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砂糖とからだ

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最終更新日:2011年8月8日

砂糖とからだ
〜高たん白質・砂糖スナックとダンベル体操のミサイル栄養でからだづくり、メタボリックシンドロームと寝たきり防止〜

2011年8月

筑波大学名誉教授 NPO法人アジア運動栄養健康科学研究所代表 鈴木 正成

はじめに

 健康づくりに高い関心が寄せられていますが、私は1980年ころから、体の元気さの生物学的指標である基礎代謝理論に立って考えるのが合理的だと主張してきました。すなわち生命現象・活動を支えるたん白質合成力(基礎代謝)の増大・維持につながる運動と栄養を中心に進める生き方です。基礎代謝は、すべての細胞が24時間続けなければならないたん白質合成作業です。遺伝子DNAの指令に従ってアミノ酸を材料にたん白質を合成する代謝であり、多量のエネルギーを必要とします。そのためにエネルギー源であるグルコースと脂肪(酸)が酸素を消費して燃えます(図1) 。

1.基礎代謝は生物学的健康指標

 ヒトはたん白質合成旺盛な発育発達期に高い基礎代謝を持ち、自由に食べて太らず病気になりにくく、高い体力を保持します。しかし、たん白質合成力の低下が顕著になる中年を迎えるころから、筋肉が減量し始め基礎代謝は急降下していきます。それに伴って、体脂肪蓄積増大による中年肥満と、脂質の動脈壁への沈着促進による動脈硬化が進みます。肥満するとインスリンが効きにくくなって糖尿病にかかりやすくなり、動脈硬化による高血圧や心臓病が発生しやすくなります(図1)。このようにメタボリックシンドロームは、生物学的にはたん白質合成力の指標である基礎代謝の低下によって発生するのです。

2.筋肉は基礎代謝の中心的組織

 基礎代謝は体内たん白質の約45パーセントを保持する筋肉でのたん白質合成の活発さを強く反映しています。筋肉のエネルギー代謝は安静下の全身の代謝の25−35%前後を占めています。したがって基礎代謝は、筋肉の量とエネルギー代謝活性に強く支配されます。筋肉は全身で分解される脂肪とグルコースの大部分(70%前後)を酸化分解しています(図2)。
 したがって中年からは筋肉の増量と代謝力活性化に努めることが、脂肪とグルコースの分解力の高い体を作りメタボリックシンドローム予防・改善に有効な生物学的対策となるのです。

3.軽レジスタンス運動−ダンベル体操−は基礎代謝増大に有効

 健康づくりの中心組織ともいえる筋肉には、白筋(速筋、タイプ2)と赤筋(遅筋、タイプ1)があり、脂肪とグルコースを酸素で燃やす有酸素エネルギー代謝能は赤筋(ミオグロビン、ミトコンドリアが豊富)に備わっています(図3)。筆者が開発したダンベル体操は、白筋の一部を赤筋化する作用力を持っています。ダンベルを握り締めて手首を内反固定して筋肉を緊張させた条件で、ゆっくりと筋肉を15−20回伸縮させる運動です。それによって筋肉は血液・酸素の供給を抑えられて乏血・低酸素状態になった後、次の種目に移るときに握りを緩めるので一気に血液・酸素をもどします(図4)。この方法でダンベル体操は筋肉の有酸素エネルギー代謝を増大して、脂肪とグルコースの酸化分解力を高め、基礎代謝を増大して高血糖・糖尿病、高脂肪血症、肥満、そして高血圧などを改善・予防するのです。

4.軽レジスタンス運動−ダンベル体操−はたん白質合成力を増大

 加えてダンベル体操はたん白質合成を活性化するので、筋肉を増量するほか筋肉のエネルギー代謝系酵素たん白質群も増量して、エネルギー代謝力を高めて基礎代謝の増大に貢献し、さまざまな健康改善作用を発揮することになります(図5)。

 全身のたん白質合成が活発化すると、熱生産が高まり冷え性や貧血の改善がみられます。骨粗しょう症が改善するのは、骨に対する機械的刺激の効果に加えて、筋肉の鉄筋であるたん白質コラーゲンの合成が増大してカルシウムの骨形成への利用が増大するためです。ついでに、ダンベル体操は消化管に圧力の刺激を与えて腸の筋力を強化し、蠕(ぜん)動運動力を高めて便秘の改善に威力を発揮します。

5.高齢者の行動自立力維持と虚弱化・寝たきり防止−玄米ニギニギ体操−

 たん白質合成力は老化に伴ってさらに低下し、筋肉減弱症による虚弱化・寝たきり・要介助生活を招きます。筋力低下により転倒して骨折したり、コラーゲン合成低下による骨減弱症、そして骨粗しょう症へと進んで骨折したりして、寝たきりになりやすくなります。

 この問題は、高齢化社会を迎えて世界中の最も重要な健康課題ですが、高齢者でも実践可能なたん白質合成促進作用を持つ玄米にぎにぎダンベル体操が予防に有効です。鉄製ではなく300gの玄米を袋につめた棒状のダンベル「玄米ニギニギ」を握り締めて、ダンベル体操をすると、握力・腕力・つまみ力が増強され、生活基本行動自立力を強化できます。なぜなら食事、排泄、着替え、入浴,整容、車椅子移動などの自立には握力と腕力が必要だからです。握力が13kgをきると要介護生活に陥ります(図6)。

6.ミサイル栄養高たん白質・砂糖スナック<たん白質+砂糖>の筋肉・骨減弱化防止作用

 ところが高齢者は、筋肉と骨などの末梢組織のたん白質合成力を著しく低下させている一方で、小腸と肝臓など消化・吸収に働く臓器・組織では若者と同等に高いたん白質合成力を維持しています(図7)。小腸は全身のために、消化酵素たん白質を多量に合成し、消化管をしっかり維持するために、活発にたん白質を合成します。一方肝臓も全身のためにアルブミン、リポたん白質、そして解毒・アルコール処理酵素などの合成のために活発なたん白質合成を営みます。

 したがって高齢者はたん白質をしっかり摂取しなければなりませんが、基礎代謝を低下させているため食欲低下状態にあります。そのために基本の食事(朝食・昼食・夕食)から摂るたん白質量は必ずしも十分ではなく、小腸と肝臓を満足させることはできても、肝臓から心臓経由で筋肉・骨に供給するアミノ酸はほとんどないという事態を度々招きます。したがって高齢者の筋肉と骨は、合成力低下と成材料不足のダブルパンチをうけて、日に日に減弱化を進めるのです。

 この重要課題に対してわれわれは、基本食の3時間後あたりで高たん白質・砂糖スナック(たん白質15g+砂糖15g)を摂取すると、その消化産物のアミノ酸は、小腸と肝臓のどちらも基本食で満足しているため、フリーパスしてもらえるので、ミサイルのようにしっかり筋肉・骨に届くことを発見しました(図8)。
 その効果は老化モデルラットで、老化に伴う筋肉・骨の減量を防止する効果として認められました。しかし、この効果はダンベル体操と同質の運動(クライミング運動(*注))を組み合わせた場合にのみ確認され、スナックだけ摂取しても無効でした(図9)。

(*注)金属ネット製のクライミングタワー(高さ200cm)を設置したケージでラットを飼育し、水をタワー最上部に設置して、ラットの昇降運動を促す実験
 一方ヒトでは、基本食の3時間後に高たん白質・砂糖スナックを摂取すると血中アミノ酸濃度は顕著に上昇し、高レベルを120分以上維持します。そして、スナック摂取の45−60分後にダンベル体操15分を実施する生活を1カ月継続すると、前腕筋と大腿筋の筋肉量と筋力が増大しましたが、スナック摂取だけではこの効果を確認できませんでした(図10a,b)。

 この栄養供給法は、目的とする筋肉や骨にきちんとアミノ酸を届け、その上でアミノ酸からたん白質合成を促進するので、ミサイル栄養法とネーミングしました。そして、たん白質に砂糖を組み合わせたスナックにしているのは、筋肉や骨のたん白質合成を活性化するインスリンを、砂糖が分泌刺激してくれるからです。

7.砂糖はインスリンの分泌を刺戟して筋肉づくりに貢献

 筋肉や骨のたん白質合成はインスリンによって刺激されます。例えば、イヌを用いた基礎研究で、ランニング運動によってダメージを受けた筋肉組織の修復を促すために、運動直後にアミノ酸とインスリンの分泌を促すぶどう糖を一緒に投与した場合と、アミノ酸だけを投与した場合のたん白質合成を比較したものがあります。この研究では筋肉など体内たん白質合成が大きくなるほど尿中の尿素排泄が少なくなるという関係を利用して評価しました。すると、アミノ酸だけを投与した場合に比べてアミノ酸とぶどう糖を一緒に投与した場合には、2時間の回復時間中の尿中尿素排泄は明らかに少なくなっていました。

 このデータを利用して、スポーツ選手用に開発した筋肉修復促進のたん白質食品には、大豆たん白質15gに砂糖15gが加えられています。

 このように、インスリンは筋肉たん白質合成を促進する重要なホルモンであり、インスリン分泌を促す砂糖は、ミサイル栄養スナックにおいても重要な成分となります(図8)。

8.まとめ

 卵白、脱脂粉乳(ホエー、カゼイン)、おから(大豆たん白質)などの低脂肪たん白質食材と、たん白質合成促進作用を持つインスリンの分泌促進のために砂糖を加えたスナックを、10時、3時、夜食などのスナックタイムに摂取し、そのあとダンベル体操などで筋肉血液量を間歇かんけつ的に変動させ、筋肉・骨づくりを促進することが勧められます。このサイエンスは、高齢者の虚弱化防止の運動栄養学研究から発信されたものですが、幼稚園児、青少年、一般成人、中年・熟年、そしてスポーツ選手など、全世代にわたるからだづくり、健康づくり、そして体力づくりに応用できるサイエンスです。

参考:鈴木正成『実践的スポーツ栄養学』(改訂新版)文光堂 2006
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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