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南アフリカ砂糖産業の概要

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最終更新日:2010年12月27日

南アフリカ砂糖産業の概要
〜主な砂糖政策とエタノール生産拡大の可能性〜

2011年1月

調査情報部調査課


【要約】

 南アフリカ共和国の砂糖政策は、砂糖法および砂糖産業協定などにより規制が図られている。同国では、SACU(南アフリカ関税同盟)加盟国全体を国内市場としており、SACU内の砂糖需要は、SACU加盟国による生産、SACU加盟国とSACU非加盟国間の協定に基づく輸入、SACU非加盟国で砂糖生産量が消費量を上回るSADC(南部アフリカ開発共同体)加盟国に認められたアクセス枠によって賄われている。
 価格は、南アフリカ砂糖協会主導の下、供給のコントロールを通じて、一定水準に維持されている。また、製糖業者と生産者間の収益配分は、不公平を生じさせないため市場原理が導入されており、生産者に対しては2000年以降、回収可能価値(RV)に基づく支払いが行われている。
 一方、バイオエタノールについては、国家バイオ燃料産業戦略を通じて生産が奨励されている。しかしながら、主に国内市場向けでの生産が想定されていることなどから、粗糖の対日輸出に与える影響は、限定的と思われる。

注1:SACUおよびSADCについては、2−(2)参照
 2:本稿の年度は、断りがない限り南アフリカ砂糖年度(4月〜翌3月)である。

1.はじめに

 前月号において、南アフリカのさとうきび生産、砂糖の需給動向と生産コストについて報告した。本稿では、砂糖政策とさとうきび・砂糖産業へ影響を与えるバイオエタノールの生産状況について報告する。

2.南アフリカ砂糖産業の特徴および主な政策

 南アフリカにおける砂糖政策は、関税による保護、SADC加盟国間などとの砂糖協力協定並びに製糖業者・生産者間による販売収益の配分の3本柱を基本としている。

 同国では、自国を含むSACU加盟国全体を国内市場として捉えており、SACU内の砂糖需要は、SACU加盟国による生産、SACU加盟国とSACU非加盟国間の二国間協定に基づく輸入、SADC議定書により、SACU非加盟国で砂糖生産量が消費量を上回るSADC加盟国に認められたアクセス枠によって賄われている。

(1)関税による保護

 砂糖に対する現在の変動関税方式は、2000年9月に関税貿易審議会の勧告に従い導入され、粗糖、白糖とも米ドル建ての基準価格を用いて設定されている。この基準価格は、砂糖の国際価格(ロンドン白糖5)の長期平均値(300米ドル)について、世界各国の保護貿易政策により国際価格が歪められて安くなっているとの前提に基づき上方修正(+60米ドル)するとともに、地理的に遠いことが障壁になっていることから輸入業者の運賃負担分を考慮し下方修正(−30米ドル)したものであり、1トン当たり330米ドル(1ポンド当たり14.97セント)に固定されている。関税は、砂糖の国際価格(ロンドン白糖No.5)が20日間連続して基準価格を20米ドル以上下回ったときに発動され、基準価格と国際価格(20日間移動平均)との差額を南アフリカの通貨ランドに換算して適用する。このような仕組みにより、国内砂糖市場を保護するという重要な役割を果たしている。

(2)砂糖協力協定

 1993年のウルグアイ・ラウンド合意に基づきミニマム・アクセス注)が設定され、アクセス数量は現在、年間6万2037トン(粗糖換算)となっている。その後、南アフリカはSACUおよびSADCに加盟し、加盟国から輸入される砂糖の数量について管理・把握し、域内市場の混乱防止を目的としたSADCの自由貿易協定に加わった。
注)ミニマム・アクセスとは、ウルグアイ・ラウンド農業合意(1993年)による関税化品目のうち、ほとんど輸入がなかった品目について設定された最低限の輸入機会を提供すること

a)南部アフリカ関税同盟(Southern African Customs Union)

 SACUの設立は古く1910年に発足した。長らく南アフリカ・ボツワナ・レソト・スワジランドの4カ国であったが、2002年にナミビアが加わり、現在、5カ国が加盟している。SACUのもとで、加盟国間のあらゆる貿易障壁(特に関税)を撤廃すると同時に、非加盟国に対しては加盟国共通の関税を適用することとなっている。

 SACUの砂糖市場は、南アフリカとスワジランドの間で1998年3月に締結された合意により、81.3対18.7の比率となっている。この合意は、両国が対等な輸出義務を維持することにより、生産者にとっての公正な市場アクセスを確立することを目指したものである。

b) 南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community)

 当初は南部アフリカ諸国が、アパルトヘイト体制下の南アフリカ旧政権の経済的支配から脱却することを目的に、1980年に南部アフリカ開発調整会議(Southern African Development Coordination Conference:SADCC)として発足した。アパルトヘイト撤廃後の1992年8月にSADCと名称を変え、1994年にはアパルトヘイトを撤廃した南アフリカも加盟した。SADCの目的は、経済成長の促進、自立的発展の促進、国家間および域内の戦略・計画の調整、域内資源の保護と効果的活用などである。なお、加盟国はSACU加盟国のほか、アンゴラ、コンゴ、マラウイ、モーリシャス、モザンビーク、セイシェル、タンザニア、ザンビア、ジンバブエの15カ国である。

c) SADC砂糖協力協定

 砂糖貿易については、「市場アクセス」と「協力分野」の2つの要素から構成されるSADC砂糖協力協定(SADC Sugar Cooperation Agreements)が締結されている。「市場アクセス」では、SACU加盟国は砂糖の生産量が消費量を上回るSADC加盟国に対し、SACU市場へのアクセスを認めている。

 また、「協力分野」では、国際競争力を有するSADC砂糖産業を創出するため、研究や研修の充実、小規模生産者の育成、輸出用施設を含むインフラストラクチャーの整備、関税の管理に関する密接な協力を目指している。

(3)製糖業者・生産者間による販売収益の配分

 南アフリカの砂糖産業は、砂糖法および砂糖業界関係者の合意に基づく砂糖産業協定により規制される。この協定は任意の協定であるが、大臣による認可事項であるため実質的には法的な強制力を有する。このため、すべての業界関係者は、南アフリカ砂糖協会(SASA)の主導の下、この協定によって共通の制度的枠組みに拘束されている。砂糖産業協定の主な役割は次の4つである。

 (ア)国内市場で必要な砂糖の数量を設定すること

 (イ)業界を代表して生産余剰分を輸出市場に回すこと

 (ウ)砂糖と糖みつの販売に伴う純利益をさとうきび生産者と製糖企業間で配分すること

 (エ)さとうきびの価格を設定すること

a) 砂糖の販売制度

 上記の(ア)・(イ)の働きにより、国内市場に対して必要な砂糖供給量が決定され、国内市場の砂糖価格について、間接的にコントロールすることが出来る。

 1994年まではSASAが国内用、輸出用とも全ての砂糖の販売を手がけていたが、1990年代後半の制度改革の一環として、国内販売に関して製糖企業に自由が認められるようになり、白糖、ブラウンシュガーおよび高品質の砂糖の国内販売については、製糖企業が担うことが2000年の砂糖産業協定で規定された。また、白糖の輸出も製糖企業が行っているので、SASAが独占的に行っているのは粗糖の輸出のみであり、輸出用白糖の原料となる粗糖はSASAが白糖企業に販売する。

 南アフリカでは、関税により国内市場が保護されている。また、国内市場価格については、SASAによる余剰分の輸出を通じて国内供給量がコントロールされるため、一定の水準に維持される。さらに、製糖企業間で販売先による不公平が生じないようSASAは販売金額をプールし、各々の産糖量に応じて案分していることから、特定の企業が国内市場を独占したり、製糖企業間の競争で国内砂糖価格が下落する事態が回避される。

 販売金額のプールについては、輸出向けか国内向けか、白糖か粗糖かによって異なっているが、最終的に1つの勘定に集められ計算される。

b) 収益配分

 収益の配分については、国内市場と海外市場で価格水準が異なることから、関係者間で不公平が生じないよう市場原理を導入したプール制となっている。

 製糖業者と生産者間での収益配分についても、2000年の砂糖産業協定により、現在の市場シェア割当制度に変更された。各企業に割り当てられるシェアは、過去の販売量実績に基づき算定される。

 シェアを割り当てられた各工場は、さとうきびの価値を示す最終製品(砂糖および糖みつ)の回収可能価値(RV)に基づく一定比率により、さとうきび生産者に対して収益の一部を支払う。つまり、砂糖産業協定第166条では、国内市場で販売される砂糖1トン当たり、原則としてさとうきび生産者が63.8%、製糖・精製糖事業者が36.2%で配分することと規定している。さとうきび生産者に配分される利益の比率は増加しており、2005/06年度は63.77%であったが、2009/10年度には64.37%に達した。
図1 収益の配分
c) 回収可能価値(RV)支払システム

 さとうきび生産者に対しては、2000/01年度以降、RVに基づき支払いが行われている。このシステムは、しょ糖だけではなく、しょ糖以外の夾雑物や繊維の含有率も支払額の算出の根拠となっているため、個々の生産者の栽培意欲を高め、さとうきびの品質の向上を促すという効果的な仕組みとなっている。つまり、しょ糖の含有率以外にも繊維分に含まれるしょ糖や糖みつとして失われるしょ糖の損失が計算に含まれるため、生産者が繊維分や夾雑物をより少なくするようインセンティブを働かせるものとなっている。
図2 回収可能価値の算定方式
 回収可能価値(RV)の算定方式は、以下のとおりである。
算定方式
 係数dは、3年度分の移動平均および現在の砂糖・糖みつのRV暫定価格に基づいて毎月算出される。また、係数cは、3年度分の移動平均に基づいて毎年算出される。現在、係数dとcは、それぞれ約0.42と0.02であり、繊維に比べ非しょ糖成分がさとうきびの品質に与える影響が大きいことが分かる。

 RV暫定価格は製糖期中、毎月更新され、その時点までに納入されたさとうきびすべてに適用され、最終的なRV価格は毎年3月に発表される。2010年7月に納入されたさとうきびのRV価格は1トン当たり2549.99ランド、前月(2010年6月納入分)に比べて、1トン当たりRVが14.41ランド上昇した。

 国内の砂糖価格は2000年10月以降、製糖工場が決定している。回収可能価値(RV)価格およびRVに基づく平均さとうきび価格を表1に示した。
表1 南アフリカのRV及びさとうきび価格の推移
3.エタノールの状況

(1)バイオエタノール政策

 南アフリカのエネルギー政策として、1980年代前半から合成アルコールを10%前後ガソリンに混合していた時期があったが、近年における農業の生産性向上と世界的なバイオ燃料への需要の高まりなどから、バイオエタノールの需要が増えている。これに、精製度の高い石油製品の貿易赤字拡大、地域開発の重要性、農村や黒人への経済的利益の移転の必要性、環境問題などさまざまな理由が複雑に絡み合っている。

 内閣は2005年12月、バイオ燃料産業政策の策定、および鉱物エネルギー省ほか関係省庁によるバイオ燃料タスクチームの設立を承認した。2006年には、輸送用燃料に占めるバイオ燃料混合比率を2013年までに4.5%にするという目標のバイオ燃料産業戦略の諮問案が発表された。バイオエタノール8%、バイオディーゼル2%を義務付けることとなる。さらに、2007年12月5日には、国家バイオ燃料産業戦略が承認され、国内の液体燃料供給におけるバイオ燃料の混合比率を当初予定の4.5%から下方修正し、2%とするための短期パイロットプログラム(5年間)が盛り込まれた。バイオ燃料2%の義務化には、40万〜45万キロリットルのバイオ燃料生産が必要になる。なお、目標とする混合比率は、バイオエタノール8%、バイオディーゼル2%と2006年の諮問案から変更されていない。

 国家バイオ燃料産業戦略が承認された翌日(2007年12月6日)、鉱物エネルギー省は国内のバイオ燃料政策の初期段階においては、食料安全保障上の観点からバイオエタノール生産におけるとうもろこし利用を除外すると発表した。

 国家バイオ燃料産業戦略では、国内での燃料用アルコール生産の原料として、さとうきびおよびてん菜も考えられている。さとうきび1トンから80リットルのエタノールを生産できるという基準により、さとうきびベースのアルコールの平均生産コストは、1立方メートル当たり約3000ランド(415米ドル)と試算されている。

 既存の農産物をエタノール生産に転用すると、需給の不均衡が生じ、農産物価格の上昇となる可能性があり、農業生産(たとえばさとうきび生産)の収益性の向上につながる一方で、原料コストが上昇するため、食品生産(たとえば砂糖生産)の収益性の低下につながる可能性もある。しかし、南アフリカは、アフリカ大陸で最大のとうもろこし生産国であり、2009/10年度には400万トンの生産過剰となっているから、需給の不均衡が生じるなど上記の事態になるとは考えにくい。さらに、未利用の土地約300万ヘクタールをさとうきびなどエタノール原料の生産に利用できる可能性が高い。

(2)エタノール生産

 南アフリカのエタノール生産量は、過去10年間、年平均38万キロリットルでかなり安定した推移を見せている。生産量の過半は、石炭・天然ガス由来の合成エタノールであり、残りは糖みつ由来のバイオエタノールである。

 バイオエタノール生産に期待される効果としては、次のことが挙げられる。

・経済的に恵まれていない地域に対する経済活動や雇用の創出、貧困の解消

・国家的な燃料安全保障対策や石油輸入に対する負担軽減

・環境上の利点(二酸化炭素の削減、一酸化炭素、亜硫酸ガス、スモッグ等の軽減)
表2 南アフリカにおけるエタノール生産量の推移
(3)エタノール産業構造

 南アフリカで生産されるエタノールのうち、合成エタノールについては、エタノール生産の国内最大手「Sasol」社と「Mossgas」社が、石炭・天然ガスを主原料として生産している。

 一方、バイオエタノール生産は、糖みつを主原料としており、生産量は合成エタノールに比べて少ないものの増加しつある。現在、バイオエタノールの生産を行っているのは、「Ilovo Sugar」と「Alcodis」の2社だけである。

 増加が予想される燃料としてのエタノール需要に対応するため、資産運用会社「Sterling Waterford and Ethanol Africa」および「Ethanol Africa」が出資するプロジェクトの一環として、2006年夏、フリーステイト州のボタヴィルで、とうもろこしを原料とする最初のエタノール工場(年間エタノール生産能力14万2千キロリットル)の建設が始まった。しかし、前述のとおりバイオ燃料政策の初期段階においては、食料安全保障上の観点からとうもろこしを原料から除外されることになったため、工場の建設は2008年10月に中断されている。

 なお、今後のバイオエタノール生産の増加を想定して、国営の開発金融機関である「Industrial Development Corporation」および「Central Energy Fund et al」は、ムプマランガおよびクワズール・ナタルの両州に、さとうきび、てん菜、ソルガム、キャッサバ、ソルガムなどさまざまな農産物を原料とした、複数のバイオエタノール工場の建設を提案している。
表3 南アフリカのバイオエタノール工場
(4)エタノール貿易

 南アフリカのエタノール生産量のうち大部分は輸出されている。輸出先は、年によって大きく違うが、洗浄、溶剤などに利用される変性エタノール(アセトンなどの薬剤を加えて飲用不可のもの)はアジア諸国向け、飲料や食品、薬品などに利用されるエタノールは米国、EU、UAEなどに向けられている。

 2009年の輸出量は21万1000キロリットルで、輸出先はEU、韓国、UAE、カメルーン、マダガスカル、ガーナ、タンザニア、ザンビア、米国、イスラエル、シンガポールなどであった。一方、同年の輸入量は1万2000キロリットルで、ジンバブエおよびブラジルからの輸入が大半を占めた。
表4 南アフリカにおけるエタノール輸出入量の推移
(5)バイオ燃料生産に対する各業界の反応

a)穀物業界


 とうもろこしは南アフリカの穀物生産量の約8割を占める主要穀物であり、南アフリカ穀物協会は、バイオ燃料生産に極めて積極的である。同協会は、粗放的な放牧が行われている土地をとうもろこしの作付に転換することや単収を増加させることによって、現在の食料需給に影響を及ぼすことがないとみている。

b)砂糖業界

 国家バイオ燃料産業戦略など政府の方針を見ると、さとうきびからのエタノール生産が期待されているが、SASAとしては、エタノールに比べ砂糖生産の方が収益性が高いことから、さとうきびからの燃料用エタノール生産については消極的である。

4.今後の展望

 近年、南アフリカの砂糖生産量は減少傾向にあるが、OECDおよびFAOの予測によれば、同国のさとうきび・砂糖産業の持つ高い効率性および競争力を背景に、中期的には、さとうきび作付面積が再び増加に転じ生産量も増加するとみられる。エタノールや電力供給などの新しい分野への新たな投資は推進される可能性があるものの、砂糖の生産性向上のための新たな設備投資などに関する計画は、現在のところは発表されていない。

 一方、エタノールについては、バイオ燃料生産に対する懸念材料として、食料安保に対する懸念、原油価格および農産物価格の不安定性、副産物市場の確保、環境問題などが挙げられる。これらは、バイオ燃料生産には大きな問題となり、政府の関与が求められる要因となっている。

 南アフリカのバイオエタノール生産は初期段階であり、政府による各種奨励策が提案されているものの、将来像は明らかとはなっていない。基本的には国内市場に供給されることが想定される上、その生産規模はブラジル、米国、EUなどと比較しても小さいことから、輸出量が急激に増加するとは現時点では考えにくい上、砂糖業界がさとうきびからのエタノール生産に消極的である。このため、我が国の粗糖輸入量の10%強を担う南アフリカの砂糖の輸出供給余力は当面、エタノール生産の影響を受ける可能性は少ないと考えられる。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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