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最終更新日:2017年3月15日
でん粉情報 |
[2009年2月]
【話題】北海道農政部食の安全推進局農産振興課 課長 花岡 正博
2008年7月11日、原油のWTI価格(原油価格の指標)が、一時史上最高となる1バレル当たり147.27ドルとなった。これは、前年同月(07年7月)から、1年間でおよそ2倍、5年前のおよそ5倍に高騰したことになる。
これに伴い、石油製品小売価格も上昇し、例えば、レギュラーガソリンでは、2008年8月に全国平均で1リットル当たり185円にまで上昇した。このほか、原料価格の高騰などもあり、輸入に頼るさまざまな物品の国内価格が上昇した。
現在、世界的な経済不況の中、原油価格も大きく下落しており、WTI価格はピーク時の約4分の1の水準となっているものの、地政学的なリスクや、世界のエネルギー需給の構造的なひっ迫という長期的な変化により、原油価格の先行きは不透明である。このほか、地球温暖化問題への対応といった観点からも、省エネや石油代替エネルギーの開発・導入が求められてる。
さて、本道においてばれいしょは畑作農業の基幹作物であり、また、生産されるばれいしょの半分がでん粉原料用に仕向けられ、全道17工場ででん粉に加工、全国で販売されるという点で、本道におけるばれいしょでん粉の生産は、ばれいしょ生産、さらには地域経済を支える重要な産業の一つであると言える。
一方で、でん粉は、その製造に当たり、でん粉乾燥工程に多くの重油を用いたり、包装資材として多くのビニールや紙袋を使うなど、資材価格の上昇が工場経営に大きな影響を与える業種の一つである。
また、でん粉工場の収益性の悪化は、ひいては、ばれいしょ生産農家経営にも影響を及ぼす。このため、持続的にでん粉生産を行っていくためには、でん粉製造段階での省エネなどのコスト削減と、でん粉の原料となるばれいしょの生産コストの低減が不可欠である。
ここでは、地域でのこうした取り組みをいくつか紹介していく。
昭和21年からでん粉製造に携わる士幌町農業協同組合澱粉工場は、平成7年から13年にかけて北海道内で進められたでん粉工場の再編整備の際に、ばれいしょの処理能力の拡大などを目的に、工場を新設した。
この工場では、でん粉の製造過程において発生するでん粉かす(磨砕後分離したばれいしょの絞りかす)と、廃水処理過程の加圧浮上装置で除去されたたんぱく質を、流動床式焼却炉を用いて1日当たり180トン焼却している。この焼却炉は、ダイオキシンの発生が極めて少なく、道内のでん粉工場では唯一同工場だけに導入されている。
焼却の際に発生する焼却熱を蒸気として回収し、多くの熱量を必要とするでん粉の乾燥工程の熱源として利用している。このシステムにより、でん粉乾燥工程に必要な蒸気の約7割を供給することができ、重油の使用量を3分の2程度に削減している。
このほか、たんぱく質除去後の排水のpHを調整した後、メタン発酵により有機物を分解し、廃水浄化を行うとともに、発生するメタンガスを燃料ガスとして有効活用している。さらに、この処理で残留する有機物も、膜分離により処理をするなど、環境に配慮している。
こうした取り組みが、化石燃料の使用量(燃料費)の削減による製造コストの低減だけでなく、でん粉かすやたんぱく質、廃水の処理問題の解決にもつながっている。
図1 士幌町農業協同組合澱粉工場 |
小清水町農業協同組合澱粉工場は、工場で発生するでん粉かすを、家畜用飼料として利用することにより、畜産農家における飼料コストの低減を図るとともに、でん粉製造のコスト低減を目指している。
工場では年間8千〜1万トンのでん粉かすが発生する。以前は主に畑作農家が引取っていたが、でん粉かすが発酵しにくいことから、たい肥化が難しく、敬遠されていた。
一方、畜産農家では飼料価格高騰のため一層のコスト削減が求められ、この2つの課題を同時に克服できたのが、でん粉かすをサイレージ化(乳酸発酵させて家畜飼料とすること)させて有効活用するというものであった。
サイレージ化は密封や水分の状態が品質に大きく関係するため、試行錯誤を繰り返した。ふすまを水分調整剤として14〜15%程度の割合で添加し、カビの予防には飼料用尿素を使うことにより、安定した製品となり、これを牛の給餌の際に試したところ、食いつきも良く、その後も良好な発育が確認でき、結果として飼料コストの大幅な削減につながり、好評であった。
今後は、でん粉かすサイレージを有償で提供することで販売収入を見込み、これに伴いでん粉の生産コスト削減につながっていくことと思われる。
図2 給餌試験の様子 |
図3 でん粉かすをフレコンパックに詰めて畜産農家へ |
でん粉原料用に限った話ではないが、ばれいしょ全体の話題として、収穫などにおける労力軽減の効果がある取り組みを紹介する。
斜里町農業協同組合では、ばれいしょ畑の耕起後に土寄せ・石れき除去を行う「ソイルコンディショニングシステム」を種子ばれいしょ生産に取り入れている。
この技術は、大型機械により作業が行われるもので、この作業が畑の土質に合うものかどうかなど、試験栽培を繰り返した結果、「生産コストを下げるためには欠かせない技術である」との判断から、導入に踏み切った。
土寄せ・石れき除去することにより、株間を短くすることができ、規格内収量が高まり、大きさの揃った種いもが生産できるようになった。また、多くの作業人員を要する収穫時において、作業効率が向上したことにより従来の7割の人員で作業ができるなど、人件費(労働費用)を大きく軽減でき、生産農家から喜ばれる結果となった。
今後は、種いも用に限らず、生食用や加工用のばれいしょ生産にも普及し、各農家の生産コストが削減されることが期待される。
図4 ベットフォーマーで土寄せ |
図5 セパレータで石れきや土塊を除去 |
ばれいしょの生産は、肥料をあまり要さないが、その土地の地力や作物の生育状況に応じた適正な施肥が、肥料代の節減にもつながる。
十勝農業協同組合連合会農産化学研究所では、昭和57年から土壌診断および分析を行っており、現在では、年間約2万8千点の分析が実施されている。
この土壌診断では、土壌酸度や、カルシウム・マグネシウム・カリウムの含量といった一般的な要素のほか、微量要素の含量や土壌中の窒素や腐植に関することなどについても分析が行われ、十勝管内の各農業協同組合にて設定されている施肥基準を基に、施肥量の目安など土壌診断の結果から判定された施肥設計が各農家に示されている。
これら施肥基準については、各農協で委託製造されている肥料(地域銘柄)の組成の基準となっており、こうした肥料は生産現場でも利用されているが、 北海道で作成した「北海道施肥ガイド」で示す地帯別の施肥量よりやや多い傾向にある。
このことから同農協連では、当面の資材高騰対策として、施肥量の目安と土壌診断結果から判定された施肥設計について、北海道施肥標準並みに下げ、それに基づいた肥料銘柄の製造と普及、適正な施肥を進めることにより、施肥量の削減(適正化)とコスト削減を図っていくことをねらいとしている。
北海道では、昨年12月にホームページ上で、「北海道のいものすべて」(http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/nsk/potato/imosubete.htm)を公表した。
これは、いもの歴史や重要性、地域の取り組みなどをまとめたもので、今回掲載した事例の一部も紹介している。ぜひご覧いただきたい。