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最終更新日:2017年3月15日
でん粉情報 |
[2009年3月]
【話題】全国加工澱粉工業協同組合 理事長 松谷 英次郎
私の父が松谷化学工業株式会社を興して今年でちょうど90年という節目を迎えます。バブルの頃「会社の寿命」というタイトルの本が出版され、会社の寿命は30年というようなことが言われたりもしましたが、その3倍の期間を経過し振り返ってみますと誠に感慨無量でございます。
1月に米国のオバマ新大統領の就任式が全世界の耳目を集めて執り行われ、今後世界がこれまでより少しはいい方向に進んでいくのではないかという希望を抱かせるスタートとなりました。新大統領に期待されているひとつのキーワードは「変革(Change)」です。
わが加工でん粉の業界もこの90年間に大きな変化を遂げてきました。そもそも加工でん粉は工業用(繊維用のりなど)からスタートしました。戦前は日本の繊維産業が大きく拡大し、加工でん粉は繊維の糊付けに使用され、需要も増えたのですが、戦後繊維産業は東南アジアにシフトし、化学繊維も出てきて需要が減りました。その後、繊維・染色関係ばかりでなく、接着剤、製紙、養鰻用飼料粘結剤、食品、医薬品など多方面で広く利用されるようになりました。なかでも食品用はウェイトが高まり、現在では8割近くを占めているのではないかと思われます。食品関係に需要が増えてきたのは、業界の技術開発の努力は勿論ですが、冷蔵庫の普及に伴い、欧米でも日本でも冷凍食品の需要が拡大したためです。食品の新鮮さを保ち、解凍しても食感が変わらず維持される冷凍耐性のあるいろいろな加工でん粉が使われるようになったのです。今は冷凍のうどん、コロッケ、ハンバーグなど多くの食品に使われています。今後は、消費者の健康志向に的確に応えていくような分野、高い技術力を生かせる付加価値の高い分野に将来性があると考えています。
加工でん粉は国の内外から調達したばれいしょでん粉、タピオカでん粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、サゴでん粉などの種々のでん粉を原料とし、種類によって異なるでん粉の特性を生かしながら、未加工でん粉の欠陥を補う機能をもたせたり、本来でん粉がもたない乳化能や生理機能などをもたせるように加工したものです。具体的には、①熱、酸、酵素などを用いて変性したデキストリン、可溶性でん粉やアルファー化でん粉など、②化学的にエーテル化やエステル化してでん粉分子内に官能基を導入したでん粉誘導体―が主な例として挙げられます。これらの加工でん粉の多くは海外のメーカーでも製造されていて、その競争にもさらされる厳しい経営環境にあります。比較的加工度の低い大量生産品は海外で作り、特殊な技術力を求められるような品目は国内で作るというような戦略が求められるようになってきています。納入先の企業に対して技術サービスの提供というプラスアルファを付けて競争していかなければいけないような状況もでてくると思います。
加工でん粉メーカーにとりましては、原料を安価で安定確保することが最も重要です。その意味でここ2年くらいの間、原油の高騰におけるコーンメイズでのエタノール生産や、EU・豪州の干ばつによるばれいしょ、小麦の減産などによる供給不足、そして、その後の供給過剰による価格の変動に振り回され、大変苦労いたしました。これからは輸入でん粉の価格と国産でん粉の価格の見通しを十分比較考量しながら、できるだけ低いトータルコストで必要量を上手に安定確保していくことが大事だと思います。
輸入でん粉(原料)をめぐる仕組みも変遷を遂げてきました。平成3年度まではIQ(輸入割当)制度の下で国産でん粉との抱き合わせが行われていましたが、ウルグアイ・ラウンドの決定を受けて、平成7年度よりTQ(関税割当)に移行し国産でん粉との抱き合わせが継続されてきました。平成19年10月に新たなでん粉制度がスタートし、国産でん粉との抱き合わせ制度は廃止され、TQの枠内で輸入する原料でん粉については一定のルールで算出された調整金が課されるという仕組みに変わり、すでに一年半が経過しました。
新しい制度への切り替えは、EUのばれいしょでん粉生産減少と重なり、うまく船出が出来、順調に推移してまいりました。加工でん粉メーカーでの使用原料のうち、相当数量が外国産ばれいしょでん粉から国内産ばれいしょでん粉に置き換わり、現在に至っております。しかしながら、最近になってEUはかなりの在庫を抱え、オファー価格が急激に低下しており、再び国産との価格差がかなりでてきている状況です。制度を安定的に継続していくためには、関係する各方面の方々のより一層柔軟な対応が求められることになると思います。
加工でん粉業界では、もう一つ大きな変化がありました。昨年10月、加工でん粉11品目がこれまでの食品扱いから外れて、添加物に指定されたことです。厚生労働省の説明では、各種化学物質を用いて化学的処理を行ったものは米国およびEUでは添加物として取り扱っており、国際的な整合性を図るため、法令を改定するのだということでしたが、一般の消費者の受け止め方には、添加物というと何となく食品よりは少し安全性が下がるのではないかという先入観があるのではないでしょうか。加工でん粉をお使いいただいている食品メーカーの対応も二つに分かれました。添加物になったので使わないというメーカーも一部ありましたが、逆に添加物に決まったので安心してどんどん使えるというメーカーが多くありました。制度の変更についていつまでも後ろを振り返っていても仕方がないことなので、前向きに捉えて必要な対応を進めていくことが肝要だと考えています。
昭和30年の当組合発足時には、組合員数が22社でしたが、現在では6社に減ってしまいました。そうしたなかで、昨年10月事故米の問題で組合員の1社が事業の廃止に至りましたことは、大変残念なことでした。食品に関わる事業者として、安全の問題、コンプライアンスの問題の重要性を痛切に再認識させられた思いです。
これからも「自然の植物から生まれた澱粉で豊な食生活を支えます」をモットーに、業界として「安心・安全・安定供給」を追求して、信頼される高品質なでん粉供給の役割を担っていきたいと思います。