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さとうきび産業の持続的改善をめざして

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最終更新日:2011年3月2日

さとうきび産業の持続的改善をめざして 〜BSIとその取り組み〜

2011年3月

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 樽本 祐助

はじめに

 Better Sugar Cane Initiative(BSI)は、「より良いさとうきび生産の先導」と訳すことができる。先導という用語に示されるように、今後のさとうきび産業の発展に寄与することを目的としたグループである。
 
 12月9日から10日にかけてアメリカ領プエルトリコで開催されたBSI会議に出席したので、その概要を報告したい。参加者は100人近くあり、農家から製糖企業、製糖企業の組合、精製糖やエタノール企業、商社、食品企業、銀行、WWFからの参加があった。川下産業では、BPやコカコーラ、そして本会議のホストであったバカルディ(ラムやテキーラ、ウイスキーなどで世界的な企業)があった。

1.BSIとは

 BSIは、さとうきび産業に関わる川上から川下の関係者から構成された非営利組織である。BSIは2005年に結成され、さとうきび産業の社会的・環境的・経済的な持続性を改善することを目的としている。こうした背景には、バイオエタノール向けの需要が高まるなかで、無理な開墾や過剰な施肥による環境への悪影響が生じたことがある。また一部に存在する劣悪な労働環境の改善が課題になったこと、温暖化問題や生物多様性に関する社会的な関心が高まったことも影響している。こうした点を、さとうきび産業全体として取り組もうとしている点に独自性がある。
 
 こうした問題を解決し、新たな発展方向を見いだすための手法として、BSIでは評価指標を作成し、その認証を行うという仕組みを作っている。2010年には、こうした評価方法の中間報告がされており、ホームページ(http://www.bettersugarcane.org)で公表されている。
 
 本会議では、BSIの目的についての再確認に加えて、食品メーカーがなぜBSIをサポートするのかといった報告があった。また認証方法についての具体的なディスカッションがなされた。
 
 

2.認証制度について

 BSIでは、さとうきび産業の発展に対する原則を持っている。
(1)法令遵守
(2)人間の権利と労働規範
(3)持続性を高めるための投入・生産・効率的処理の管理
(4)生物多様性や生態系への配慮
(5)持続的な改良、である。
 
 こうした原則にもとづき、具体的で、検査が可能な指標を作成している(表1)。BSIは、社会環境問題に関する規準を定める国際機関であるISEAL(国際社会環境認定表示連合)の会員となり、参加型の方法で基準を定めてきた。その基準を作成するにあっては、ILO(国際労働機関)の労働基準、RED(再生可能エネルギー利用促進指令)が考慮する環境保全や生物多様性への配慮に関する指標(でん粉情報、2009.3、「再生可能資源エネルギー利用促進指令の成立とEU のバイオエタノール産業について」に詳しい)、FQD(燃料品質指令)のライフサイクルでの環境負荷軽減の指標が活用されている。
 
 
 
 
 こうした指標に対して、農家や製糖企業が認証をうけ、それを遵守することで生産される砂糖が認証されることになる(図1)。またトレーサービリティについては、当面、貯蔵・輸送・精製過程が非効率になるため認証された砂糖を別に流通させるのではなく、認証された生産量を最終段階で案分する仕組みを併用する。しかし最終的には認証された砂糖を区分して流通させることを狙っている。
 
 
 
 
 農家に対する認証は、製糖企業が責任を持って指導するという仕組みになる。したがって、BSIに加盟して、具体的な作業を行うのは製糖企業が単位となる。この認証を行う監査人を養成するためのトレーニングが、BIS会議に引き続き開催されていた。
 
 こうした評価指標を満たすことで、さとうきび農家はGAP(農業生産工程管理)が達成される。そのことが生産量の増加やコスト低下による収益性の向上をもたらし、持続的な生産が行われることを狙っている。言い換え得れば、環境や人に優しいさとうきび生産を実施することで経営改善を図るということになる。こうしたことは、BSI参加者の共通認識であった。
 
 一方で、製糖企業における認証のメリットには議論があった。それは認証された砂糖に対するプレミアムへの付加に関わる。つまりBSIでは認証された砂糖であっても価格は同じだと考えている。したがって、製糖企業が認証を受けることのメリットは、価格以外に求める必要がある。
 
 個別に議論したところ、BSIに熱心な製糖企業がある一方で、厳しい見方をする製糖企業もあるようだった。積極的に評価する企業は、認証が企業価値を高めるための有効な手段としてとらえており、それが販路拡大につながることを期待している。
 
 また、食品メーカーにも聞取りすると、BSI認証された砂糖にプレミアムを付けるかどうかは、状況次第ということであった。つまり販売する商品に付加価値がつかない限りは、プレミアムを付けることは難しいということである。それでも食品メーカーやエタノール企業がBSIに関わるのは、環境や人に優しいさとうきび産業に貢献しているという社会貢献が認知されることがある。また、社会貢献に関する認証を持つ商品という新たなマーケットへの進出という意味もあるようだ。
 
 

3.おわりに

 わが国には、有機農産物の認証制度がある。これは販売される農産物が既存のものとは異なることを前提としている。しかし砂糖は、たとえBSI認証を受けていたとしても化学的には同じものである。それでもさとうきび生産のプロセスに対して認証を行うということは新たなチャレンジであると感じた。一方でBSIの取り組みは、コーヒーなどでよく見られるフェアトレードに似た要素もある。しかしフェアトレードは、公正な取引関係に軸があり、それは最終的には価格に反映される。BSIの取り組みは、価格転嫁を目的としておらず、こうした視点とも異なる。こうしたことから、BSIは新たな取り組みであるといえる。
 
 今後、BSIでは具体的な認証が始まり、BSIのロゴ(BONSUCROという名称)が付いた砂糖が本年には市場に出る予定である。将来的には、2014年までにBSIは150の会員を持ち、会員からの寄付なしで、認証収益で自立できることを目標にしている。その時点で、100万トンの砂糖と10億リットルのエタノールでの認証を考えている。
 
 会議では、日本の製糖企業は認証を受ける可能性があるかどうか、また砂糖を扱う関連企業はどうかといった質問を受けた。BSIでは認証を受けた砂糖とそれ以外のものが混在しないことも目標にしている。わが国では、国産と輸入と区別した砂糖販売はきわめて少なく、その段階から異なる。しかし、例えば農家における過剰施肥の改善や土壌流亡対策の実施、砂糖生産・流通全体でのエネルギー利用の効率化などは重要な課題である。その持続的な改善を行うことは今後重要であり、こうした認証の仕組みがそれを効果的に実施できるかどうかなどは検討する価値がある。
 
 さらに、今後わが国における貿易体制が変化し、これまでのさとうきび産業が大きく変化するのであれば、こうした認証を通じて川下産業や消費者からの理解を求めていくという視点も重要である。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713