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地域だより

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最終更新日:2011年10月7日

2011年9月

札幌事務所
 

 平成23年7月22日(金)、札幌市の北農ビルにおいて、NPO法人グリーンテクノバンクおよび農林水産省の主催により、第9回てん菜研究会技術研究発表会が道内の農業試験場、糖業関係者など97名の参加の下、開催された。

 同発表会は、農林水産省の実施する委託事業「地域産学連携支援委託事業」の一環として開催されており、一般講演(学術的な研究発表)については、糖業や農業研究機関により10件の発表が行われ、さらにその後、北海道名誉教授 前てん菜研究会会長 島本義也氏による特別講演「テンサイ産業(栽培と品種改良)の世界史」が行われた。
 
 
 今回の一般講演は以下のとおりである。

1.初期生育期におけるテンサイの低温順化について
  (農研機構 北海道農業研究センター 松平 洋明氏ほか)
2.Beta vulgarnisミトコンドリアミニサテライトの特徴と利用   
  (北海道大学大学院農学院 勝山 嵩也氏ほか)
3.テンサイの低温条件下における発芽性および初期生育性に関する系統間変異
  (農研機構 北海道農業研究センター 黒田 洋輔氏ほか)
4.テンサイ品種「リボルタ」の栽培特性について
  (北海道糖業株式会社 柏木 浩二氏ほか)
5.北海道農業研究センターにおけるそう根病抵抗性花粉親系統の育成   
  (農研機構 北海道農業研究センター 岡崎 和之氏ほか)
6.テンサイ圃場におけるシロオビノメイガの被害と薬剤防除事例について 
  (北海道糖業株式会社 妹尾 吉晃氏ほか)
7.テンサイ品種による根腐症状低減対策について 
  (ホクレン農業協同組合連合会 小木戸 勇介氏ほか)
8.平成22年における試験圃場での褐斑病の発生と防除効果について
  (日本甜菜製糖株式会社 眞柳 正昭氏ほか)
9.2010年に北農研育種圃場で激発した褐斑病ならびに葉腐病に関する抵抗性の品種間差 
  (農研機構 北海道農業研究センター 田口和憲氏ほか)
10.バイオマスプロジェクト(テンサイ)4ヶ年の成果と課題
  (農研機構 北海道農業研究センター 高橋 宙之氏ほか)


 昨年は異常高温・多雨により、根腐病、褐斑病、黒根病などの病害が多発し、単収が49.4トン、糖分は15.3%と糖分取引に移行した昭和61年以降25年間で最低を記録するなど収量・品質の低下に多大な影響を与えたことを受け、てん菜の病害などに関する研究発表内容が多くみられたことが今年の研究会の特徴と言える。

 一般講演の中で興味深い話題について紹介する。

 「初期生育期におけるテンサイの低温順化について」では、てん菜の栽培には低コスト化が不可欠であり、そのためには直播や適時施肥などが必要とされており、直播に向いた品種や育種母体が求められているものの、播種は春先に行われることから低温に遭遇し、結果的に霜害により甚大な被害を受けている。このため、幼苗期における低温耐性品種の育種が必要となるが、現在耐凍性検定が確立されておらず、同方法の確立には低温順化を起こすための条件を明らかにする必要があると研究目的が説明された。研究結果では、幼苗は5℃の条件で7日間の処理で低温順化すること、しょ糖よりも麦芽糖が多く蓄積されること、5℃、10℃いずれの条件下でもぶどう糖、果糖、しょ糖の蓄積量が増加、処理温度が低ければ低いほど麦芽糖の蓄積量が増すことが報告された。(参考:てん菜など多くの植物には、凍らない程度の低温にさらされることによって耐凍性を向上させる「低温順化能」があり、可溶性糖を蓄積する。)

 「テンサイ圃場におけるシロオビノメイガの被害と薬剤防除事例について」では、昨年8月中旬以降、北海道糖業滑ヌ内(北見、道南、本別各製糖所管内)において病害虫・シロオビノメイガが発生し、大きな被害を受けたため、北海道病害虫防除所により「平成23年度に特に注意を要する病害虫」に指定されたことを受け、その被害調査結果および殺虫剤使用実態調査報告が行われ、根重、根中糖分への影響が確認されるとともに他区との比較でも被害が甚大であったたこと、7〜8月における殺虫剤IGR剤の早期からの複数散布が有効であるとされ、今後はさらに有効な防除方法などの検討が必要と考えられるとした。

 「テンサイ品種による根腐症状低減対策について」では、昨年多発した根腐病の原因として、冠水による湿害、高温多湿による黒根病や芯腐れ症状などが考えられ、その多くは根部の腐敗が著しいため主な原因の特定が困難であったとし、新系統「H139」が根腐症状低減に有効であるとの知見を得て、現地確認調査などを行った結果、標準品種や慣行品種よりも高温多湿環境下において根腐症状の発生が極めて少なく、同品種の導入により根腐症状株を低減できる可能性があると結論づけた。また、講演後の質疑応答では、昨年の根腐病の多発は高温多雨が大きく影響したと判断されていたことに対し、高温というよりは湿害の影響が甚大であったとすべきではないかとの意見が出された。

 今年の作況も作付面積の減少や春先の天候不順、低温・多雨で厳しいと予想されながらも6月以降天候が回復してきている。道農政部による直近の生育状況(平成23年7月15日現在)によると、生育については平年並みで草丈はやや長く、生育遅速については、オホーツクでは1日遅れも十勝では2日早い評価となっている。

 今後もてん菜の増収に資するような研究が活発に行われることを期待したい。

那覇事務所
 

 平成23年9月8日(木)、那覇市内において、「第38回サトウキビ試験成績発表会」(主催:沖縄蔗作研究協会)が沖縄県内外のさとうきびに関する研究者や関係者など約140名の参加の下、開催された。同発表会は、平成22年度に沖縄県の各試験機関などで実施されたさとうきび関係の研究事例の発表と「さとうきび株出しによる増産に向けた課題と取り組み」をテーマにしたシンポジウムにより行われた。

1.研究事例の発表

 新品種の開発、雑草や病害虫の防除、きびの茎数確保などによる増収の可能性、また黒糖の品種の育成や新しい製造技術の開発など以下13の発表があった。<br> <br> (1) 早期高糖な品種群による南大東島のサトウキビ収穫および製糖工場操業の早期化<br> (2) 特産黒糖向け品種の育成と今後の含蜜糖向け品種開発の展開<br> (3) 香気成分を強化した黒糖の製造<br> (4) 沖縄県の黒糖を生産する島々におけるサトウキビ単収と甘蔗糖量の年次変動<br> (5) サトウキビの不良環境適応性改良に向けたエリアンサスとの属間雑種の作出<br> (6) 宮古島地域のサトウキビ栽培における夏植え型秋収穫栽培の有効性の検討<br> (7) サトウキビ畑におけるグリホサートカリウム塩液剤をもちいたヤブカラシ類の防除<br> (8) さとうきび単収向上ための適正茎数の確保について<br> (9) アオドウガネ成虫における複眼分光亜感度と誘引活性スペクトルの関係<br> (10)イネヨトウの交信攪乱法による防除<br> (11)サトウキビ苗の発芽不良に関する植物病理学的視点からの原因解明<br> (12)サトウキビNi21の発芽特性について<br> (13)石垣島製糖におけるサトウキビ生産のシミュレーションモデル<br> <br>

2.シンポジウム

「さとうきび株出しによる増産に向けた課題と取り組み」−生産現場における株出し推進および増産への取り組み事例を中心に−をテーマに、早期株出管理、高培土、補植などの重要性、また株出栽培の普及啓発のために地域で行っている取り組みなど以下8つの発表があったので概略を紹介する。
(1)鹿児島県徳之島における株出栽培の現状と課題
    鹿児島県大島支庁徳之島事務所農業普及課 田代一美
 徳之島では、ハーベスタの収穫面積率の上昇、株出管理機などの作業機の増加に伴い、収穫面積に占める株出面積の比率が上がってきている。また、徳之島事務所農業普及課、役場、糖業、ハーベスタ組織が中心となって適期適切な植付・管理によるコスト低減および品質・単収向上により所得向上を目指した「地域営農システム推進リーダー研修」を行い地域一体となって、増産に取り組んでいる。

(2)株出し管理機について
    沖縄県企画部農業研究センターシステム班 新里良章
 さとうきびは、手刈り収穫、ハーベスタ収穫後に早期株出管理を行うことで増収する。また、萌芽茎は12cm以上の深さからの萌芽が多いため高培土が重要である。特に3回株出以降は高培土をしないと大きく減収する。収穫後の株揃えと同時に施肥、除草剤散布を行い、株出管理後は速やかに心土破砕を行うことが重要である。

(3)伊平屋島におけるさとうきび株出し栽培の現状と課題
    北部農林水産振興センター農業改良普及課 大城和久
 伊平屋島は土層が薄く、やせ地で、岩石でできた石礫が存在するため、さとうきびの成育環境は厳しい。今後は、点滴かんがいの導入、施肥体系の改善、早期の株出管理の積極的な実施、雑草や病害虫の防除の実施などにより、単収、収益性の向上を目指す。

(4)本島中部地域における株出し増産対策
    中部農業改良普及センター 金城学
 中部地区は、作付面積が小さい農家が多いため限られた面積で増産・増収していくために株出栽培を推進している。うるま市では22年度に株出栽培のパンフレットを農家へ配布、また読谷村では、株出推進大会を行うなどして地域一丸となって、株出栽培の意識を高め増収に取り組んでいる。

(5)南大東島における株出しの現状と今後の展開
    大東糖業アグリサポート 前田建二郎
 南大東島は、発芽性・初期伸長に優れるF161の普及によって春植えの単収が安定したこと、またかん水施設の整備が進んだことにより夏植えから春植えに移行したこと、交信かく乱技術によりハリガネムシの被害が減少したことなどにより、収穫面積に占める株出面積は近年70%前後となっている。今後は、2年株から3年株への株出し率を向上させる。また、萌芽状況を予測し株出しをするか新植をするかの意志決定を迅速に行うことが重要である。

(6)宮古地域におけるさとうきび株出し栽培の現状と課題
    宮古農林水産振興センター 又吉祐輔
 宮古島はベイト剤の施用や性フェロモンを利用した交信かく乱法の実施がハリガネムシやアオドウガネなどの防除に大きな効力を発揮したことにより、収穫面積に占める株出栽培の割合は20年期には2.6%であったのが、22年期には7.9%と高まった。将来的には30%を目標にしている。今後は、株出栽培展示ほの設置、早期株出管理作業の効果実証、栽培講習会などの開催、生産農家および関係機関との連携によって株出栽培の普及啓発が必要である。

(7) 八重山地域におけるさとうきび株出し栽培の現状と課題
    八重山農林水産振興センター 池田伸輔
 石垣島は、ベイト剤がハリガネムシやアオドウガネなどの防除に大きな効力を発揮したことにより、株出面積の割合は徐々に拡大しつつある。当地は、台風の常襲地となっており、台風被害の減収率の低さから、春植え栽培より夏植え栽培が適しているといわれてきたが、農家所得の向上・収穫面積の安定確保を考慮すると、ほ場利用効率の高い株出栽培の普及は重要であり、栽培技術の確立が必要である。

(8)本島南部地域におけるさとうきび株出株出し栽培の現状と課題
    南部農業改良普及センター 安仁屋政竜
 南部地区は、経営規模が10a〜30aと小さく、他作物や他産業との兼業農家が多いため、機材や手間をかけない傾向が強い。また、保水性の良いジャーガル土壌が多いため、灌水の必要性をあまり感じていない。株出し増産に向けた今後の対策としては、集落単位で機械を共同利用できる仕組みを作り、小規模経営体自身で株出し管理を行うようにする。また受託作業の作業料金の低減化を図り、農家が受託作業をしやすいようにする。

 今回の研究発表で紹介された研究が身を結び、また地域ごとの株出栽培体系が確立され、さとうきびの増産につながることを期待したい。

札幌事務所
 

 平成23年9月8日(木)〜9日(金)、社団法人北海道てん菜協会の主催により、平成23年度てん菜そう根病抵抗性検定試験並びに同予備試験の現地調査が、北海道立総合研究機構北見農業試験場(以下、「北見農試」)、日本甜菜製糖株式会社(帯広市上清川)、ホクレン農業協同組合連合会(斜里町川上)、北海道糖業株式会社(本別町奥仙美里)の各試験ほ場において、農業団体、試験研究機関、てん菜糖業者など約20名の参加のもと実施された。

 てん菜のそう根病とは、かびの一種であるポリミキサ・ベーテによって媒介されるウィルス病で、この菌は10年以上も土の中で生存できるため、一度汚染されると絶滅させることは不可能に近く、根中糖分を著しく低下させる。そう根病防除に有効な手段がないことから、抵抗性品種の開発が最も重要な技術とされている。

 そのため、そう根病抵抗性品種登録の際に必要とされている特性検定試験が実施されており、その過程は、各糖業者の試験ほ場において予備試験(1年以上)が行われ、選抜後、北見農試において、特性検定試験(3年以上)が実施される。

 今回の北見農試で行われた特性検定試験の検定品種(注1)として、北海系統品種の北海101号、輸入品種系統9品種(H139、H142、H143、HT32、HT34、HT35、KWS9R38、KWS0K170、KWS1K234)の計10品種と標準品種(注2)のモノホマレ、特性検定基準2品種(注3)のモノヒカリ、モノミドリ、対照5品種(注4)のリッカ、リボルタ、パピリカ、ユキヒノデ、ゆきまるとなっている。

 各糖業で行われている予備試験では、ほ場に抵抗性品種の判定を容易にするため、特性検定基準品種のうち、抵抗性が最も低いモノミドリ(現在一般のほ場では栽培されていない)が栽培され、肉眼での抵抗性の比較が行いやすくなっている。また、各糖業では、検定品種の他に、標準品種のモノホマレ、特性検定基準品種のモノミドリ、対照品種として各糖業が開発して優良品種に登録されている品種を栽培し、抵抗性の比較を行っている。

 なお、同試験は、そう根病汚染ほ場(隔離ほ場)で独立した試験として実施されることとなっており、各糖業者の予備試験を含め、試験ほ場に入るときは使い捨てのオーバーシューズ(ビニール製)を履き汚染土壌が流出しないように注意して現地調査を実施している。

 昨年は、夏季の高温および多雨の影響でそう根病以外の発病が見られたが、今年はそう根病以外の病気が発生しないよう注意し、試験区ごとのそう根病発生割合にばらつきが少ない傾向にあり、このまま推移すれば10月中旬に収穫調査が行われ、12月には精度の高い試験結果が期待できるとのことであった。

 これからのてん菜の栽培品種は時代の変化に対応した、収量あるいは糖分の高い品種、収量と糖分のバランスの取れた品種、各種病害に抵抗性を有する品種などの出現が期待されている。
(注1):優良品種候補となる品種
(注2):優良品種候補の比較対照の基準となる優良品種
(注3):既に栽培を終了した特に耐病性の劣る品種
(注4):優良品種候補が置き換わる対象となる優良品種


<参考>

 北海道で栽培されているてん菜の品種は、まず予備試験(1年以上)で、輸入品種の中から有望な品種として選抜されたものおよびいろいろな遺伝子を組み合わせて新しく品種開発した中から有望な品種として選抜された国産品種を、各試験場や各糖業で品種検定試験(3年以上)を行いながら、耐病性、抽(ちゅう)苔(だい)(花をつけるための薹(とう)が立つこと、二年草のため通常は二年目に薹(とう)が立つ)の有無などの特性検定試験(2年以上)、気性・土壌の異なる地域の適応性についての現地検定試験(2年以上)などを経て、試験結果の優れた優良品種として認定されたものである。

 優良品種として認定されるまでの検定試験の期間は、3年間の品種検定試験のなかで、特性検定試験と現地検定試験が同時並行で行われるが、予備試験の1年間と品種検定試験の3年間で、早くても4年間という長い年月がかかる。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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