さとうきびの刈り取りは、毎年12月1日からと決まっている。さとうきびの茎を搾ってジュースを取り出し、煮つめる。その時に、カキ灰を少量入れて、浮き上がってくるアクを取り除いて清浄する。濃縮糖液の状態を柄杓で垂らして確認してから、糖蜜を冷却して結晶を析出させ、「白下」と呼ばれる、結晶と蜜の混合物を作る。この状態で白下糖の色は茶色。さとうきびを刈り取り終わる2月上旬くらいまでに、この白下糖を作っておく。
次は、白くしていく分蜜工程だ。白下糖から茶色っぽい蜜を抜いていく作業は、醤油や酒を搾るのと同じ「押し槽(ふね)」と呼ばれる道具をつかって、梃子の原理で加圧して行う。木箱に麻布を外側に、木綿布を内側に敷いて2枚重ね、その中に白下糖を入れて包む(写真1)。白下糖1樽でこの木箱を8個作って、梃子の原理の支点になる部分に置く(写真2)。そして重石をつるして加圧する(写真3)。翌日、やや蜜が抜けた砂糖を取り出し(写真4)、少し水を加えて手でこねる「研ぎ」という操作を熟練の職人さんが行い(写真5)、再び「押し槽」にかけて蜜を抜く。この操作を3回から5回繰り返す(写真6)。繰り返すほど砂糖は白くなる(写真7)。そして篩にかけて陰干しして出来上がり(写真8)。この分蜜作業は、夏が来る6月上旬くらいまでには終わらせておく。
この工程を見る限り、土は使われていない。結晶の周りに存在する黒色成分を含む蜜を取り除くのに、圧力によって搾る「加圧法」が採られているのだ。
日本では土を使った「覆土法」による製造法は現存していない。
ならば、他の国で行われていないか!と着想して、海外でのフィールド調査に足を踏み入れた。
海外調査に乗り出すものの、日本でいえば農林水産省関係にあたる機関では、大工場を持つ精糖会社などは把握していても、流通規模が小さい「伝統的」な砂糖なんぞには興味がないのか、その実態はわかっていないことが多い。また、都市部のスーパーや小売店で売られている砂糖は、きれいにパッケージされているものの、ミルで造られたグラニュー糖や氷砂糖などで、伝統的な砂糖にはそうお目にかかれない。
そこで、まず市場探しから始めることになる。しかし、市場から市場を渡り歩き、面白そうな砂糖に出合っても、市場にある砂糖はたいていむき出しの量り売りで包装されておらず、生産者などの情報がないのが一般的だ。日本は食品表示にうるさいので、砂糖のパッケージに「どこで」「誰が」作った砂糖かが書いてあるのとは大違い。
そういうわけで、海外では村から村へ、ひたすら聞きまくって探す旅となる。
「行ってみなければわからない」ので、その日のホテルも決めることができない。今夜の宿は「ディペンド・オン・ザ・トゥデイズ・リサーチ!」と、通訳とドライバーに連呼しながら、女インディージョーンズにでもなった気分での3人旅。車が入れないような農道歩くこと2時間、なんていうのももう慣れた。その地域、その村で作っている、「伝統的な砂糖」を探し出すには、体力と気力との勝負。
どんな砂糖を食べていたのか?という素朴な疑問は、地球をうろついて一周するハメになった。「百読は一見に如かず」。今後、さまざまな国の伝統的な砂糖製造技術を、時空を超えて、紹介したい。乞うご期待!