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ビスケットのおはなし

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最終更新日:2011年3月3日

ビスケットのおはなし

2011年3月

社団法人 全国ビスケット協会 専務理事 今村 洋

はじめに

 お菓子の効用として、お菓子を食べながらけんかをする人はいない、お菓子を食べると何となく気持ちが前向きになる、お菓子を食べることで家庭や地域や職場などのコミュニケーションが図れるなど数え上げればきりがない(もちろんお菓子に限らず食べ過ぎには注意が必要)が、その中で、ビスケットは、歴史も古く、派手さはないが、幼児から、お年寄りまで、性別、年齢を問わず、幅広く愛されるお菓子である。また、ビスケットは、種類も豊富で値段も手頃、更に保存性も優れている。おやつや補助食品としてはもとより、手軽で栄養価の高い朝食として、更に、気象災害や地震などの際の非常用の保存食としての役割も果たしている。
 
 ここでは、このビスケットの歴史や我が国のビスケットの現状について紹介する。
 
 

1.ビスケットの起源と変遷

(1)ビスケットの語源
 
 ビスケットの語源は、ラテン語のビス・コクトゥス(bis coctus)で、その意味は、二度焼かれたものとされている。このビス・コクトゥスは、のちに二度焼かれたパンというラテン語のビス・コクトゥス・パーニスともいわれるようになった。
 
 
(2)ビスケットの起源と歴史
 
 ビスケットの起源については、紀元前2000年頃(古代ヨーロッパの人たちはこの時代に航海とか、遠征のため旅する人たちの食料として、一度焼かれたパンを乾かしたり、さらに焼いたりして水分を減らしたものを利用)に遡るといわれている。
 
 そのビスケットが本格的に作られるようになったのは、16世紀の後半のことで、ヨーロッパの宮廷で食べられるようになり、イギリスのエリザベス女王は、技師オズボンに命じて、宮廷に焼き窯を作りビスケットを製造していたといわれているほか、フランスの王妃マリーアントワネットも宮廷でビスケットを作っていたという話が残っている。
 
 
(3)日本への渡来とその後の変遷
 
 1543年、種子島に漂着したポルトガル人は鉄砲とともにカステラ、ビスケット、ボーロといった南蛮菓子を日本に伝えた。日本に上陸したビスケットは、当時の日本人の嗜好にあわず、あまり人気がなく、長崎の周辺にその名残をとどめたに過ぎなかった。
 
 ビスケットが一般国民の中に登場してきたのは、明治維新の戊辰戦争以後といわれている。
 
 

2.ビスケットの仲間たち

(1)ビスケットの種類
 
 消費者団体からの要請を受け、公正取引委員会の指導の下に昭和46年3月「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」が制定され、この中で、「ビスケット類」をビスケット、クラッカー、カットパン及びパイ並びにこれらの加工品と規定した。このほか、一般的には、プレッツェル、半生ケーキ、乾パンなどもビスケット類に含まれる。
 
 なお、消費者、マスコミから「ビスケットとクッキーの違いは何か」という質問をよく受けるが、わが国では、公正競争規約の中で「ビスケットのうち手作り風の外観を有し、糖分、脂肪分の合計が重量百分比で40%以上のもの」についてクッキーと表示してもよい(基本は、クッキーもビスケットの一部)と規定している。これは、規約制定の際、消費者団体からの「ビスケットよりクッキーの方が高級なものと意識しているので何らかの定義づけが必要」との声に応えたものである。
 
 
(2)ビスケットの原材料(砂糖の役割)
 
 公正競争規約では、ビスケット類の原材料のうち、小麦粉、油脂、糖類、食塩を必須の原材料と規定しており、糖類は、小麦粉、油脂と並ぶ3大原料の一つである。このうち糖類は、製品に甘みを与えることはもちろん、食感、組織、焼き色などの外観にも大きく影響する。
 また、油脂とともにドウ(注)の混合の際に小麦粉のグルテンの形成を抑える働きをし、ドウの物性に重要な働きをしている。
 
(注):「ドウ(dough)」は、小麦粉を練った生の生地のこと。
 

3.ビスケットの生産動向等

(1)ビスケットの生産数量
 
 ビスケットの生産数量は,戦後10万トン台で推移して来たが、昭和30年代の高度経済成長に伴い、35年に20万トン、また、昭和51年には過去最高の29万トンに達した。その後はスナック菓子など競合する菓子に押され、昭和62年には23万トンにまで減少し、今日、少子高齢化、景気の低迷が続く中、ほぼその水準を維持している。
 
 
 
 
(2)ビスケットの輸入・輸出数量
 
 ビスケットの輸入が自由化されたのは、昭和46年10月で、その時の輸入数量は1万3000トン程度であった。その後は、年ごとの変動はあるものの増加傾向が続き、平成16年には過去最高の2万5200トン(国内供給量の11%)に達した。その後、中国問題等食の安全への国民の関心が高まる中で、最大の輸出国であった中国を中心に輸入が減ったが、一昨年後半から低価格のビスケットを中心に再び輸入量が増加している(平成22年は対前年比117.2%の1万9400トン)。国別輸入数量は次のとおり。
 
 
 
 
(3)菓子類の中のビスケットの地位
 
 平成21年における全国の菓子総生産数量は、194万7000トンで、そのうち、ビスケットは24万3000トン(12.5%)、また、また、菓子類全体の小売金額(推計)は、合計3兆2570億円、そのうち、ビスケットは3440億円(10.7%)となっている。
 

4.ビスケット業界を取り巻く諸課題

(1)デフレ傾向が強まる中での原材料高
 
 ビスケットの主要原材料である小麦粉、砂糖、油脂、乳製品などについては、従来から大きな内外価格差がある。一旦落ち着きを見せていたこれらの価格は、砂糖に続き油脂の価格も上昇を続けているほか、小麦粉などについても、価格の上昇が避けられない状況となっている。
 
 一方、ビスケットの製品価格は、低下傾向が続いている。
 
 
 
 
(2)安全性の問題
 
 ア 適正な表示の推進
 
 食品の表示は、食の安全・安心の柱の一つであり、消費者の商品選択のよりどころとなるもので、消費者に分かりやすい、適切な表示を行なうことが業界に対する信頼を高めることにつながる。ビスケット業界では、「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」に基づき、消費者に支持される表示の推進に努めているところである。
 
 
 イ 安全性に関する諸問題
 
 ビスケット類にかかわりのある今日の問題としては、イ−(1)アクリルアミドイ−(2)トランス脂肪酸などの問題があげられる。
 
 アクリルアミドは食品の加工・調理時に高温で加熱した場合、アスパラギン(アミノ酸の一種)と還元糖が反応して生成され、発がん性があるとされており、一方、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種でマーガリン、ショートニングなどの加工油脂やそれらを原料として製造される食品のほか、乳製品、精製植物油などにも含まれ、心筋梗塞や動脈硬化のリスクを高めるといわれている。
 
 これらについては、わが国の消費の実態から見て、バランスの良い食生活を心がければ、健康への影響は少ないとされている(食品安全委員会見解)が、アクリルアミドについては、コーデックス委員会の議論なども踏まえ、協会としても会員企業の協力の下、前年度の農水省の委託事業を活用して、製品のアクリルアミドの分析調査や低減のための技術実証試験などを実施した。
 
 なお、アクリルアミドの低減技術の一つとして、ビスケットの原材料の中の還元糖を蔗糖に切り替えることが有効とされており、ビスケットの生産現場において、この研究、取組みも始まっている。
 
 また、トランス脂肪酸については、2月21日に消費者庁から「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」が公表され、トランス脂肪酸に関して食品事業者が情報開示を行う際の考え方が明らかにされたところである。
 
 

5.ビスケットの普及・需要喚起のための取り組み

 ビスケットの需要喚起のための取り組みは、おいしくて、消費者に信頼される商品の開発はもちろんのこと、メーカーごとにテレビCMをはじめ、新聞、雑誌などを通じ積極的に行なわれている。 
 
 協会では、昭和55年に「2月28日をビスケットの日※」として制定し、翌56年からビスケットの日を中心にキャンペーンを実施してきたところである。現行の海外旅行とビスケットセットのプレゼント(2,280名)を組み合わせたキャンペーン事業は、今回で15回目となる。
 
※水戸藩の蘭医、柴田方庵が、ビスケットが保存の効く食料という点に注目し、長崎留学中にオランダ人から製法を学び、その作り方を手紙に認めて安政2年(1855年)2月28日に水戸藩に送ったとの史実に基づく。
 
 
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