地球環境問題は世界的に重要な政治課題でもある。また一般消費者の強い関心事であることに加え環境税、排出権取引制度などからコストアップ要因にもなり、企業にとって、今後の経営上無視出来ない経済的課題でもある。今までコスト、品質、サービスをいかに調整し、ステークホルダーの満足が得られるかが経営の座標軸であったが、今後はこれに加え地球環境問題への対応の軸も考えねばならない。
精糖工業会の環境関連報告をみると、近年、溶糖量が減っていることもあるが、製糖工程の改善もあり、2008年のCO2実総排出量は1990年比25%減少し、重油から都市ガスへの転換でCO2排出原単位も9.5%減少している。
日本では低糖度原糖、多種多様な製品品種、超高度な製品品質などの条件下のため、抜本的な製糖・精糖システムの省エネ・省CO2の技術開発は未だ試みられていないようである。条件は異なるが海外の製糖工場では省エネ型・CO2排出抑制型製糖プロセスが開発、実施されている。
その一つとして、アラブ首長国連邦のドバイで1997年末から1時間当たり100トンの生産量で運転している超大型精製糖工場「Al Khaleej Sugar」がある。高糖度原糖を使い、製品糖種を絞り、さらに連続結晶缶等省エネ型機械装置や、省エネ型煎糖システムを採用している。このような徹底した省エネ型の工場設計を行った結果、買電力も含め原糖1トン当り総エネルギー使用2450メガジュール(注)(精糖工業会2007年度実績から推計した原糖1トン当たりの総エネルギー値はA重油換算で約4700メガジュール)を達成したと報告している(*2)。
(注)メガジュール:熱量を表す国際単位。1メガジュール=238.889キロカロリー。
また前述のように、甘しゃ糖工場ではCO2排出量ゼロのバガスを燃料に使い、総CO2排出量を削減している工場があるが、南アフリカのTongaa Hulett Sugarではさとうきびからショ糖を浸出した甘しゃ汁を通常清浄し、Ultra Filtration(限外ろ過(注)) で濾過後、脱塩・脱灰して、EU規格の精製糖品質に匹敵する白糖を直接作って輸出しているとの報告がある(*3)。注目すべき点は脱塩後の排水はカリウム肥料として自己農園用に、高糖度廃蜜は関係会社のアルコール発酵用に供給して合理化をはかっていることである。
(注)限外ろ過:液体のろ過方法の一種。孔経が分子サイズに近いフィルターを使用する。中空糸膜を使った家庭用浄水器はその一例。
バイオマス燃料を有り余るほど持っている甘しゃ糖工場が精製糖相当の品質のグラニュー糖を再溶解せず直接生産できることは、従来の精製糖概念から大きく外れるが、精製糖業界から見て将来脅威になる要素を持っている。
海外の製糖工場は、稼働率などの面で日本と比べると圧倒的に有利であり、日本に比べればエネルギー原単位・CO2排出原単位はかなり低い。日本における精製糖のCO2排出原単位を国際的に比較すれば、単なる省エネだけでなく根本的な対応を検討する必要も考えられる。CO2排出量削減は公害と違って国内だけでなく地球規模的なものであり、国内で削減できなくても世界の何処かで削減すればよいわけで、海外への技術・資金の供与による排出量取引CDM(Clean Development Mechanism)や、国内外でのカーボンオフセット方法など対応の仕方がいろいろと考えられる。
各企業が省エネ・省CO2・創エネの技術開発を進めるとともに、各糖業会がそれぞれの主要製品について信頼の置けるライフサイクルGHG排出原単位を算出し、消費者・ユーザーに情報提供し、更に砂糖業界が一歩進んだ地球環境対応策を進めることが期待されている。