タイは1980年代から次第にアジア諸国を顧客にするようになった(表2)。先進国ではこの5年間2位以内の輸出先である日本が大きな地位を占めている。日本はタイに外国資本で唯一製糖工場を2社もっていることも関係の深さを物語っている。アジアの途上国ではインドネシアがこの10年間は1位の仕向地となることが多く、タイにとっては重要な輸出先である。
今年からASEAN自由貿易地域(AFTA)が新たな段階に入り、ASEAN原加盟国とブルネイの6カ国は域内関税を0%とした。砂糖はフィリピンとインドネシアがセンシティブ品目としており、砂糖の関税はフィリピンが原加盟国以外の残り4カ国と同様0−5%、インドネシアは最も高い30−40%である。インドネシアは2015年には5−10%に引き下げることになっている。タイはASEANの枠組みを使いながら自由貿易協定を進めており、今後砂糖輸出にとっても有利な環境となると考えられる。
タイが輸出を増大させてきた時期は、消費国である先進国が原料糖(原糖)を途上国から輸入し、国内で精製する旧来の分業構造が変化した時期でもあった。途上国の砂糖生産諸国は白糖を生産できないわけではなかったが、日本も含め多くの先進国では原料糖と最終消費糖である白糖の間に大きな輸入関税差を設け、途上国からの直接消費糖である白糖の輸出を拒んできた。
アジアの途上国は国内産業として精糖産業をもっていないことが多く白糖を輸入するため、タイからこうした国々に対し原料糖輸出よりも高価に販売できる白糖(精製糖も含む)輸出が可能である。国際貿易における白糖の割合も上昇したが、タイもこのアジア白糖市場の急成長という市場変化に敏感に反応し、従来の原料糖に限った輸出から白糖の比率を上昇させてきた。
輸出における白糖の比率をみると、1980年までのタイからの砂糖輸出においては、白糖はほとんど輸出されていなかった。1990年代初めにはおよそ30%、2000年前後には40%近くへ上昇し、最近は50%を超える年が多くなっている。ちなみに2009年の全輸出における白糖比率は56.6%であった。この白糖輸出は、付加価値の増大をもたらすものであったことからタイ糖業にとって新たな発展への契機となるものであった。
2009年における、輸出価格の平均は原糖の335ドルに対し、白糖で372ドル、精製糖で386ドルであり、それぞれ10%、15%程度価格は有利になる。輸出量では精製糖が白糖の3倍以上と主力となっている(タイではICUMSA色価45以下を精製糖、1000以下を白糖とし、白糖はさらに色価で3種に分類している)。
またタイにおける白糖生産においては原料糖を輸入して精製する国々に比べ優位な点がある。圧搾期間中に、その余剰バガス(さとうきびを圧搾した後の残り滓)を燃料として操業されるためコストが非常に安いことである。最近多くの製糖工場が副収入源として行っているバガスを使った発電とも両立すると、現地のマネージャーは筆者とのインタビューで話していた。
さらにアジアにおける輸出で有利な点は、タイ産糖にはプレミアムが上乗せされることである。アジアの消費国にとってはブラジルなどから遠距離を運んで輸入するよりも、プレミアムを払ってでも近くにあるタイから輸入する方が運賃面で割安となる。2004年8月に行った糖業関係者へのインタビューでは、タイプレミアムはポンド当たり86ポイント=0.86セントと述べていた。2007年8月のインタビューではポンド当たり150ポイント=1.5セントとのことであったが、今年の9月には700ポイントというニューヨークの国際価格より30%以上も高いプレミアムとなっており、タイ糖業に大きな利益をもたらしている。