中国の砂糖産業の発展及び政策的枠組
最終更新日:2011年4月8日
中国の砂糖産業の発展及び政策的枠組
2011年4月
中国農業部農村経済研究中心 徐雪
【要約】
中国の4000万の糖料作物(さとうきび、てん菜)農家の生計に関わる砂糖生産は、経済の未発展な地域でなされている。近年、砂糖消費の急速な伸びにも拘わらず、生産の周期的変動により価格も大きく変動し、農家や企業の収入は極めて不安定である。2010/11年度には生産量が需要を下回り、価格が高騰した。
本報告は、中国の砂糖産業発展の現状、将来の消費と生産の可能性、輸入や産業発展の問題点に対する分析を行い、近年の砂糖産業への支援、市場調整、輸出入等に関する政策的効果を評価するとともに、今後の産業発展の目標及び政策に関する方向性を検討する。国内自給率90%の維持には、単位面積当たりの生産量向上に努力し、農家や企業が共に利益を享受できるような2回決済制注文契約システムの普及、国の備蓄体制整備、輸出調整等の総合的強化、砂糖の需給バランス保持や砂糖産業の健全かつ安定的な発展維持が必要であると考える。
中国では糖料作物(さとうきび、てん菜)の生産は主に経済発展が遅れた地域で行われており、糖料作物の栽培は生産農民4000万人の生計に関わり、一部地域では財政を支える重要な収入源の一つとなっている。近年、中国の砂糖の消費は急速な伸びを見せているが、砂糖の生産には周期的な変動があるため、その価格変動は大きく、農民や企業の収入は極めて不安定である。
砂糖産業はその発展において幾多の苦難を経験してきた。現在、中国の砂糖は2年連続の減産となっており、2010/11年度(10月〜翌9月)には生産量が需要を下回り、砂糖価格は史上最高価格まで高騰することが見込まれている。本報告では、中国における砂糖産業発展の現状を分析し、将来の消費及び生産に関わる潜在的可能性、輸入や産業発展のボトルネックに対する分析を行い、近年の砂糖産業の生産支援、市場調整、輸出入等に関する政策的効果を評価するとともに、今後の産業発展に対する調整目標及び政策の方向性を検討するものである。
T 中国の砂糖産業の現状及び主要な特徴
1.優位性のある地域への生産移転と産業集中度の著しい上昇
2000年、中国が主要農作物の適地に基づく区域配置計画を実施して以来、砂糖の生産は適地へ加速度的に移転したため、生産地の著しい集中を招き、広西、雲南、広東、海南、新疆、黒竜江の6大生産エリアでの砂糖生産量が全国の総生産量の97%以上を占めるに至った。近年、中国の糖料作物の作付面積はおおよそ2700〜3000万ムー(*注1)の水準に落ち着いており、糖料作物の総生産量は1億トン以上を維持している。
また、中国の製糖企業は「第10次五カ年計画(2001年〜2005年)」期間に構造調整を行ったため、企業体質は強化され、製糖産業の総合的競争力も向上した。現在、製糖工場の数は構造調整前の500社強から約290社に減少し、製糖工場の年平均生産量は2万トン弱から5万トン以上に増加した。製糖工場数は40%減となったにもかかわらず、砂糖の生産量は80%以上の伸びを示した。また、製糖工場の体制にも大きな変化が生じている。国有企業の比率は徐々に減少しているが、民間、外資系、株式会社の比率は年々上昇し、企業の経営体制もより活力にあふれたものとなっている。製糖工場の集団化経営も著しい進歩をとげており、27の重点企業集団の砂糖生産量はすでに全国総生産量の70%以上を占めている。
だが、糖料作物生産区域の集中化が新たな問題を引き起こしている。先ず、中国の糖料作物生産の収益性が相変わらず低いことである。特にここ数年、穀物など、競合する他作物に対する農家支援の優遇政策が実施されたことから、北方ではてん菜の生産が軽視される傾向になっており、農民はてん菜に替えてとうもろこしや小麦などの作物を栽培し始めた。そして中国南方では通常、さとうきびは乾燥した傾斜地で栽培されていることから、競合する作物が相対的に少なく、作付面積はほぼ安定的に推移しているが、後述する買付政策により広西のさとうきび作付面積は大幅に増加した。これにより、てん菜糖の生産が年を追うごとに減少し、甘しゃ糖とてん菜糖の比率が大きく変動した。現在、砂糖の全国総生産量に占めるてん菜糖のシェアが20年前の20%から6%に減少し、製糖工場の稼働率は加工能力の3分の1程度にしかならない。
更に、砂糖生産エリアの過度な集中は将来、砂糖産業の安定供給問題を引き起こす可能性がある。ここ数年、広西の砂糖産業は飛躍的に発展しており、作付面積は1980年代末の500万ムーから現在では1500万ムー以上に拡大し、20年間でほぼ3倍、広西の耕地面積の3分の1以上を占めるに至っている。目下、広西の砂糖生産量は全国の66%以上を占めていることから、広西の砂糖生産が30%減産した場合、全国の減産率は20%となり、全国の砂糖安定供給の問題にも関わることになろう。このため、中国政府がいかに全体の調整によって砂糖産業の合理的配置を行い、砂糖生産の安定と安全を保障するかということは、我々が考えなければならない一つの問題でもある。
(*注1)1ムー=1/15ヘクタール(約6.67アール)
2.砂糖生産の周期的変動と価格の高騰暴落
中国における砂糖の年間需要量は比較的安定し、変動幅も比較的小さい。そのため砂糖供給量は、砂糖の価格を左右する決定的要因となっている。中国の砂糖生産量は長期的に増加傾向にあるが、周期的変動が起こっている。生産量の増減周期は5年で、その前半は増産、後半は減産となる。砂糖の生産に周期性を生じる主な要因は、糖料作物の作付面積と作柄の周期性が挙げられる。
例えば、さとうきびは1回作付を行うと、多年性であることから3〜4年間栽培することができる。また農作物の作柄や自然災害の周期性も砂糖生産に強い周期性を引き起こしている。ここ10年来、中国における砂糖の年平均増産率は最大37%、減産率は最大16%であった。砂糖生産の周期的な変動は、中国における砂糖価格の大幅な変動を引き起こしている。直近の10年間、中国の砂糖価格の年平均上昇率は最大45%、最大下落率は26%であった。2009/10年度には干ばつによる減産の影響を受け、砂糖価格が大幅に上昇し、目下、広西の砂糖価格は5600元/トン以上である(*注2)。この価格は低価格であった2002/03年度における価格の2.5倍であり、前年度の価格よりも1トン当たり2000元も高く、史上最高値に近づいている。
砂糖価格の大幅な変動は、糖料作物栽培農民や製糖企業に大きな影響を与えており、砂糖産業の持続的発展を困難にさせている。もし糖料作物の栽培規模を拡大し、農民が市場情報をより掌握・分析利用し、周期的な変動を有効に抑制する産業政策を講じれば、砂糖の周期的な生産の変動が抑制され、砂糖生産量と価格が平準化されるであろう。
(*注2)2011年3月平均価格は7159元/トン
3.生産量の増加を上回る消費の伸び
中国は世界第3位の砂糖消費国であるが、それと同時に1人平均の砂糖消費量が最小の国の一つである。中国における砂糖消費量は、2000/01年度の約800万トンから2009/10年度の1400万トンに増加し、ここ10年間の年平均増加率は7.5%(国際平均は2.3%)に上った。生産量の年平均増加率6.4%を上回っている。ここ10年間のうち、砂糖生産量が消費量を上回ったのは2年間のみであり、それ以外の年ではいずれも生産量が需要を下回っている。
金融危機の影響を受け、直近2年度における中国の砂糖消費量の伸びはやや緩慢であったが消費量は増え続けており、中国の砂糖生産量の2年連続の減少により、需要に対する供給の不足が拡大し、著しい需給の不均衡が生じている。砂糖の供給不足量は直近の2年間でそれぞれ23%と18%に上っている。2年後の中国の砂糖需要は1500万トンを突破し、7〜8年後には2000万トンに到達すると見込まれている。需給の不均衡はさらに拡大するであろう。目下、中国における砂糖の一人当たり年間平均消費量は10kgであり、世界平均の24kgと比較するとはるかに少ない。
国民経済の急速な発展や農民の収入増加、農村労働力の移転による都市化の急速な進展に伴い、中国の砂糖消費は力強い伸びを見せており、国内の需給の不均衡は長期的なものとなろう。一時的に砂糖生産量が需要を上回る年があるかもしれないが、長期的に見れば、中国の砂糖の供給は需要を満たせないのである。いかに産業発展政策を制定し、砂糖生産量の安定的増加を促し、生産量の周期的な変動がもたらす供給不足を補い、中国の砂糖自給率90%以上を維持するのか、これらは我々が検討を急がなければならない重大な課題である。
4.糖料作物生産の収益性低下と不安定な農民収入
1990年代以来、中国の労働者賃金と物価は上昇しており、糖料作物生産コストも上昇を続けている。そして、糖料作物の買付価格の変動がかなり大きいため、糖料作物農家の収入も極めて不安定である。例えば広東では、ここ10年間のうち、5年間は赤字であり、高収益を上げた時期でも1ムー当たりの収入はわずか300元程度であった。2007年以来、生産資材の価格も大きく上昇している。特に糖料作物の収穫にかかる人件費が猛烈な勢いで上昇しており、以前は1トン当たり30〜40元だったものが、現在では1トン80〜100元に上昇している。
これと比較すると、糖料作物の買付価格の上昇幅は小さく、農民が得ることのできる利益は大幅に圧縮されており、ここ数年間、糖料作物生産によって得られる利益は減少し続けている。そのため糖料作物栽培に対する農民の意欲はそがれ、作付面積も非常に大きく変動する。広西以外で主にさとうきびを生産している地域の作付面積の増加の伸びは緩慢もしくは停滞している。北方のてん菜作付面積は年ごとに縮小している。
なお、2009/10年度の製糖期では、干ばつにより国内の砂糖は大幅な減産となり、砂糖価格は高騰した。それにより糖料作物価格も大幅に上昇し、農民の1ムー当たりの収入は史上最高水準の500〜700元となった。
U 中国の砂糖産業に対する認識
1.砂糖の生産と需要の不均衡は長期間続き、輸入規模は徐々に拡大の趨勢
21世紀に入り、中国は砂糖の純輸入国になった。ここ数年来、砂糖の輸入量は国内消費量のほぼ10%を占めている。現在、中国は世界の十大砂糖入国の一つであるが、輸入している量は世界貿易総量4900万トンのうちの50分の1でしかなく、国際砂糖価格への影響は少ない。しかし、砂糖消費の急速な伸びに伴い、アジア及び世界の潜在的砂糖市場となり、輸入量も拡大するであろう。国際砂糖機関(ISO)の予測では、2010年に中国の砂糖消費量の増加は世界における砂糖消費増加量の20%以上となり、国際市場に与える影響は顕在化するであろう。
2.砂糖増産の潜在力
中国における糖料作物の作付面積の拡大は難しいが、単位当たりの収穫量の向上の潜在力は大きい。現在、単位当たりの生産量向上の最大のボトルネックとなっているのが水利インフラ施設の不足である。中国のさとうきびはその多くが乾燥地または傾斜地で栽培されている。かんがい施設が未整備の畑が大多数のため、かんがいを行えば、さとうきびの単位当たり生産量は倍増し、1ムー当たりのさとうきびの生産量は10〜12トンに上る可能性もある。てん菜では6トン以上になるであろう。また、点滴かんがい施設を用いれば、病虫害の発生を大幅に抑えることが可能である。かんがい施設さえ整えば、中国の単位当たり糖料生産量は倍増し、今後の10年間の砂糖の自給を達成することが可能となる。
また、中国における砂糖増産の更なる潜在力は北方のてん菜糖にもある。中国のてん菜糖の生産量は建国時の2万トンから1991/92年度には167万トンにまで増加した。それは全国砂糖総生産量の20%に当たる。その後、競合作物の代替により、生産量は変動をしながら減少しつつある。2009/10年度において、中国のてん菜糖の生産量は60万トンに縮小し、全国の砂糖総生産量に占めるシェアは6%まで低下している。北方には広大な土地があるため、製糖工業が相対的に発展しており、企業も構造調整中である。てん菜の収益性が上がり、機械化が進めば、てん菜の作付面積が著しく増える可能性がある。中国の将来の製糖業は主に北方のてん菜糖にかかっていると言えよう。
3.品種の劣化と深刻な病虫害
現在のさとうきびの主要品種である新台糖系統は、導入されてからすでに20年以上も栽培され、中国のさとうきび作付面積の80%以上を占め、独自に育成した品種は20%に満たない。新台糖系統の品種はさとうきび産業の飛躍的発展に重要な役割を果たしたが、現在、品種の単一化と深刻な品質の劣化という問題に直面している。この他、品種による作型の組み合わせが合理的ではなく、多くが早熟な品種であるため、品種の登熟期が集中し、砂糖生産後期の産糖率が顕著に下がってしまう。
またさとうきびの黒穂病、宿根矮化病、モザイク病等の病害により毎年、20%以上の減産となってしまい、メイチュウや害虫の平均発生率は60%以上であった。それによるさとうきびの糖分損失は0.3ポイント以上であった。てん菜の状況は地域によってかなり異なるが、いずれも品種のショ糖含有量や病害抵抗性が低いことが問題となっている。このため、糖料作物に対する科学研究予算を増やし、中国の国土に適した、生産性が高く、ショ糖含有量が多い、干ばつ抵抗性・病害抵抗性の高い品種の研究開発と普及を行い、単位面積当たりの砂糖生産量を飛躍的に伸ばすべきである。
4.国際資本による製糖産業構造調整と外資化リスク
外資を導入すれば中国の製糖企業の技術力を向上させることができるが、現在の中国においては未だ脆弱な製糖産業に外資が参入することのリスクを早めに防止すべきである。ブリティッシュ・シュガー社は世界のトップ500社の一つであるアソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(ABF)の子会社であり、製糖産業では世界第2位の企業である。現在、河北天露糖業有限公司を通じて中国の製糖市場に参入している。また、ブリティッシュ・シュガーは黒竜江依安瑞雪糖業の生産ラインの改善に4億人民元の投資を行い、てん菜原料基地の建設にも出資し、全国最大のてん菜製糖会社を設立した。
広西の15大製糖企業集団の内、外資の傘下にあるものは東亜糖業集団(タイ)、和英博糖業集団(イギリス)であるが、他にも多くの中小企業に外資が資本参加している。もし今後、製糖メーカーの資金調達が困難になるようなことがあれば、中国の製糖メーカーの多くが外資に買収される可能性は極めて高い。そのため、中国の砂糖産業の競争力をいかに引き上げ、中国の砂糖産業に対する外資参入の急増をいかに防ぐかについて、検討すべきである。
V 中国の砂糖管理体制と関連政策
V-1 管理体制
砂糖は一貫して国の管理対象商品である。現在、糖業管理に関わっている政府機関と組織は以下の通りである。
・ 国家発展改革委員会:砂糖業界の長期的発展計画及び戦略目標、政策の制定を主に統括;大規模工業加工プロジェクトの審査許可;砂糖市場の総供給量のバランスとマクロ調整;砂糖の輸出入総量計画の作成;砂糖の国家備蓄計画の総合調整及び備蓄放出の提言;製糖業界の総合経営分析及び生産管理;業界構造及び地域計画の調整;高甘味度甘味料の生産・販売管理等
・ 商務部:砂糖の流通領域における調整と管理;砂糖市場における供給状況の監視制御と分析;砂糖輸入割当計画の管理と実施;砂糖の国家備蓄の管理;砂糖の加工貿易の審査許可等
・ 農業部:糖料作物の栽培管理;優良な種苗基地の建設;栽培の機械化推進対策の制定;栽培の産業化及び社会に対するサービスシステムの構築等
・ 中糖公司:国の砂糖輸入任務の一部を担う。
・ 華商業貯蓄センター:国家の砂糖備蓄の貯蔵・輸送管理
・ 財政部:奨励政策に係る補助金と給付の統括、国の備蓄費用、利子補助及び備蓄基地建設費用の支払い;企業財務政策の制定
・ 中国人民銀行:糖料作物の買付及び砂糖の国家備蓄特別予算の執行
・ 中国工商、農業、建設銀行:一部の製糖会社への流動資金貸付及び技術改造プロジェクト融資
・ 農業発展銀行:砂糖の国家備蓄に係る特別資金貸付
V-2 調整政策
1.貿易政策
中国はWTO加盟交渉時の合意により、穀物、油、砂糖、毛皮等の農産物輸入に対し関税割当を実施することとなった。中国政府は1999年に160万トン分の砂糖関税割当を行い、5年間において毎年の割当量を5%ずつ拡大した後、2004年には砂糖輸入関税割当を194.5万トンとすることを承諾した。この割当には輸入砂糖の国内消費量のみならず、加工企業の数量も含まれる。この割当では、粗糖輸入関税は20%、白糖は30%であり、2004年には15%まで引き下げること、割当外の輸入関税を2004年に76%から50%に引き下げることを約束しており、現在、中国の輸入割当及び関税は2004年の水準を維持している。
中国は砂糖関税が最低水準の国に属し、国際砂糖市場の影響を受ける可能性はかなり大きいが、砂糖輸入は国家発展改革委員会が統括しており、その内の70%が国営企業に、30%が民間企業に分配されている。中国政府は国内の需給情勢により、国営貿易により砂糖の輸入量や輸入時期を調整することが可能である。ここ数年、砂糖輸入割当消化率はわずか50%程度であった。
中国政府は国内の作柄がよい時には国家貿易の割当を利用し、海外の安い砂糖が国内市場へ流入することによる国内の砂糖産業への衝撃を防いでいる。同時に、国内の砂糖の減産時には、有利なタイミングで砂糖を輸入し、国内供給の不足を補っている。2010年、砂糖減産によりかなり大きな需給の不均衡が生じた。中国政府は4〜5月の国際砂糖価格が14〜15セント/ポンドの時期に輸入を40万トン以上拡大し、国内の供給不足を有効に解消したのである。
政策的効果:数年来、中国政府は砂糖の輸出入貿易管理措置を国内需給調整の主要手段とし、砂糖の輸入により国内の供給不足を補うと同時に、国際砂糖市場が引き起こす可能性のあるリスクやマイナスの影響を有効に抑え、国内の砂糖市場における需給バランスに非常に大きな役割を果たしている。今後、政府は国内の砂糖供給に関する体制を整え、砂糖の生産と需要予測を基に輸出入に対するさらに正確で速やかな調整を行い、貿易手段を通じて国内の需給関係を有効に調整するべきである。
2.国家備蓄政策
中国の砂糖備蓄制度は1991年に始まり、国は毎年一定量の砂糖を備蓄用として買付・放出して市場の均衡を保ち、砂糖価格の安定化を図っている。具体的には、備蓄用粗糖をキューバから輸入したり、国内の生産販売企業から砂糖を買い付けしたりといった方式を採っている。
備蓄・放出される数量や価格はその年の国際市場における需給情勢に鑑み、1年に一度決められる。ここ10年間、中国の砂糖備蓄量の変化はかなり大きく、最も少ない年では30万トン強、最も多い年は2008/09年度末の約240万トンであった。2009/10年度には、国内における砂糖の需給不均衡を補うため、国は頻繁に備蓄を取り崩し、8回の売却を行い、放出量は合計170万トンに達したが、それでもすでに5600元/トンまで値上がりしていた砂糖価格を抑えることはできなかった。しかし、もし本年、中国政府が200万トンの砂糖を放出したならば、国家の備蓄量は非常に少量となり、次の年度における国内需給調整をさらに難しくすることになったであろう。
政策的効果:国家備蓄は、砂糖産業において価格調整の役割を果たしている。ここ数年、国家の砂糖備蓄の調整力は強まっており、ますますタイムリーかつ正確に実施されており、砂糖市場価格と農民の収入安定化に非常に大きな役割を果たしている。国際的な慣例から見ても、国家備蓄量は3カ月分の国内消費量、即ち現在の中国では360万トンの規模を備えるべきであるが、中国の砂糖備蓄在庫規模はその量を下回っており、市場調査機能を十分に発揮されていない。
3.糖料作物の買付政策
砂糖産業の市場規模は絶えず拡大、それに伴い、糖料作物の買付の秩序を規範化し、製糖会社と糖料作物農家の利益を確保し、リスクを共に分かちあう体制を構築するため、一部の砂糖主要生産地では糖料作物の買付に係る政府指導価格および糖料作物の買付と砂糖価格を連動させた二回決済政策(*注3)を制定している。だが、広西を除いたその他の主要生産省では行政が毎年の砂糖価格に基づいた糖料作物買付指導価格を発表してはいるが、企業はそれを最低価格としているため、本来の二回決済体制はまだ実現しておらず、砂糖価格の上昇による利益は農民には還元されていない。
広西自治区ではさとうきび価格と砂糖価格を連動させた二回決済を10年ほど実施しており、この方法は徐々に整備されている。農民の生産に対する積極性や糖料作物生産量の安定化に重要な役割を果たしている。10年来、広西のさとうきび作付面積は倍増し、砂糖生産量は全国の50%から66%まで拡大した。 それと同時に、広西では「契約栽培」を実現し、企業はさとうきび畑を「最重要作業現場」とみなし、化学肥料、機械耕作、優良な種子を投じると共に農道の整備も行い、積極的に糖料作物農家を支援し、双方向の良好な関係を構築し、長期的、安定的、秩序ある生産販売体制の構築や砂糖の産業化水準の向上がなされている。
その他の生産地域でも糖料作物生産販売契約制という「契約栽培」を実施しているが、企業間の調整が上手くいっておらず、過当競争も存在している。砂糖市場が低迷している時期には、製糖企業は政府指導価格に基づく買い付けをせず、農民の糖料作物販売は非常に難しい。砂糖市場の高騰時には、各製糖企業は値段を競って引き上げ原料を買い付ける。海外からの砂糖の国内流入を阻止するため、政府は輸入を制限するが、買付の秩序が混乱する。総じて企業と糖料作物農家の利益関係は一致しておらず、相互の信頼度も低い。企業は糖料作物農家の支援に積極的でなく、砂糖の産業化水準も低い。
広東省のさとうきび産業が停滞した原因の一つとして、広東省が実施したさとうきび生産区「3つの開放(*注4)」政策が挙げられる。これにより企業が無秩序に原料を買い付けたため、農民は契約を破棄しても高値で売るという状況が頻繁に発生し、砂糖産業の運営が悪循環に陥り、製糖工場が稼働出来ないという深刻な状況を招き、多くの生産能力が放置されてしまった。このことは飛躍的に発展を遂げた広西の砂糖産業とは対照的である。
(*注3)砂糖価格が上昇した場合、政府指導価格との乖離を調整し、栽培農家へ追加支払いする政策
(*注4)生産・流通・農家自主販売の自由化、価格(さとうきび、砂糖)の自由化、砂糖産業の自由化
政策的効果:広西における二回決済制と契約栽培システムの導入は成功し、砂糖産業の発展によってもたらされた利益を製糖企業とさとうきび農家が分配することにより、広西の糖業は飛躍的に発展を遂げることができた。だが、このような体制は他の糖料作物主要生産地域では有効に実施されておらず、ほぼ有名無実の状態である。製糖企業と糖料作物農家との間に問題が発生し、利益分配も不合理な地域さえあり、その地域の砂糖産業の秩序ある健全な発展が阻害されている。
W 砂糖産業の調整目標及び政 策的方向性
砂糖は都市と農村における重要な生活必需品であり、1990年代初頭より計画買付を廃止し市場化経営を開始して、すでに20年、かなり急速な発展を遂げている。だが、中国における他の高度成長産業と比較した場合、糖料作物は依然として最貧困の人々により、最も自然条件の厳しい地域で栽培されていることから、砂糖産業の脆弱な体質は変わらない。
ここ数年、中国の砂糖消費は安定的な伸びを見せており、その価格弾性値は小さい。そのため生産量が若干変わるだけでも砂糖価格に大きな変動が生じ、依然として脆弱な中国の砂糖産業や貧困な糖料作物農家に極めて大きなダメージを与えている。上述の状況に対し、砂糖産業の振興と支援政策を策定・整備し、生産周期の変動を抑え、糖業の持続的安定的発展を実現する必要がある。
1.国家砂糖備蓄政策の整備
中国における砂糖生産には比較的大きな価格弾力性があり、さとうきびの生産周期の影響による非常にはっきりした周期的変動もあるため、国のマクロ調整の重点は、備蓄用砂糖の買付と備蓄放出のタイミングにおいて、より積極的かつ鋭敏な調整決定システムを構築することに置くべきである。そして、砂糖価格が低落し企業や糖料作物農家に損害が及ぶ場合、速やかに備蓄を増やし、市場を買い支え、砂糖価格が高騰、川下の産業や最終消費者に危険が及ぶ場合は備蓄を取り崩し、砂糖価格を抑えるべきである。
また、国家砂糖備蓄規模は3カ月分の国内消費量に拡大し、2年連続で減産した場合には有効な調整を行い、国内の供給不足を補うべきである。例えば、インドは砂糖備蓄によるリスク制御を評価する体制を備えていなかったため、備蓄用の砂糖を大量に輸出し、備蓄量と消費量の配分に対するコントロールを欠いてしまった。たまたま次年度が周期的な減産となったため、自然災害により深刻化し、国内の供給が著しく不足して、高値で大量の砂糖を輸入するしかなかった。
そのため、世界的な砂糖供給不足が生じた。中国はインドの教訓をくみ取り、調整手段を用いて合理的に在庫量と消費量の比率を維持し、砂糖産業のリスクを減じる能力を強化すべきである。備蓄用の砂糖をキューバから輸入する他、国際砂糖価格が比較的低い時期に備蓄用砂糖を輸入することも検討できるであろう。そのようにすれば備蓄のコストを削減できるばかりでなく、市場に影響を与えずに備蓄在庫を速やかに補充することが可能となる。また、国家備蓄の買付や放出のタイミングをより効果的なものにすべく、国家備蓄計画をより合理的に検討するべきである。
2.割当管理を堅持し、開放や緩和を行わない
前回のWTO農業交渉の合意に基づき、現在、中国の割当の砂糖輸入関税は15%となっている。これは全世界的に見ても最低の保護水準であり、WTOの次回ラウンドにおける新たな農業交渉において、中国はさらに譲歩しないという原則を堅持し、15%の輸入関税を最低限守り通し、世界の安価な砂糖が中国の砂糖市場に大量に押し寄せるという状況を回避すべきである。
また、ここ数年来、中国はいくつかの主要な砂糖生産国との自由貿易を次々と構築しており、中国の砂糖産業発展の可能性はFTAと密接に関わっている。長期的に見て、中国がASEAN、オーストラリア、ブラジル、EUとの間で地域貿易協定を締結することは主要砂糖輸出国から無制限の割当無しの砂糖輸入を認めることであり、中国の糖料作物農家は大きな衝撃を受けることになろうし、国内の砂糖価格も全体的に下落する。一方、中国が米国、日本等の砂糖輸入国と貿易協力協定を締結すれば、中国の糖料作物生産と砂糖輸出を刺激し、中国の砂糖産業も発展を遂げ、国全体としての利益も拡大するであろう。
3.「広西モデル」の推進と改善
広西は糖料作物に対する二回決済方式を採用し、砂糖産業を飛躍的に発展させた。この方式は他の主要糖料生産地域でも試行や普及を行うべきである。また、この方式には未だ多くの改善点も多いことから、糖料作物買付に当たってショ糖含有量に応じた価格を設定する砂糖大国ブラジルの経験を参考に、制度の改善を行い、産業と農家がより合理的に利益を分配できるシステムを構築すべきである。
4.糖料作物生産に対する支援を強め、生産力の着実な強化を確保
耕地と資源条件に制約があるため、中国の糖料作物生産は、安定的な作付面積に基づき、科学技術を刷新し、糖料作物の単位面積当たり生産量の拡大により、拡大する砂糖の消費需要に対応することができる。そのため、栽培適地における糖料作物生産基地の建設とそれらに対する支援を継続的に強化し、主として水利施設等の農地のインフラ施設の建設を進め、各地域に適した品種や先進的な栽培管理技術を研究・導入し、中国の栽培条件や栽培習慣に適した収穫用小型機械の開発と普及を行い、病虫害に対する集中的な防除を適切に行い、自然災害に対する糖料作物の抵抗力を高めるべきである。これらの総合的な対策による糖料作物の単位面積当たり生産量やショ糖含有量の増加を実現し、砂糖の生産量の増加により、中国における砂糖の自給率90%以上を確実に達成すべきである。
国は優良品種の育成、小型機械の開発と普及にある程度の補助金支出を考えてもよいだろう。また、てん菜の栽培に適した区域配置計画を検討・作成し、さとうきびのシェアが大き過ぎるという状況を変え、砂糖産業における調和のとれた安定した成長を実現すべきである。
《参考文献》
1.華商儲備商品管理センター 謝良俊『我が国における糖生産の長期的趨勢分析』
2.BRICグローバル農業コンサルティング有限公司『2010中国糖産業の現状と展望』
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