本誌(砂糖類情報)でバガス炭を最初に紹介したのは、2004年11月号の「
さとうきびのバイオマス利用による産業構造の強化と環境保全」であった。そこでは、バガスの炭化によるCO2の永久固定化と低減に関する基本的な考え方を述べた。これに基づいて、バイオマス利用に関わる研究プロジェクト「農林水産バイオリサイクル研究」(2004〜2006年度)および「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発」(2007〜2011年度)においてバガス炭を製造し、さまざまな試験を実施してきた。
主な利用ターゲットは、土壌改良材および吸着材であったが、この数年の間にその用途も多様化しつつある。炭化による大気中CO2の固定化は、ほとんど注目されないスミに置かれた技術であったが、最近、風向きが変わってきた。大気中のCO2濃度の増加は、化石燃料の消費量だけでなく、土壌などからの放散量もかなり影響している。土壌中の炭素含量は減少しているので、有機肥料や炭を土壌に施用すれば温暖化問題の解決にも貢献できる。わが国では土壌炭素貯留事業
*注)として、小規模ながら実証事業が実施されている。
これに連動して急速に研究が進んでいるのが「バイオチャー(Biochar)」である。これは、作物残さなどを300℃〜400℃程度で炭化したもので、普通の炭に比べてかなり低温で処理した「生焼け」炭である。無機炭素だけでなく、有機炭素が残留しているため、炭と有機物としての両方の性質を兼ね備えている。高温処理した炭より土壌改良効果は高いとされている。今年5月にエジンバラ大学で開催された「UK Biochar 2011」、9月の京都での「Asia Pacific Biochar Conference(APBC)KYOTO 2011」など国際的な動きが広がり、バイオチャー施用によるCO2固定、施用効果、製造法などが議論されている。エジンバラ会議には著者らの研究チームから5名が参加し、4テーマの発表を行った。また、京都会議では1名が参加し、1テーマ発表している。
このように、バガス炭を含むバイオチャーに関する研究開発は年を追うごとに盛んになりつつある。これらを踏まえ、バガス炭の研究開発の紹介と今後の展開を述べてみたい。
*注)営農の段階で農耕地に堆肥や炭などの炭素含有資材を継続的に施用し、土壌改良効果と温室効果ガスの削減をねらう事業