独立行政法人家畜改良センターは、我が国における畜産の発展と国民の豊かな食生活に貢献することを使命として、生産性が高く、安全でおいしい畜産物を生産できる家畜づくり、その飼料となる作物づくりなどの業務を行っています。
日頃の業務改善のための工夫から生まれたアイデアのうち、畜産農家、試験研究機関などの畜産現場で活用できるものについては、「畜産現場で使えるアイデア集」としてまとめ、家畜改良センターのホームページ(http://www.nlbc.go.jp/)に公開しています。
その中で紹介したものに「台所にある塩と砂糖を使った低コスト簡易経口補液剤」があります。詳細は後述しますが、ポイントは、下痢や発熱などトラブルの発生しやすい子牛の時期に、子牛のし好性の高い砂糖を使うことによって、十分な水分補給を行えることです。その結果、トラブルの発生や重症化を防ぐことが期待できます。
簡易経口補液剤の作り方や特徴を紹介します。
腸管から水分の吸収を良くするため、塩化ナトリウム濃度は0.45%、し好性を考慮して、ショ糖濃度を2%としました。この濃度で1リットルの簡易経口補液剤を作る場合には、食塩4.5グラム(小さじすりきり1杯)、砂糖20グラム(大さじすりきり1杯)を温水に溶かします。
いざという時のために、用いるバケツや水槽の容量に合わせて砂糖と食塩を計量し、あらかじめビニール袋などに分封しておくことが勧められます。砂糖や食塩は一般家庭の台所にあるもので十分で、砂糖はグラニュー糖であれば、取り扱いが容易です。
簡易経口補液剤の1リットル当たりの作成経費は3円程度であり、市販の経口補液剤に較べ割安で、コストを気にせず多用することが可能です。
ただし、簡易経口補液剤には、子牛が下痢を起こした場合に失われるカリウムなどが入っていないので、下痢による重度の脱水症状を呈した時には、適宜、市販の経口補液剤や点滴などで補う必要があります。
また、子牛が飲むことを嫌がる経口投与薬(良薬口に苦し?)をこの簡易経口補液剤に溶かすことで、子牛が自発的に飲むことによる投薬作業の省力化が期待されます。
牛は、生後6カ月を過ぎると反すう胃がほぼ完成し、第1胃内に共生する微生物が作り出した揮発性の脂肪酸を第1胃から吸収し、肝臓でぶどう糖を作って利用するようになります。この月齢以降、口から摂取した糖分は、第1胃内の微生物の餌となりますから、コスト面から考えて牛の飼料として砂糖を与えることはなくなります。しかし、甘いものを好むというし好は一生涯続くようです。