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でん粉ののりとしての特性・利用技術

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最終更新日:2017年3月15日

でん粉情報

[2009年9月]

【話題】

敷島スターチ株式会社 技術開発グループ 吉田 彦光


1.はじめに

 でん粉の用途は極めて広範囲で、細分化すれば2000〜3000に上ると言われている。その利用形態は、のりや食品用途などのように直接利用されるものと、糖化製品として加水分解して利用されるものとに分類され、約70%が食用に用いられている(図1)。直接利用される場合には水の存在下で加熱処理され糊化した状態で使用されることが多く、粉体での利用は麺・和菓子などの打ち粉用途などごくわずかに限定される。


図1 でん粉の需要数量(平成20年度推定)

 本稿ではさまざまな種類のでん粉のりの特性ならびに実際の利用例などを紹介する。


2.各種でん粉のりの特性

 でん粉の糊化は、でん粉を水中で加熱すると粒子が吸水とともに徐々に膨潤を始め、次第に透明度が増大し粘度が上昇する現象である。またこの糊をそのまま放置すると、水に不溶性の状態に変化する。このように膨潤したでん粉粒が収縮していく現象を老化という。

 でん粉はコーンスターチ、小麦でん粉及び米でん粉などの穀類を原料とするものとタピオカでん粉、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉などのいも類を原料とするものに分類され、それぞれの糊化に関する特性は図2のとおりである。なお葛でん粉、わらびでん粉、サゴでん粉、緑豆でん粉といったでん粉については生産量が少なく用途も限定されるため省略する。


図2 各種でん粉の糊化に関連する特性

 一般的にいも類のでん粉やワキシーコーン(注1)スターチは、穀類でん粉に比べ糊液の透明性が優れている(図3)。


図3 各種でん粉のりの外観

 ばれいしょでん粉は、市販のでん粉の中では粒径が最も大きく糊化温度が低いという特徴があり、加熱とかくはんを続けると急激に粘度が低下する性状を有する。また糊液は透明で粘性が強いことから、はるさめや中華あんかけ、和菓子のたれなどに広く用いられる。

 ワキシーコーンスターチは、糊の粘性や透明性が高く老化しにくいことから、各種たれ、増粘剤などに利用されている。

 タイなどで生産されるタピオカでん粉は、ばれいしょでん粉やワキシーコーンスターチに比べ若干透明性は劣るものの、安価であることから、めん、和菓子、製菓製パンなど各種食品原料の他、製紙・段ボールといった工業用途にも幅広く利用されている。

 コーンスターチは、糊化温度が比較的高く糊の透明度は低いが、安定した粘度を示すことから、製菓製パンのほか広く工業用途に用いられている。

 小麦でん粉は糊化温度が高いが、糊化後の粘度変化がゆるやかで比較的安定している。水産練製品のほかに、天ぷら・ベーカリーなど小麦粉主体のミックスに配合し、グルテン(注2)の低減化に利用される。

 以上の物性は天然でん粉に関するものであり、粘度安定性、耐老化性、冷凍・冷蔵耐性などを向上させるために、図4の通り様々な加工が施され、加工でん粉として利用されている。


図4 加工でん粉の分類

3.食品用途におけるでん粉のりの利用

 食品用途におけるでん粉のりの主な用途は、増粘安定剤であるが、代表的な使用例はたれ類、わらび餅などの和生菓子である。それらに求められるのは透明性であり、一般的にはいも類でん粉もしくはもち種の穀物でん粉が用いられる。また天然でん粉では高温加熱時の粘度安定性、冷蔵・冷凍耐性に欠けるため、一般的には種々の加工処理を組合せた加工でん粉が用いられる。


4.工業用途におけるでん粉のりの利用

 でん粉のりの主な工業用途は製紙、段ボールであり、いずれもでん粉を水に溶解させ加熱するか、苛性ソーダ水溶液により糊化を進行させ利用する。その他では繊維、建材、クリーニング用途などがあるが、景気後退、安価な輸入製品の増加、化学のりの増加などさまざまな要因によりこれらは近年減少傾向にある。


4.1 製紙用途

 製紙で使用されるでん粉のりの主な用途は、内部添加剤、表面サイズ剤(注3)、コーティング剤である。製紙メーカーにおける使用形態は、コーンスターチなどの天然でん粉を薬剤で低粘度化、誘導体化して(いわゆる自家変性)使用される場合と、酸化でん粉、カチオンでん粉、尿素リン酸でん粉、ヒドロキシエチルでん粉などの加工でん粉が直接使用される場合に分けられる。


図5 和生菓子用途における使用例

(1)内部添加剤

 初期の紙料調製時にでん粉糊液を添加することにより紙全体の強度を向上させる。一般的には、紙料としてパルプ以外に添加されるサイズ剤、てん料などを定着させるため、カチオンでん粉と呼ばれるプラスの荷電を有するでん粉が使用される。


(2)表面サイズ剤

 紙表面の繊維を接着し表面強度と平滑性を向上させ、印刷適性を改良する目的ででん粉の糊液を塗工する。この用途ではマシン適性・紙への浸透効果から低粘度化されたでん粉が要求され、一般的に酸化でん粉が使用される。


(3)コーティング剤

 紙の表面に、クレー・炭酸カルシウムなどの顔料と、でん粉・ラテックス(注4)などのバインダー(注5)との混合調製液(コーティングカラー)を塗工することを、顔料コーティングという。これにより作成された塗工紙は、白色度・平滑性・インク受理性などの印刷適性に優れ、ポスター・カレンダーなどのカラー印刷用として使用される。いわゆるコーティングバインダーに適したでん粉糊液は、高濃度で低粘度のものが要求され、一般的に酸化でん粉などの、低粘度化された加工でん粉が使用される。


図6 製紙工程

4.2 段ボール用途

 段ボール用途では二枚のライナー(段ボールの外側を形成する紙)と波状の中芯を接着する目的で、でん粉のりが使用される。この製法は、でん粉を苛性ソーダにより膨潤させる方法が中心となる。接着方式としては、主に次の二つの方式に分類される。(1)キャリヤーでん粉糊液中に未糊化のメインでん粉が浮遊している液体接着剤を塗布後、加熱によってメイン部が膨潤し、その後乾燥して固体化することにより接着する二液方式(ステインホール法)と(2)でん粉を苛性ソーダで膨潤させ一定粘度に到達時点でホウ酸で中和させることにより接着剤が出来上がる一液方式(ノーキャリヤー方式)―である。

 以前はキャリヤー部に加工でん粉が用いられたが、現在はコーンスターチが主体となっている。

 キャリヤーでん粉の役割は、(1)粘度安定化(ロールへの糊上がり補助、メインでん粉の沈降防止)(2)接着剤の保水性(メインでん粉が膨潤するまで、原紙(ライナー・中芯)へ水が過度に吸収されないこと)(3)原紙と膨潤したメインでん粉粒子間の接着など―である。


図7 段ボール製造工程

図8 段ボール製造におけるでん粉のりの製糊方法

5.おわりに

 今まで述べた通り、でん粉のりの需要は広範囲にわたり安定的に推移しており、今後大きな増加を見込むことは難しい。従ってさらなる需要喚起を促すためには、「少子高齢化」「健康志向」「環境」といったキーワードに対し、嚥下食用加工でん粉、油脂代替加工でん粉、生分解性プラスチックなどを例に、新規用途開発を推し進めることが求められている。

(注1)ワキシーコーン:従来種のデントコーンに対し、「もち種」と呼ばれる特殊系統種のとうもろこし。
 従来種が直鎖状のでん粉(アミロース)と分岐した構造のでん粉(アミロペクチン)の両方を含むのに対し、ワキシーコーンは含有するでん粉のほぼ100%がアミロペクチンである。

(注2)グルテン:小麦粉に水を加えてこねることにより形成されるタンパク質から成る物資パンなどの生地の骨格を作る上で重要な役割を果たす

(注3)表面サイズ剤:水に対する耐性を紙表面に与えるための塗布剤。でん粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどが使用される。

(注4)合成ゴム系の高分子物質をエマルジョン(乳濁液)として、水に分散したもの。

(注5)バインダー:顔料コーティングにおいて顔料を繊維原料へ接着させる役割のほか、塗工カラーの粘度、流動性、保水性を決定する物質。代表例はでん粉、ラテックス。

(注6)ホウ砂:ホウ素の原料鉱石として使用される。鉱物の一種。
 段ボールの接着剤の接着力の向上に寄与する。

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