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沖永良部島におけるさとうきびの株出面積拡大への取り組み

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最終更新日:2010年10月5日

沖永良部島におけるさとうきびの株出面積拡大への取り組み

2010年10月

南栄糖業株式会社

1.はじめに

 沖永良部島におけるさとうきび生産は、害虫被害による株出し萌芽性の低下による収穫面積の減少などの影響で生産量の低迷が続いていましたが、最近になって新品種の育成、普及や、新農薬の施用によって株出面積が拡大したことなどにより、生産量が回復しつつあります。
 
 本稿では、新農薬の施用を中心に、沖永良部島における株出面積拡大の取り組みについて紹介します。
 
 

2.さとうきびの生産状況

 沖永良部島におけるさとうきび生産量は、平成元年には11万4877トンを記録しましたが、平成2年産以降減少傾向で推移し、平成17年産では過去最低の4万3623トンまで減少しました。平成18年産以降は、さとうきび増産プロジェクトをはじめとした関係者の努力により、生産量はようやく回復しつつあります。
 
 上に述べたさとうきび生産量減少の要因の一つとして収穫面積の減少が挙げられます。
 
 昭和59年産から平成2年産までは1400〜1600ヘクタール台で推移していた収穫面積は土壌害虫などによる株の不萌芽や他作物との競合により、平成9年産では814ヘクタールまで減少し、危機的状況に陥りました。その間も農水省、鹿児島県の指導、協力を仰ぎながら株出面積の拡大に向けサキシマカンシャクシコメツキ(以下、ハリガネムシ)の農薬防除試験、株出萌芽性の優れた品種の育成、普及を図ってきました。
 
 平成11年度から普及し始めた品種RK91−1004(農林17号)や農薬アドバンテージ剤の施用で収穫面積の減少傾向には歯止めがかかりましたが、株出面積の拡大には至らず、平成10年産〜18年産は800〜900ヘクタール台で推移する結果となりました。
 
 平成19年産からは株出栽培で多収の新品種(農林22、23号)の普及及び新農薬(プリンスベイト、以下「ベイト剤」)の施用で株出移行率が増え収穫面積も1000〜1300ヘクタール台に拡大しました。(図1参照)
 
 
 
 

3.株出面積拡大の必要性とハリガネムシの問題

 沖永良部島におけるさとうきびの栽培の作型構成では、夏植えが最も多く、平成8年産から19年産まで50%以上の比率を占めてきました。夏植えは春植え、株出しに比べ気象災害に強く、安定した収量が確保できるものの、2年1作であるため、1年1作の春植え、株出しに比べほ場利用効率が低くなります。
 
 また、沖永良部島では、他作物の収穫等で調苗・植え付け作業を委託する農家が多い為に10アール当たり新植の経費が3万7000円(苗・植え付け)+6000円(農薬)程度かかり、粗収入の1/3程度を占めるためにコスト削減のためには、株出の回数を増やし面積拡大を図る必要があります。
 
 このように、生産量の向上とコスト削減の両面において、夏植え中心から春植え・株出し体系への移行による収穫面積の拡大が主要な課題の一つとなっていました。
 
 一方、株出栽培においてはハリガネムシの食害による不萌芽の被害が発生するため、これを敬遠して、かつては60%以上あった株出し栽培の比率が低下してきたという面もあり、株出の面積拡大にはハリガネムシの防除対策の向上が必要でした。
 

4.ベイト剤の特徴

 ベイト剤は、殺虫成分を配合した餌(bait)を用いた薬剤で、対象害虫はこれを餌として食することによって殺虫されます。
 
 ハリガネムシに対するベイト剤は、とうもろこしから抽出した誘引成分と、殺虫成分であるフィプロニル(0.5%)を含んでいます。ハリガネムシの幼虫を誘引して殺虫するため、低薬量で効率的に防除を行うことができます。当社の試験でもハリガネムシを誘引し、殺虫する効果が大きいことが実証されています。(図2参照)
 
 
 
 

5.新農薬ベイト剤対応施薬機の普及

 ベイト剤がハリガネムシ防除に効果的であると知ったのは、平成18年8月に開催された沖縄県第33回さとうきび試験成績発表会でした。
 
 早速、製造元企業(BASFアグロ株式会社)と交渉し、試験のための契約書を締結、サンプル薬剤を用いて植え付け試験を行いましたが、当地で普及している従来の施薬機では薬剤が落ちにくく、また、途中で詰まるという大問題が発生したため、施薬機メーカー及び製造企業と交渉し、スリットの改造及び薬剤の細粒化で対処するとともに自社で開発した施薬機(施薬量の調整ができる)の普及で機械植え付けがスムーズになりました。(図3、4参照)
 
 
 
 
 
 
 

6.新農薬ベイト剤の普及による株出面積の拡大

 製造元企業から試用提供を受けたベイト剤を使用して、平成18年9月に約1ヘクタールの実証ほを設置し、平成20年2月に、ハーベスタ収穫後の萌芽が従来の農薬に比べ非常に高い事が実証されました。(図2参照)一方で、国提案型の技術革新波及対策事業の活用により平成19年度から21年度までの3年間、毎年80ヘクタールの実証ほを設置し、ベイト剤の普及拡大に大きく寄与する事ができました。
 
 また、ベイト剤の普及拡大に伴い、平成21年度は平成4年度以降17年ぶりに株出収穫面積589ヘクタールを確保する事ができました。このことは沖永良部糖業の関係者が一致努力し面積拡大にあらゆる方向から取り組んだ結果であると確信しています。
 
 

7.おわりに

 新農薬ベイト剤の施用によって株出面積が拡大したことなどにより、ここ数年、沖永良部島におけるさとうきび生産量は回復傾向にありますが、まだ多くの課題が残っています。
 
 価格の問題からベイト剤ではなく慣行農薬を施用する農家も多く、島全体のハリガネムシ密度がなかなか下がらない状況にあります。今後はベイト剤の価格を従来の農薬と同程度まで低減する努力が必要です。
 
 また、近年メイチュウの被害が増加していることから、ベイト剤のメイチュウへの薬剤効果についても検証する必要があります。
 
 こうしたベイト剤に関連する課題への対応のほか、株出し管理期間確保のため、早期登熟型品種の開発・普及により、製糖開始時期を早期化することや、平成19年度から本格着工となった国営かんがい排水事業をはじめとする干ばつ対策の充実など、さまざまな方策を考えながら、今後もさとうきびの生産性向上を目指したいと考えています。
 
 最後になりましたが、沖永良部島糖業の危機的状況を救うためにご指導・ご協力をいただいた、農林水産省、鹿児島県、沖縄県農業研究センター、BASFアグロ株式会社に厚く御礼申し上げます。
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713