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でん粉情報 |
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[2008年11月]
【話題】
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 基準審査課 山手 政伸
1.はじめに
加工デンプン11品目については、平成20年10月1日付け厚生労働省令第151号により食品衛生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号。以下「省令」という。)の一部改正手続きが行われ、ヒトの健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が定める添加物(食品衛生法で規定する「食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物」)に指定されるとともに、同日付けの厚生労働省告示第485号をもって、「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号。以下「告示」という。)の一部改正手続きが行われ、成分規格が設定された。これらの概要および留意点等について述べる。
2.加工デンプン11品目の新規指定について
(1)概要
加工デンプンは、一般にでん粉に物理的、酵素的または化学的処理を行ったものを称しており、これらの処理を導入することで、水への溶解性、糊化温度、加熱溶解時粘性の安定性、物性安定性を改善している。これにより、本来のでん粉の持つ欠点を補うと共に、さまざまな機能性を増強・付与し、さらに、食品の調理加工性を改善する点で有用性があるため、広く用いられている。
加工デンプンのうち、通常の調理過程でも起こりうる加熱処理等の物理的処理を行ったものおよびアミラーゼなどの酵素による処理を行ったものについては、EUにおいては食品として取り扱われている。一方、各種化学物質を用いて化学的処理を行ったものは、米国およびEUではともに添加物として取り扱っている。
加工デンプンの処理方法と取り扱い状況について、表1にまとめた。
表1 加工デンプンの処理方法と取り扱い状況 |
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注1:今後、指定削除の手続きが行われる予定である。
注2:酸処理、アルカリ処理、漂白処理といった加水分解程度の簡単な化学的加工を含む。
注3:Generally Recognized As Safe;邦訳は「一般に安全と認められる」 |
わが国においては、でん粉に化学的処理を行ったもののうち、デンプングリコール酸ナトリウムおよびデンプンリン酸エステルナトリウムの2品目については、昭和30年代末頃に添加物として指定がなされている。その他の化学的処理を行ったものついては、昭和54年以降、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)において安全性評価の終了しているものに限り、食品として取り扱われてきた。
しかし、上でも述べたように、化学的処理を施した加工デンプンについては、諸外国等においては添加物として取り扱われてきていることなどから、国際的な整合性を図るため、今般、以下に挙げる11品目の化学的処理を行った加工デンプンが添加物として指定された。
●アセチル化アジピン酸架橋デンプン
●アセチル化酸化デンプン
●アセチル化リン酸架橋デンプン
●オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
●酢酸デンプン
●酸化デンプン
●ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン
●ヒドロキシプロピルデンプン
●リン酸架橋デンプン
●リン酸化デンプン
●リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
(2)経過
今回指定のされた、加工デンプン11品目は、国際的に安全性が確認され、かつ、汎用されている添加物として、国が主体的に検討を進めたものである。
加工デンプンの新規指定に係る食品健康影響評価は、平成16年11月26日に厚生労働大臣より食品安全委員会委員長に対し、食品安全基本法(平成15年法律第48号)第24条第1項第1号の規定に基づき依頼がなされた。平成16年12月2日の食品安全委員会において、厚生労働省より指定に係る食品安全基本法第24条第1項第1号に基づく委員会の意見の聴取についての説明が行われ、食品健康影響評価については添加物専門調査会(以下「専門調査会」という。)において検討を行うこととされた。平成17年3月23日、同5月17日、平成19年8月27日、および同9月28日の専門調査会において検討が行われ、「評価の対象となった11種類の加工デンプンが添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないと考えられ、一日摂取許容量を特定する必要はない。」旨の報告が取りまとめられた。その報告に基づき、パブリックコメントの募集が行われ、平成19年11月29日に開催された食品安全委員会において募集結果が報告され、審議された。その審議において、食品安全委員会は専門調査会と同様の評価結果を内容とする回答を取りまとめ、厚生労働大臣宛に通知した。
一方、厚生労働省では加工デンプン11品目の新規指定の可否について平成19年11月15日に薬事・食品衛生審議会に対して諮問を行い、平成19年11月28日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会(以下、「部会」という。)において、食品安全委員会における評価をふまえたうえで、ヒトの健康を損なうおそれはないことから、添加物として指定することは差し支えない旨の部会報告がまとめられ、成分規格を設定することとされた。
その後、本部会報告に基づいて在京の各国大使館関係者等からなる会議(通称FSG会議)の開催、WTO加盟国に対する事前通告(WTO通報)、パブリックコメントの募集等の手続きを行った。WTO通報およびパブリックコメントの結果については、平成20年7月4日に開催された部会において報告された。
平成20年7月30日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会(以下、「分科会」という。)においては、部会報告書に基づく審議が進められ、当該審議の結果をもって、加工デンプン11品目についてはヒトの健康を損なうおそれはなく、添加物として指定をして差し支えはないことを分科会報告とすることで了解を得た。その後、平成20年8月21日に、分科会の審議結果をもとに薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会報告が取りまとめられ、同日付けで薬事・食品衛生審議会より厚生労働大臣宛に答申された。
以上の経過を表2にまとめた。
表2 加工デンプン11品目の指定に関する審議経過 |
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(3)成分規格
食品衛生法(昭和22年法律第233号)第11条第1項に基づき設定された。詳細については平成20年10月1日発行の官報号外第216号に掲載されているので、そちらをご参照いただきたい。
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンに残存するプロピレンオキシドについては、JECFA等において規格が設定されていないこと等を踏まえ成分規格としては設定しないが、不純物として含有されることは好ましくないため、技術的に可能な範囲で低減化を図られたい。
なお、成分規格の適用については経過措置期間が設定されており、平成23年3月31日までに製造され、加工され、又は輸入されるものについては、なお従前の例によることができるとされているので、この期間内に可能な限り早くご対応いただきたい。
(4)使用基準
加工デンプン11品目の使用基準は、食品安全委員会による評価結果や、米国においてGMP(Good Manufacturing Practice;医薬品や食品等の製造管理および品質管理の基準)のもとで使用することとされ特段の使用基準が設定されていないこと、また、EUにおいて離乳食等を除いた一般の食品に対して、必要量を使用することができるとされ、特段の使用基準が設定されていないことを踏まえ、使用基準は設定しないこととされた。ただし、その使用に当たっては、適切な製造管理を行い、食品中で目的とする効果を得る上で必要とされる量を超えないものとされたい。
(5)添加物としての表示
添加物に指定されたことに伴い、加工デンプン並びにそれを含む食品および添加物製剤については、省令第21条第1項の規定に基づき、適切な表示を行うことが必要となるので、十分にご留意いただきたい。なお、添加物の表示についても経過措置期間が設定されており、平成23年3月31日までに製造され、加工され、又は輸入される加工デンプンを含む食品又は添加物に係る省令第21条第1項の規定については、なお従前の例によることができるとされているので、この期間内に可能な限り早くご対応いただきたい。
また、物理的処理(酸やアルカリによる加水分解や、漂白といった簡単な化学的処理を含む。)又は酵素処理を行ったデンプンについては、従来どおり食品として取り扱われるものであるので、これらを今回指定された加工デンプンと併用する場合には、それぞれについて食品としての表示と添加物としての表示が必要となるのでご留意いただきたい。
なお、指定に伴い、「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」(平成8年5月23日付衛化第56号厚生省生活衛生局長通知)を以下のように改正した。
- 簡略名として、表3に示すものを使用できることとした。
- 「規則別表第1に掲げる添加物のうち用途名併記を要するものの例示」の「4増粘剤、安定剤、ゲル化剤又は糊料」に加工デンプン11品目を追加した。
- 「各一括名の定義及びその添加物の範囲」の「12乳化剤」の「(3)添加物の範囲」中の「(1)乳化剤を主要用途とするもの。」にオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを追加した。よって、乳化剤の一括名表示ができるのは、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムのみであるので、ご留意いただきたい。
表3 加工デンプンの簡略名 |
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(6)その他の運用上の注意
添加物として指定されたことに伴う手続き等について
加工デンプンについては、法第11条第1項の規定に基づき成分規格が設定されたことから、法第48条の規定に基づき、加工デンプンの製造又は加工を行う営業者は、その施設ごとに食品衛生管理者を設置しなければならない。また、法第52条の規定に基づき、加工デンプンの製造業を営もうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、これらについても経過措置期間が設定されており、平成23年3月31日までは、なお従前の例によることができるとされているので、この期間内に可能な限り早くご対応いただきたい。
漂白デンプンについて
デンプンを漂白処理して得られる漂白デンプンは、引き続き食品として取り扱われるが、その際の処理剤として過マンガン酸カリウムのような未指定の添加物を用いることや、指定添加物であっても、定められた使用基準を逸脱して使用することは認められない。
また、次亜塩素酸ナトリウムを用いて漂白処理を行ったデンプンのうち、以下の条件に合致するものは、デンプンの性質を変化させるほどの化学的処理が行われているものと判断し、酸化デンプンとして取り扱われるので、ご留意いただきたい。
◆酸化デンプンの「純度試験(1)」による試験結果で、カルボキシ基が0.1%を超えるもの
◆上記試験でカルボキシ基が0.1%以下であっても、酸化デンプンの「確認試験(3)」による試験結果が陽性又は擬陽性で、かつ、粘度等のデンプンの性質に生じた変化が酸化によるものでないことを合理的に説明できないもの
食品と添加物製剤の区分について
食品の製造に使用することを目的として、加工デンプンとその他原材料を用いて製造されたものは、原則として添加物製剤として取り扱われる。
ただし、加工デンプンとその他原材料との混合等を行って製造されたものであって、調理を経て食品として喫食することを目的としたものは、食品として取り扱うことで差し支えない。(食品の例:パン、菓子、うどん、蕨餅、唐揚げ粉等の製造に用いられるミックスパウダー及び液状ミックス。ただし、このようなミックスパウダー等の製造に用いることを目的として製造されたものは、添加物製剤として取り扱う。)
デンプンリン酸エステルナトリウムについて
指定添加物であるデンプンリン酸エステルナトリウムについては、今回指定された加工デンプンの1つであるリン酸化デンプンと成分規格が一部重複しているため、1つの物質に対し、2つの成分規格が存在することとなり、規定上の混乱を招く可能性があること、また、流通実態および使用実態の調査を行ったところ、販売および使用等の実績は確認されなかったことから、今後、指定削除の手続きが行われる予定である。
3.施行期日
加工デンプンの指定については、平成20年10月1日に官報で告示され、即日施行された。なお、成分規格の適用および表示の義務については、平成23年3月31日までの経過措置期間が設定されたので、期間内に必要な措置等を執られるようご留意されたい。
4.おわりに
加工デンプン11品目の新規指定について概要を解説したが、その内容について十分ご理解いただき、当該添加物が安全かつ有効に使用されることを期待する。