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ブラジルの砂糖産業の概要

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最終更新日:2010年5月10日

ブラジルの砂糖産業の概要
〜急拡大する世界最大の砂糖産業〜

2010年3月

調査情報部 調査課

はじめに
 
 世界最大の砂糖生産国であるブラジルの砂糖産業は近年、生産が大幅に拡大しており、09/10年度(5月〜4月)は、世界で取引される砂糖の40%強をブラジル産が占めると予測されている。一方で、原油価格の高騰に伴う生産コストの上昇などの影響により、多くの工場が負債を抱える状況にある。
 
 このようなブラジルの砂糖産業について、英国の調査会社LMCからの報告を基に取りまとめたので紹介する。
 
1.さとうきび生産状況
 
 ブラジルでは作付けから1年半以上後に収穫する作型が多く、例年、作付面積の80〜85%ほどで収穫が行われる。作付面積と収穫量を見ると04/05年度の607万ヘクタール、3億8600万トンから08/09年度は844万ヘクタール、5億6900万トンへ増加している(表1)。
 
 
 
 
 主な産地は、中・南部と北・北東部の2つに大別される。  中・南部地域は、さとうきび栽培に適した肥沃(ひよく)な農地が広大にあり、作付面積および収穫量増加に貢献した。州別に見ると、08/09年度の作付面積は、サンパウロ州が432万ヘクタールで最も広く、これにパラナ州の59万ヘクタールと続き、ミナスジェライス州、ゴイアス州、マットグロッソ・ド・スル州なども拡大している。特にサンパウロ州の08/09年度の収穫量は、同地域全体の70%にあたる3億4600万トンに達した。  一方、北・北東部地域のさとうきび産業の中心地はアラゴアス州とペルナンブーコ州で、同地域のさとうきびの約70%がこの2つの州で収穫されている(図1・表2)。
 
 

 いずれの地域でも、製糖業者がさとうきびのおよそ70%を栽培し、個人経営農家が占める割合は全体の30%にすぎない。  ブラジルでは、国内のほぼすべての製糖業者がエタノールも生産している。砂糖はさとうきびに含まれるショ糖から生産されるが、エタノールはショ糖だけでなく、ショ糖以外の糖類からも生産できる。よって、業者にとってはショ糖単体の含有量ではなく、ショ糖を含む全ての総糖分含有量として表されるART(さとうきび1トン当たりの総糖分含有量)が重要となる。  表1では、ショ糖の含有量と歩留まりの代わりに、ARTとART歩留まり(1年間におけるさとうきび収穫面積1ヘクタール当たりの総糖分含有量)を示した。  05/06年度から08/09年度にかけて、作付面積および単収とともに、ART歩留まりも増加傾向にある。

 

2.需給状況

 
(1) 生産・消費・輸出
 砂糖の生産量は、06/07年度以降、増加傾向にあり、09/10年度は3600万トンを超える見込みである。  一方、国内の消費量も、06/07年度から増加傾向にあり、09/10年度は生産量のおよそ3分の1に当たる1220万トンが国内で消費される見込みである。(表3・図2)。  また、輸出量は、07/08年度以降から増加傾向にあり、08/09年度が2200万トン、09/10年度が2400万トンとなる見込みである。
 
 
 輸出のうち粗糖については、近年、ロシア、ナイジェリア、サウジアラビア、イラン向けが増加傾向にあり、2008年には2003年の970万トンから70%増加の1680万トンとなった。
 一方、白糖の輸出はアフリカ西部諸国向けなどが占めている(表4)。
 
 
 
(2) 用途別消費
 砂糖の用途別消費割合は、ここ数年ほとんど変わっていない。09/10年度では、家庭用が全体の約56%を占め、業務用が全体の約44%で、業務用の内訳を見ると、飲料部門(17%)、菓子部門(7%)、パン類部門(5%)と続いている。  国民一人当たりの消費量を見ると、近年は増加傾向にあり、09/10年度は、年間62キログラムに達すると見込まれている(表5)。
 
 
(3) 砂糖の種類別生産
 ブラジルで生産されている砂糖は、クリスタル糖、粗糖(VHP糖)と、精製糖に大別される(表6)。
(1)クリスタル糖  クリスタル糖は、さとうきびを圧搾した上澄みの糖汁から1回だけ回収したショ糖から作られ、糖度が99.3〜99.7度となっている。  クリスタル糖は通常袋詰めで販売され、国内では非結晶糖(後述)とともに広く消費されている。また、これはブラジルにおける代表的な輸出向けの砂糖でもあるため、製糖業者の利益は国際価格に大きな影響を受ける。なお、国内価格は国際価格に連動している。
 
 
(2)粗糖/VHP(Very High Polarization)糖
 VHP糖は、クリスタル糖と同様に、上澄みの糖汁から1回しかショ糖を回収せず、クリスタル糖の製造工程の一部を省略、製造され、バルクで輸出される。VHP糖は、糖度がおよそ99.3度と一般的な粗糖と比較して高いことから、輸入国では精製コストが削減できるメリットがあるとされている。
(3)精製糖
 a.非結晶糖 非結晶糖(amorfo sugar、「amorfo」はポルトガル語で不定形、非結晶という意味)は、白い粉状の砂糖であり、テーブルシュガーとして国内では広く消費されているブラジル特有の砂糖であるが、輸出はされていない。その生産方法は、クリスタル糖を再溶解した後、イオン交換樹脂によって濾過(ろか)、脱色し、結晶する段階で攪拌(かくはん)したものを乾燥した後、ふるいにかけて生産される。このように、通常の精製糖と異なり、遠心分離を行わない点が特徴である。
 b.グラニュー糖  ブラジルでは消費者が非結晶糖を好むため、グラニュー糖は国内市場にほとんど出回らない。そのため、中・南部地域で生産されるグラニュー糖は、ほぼ全量が輸出されており、国内価格は国際価格に連動して変動する。
 
 3.製糖状況
 ブラジルでは砂糖とエタノールの両方を生産している工場が多い。主要国の砂糖の結晶を作る煎糖工程は多くの場合、3回となっているなか、ブラジルはほとんどの工場が2回のみとなっている。このため、砂糖を回収した後の糖みつには、多くのショ糖分が残されており、これを発酵させ、エタノールを回収する方法をとっている。  なお、エタノールの生産は、ショ糖分が比較的低い収穫期の初期と末期に集中する傾向がある。  ブラジルでは、エタノール生産からも砂糖と同様の収益を得ることができるため、さとうきびの搾汁液から、砂糖とエタノールのいずれの形で糖分が回収されるかについて、製糖業界は概して関心が薄い。
  
  
 表7を見ると、中・南部地域の製糖工場における07/08年度の原料の平均圧搾能力は1日当たり9,000トンを超える。これとは対照的に、北・北東部地域は、6,000トンにとどまっている。工場数も中・南部地域は増加傾向にあり、ほとんどの新設の工場は平均圧搾能力の数値を上回っている。  ブラジルの製糖工場の稼働日数は諸外国と比べ長い。これは、エタノールも生産しているためで、砂糖だけの場合と比較し、稼働日数の延長により、設備稼働率の向上につながっている。
 
4.製糖および精糖産業の構造
(1) 製糖産業
 製糖産業の構造の変化としては、1990年代から2000年代初めまでは既存の工場の設備強化が主流で、国内外資本を問わず、新規参入はほとんどなく、整理統合により工場数がかなり減少した。  しかし、2000年代半ばになると、中・南部地域のサンパウロ州とパラナ州北部のみならず、ミナスジェライス州、マットグロッソ州、マットグロッソ・ド・スル州およびゴイアス州においても、製糖工場が次々と新設された(表8)。  近年、操業を開始した新規工場は90以上に上り、今後も増加する見込みである。工場新設や合併・買収も含めた新規参入者は、複合企業、貿易企業、農産物加工を手がける多国籍企業、投資ファンド、エネルギー企業など、多岐にわたっている(表9)。
 
 
(2) 精糖産業
 精糖はほとんど、製糖工場に併設された施設で行われている(表10)。 中・南部地域では、現在稼動している併設型精糖工場は13カ所に上る。これらの精糖工場ではグラニュー糖と非結晶糖の両方を生産している。  北・北東部地域では、現在11カ所の精糖工場が稼働しており、中・南部地域とは異なり、生産された砂糖のほぼ全量が輸出向けとなっている。
 
 
5.甘味料消費について 
 ブラジルは、砂糖が有カロリー甘味料需要の大部分を占めている(表11)。その要因として、砂糖の価格が比較的安いことが挙げられる。  それでもブラジルでは、少量ながら代替甘味料も消費されている。09/10年度の高甘味度甘味料の消費量は、白糖換算で約70万トンとなる見通しで、そのうちサッカリンが73%を占めている。  ブドウ糖の消費量は02/03年度の15万トンからわずかながら増加傾向で推移し、08/09年度以降は17万トン台となっている。
 
 
6.栽培農家と製糖業者の関係
 (1) さとうきび代金の支払い
 サンパウロ州では、さとうきび供給者と砂糖・エタノール工場との間でのさとうきび代金の計算方法は、生産者団体であるORPLANA(中・南部地域さとうきび生産者団体)と製糖業者団体であるUNICA(ブラジルさとうきび農耕連合)で構成するCONSECANAによって管理されている。  砂糖とエタノールの販売から得た収益のうち、さとうきび栽培農家に対して、生産コストに占めるさとうきびの栽培、収穫、工場までの運搬に要したコストの比率に見合った収益が分配される。なお、製糖によるバガスなどの付加価値分は栽培農家の収益に反映されない。  現在の収益分配方法が導入された背景には、栽培農家から納入されるさとうきびを原料に、製糖業者が砂糖とエタノールの両方を生産していることが挙げられる。  栽培農家へのさとうきび代金の支払いは、納入したさとうきびから砂糖とエタノールを生産できるショ糖と還元糖(ブドウ糖と果糖)分の合計値、即ち回収糖分(ATR)を基に決定される。  砂糖がショ糖を主成分としているのに対して、エタノールはさとうきびの搾汁液と糖みつに含有されるショ糖と還元糖を発酵させて生産されることから、収益分配計算にはATRが使用される。  ここでは、サンパウロ州にあるリベイランプレート市を例に、09/10年度の予測値を使ったATR1トン当たりの価格の計算方法を表12に示した。
 
 
 製品別市場別工場渡し製品価格(すべての税金を差し引いた後の価格)(B)に、CONSECANAが設定したATRへの換算係数(A)で除して、ATR1トン当たりの価格(C)を求める。  次に、第三者機関が算定した製品別の総コストに占めるさとうきび栽培農家に対する分配比率(E)に応じて、1トン当たりの製品別さとうきび栽培農家への分配相当額(F)が決定する。そして、全製品の1トン当たりの製品別さとうきび栽培農家への分配相当額を加重平均したものが、栽培農家へ支払われるATR1トン当たりの価格(G)となる。  ATR1トン当たりの価格が設定されると、CONSECANAは、各工場の研究所がまとめたさとうきびの品質に関するデータから、さとうきびのATR量を栽培農家別に算出する。  さとうきび1トン当たりのATR量の算出は、表13の計算式が用いられる。
 
 
7.砂糖制度の主な特徴
 (1) 輸入政策
 表14に、ブラジルの関税とWTO交渉での譲許税率を示した。この表を見ると、ブラジルの現行関税(実行税率)がWTO交渉で義務づけられた率よりも低いことが分かる。砂糖の国内価格は、ほぼ一年を通じて、輸出価格を反映する傾向にあるが、砂糖やエタノールの在庫が少なくなる端境期では国際市場の水準を上回る恐れを、この関税によって回避する役割を果たしている。
 
 
(2) 砂糖およびエタノール政策
 ブラジルにおいて、現在、さとうきびの年間収穫量のおよそ50%がエタノール生産に仕向けられている。エタノールの需要拡大の背景には、1970年代の石油ショックによる原油価格が高騰したことからガソリンの代替として、さとうきび由来のエタノールを自動車燃料用として利用推進することを目的としたプロアルコール政策があった。1975年から実施されたこのプロアルコール政策に基づき、エタノールの国内生産の拡大、需要促進を達成するため、生産者買入価格および消費者売渡価格の固定(補償)、工場の新増設への低利融資、国営石油企業であるペトロブラス社に対するエタノールの販売独占および一部流通独占権の付与などが行われていた。  これらの措置は、1990年代に規制緩和された結果、砂糖・エタノール産業への政府の介入はガソリンへのエタノールの混合義務などに限られ、ほぼ自由市場となっている。さとうきびの栽培を制限する政策も講じられていない。
 
 8.砂糖とエタノールの生産および国内価格の動向
 
 砂糖の生産が急激に増加した背景には、近年、エタノールとガソリンの混合燃料に対応したフレックス車の売上げが急増したため、エタノールの需要が拡大し、これに対応するため、さとうきびの作付面積が大幅に増加したことにより、砂糖向け生産も同様に拡大したことが挙げられる(図3)。過去5年間におけるさとうきび、砂糖およびエタノールの国内平均価格は次の表となっている(表15)。
 
 
 また、砂糖およびエタノールの収益(工場渡し)の推移を図4に示した。
 2007年から2008年にかけて、エタノールが砂糖を上回っているのは、06/07年度から07/08年度における砂糖の世界的な供給過剰により、砂糖の価格が下落した影響による。

 2009年前半は、一転して、砂糖が世界的な供給不足に陥り、エタノールよりも高値で取引された。

 
 
 また、2003年から販売が開始された、エタノールとガソリンの混合比率を自由に設定できるフレックス車も後述のとおり、エタノール価格に影響を与える存在となった。2003年にほぼゼロであったフレックス車の販売台数は2008年には230万台と飛躍的な伸びを示し、現在ではブラジルで販売された全新車の90%ほどを占めるまでになっている。

 フレックス車が発売されるまでは、ガソリンへの混合比率20%〜25%を義務付ける政府の政策によって、エタノールの国内需要がけん引され、エタノールの販売においてガソリン価格を意識する必要はなかった。しかし、現在は、この政策が続いているとはいえ、フレックス車の保有台数全体に占める比率が高まり、消費者は常にエタノールとガソリンを比較して安い方の燃料を選択できることから、エタノールはガソリンとの価格競争に勝たなければならない状況になっている(図5)。

 
 
こうしたことから現在、ガソリンの価格水準は、エタノールの価格を決定する大きな要因となっている。
 ただし、政府がガソリン市場に介入するため、ガソリンの国内価格が原油の国際価格を反映するとは限らない。
 ガソリンの生産者価格と原油の国際価格(レアル換算)を図6に示した。
 エタノールはガソリンよりも税率が低いが、ガソリンを対象とした政府の介入政策が、ブラジルのエタノール産業に影響を及ぼす要因となっている。例えば、2008年の原油価格の高騰時、肥料などの生産資材の価格の急騰に伴い生産コストが上昇したが、原油価格に連動してガソリンの価格が上昇しなかったため、砂糖・エタノール産業は、エタノール価格を据え置くことを余儀なくされた。砂糖についても、インドが大量に輸出を行ったことなどから価格が低迷し、砂糖・エタノール産業はこの期間、深刻な経済的苦境にあえいだ。


 
 
9.砂糖産業をとりまく課題
 ブラジルでは、フレックス車の誕生によりエタノール市場の拡大を見込み、多くの企業が参入し、工場が新設された。しかし、近年の原油価格高騰とレアル高に伴う生産コストの上昇と砂糖およびエタノールの価格低迷が重なり、多くの工場が負債を抱える状況となっている。最近の砂糖価格高騰の影響により、状況は改善しつつあるが、エタノール専業の工場を中心に財政難から抜け出せずにいるところが多い。  こうしたなか、多国籍企業などの工場買収による業界の整理統合が進んでいる。主なものとしては、Cosan社、ETH社、Louis Dreyfus社およびBunge社などによる買収が挙げられる。また、最近ではBritish Petroleum社などの石油会社が、ブラジルにおけるエタノール生産への関心を強めている。  さとうきび栽培部門では、作付面積の拡大に伴い、かんがい整備が必要となる地域が増加している。ゴイアス州やマットグロッソ州などでは、サンパウロ州と比較して、降水量はさほど変わらないが、気温が高いため、乾期にはかんがいが必要となる。このため、これらの地域では借地料は安いが、かんがい整備にコストがかかることとなる。  また、製糖部門では、製糖業者の多角化経営の一つに、ボイラーの増強によりバガスを利用した発電を行い、余剰電力を電力会社に販売する事業への取り組みが挙げられる。電力が比較的高値で買い取られるため、発電事業は利益が期待できる。一方で、近年の新設工場のなかには、電力会社の送電網から離れているため、この事業に乗り出せないところがあるなど、売電の有無により、収益面で製糖業者の二極化が進んでいる。
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