調査情報部調査課
【要約】
南アフリカ共和国の砂糖政策は、砂糖法および砂糖産業協定などにより規制が図られている。同国では、SACU(南アフリカ関税同盟)加盟国全体を国内市場としており、SACU内の砂糖需要は、SACU加盟国による生産、SACU加盟国とSACU非加盟国間の協定に基づく輸入、SACU非加盟国で砂糖生産量が消費量を上回るSADC(南部アフリカ開発共同体)加盟国に認められたアクセス枠によって賄われている。
価格は、南アフリカ砂糖協会主導の下、供給のコントロールを通じて、一定水準に維持されている。また、製糖業者と生産者間の収益配分は、不公平を生じさせないため市場原理が導入されており、生産者に対しては2000年以降、回収可能価値(RV)に基づく支払いが行われている。
一方、バイオエタノールについては、国家バイオ燃料産業戦略を通じて生産が奨励されている。しかしながら、主に国内市場向けでの生産が想定されていることなどから、粗糖の対日輸出に与える影響は、限定的と思われる。
注1:SACUおよびSADCについては、2−(2)参照
2:本稿の年度は、断りがない限り南アフリカ砂糖年度(4月〜翌3月)である。
1.はじめに 前月号において、南アフリカのさとうきび生産、砂糖の需給動向と生産コストについて報告した。本稿では、砂糖政策とさとうきび・砂糖産業へ影響を与えるバイオエタノールの生産状況について報告する。
2.南アフリカ砂糖産業の特徴および主な政策 南アフリカにおける砂糖政策は、関税による保護、SADC加盟国間などとの砂糖協力協定並びに製糖業者・生産者間による販売収益の配分の3本柱を基本としている。
同国では、自国を含むSACU加盟国全体を国内市場として捉えており、SACU内の砂糖需要は、SACU加盟国による生産、SACU加盟国とSACU非加盟国間の二国間協定に基づく輸入、SADC議定書により、SACU非加盟国で砂糖生産量が消費量を上回るSADC加盟国に認められたアクセス枠によって賄われている。
(1)関税による保護 砂糖に対する現在の変動関税方式は、2000年9月に関税貿易審議会の勧告に従い導入され、粗糖、白糖とも米ドル建ての基準価格を用いて設定されている。この基準価格は、砂糖の国際価格(ロンドン白糖5)の長期平均値(300米ドル)について、世界各国の保護貿易政策により国際価格が歪められて安くなっているとの前提に基づき上方修正(+60米ドル)するとともに、地理的に遠いことが障壁になっていることから輸入業者の運賃負担分を考慮し下方修正(−30米ドル)したものであり、1トン当たり330米ドル(1ポンド当たり14.97セント)に固定されている。関税は、砂糖の国際価格(ロンドン白糖No.5)が20日間連続して基準価格を20米ドル以上下回ったときに発動され、基準価格と国際価格(20日間移動平均)との差額を南アフリカの通貨ランドに換算して適用する。このような仕組みにより、国内砂糖市場を保護するという重要な役割を果たしている。
(2)砂糖協力協定 1993年のウルグアイ・ラウンド合意に基づきミニマム・アクセス注)が設定され、アクセス数量は現在、年間6万2037トン(粗糖換算)となっている。その後、南アフリカはSACUおよびSADCに加盟し、加盟国から輸入される砂糖の数量について管理・把握し、域内市場の混乱防止を目的としたSADCの自由貿易協定に加わった。
注)ミニマム・アクセスとは、ウルグアイ・ラウンド農業合意(1993年)による関税化品目のうち、ほとんど輸入がなかった品目について設定された最低限の輸入機会を提供すること
a)南部アフリカ関税同盟(Southern African Customs Union) SACUの設立は古く1910年に発足した。長らく南アフリカ・ボツワナ・レソト・スワジランドの4カ国であったが、2002年にナミビアが加わり、現在、5カ国が加盟している。SACUのもとで、加盟国間のあらゆる貿易障壁(特に関税)を撤廃すると同時に、非加盟国に対しては加盟国共通の関税を適用することとなっている。
SACUの砂糖市場は、南アフリカとスワジランドの間で1998年3月に締結された合意により、81.3対18.7の比率となっている。この合意は、両国が対等な輸出義務を維持することにより、生産者にとっての公正な市場アクセスを確立することを目指したものである。
b) 南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community) 当初は南部アフリカ諸国が、アパルトヘイト体制下の南アフリカ旧政権の経済的支配から脱却することを目的に、1980年に南部アフリカ開発調整会議(Southern African Development Coordination Conference:SADCC)として発足した。アパルトヘイト撤廃後の1992年8月にSADCと名称を変え、1994年にはアパルトヘイトを撤廃した南アフリカも加盟した。SADCの目的は、経済成長の促進、自立的発展の促進、国家間および域内の戦略・計画の調整、域内資源の保護と効果的活用などである。なお、加盟国はSACU加盟国のほか、アンゴラ、コンゴ、マラウイ、モーリシャス、モザンビーク、セイシェル、タンザニア、ザンビア、ジンバブエの15カ国である。
c) SADC砂糖協力協定 砂糖貿易については、「市場アクセス」と「協力分野」の2つの要素から構成されるSADC砂糖協力協定(SADC Sugar Cooperation Agreements)が締結されている。「市場アクセス」では、SACU加盟国は砂糖の生産量が消費量を上回るSADC加盟国に対し、SACU市場へのアクセスを認めている。
また、「協力分野」では、国際競争力を有するSADC砂糖産業を創出するため、研究や研修の充実、小規模生産者の育成、輸出用施設を含むインフラストラクチャーの整備、関税の管理に関する密接な協力を目指している。
(3)製糖業者・生産者間による販売収益の配分 南アフリカの砂糖産業は、砂糖法および砂糖業界関係者の合意に基づく砂糖産業協定により規制される。この協定は任意の協定であるが、大臣による認可事項であるため実質的には法的な強制力を有する。このため、すべての業界関係者は、南アフリカ砂糖協会(SASA)の主導の下、この協定によって共通の制度的枠組みに拘束されている。砂糖産業協定の主な役割は次の4つである。
(ア)国内市場で必要な砂糖の数量を設定すること
(イ)業界を代表して生産余剰分を輸出市場に回すこと
(ウ)砂糖と糖みつの販売に伴う純利益をさとうきび生産者と製糖企業間で配分すること
(エ)さとうきびの価格を設定すること
a) 砂糖の販売制度 上記の(ア)・(イ)の働きにより、国内市場に対して必要な砂糖供給量が決定され、国内市場の砂糖価格について、間接的にコントロールすることが出来る。
1994年まではSASAが国内用、輸出用とも全ての砂糖の販売を手がけていたが、1990年代後半の制度改革の一環として、国内販売に関して製糖企業に自由が認められるようになり、白糖、ブラウンシュガーおよび高品質の砂糖の国内販売については、製糖企業が担うことが2000年の砂糖産業協定で規定された。また、白糖の輸出も製糖企業が行っているので、SASAが独占的に行っているのは粗糖の輸出のみであり、輸出用白糖の原料となる粗糖はSASAが白糖企業に販売する。
南アフリカでは、関税により国内市場が保護されている。また、国内市場価格については、SASAによる余剰分の輸出を通じて国内供給量がコントロールされるため、一定の水準に維持される。さらに、製糖企業間で販売先による不公平が生じないようSASAは販売金額をプールし、各々の産糖量に応じて案分していることから、特定の企業が国内市場を独占したり、製糖企業間の競争で国内砂糖価格が下落する事態が回避される。
販売金額のプールについては、輸出向けか国内向けか、白糖か粗糖かによって異なっているが、最終的に1つの勘定に集められ計算される。
b) 収益配分 収益の配分については、国内市場と海外市場で価格水準が異なることから、関係者間で不公平が生じないよう市場原理を導入したプール制となっている。
製糖業者と生産者間での収益配分についても、2000年の砂糖産業協定により、現在の市場シェア割当制度に変更された。各企業に割り当てられるシェアは、過去の販売量実績に基づき算定される。
シェアを割り当てられた各工場は、さとうきびの価値を示す最終製品(砂糖および糖みつ)の回収可能価値(RV)に基づく一定比率により、さとうきび生産者に対して収益の一部を支払う。つまり、砂糖産業協定第166条では、国内市場で販売される砂糖1トン当たり、原則としてさとうきび生産者が63.8%、製糖・精製糖事業者が36.2%で配分することと規定している。さとうきび生産者に配分される利益の比率は増加しており、2005/06年度は63.77%であったが、2009/10年度には64.37%に達した。