染みがあり自らも生産したいと思ったことおよび島のもう1つの基幹作物であるさとうきびとの輪作体系が確立されていたことによる。島内の一般的なさとうきびとかんしょの輪作体系は、1年目にさとうきびの新植、その後2年間はさとうきびの株出し、4年目にかんしょを植え付けるサイクルであり、柳田氏も同様の輪作体系でさとうきびとかんしょの生産を行っている。また、柳田氏は3年目の株出しのさとうきび収穫後の圃場においてイタリアンライグラスを緑肥として栽培しており、単収向上の要因の1つとなっている(図3)。
柳田氏のかんしょおよびさとうきびの栽培スケジュールは図4の通りである。また、柳田氏が町平均単収を上回っている要因として以下ア〜エの4点が挙げられる。
ア.バイオ苗の導入および適期の植え付け
種子島では後述する管理作業や植え付けの開始が遅れることなどの影響から、鹿児島県本土より単収が低い傾向にあり、その対策の1つとして行政、JAおよびでん粉製造事業者が一体となってバイオ苗(注1)を普及する取り組みに注力している。
柳田氏もバイオ苗を導入しており、毎年8月上旬に地元のJAからバイオ苗を購入し、稲刈り後の水田約30アールを利用して植え付け、12月に種いもを採取している。その後、翌年2月上旬に種いもの伏せ込み(注2)を行い、5月中に苗取りおよび植え付けを行っている。ここでのポイントは、(1)病害を抑制できるように水稲収穫後の水田を利用して種いもの生産をすること、(2)十分な生育期間を確保するために5月末までに苗取りと植え付けを終えることである。
植え付けについては、さとうきび収穫完了後の5月上旬から下旬までの短期間での作業を目標としている。種子島では輪作体系に組み込まれているさとうきびの収穫作業が4月中ごろまで行われており、かんしょの管理作業の開始が遅れてしまうという鹿児島県本土とは異なる事情から、植え付けが6月下旬まで行われているケースもあり、単収が減少する一因となっている。柳田氏も、理想としている4月中の植え付けには届かないが、後述する地域の協力により5月中の植え付けを実現している。
(注1)本稿では、メリクロン技術(茎頂培養)により培養し、育苗および増殖された苗のことを表す。優良な系統を選抜することにより、品質の向上および安定した形状のいもの生産や収量の増加などの効果が期待できる。
(注2)種いもから苗を生産するために、苗床に種いもを並べて土をかぶせる作業のこと。
イ.緑肥による土づくり
10年前からさとうきびとかんしょの輪作の合間にイタリアンライグラスを使った緑肥による土づくりを行っている。イタリアンライグラスを選定した理由は安価であることに加え、さとうきび収穫後の雑草の発生の抑制および根が張っていることから畦立てをしたときに畦が崩れにくくなるためであるという。
本作業のポイントは、(1)できるだけイタリアンライグラスの生育期間を長くとるために、緑肥を使う圃場は1月中にさとうきびの収穫を終わらせること、(2)さとうきび収穫後の圃場に残ったハカマ(収穫残さ)をロータリーですき込んだ上で播種することである。緑肥を使った圃場は、4月ごろの出穂が始まった時期にロータリーですき込みを行うと同時に、緑肥の分解を促進させるために、島内で入手した鶏ふんを10アール当たり200キログラム散布している。
ウ.自作の液肥の散布
10年ほど前から独自の取り組みとして、海藻から作ったエキスを散布している。この取り組みは、購読していた書籍に海藻エキスを使うことで光合成が活性化されるという記事が紹介されていたこと、海沿いに自宅があるため、海藻が手に入りやすかったことから試してみたことが発端である。
現在の抽出方法は、浴槽よりも一回り大きいサイズの容器に石や砂利を敷き詰め、その上に海藻、海水、尿素、元肥および糖みつを入れることで、抽出された海藻エキスが容器下部の蛇口から出てくる仕組みで、それをペットボトルなどに入れて保管している(写真2)。使用する際には500倍に希釈した上で、葉面に散布しており、殺虫剤の散布と併用して収穫までに3〜4回行っている。
海藻エキスと収量との因果関係は定かでないが、町平均より多い収量を維持できているため、管理作業と併せて効果が出ているのではないかと柳田氏は考えている。海藻エキスの配合については、今後も研究を続けながら試行錯誤を続けていく考えである。
エ.地域との連携
柳田氏は積極的に地域との関わりを持っており、地域内で相互に協力しながら作業を行っている。柳田氏は、かんしょの植え付けでは、地域の方々から平日は5人程度、休日は最大15名程度の協力を得て作業を行っており、全ての圃場での植え付けを5月中に終えている。また、収穫作業も同様に地域内で協力して行っており、作業を早期に終えられるとともに、地域の方々が楽しみとしている行事の一つとなっている。柳田氏は地域の方々から、かんしょの管理作業やさとうきびの収穫作業を受託しており、相互に協力する体制が10年以上にわたり構築されている。
地域内の協力によりスムーズに作業ができることは両親の代からのつながりのおかげであり、自然と「いつ植えるのか」「いつ収穫するのか」と声を掛け合う関係が築かれている。この関係を今後も大切にしながら、営農を続けていきたい考えである。
今後の課題としては、(1)さとうきびの収穫作業が4月まで続く中でのでん粉原料用かんしょの適期の植え付けや管理作業の難しさ、(2)採苗や収穫作業において機械化が進んでおらず労働力が足りないことの2点がある。現在は、地域との連携により2つの課題ともに対応はできているものの、高齢化が進む中で将来のことを考えると法人化や集落営農の検討はいずれ避けられないと考えている。しかし、現在はかんしょの植え付けや収穫作業が地域の恒例行事となっており、しばらくはこのままのスタイルを続けたいと考えている。
地元関係者からは若手生産者として柳田氏への期待は大きいが、「地域の方々との関わり合い、作業のバランスおよび自らの農業のあり方を考えながら今後の進め方を検討し、引き続き地域の方々が安心して働ける場を作っていきたい」と語る。
柳田氏は農業のやりがいを「3年前に父親から引き継ぎ作業の中心を担ってから自分がやらねばという責任感がさらに増したこと、作物の生育過程を見るのが楽しみなこと」と語る。このような情熱や気持ちが数々の作業に反映され、高単収につながっているものと思われる。さらには、両親の代から続く地域のつながりを大切にしており、自分だけではなく集落全体でかんしょの生産を持続させていきたいとの意気込みが柳田氏から伝わってくる。
鹿児島県内のでん粉原料用かんしょの生産を取り巻く状況は厳しいが、種子島における平成28年産のでん粉原料用かんしょの収量は、天候に恵まれたことから昨年より増加が見込まれている。高齢化によりでん粉原料用かんしょの生産規模が縮小していく中において、今後、この回復を継続し、地域の生産基盤を維持・発展させていくためには、生産者個人としては柳田氏のような工夫が必要であるとともに、地域においては管理作業や収穫作業の相互受委託および集落営農などの地域に根付いた取り組みを進展させることが、1つの重要なポイントになると考える。柳田氏は、地域内での活動については、今後のあり方を模索中とのことではあるが、引き続き、担い手として活躍され、よりよい形で地域内での生産が発展することを期待したい。
最後に、今回の取材に当たり、お忙しい中ご協力いただきました柳田陽介様および種子屋久農業協同組合の皆さまに深く感謝申し上げます。
【参考資料】
谷貴規(2014年)『種子島におけるでん粉原料用かんしょのバイオ苗普及の取り組み』(砂糖類・でん粉情報2014年6月号)