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株出の単収向上に有効な一芽苗による欠株補植について

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最終更新日:2010年9月2日

株出の単収向上に有効な一芽苗による欠株補植について
−生育および収量調査からみた収益性の検討−

2010年9月

沖縄県北部農林水産振興センター 農業改良普及課 新里 亜希子

沖縄県中部農業改良普及センター 伊志嶺 正人

 

1.はじめに

 沖縄本島北部地域のさとうきびは株出し栽培が7割を占め、ハーベスター収穫率も対収穫作業面積比で6割を超えている。高齢化が進み基本的な栽培技術の励行がおろそかになっていることに加え、ハーベター収穫の導入に伴い、株の抜き取りなどにより欠株が増加し、単収および生産量低下の一要因になっている。
 
 こうしたなか、本島北部恩納村の金城政雄氏が一芽苗を育苗してハーベスター収穫後の欠株補植を行い、地域の平均単収を上回る株出し栽培を続けていることが紹介された(砂糖類情報2005年11号、2009年6月号)。
 
 県ではこの育苗技術を「農業現場での実践を通じて自ら生み出した」「地域において広範囲な利用や高収量効果が期待できる技術」に対する農林水産省の平成20および21年度現場創造型技術(匠の技)活用・普及支援事業の支援を受けた技術として、本島北部を中心に県内への普及を図っている。
 
 今回は、北部地区展示ほ場での欠株状況や補植した一芽苗の生育および収量について調査を行い、収益についても検討したので報告する。
 
 
 
 
 

2.調査方法

 調査は恩納村冨着(おんなそんふちゃく)、宜野座村惣慶(ぎのざそんそけい)、名護市久志(くし)の3カ所に設置した展示ほで行った。調査の内容は以下のとおりである。
 
(1)欠株調査:収穫後の3〜5月にかけ、展示ほ設置農家が補植作業を終えた後、10アール当たり何本補植されているかを調査した。
 
(2)生育調査:補植した一芽苗10本と、隣り合った10株から萌芽した茎(以下健全株とする)について茎長、茎径、分げつ本数、青葉枚数を6〜12月にかけて毎月1回調査した。
 
(3)収量調査:12月に補植株と隣接する健全株を各10株刈り取り、株当たり重量と分げつ茎数、茎長、Brix(*注)などを測定した。
 
(4)品種比較試験(予備):恩納村で一芽苗による春植の品種別収量比較を行い、北部地域に適する補植品種の選定を検討した。
 
*注:ブリックス。搾汁液の中の可溶性固形分(ショ糖やぶどう糖などの糖類の他に灰分やカルシウムなどの成分も含む)の割合。搾汁液の中を通る光の屈折を利用したレフブリックス計で簡単に計ることができ、ミカンやブドウなどの果物で糖度と表示されているのもブリックスである。
 
 

3.調査結果

(1)生育及び収量調査

 一般的に補植は欠株の株間が40センチメートル以上空いた場合に行うが、農家によっては補植苗を密植で多く入れる場合もある。宜野座村惣慶区でも補植本数は10アール当たり970本と多かった(表1)。
 
 補植後の生育については、惣慶と久志に比べて冨着では茎長、分げつ共に大きな差が見られた(図3、3−1)。茎長の差は品種の違い(健全株:農林17号、補植苗:農林20号)によると考えられるが、補植株には分げつがほとんどなく、株によっては生育旺盛な健全株の隣で枯死したものも見られた。分げつ数については、補植した時期が収穫後2カ月以上経ってからと遅いため、当初から周囲の株との生育差が見られた。そのため健全株の旺盛な生長に伴って日を遮られて補植株の生育が抑えられ、枯死したり分げつしなかったものと思われる。
 
 また、各地とも分げつ数は次第に減っているが、茎長の生育には地域によって差が見られ、惣慶における補植苗の伸びが最も大きかった。これは、生育旺盛期に干ばつだった今期、惣慶と久志は畑にかん水施設が整備されており、特に惣慶区では頻繁にかん水していたことが要因と考えられる。
 
 収量調査の結果、冨着では補植後の欠株も多く、生存する補植苗は茎径が細く分げつもないため健全株に劣り、補植による増収効果は見られなかった。惣慶では補植した苗のすべてが生存し、分げつ茎数は少ないがかん水によって健全株並みの生育を示して増収した。久志でも補植に用いた農林19号(NiTn19)はすべて生存し、茎径は細いが分げつの多い品種特性を示して健全株並みの収量を確保した(表1)。
 
 以上のことから補植した一芽苗を健全株と同じように生育させ、増収効果を得るためには、収穫後の早めの補植とかん水管理が特に重要と考えられる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(2)収益性の検討

 平成20年度に冨着の育苗ハウスで育苗した一芽苗の収益性について試算した。ハウス育苗1回転当たり、1本当たり重量1キログラム、補植本数500本の場合における分げつ本数の違いによる収益性の変化は表2のとおりになった。1時間当たりの所得で見ると、分げつが2本未満だと赤字になっており、一芽苗を補植しただけでは費用対効果からするとマイナスであることが分かった。
 
 また、この試算では1本当たり重量を1キログラムで計算したが、重量が1キログラムより軽くなると1時間当たりの所得もさらに低くなるので、分げつ数だけでなく、かん水など分げつ後の肥培管理による一茎重の増大も収益を上げる重要な要素となっている。
 
 
 
 

(3)一芽苗の品種別収量比較

 農林20号(NiTn20)は茎伸長良いが、茎径が細いため一茎重が小さかった。農林21号(Ni21)は茎伸長良く、茎径やや太く茎数も多いため一株重が大きかった。春植のため補植とは条件が異なるが伸長の良い両品種は補植用品種として有望と思われた。
 
 
 
 

4.成果の活用と残された課題

 一芽苗を補植して増産させるためには、収穫後早めの補植とかん水、肥培管理で補植苗を健全苗と同じように生育・分げつさせることが重要であることがデータとして示されたので、一芽苗の栽培ポイントとして各地で開催したさとうきび講習会や収穫後の株出管理に重点を置いた増産推進大会でチラシを作成し配布、説明を行った。
 
 また、品種によって生育や品質に差が出てくるので、今後は補植苗に適した品種を検討してさらに補植による増収効果について普及を図っていきたい。
 
 
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713