最大の不安材料と化す天候要因
最終更新日:2011年7月8日
最大の不安材料と化す天候要因 〜砂糖相場の動向と今後の変動要因〜
2011年7月
はじめに
相場の上昇・下落はありながらも、これまで相対的に小幅で変動していた砂糖相場は、2005年ブラジルでのエタノール需要の増加にともなって高騰し、その後反落したものの09年には再び急騰するなど、値動きの荒い展開となっている。本稿は、これら動きをもたらしている主たる要因について整理するとともに、今後の相場変動要因を明らかにすることをねらいとする。
1.砂糖の相場動向
<概要>
直近での砂糖相場(NY現物価格、月平均)の動向が図1である。09年にインドでの2年連続の不作による減産の一方、天候不順により、ブラジルの生産量が予想を下回り、需給はひっ迫して相場が急騰した。10年2月以降、ブラジルなどの生産回復からいったん相場は低下したものの、ブラジルの降雨不足やロシア、パキスタン、オーストラリアなど各国における天候不順の影響などによって再び騰勢を強め、11年1月には36.11セント/ポンドまで上昇した。その後、インドなどの生産回復の影響で相場は30セントを割り込み、5月は26.64セント/ポンドとなった。
これが砂糖相場を俯瞰しての動きであるが、以下、全体需給、主要生産国動向、消費動向、輸出動向に分けて見てみる。
<全体需給>
生産量は04/05年度以降、増加傾向をたどったものの、08/09年度に大きく落ち込み、09/10年度に前年度比で増加したとはいえ、07/08年度の水準に比べれば若干の回復にとどまった。
これに対して07/08年度まで増加傾向をたどってきた消費量は、08/09年度に世界的な経済不況の影響で一時低下したものの、その後も増加傾向で推移している。
このようなことから05/06年度以降、期末在庫は増加傾向にあったが、07/08年度を転換点として急激な減少を示しており、10/11年度の在庫率は27%と、過去最低水準にある。
<主要生産国動向>
主要国での砂糖生産量は表1のとおりである。07/08年度では、この5カ国で9000万トンと、世界の生産量の53.8%と過半を占めていた。中でもブラジルが20.0%、インドが16.7%と両国だけで世界生産の4割弱の生産を担っていた。
これが09/10年度では5カ国のシェアは50%を割り込み49.9%となった。この主因はインドと中国、とりわけインドの2年連続しての不作による生産量の落ち込みが大きく、07/08年度と比較しての09/10年度の生産量は27.3%も減少しており、世界生産に占めるシェアも12.7%にまで低下した。
あらためて表1により07/08年度と09/10年度を比較すると、ブラジルを除いた4カ国はいずれも生産が純減しており、ブラジルだけが増加している。生産量の減少は、インド、中国ともに干ばつの影響が大きい。
<消費動向>
全体の消費量の推移は図2のとおりであるが、主要国での1人当たり消費量の推移を見たものが図3である。
これを見ると三つの特徴が指摘される。一つはブラジルの消費量が群を抜いて多いこと。二つ目はEU、アメリカ、日本の先進国は、いずれも横ばいから減少傾向をたどり始めていること。三つ目はブラジル、インド、中国の新興国は増加傾向にあること、である。
砂糖の需給構造からすれば前述の二つ目、三つ目が重要となる。先進国での消費量減少は、消費者の健康志向、ダイエットにともなう低甘味嗜好が大きい。
一方、新興国では経済成長を背景に消費量を伸ばしており、合わせて世界の人口増加によっても消費量は増加している。
なお、ブラジルの消費量が群を抜いているのは、コーヒーをはじめとする飲食での甘味嗜好が強いことによる。砂糖を原料とした焼酎ピンガの消費量が多く、しかもピンガは氷に「ガリコリモン」と呼ばれるかんきつ類を搾り、これにたっぷりの砂糖を入れて飲む。これだけでも砂糖の消費量が多いことが推定されよう。しかし、これはあくまでブラジルの特殊要因と位置付けられる。
<輸出動向>
表2は砂糖生産主要5カ国の中からさらにポイントとなるブラジル、インド、タイの3カ国の輸出・輸入の動向をも含めて見たものである。
インドは08/09年度に輸出国から輸入国へと転じており、10/11年度は天候回復もあって生産が回復し、輸出が輸入を上回るようになっている。インドは人口が多く、世界最大の砂糖消費国だけにその動向には注目を要する。タイは安定的な輸出を継続しているが、世界全体での輸出量に占める割合は1割強である。これに対してブラジルは53.0%と半分超ものきわめて大きなシェアを占めるに至っており、消費国はブラジルへの依存度を強めている。
2.今後の砂糖相場の変動要因
<穀物相場>
今後の砂糖相場の動向を考えるにあたって、参考までに先に穀物相場の動向を見てみよう。
図4のとおり、06年から穀物相場は高騰したが、その原因として指摘されるのが、
ア)アメリカにおけるエタノール需要の発生にともなう食料とエネルギーとの競合、
イ)中国、インドなどの新興国における穀物需要の増大、
ウ)オーストラリアの大干ばつをはじめとする異常気象による不作、
エ)投機マネーの流入、の四つである。
06年のエタノール需要の発生がトリガーとなり、07年夏のサブプライム・ローン問題によって投機的資金が金融市場からいっきょに商品市場に流れ込み、これにイ)、ウ)の要素が絡み合って相場高騰をもたらした。08年秋のリーマン・ショックで投機的資金は商品市場からも逃げ出し、相場は大きく反落した。とはいうものの、06年の水準に比較すれば1.5倍前後の水準に戻したにすぎない。さらにウクライナやロシアの干ばつ、オーストラリアの水害などでまた高騰しており、とうもろこしは市場最高値を更新する水準にまで上昇している。
こうした穀物相場の動向を振り返ると、新興国の需要増加と継続するエタノール需要により、20世紀後半からの穀物余剰基調はひっ迫基調へと転換し、これに異常気象と投機マネーという変動要因が重なる構図になっていることが理解されよう。したがって今後、中長期的に、基調変化にともなって相場はじりじりと上昇傾向をたどり、異常気象が相場の乱高下をもたらし、これを投機マネーが増幅・加速するという構図が続くものと考えられる。
<砂糖相場>
こうした穀物相場の構図は砂糖相場にもおおむね共通すると考える。
今後の砂糖相場を考えるにあたっての留意点を三つあげると、第一に、世界の砂糖消費量は、穀物と同様新興国における人口増加、経済発展を背景として増加が続いており、今後もこの傾向が続くと予想されることである。これに加え、投機マネーの流入による撹乱など不安は拭えない。
第二に、食料とエネルギーとの競合は砂糖もとうもろこしも同様である。ピーク・オイル(石油減耗時代)を迎えつつある石油相場が上昇傾向をたどる可能性は高く、またフクシマ原発事故の発生にともなう自然資源エネルギーへのシフトにともなう需要増加も想定され、これとの競合激化により、砂糖相場も引きずられて上昇することも大いにあり得よう。
第三に、異常気象は今後とも相場を乱高下させる最大の波乱要因と位置付けられる。さらに、輸出量に占めるブラジルのシェアが異常に過大化しており、仮にブラジルで異常気象による不作があった場合の影響はきわめて大きくなることが懸念される。
(注)本文中の「年」は暦年(1〜12月)、「年度」は国際収穫年度(10月〜翌9月)を指す。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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