(イ)炭酸飽充
洗糖の着色物質の殆どは、結晶内部に収蔵されており、これらの着色物質を除去するためには、溶解して、砂糖の分子と着色物質の分子に離さなければならない。そこで、洗糖をメルターで70〜80℃の温水で溶解して60〜70Bxにする。この溶液、メルトリカー(ローリカー)を飽充槽に送り、炭酸飽充処理を行う。
炭酸飽充では、メルトリカーに糖液ホィールで石灰乳を原料糖当たり0.6〜0.8%加えて混合した後、複数の連結した飽充槽に順次送り、槽内に二酸化炭素を飽充する。そうすると、石灰乳中の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が二酸化炭素(CO2)と反応して不溶性の炭酸カルシウム(CaCO3)を生じ、リカー中の着色物質を含む不純物を取り込んで沈殿物を形成する。この沈殿物を含むリカー(飽充リカー)を濾過して、ブラウンリカーを得る。
炭酸飽充工程では、浮遊物やコロイド性の物質を効率的に除去できるが、着色物質も効率よく、除去できる。ICUMSA色価で1,500〜1,700程度のメルトリカーを本工程で処理し、濾過すると、図4のようにブラウンリカーのICUMSA色価は、600〜900程度まで減少する。ただし、本工程は、一時的に飽充リカーが強アルカリとなるのでリカー中に含まれる還元糖が多いと分解が進み、着色物質を生成する。
(ウ)脱色操作−骨炭濾過
更に着色物質を除去するために骨炭、粒状炭、脱色用イオン交換樹脂などを充填した塔にブラウンリカーを通液する。日本の多くの工場は、脱色工程として“(炭酸飽充)→骨炭濾過→脱色用イオン交換樹脂”の順で処理を行っている。そこで、ここでは骨炭濾過での脱色について示す。
骨炭とは、動物の骨(脚など硬い骨の部分)を800℃以上の温度で蒸し焼きにして、完全に有機物を炭化し、炭素が炭として残った多孔質の粒状の黒色の物質である。主成分はリン酸石灰で、その表面は炭素で覆われている。このため、骨炭は一種の天然のイオン交換体であり、脱色能と脱灰能(灰分のようなイオン性の物質を吸着する能力)を合わせ持っている。骨炭の体積当たりの脱色能力は、粒状活性炭(石炭などを原料にした粒状の活性炭。骨炭より脱色力が強いが脱灰力はない)などに比べて劣るため、精糖工場では20〜50トンの骨炭を詰めた縦型の濾過器を原料糖の処理量に応じて、数本から十数本設置している。この濾過器にブラウンリカーを通液して、着色物質を吸着・除去する。通液前のブラウンリカーのICUMSA色価が600〜900であっても、骨炭濾過器を通すと、色価は数ICUMSA色価まで減少する。この時、着色物質は骨炭の微孔に捕獲され、リカーから除去される。
(エ)脱色操作−脱色用イオン交換樹脂
骨炭で処理した液にも一定量の着色物質が残っている。一部の着色物質は酸性基を持っていると考えられるので、強塩基性陰イオン交換樹脂である脱色用イオン交換樹脂で、この着色物質を除去することになる。しかし、強塩基性陰イオン交換樹脂の交換基が水酸(ーOH)基であると強アルカリとなり、砂糖を分解し、着色物質を生成するので、中性を保つために食塩(NaCl)で再生してクロル(Cl)型として使用することになる。
日本の精糖工場で多く用いられている多孔質のAmberlite IRA401のような強塩基性陰イオン交換樹脂は、スチレン系の樹脂で、物理的強度が優れ、強酸・強塩基・酸化剤に対しても安定である。骨炭濾過後の数ICUMSA色価のリカーをCl型の強塩基性陰イオン交換樹脂に通液すると、通液後の処理液は、図4のように4ICUMSA色価程度となる。リカー中の着色物質は、一部は樹脂の多孔質の細孔に吸着され、一部はイオン交換されて除去されることになる。脱色用イオン交換樹脂を通過した後のリカーは、ファインリカーと呼ばれ、ほとんど無色・透明である。
(オ)煎糖操作(結晶化操作)
結晶化(晶析)は、ある意味では究極の脱色法である。物質分子が結晶になる時、分子がある対称に従って特定の方向に配列する。これが結晶で、物質により特定の形、多面体となる。同時に、結晶が成長する時には、不純物を排除しながら、同一の物質分子だけから、特定の方向に配列して結晶となる。
砂糖も同様で、不純物の少ない砂糖液であるとショ糖分子だけで結晶を造ろうとする。それ故、無色・透明であるファインリカーで晶析すると、不純物のない結晶を造ることができる。炭酸飽充やその外の脱色工程が実用化されていないころには、“結晶化→溶解→結晶化”を繰り返し行い、着色物質をはじめとする不純物を排除し、白色の砂糖を造っていた。
この様に結晶化は、純粋な砂糖の結晶を得るには、最善の方法である。ただし、共存成分がショ糖の分子量と同程度で、化学構造が似ていると、ショ糖の結晶格子に共存成分が配列しまうこと、及び結晶の成長時に共存成分を含んだ微量の砂糖液が結晶中に包含されてしまうこと、などにより着色物質が結晶に収蔵される事になる。