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バガス炭利用の新展開

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最終更新日:2011年11月9日

バガス炭利用の新展開

2011年11月

琉球大学農学部 上野 正実
川満 芳信
小宮 康明
琉球大学産学官連携推進機構 近藤 義和

はじめに

 バガス炭の微細孔は、さとうきびの形態的特徴によって、蜂の巣(ハニカム)構造を有し、炭の性質を特徴づける比表面積(単位質量当たりの表面積)は300u/gを超え、最大600u/gと非常に大きい値を示す。このため、水やさまざまな物質の吸着をはじめ、太陽光線などの吸収に優れた特性を示す。ここでは、物質の吸着能力に加え、太陽熱吸収による新たなエネルギーシステム開発の可能性について述べる。

1.炭を巡る情勢

 本誌(砂糖類情報)でバガス炭を最初に紹介したのは、2004年11月号の「さとうきびのバイオマス利用による産業構造の強化と環境保全」であった。そこでは、バガスの炭化によるCO2の永久固定化と低減に関する基本的な考え方を述べた。これに基づいて、バイオマス利用に関わる研究プロジェクト「農林水産バイオリサイクル研究」(2004〜2006年度)および「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発」(2007〜2011年度)においてバガス炭を製造し、さまざまな試験を実施してきた。

 主な利用ターゲットは、土壌改良材および吸着材であったが、この数年の間にその用途も多様化しつつある。炭化による大気中CO2の固定化は、ほとんど注目されないスミに置かれた技術であったが、最近、風向きが変わってきた。大気中のCO2濃度の増加は、化石燃料の消費量だけでなく、土壌などからの放散量もかなり影響している。土壌中の炭素含量は減少しているので、有機肥料や炭を土壌に施用すれば温暖化問題の解決にも貢献できる。わが国では土壌炭素貯留事業*注)として、小規模ながら実証事業が実施されている。

 これに連動して急速に研究が進んでいるのが「バイオチャー(Biochar)」である。これは、作物残さなどを300℃〜400℃程度で炭化したもので、普通の炭に比べてかなり低温で処理した「生焼け」炭である。無機炭素だけでなく、有機炭素が残留しているため、炭と有機物としての両方の性質を兼ね備えている。高温処理した炭より土壌改良効果は高いとされている。今年5月にエジンバラ大学で開催された「UK Biochar 2011」、9月の京都での「Asia Pacific Biochar Conference(APBC)KYOTO 2011」など国際的な動きが広がり、バイオチャー施用によるCO2固定、施用効果、製造法などが議論されている。エジンバラ会議には著者らの研究チームから5名が参加し、4テーマの発表を行った。また、京都会議では1名が参加し、1テーマ発表している。

 このように、バガス炭を含むバイオチャーに関する研究開発は年を追うごとに盛んになりつつある。これらを踏まえ、バガス炭の研究開発の紹介と今後の展開を述べてみたい。

*注)営農の段階で農耕地に堆肥や炭などの炭素含有資材を継続的に施用し、土壌改良効果と温室効果ガスの削減をねらう事業

2.バガス炭の製造と特性

 炭は木やバガスのような炭素含有原料を蒸焼きにして製造される。これは原料に含まれる酸素を取り外す還元反応で、燃焼(酸化)とはまったく異なる。古くから利用されている炭焼きがまのようなバッチ式の炭化装置は作業能率が低いため、著者らは連続式の装置を開発してきた。屋外に貯蔵したバガスは60%を超える高水分になる場合もあるので、現在、使用中の炭化装置には乾燥炉を含め三段の炉を設けた(図1)。炉は二重円筒になっており、バガスは内部円筒内を移動し、その外側から間接的に加熱される。
 
 
 加熱方式や炭化温度によって炭の性質には大きな違いがでるので、200℃〜900℃までの範囲で炭化温度を変えてバガス炭を製造した。炭化温度に対するサンプルの質量残存率、炭素含有量および窒素含有量を図2に示す。200℃では質量はそのままであるが、400℃までの間に60%程度まで急速に消失し、それ以上の炭化温度では25%程度まで徐々に低下している。

 これは乾物重をベースにしているので、水分50%のバガス1tを炭化すると125〜150kg程度の炭が得られる。炭は無数の微細孔を有し、それによって性質が決まるが、炭化温度などによって微細孔の状態は異なる。これを表す尺度として比表面積が用いられる。図3は炭化温度と比表面積の関係の一例を示したものである。比表面積は炭化温度450℃までは小さいが、500℃あたりから急速に大きくなり、550℃以上では350u/gを超える値を示している。900℃では500u/gに近い値を示しているが、これまで得られた最大値は約600u/gもあり、ヤシガラ活性炭に近い値を示した。バガス炭の比表面積は竹炭や木炭と比べて非常に大きいのが特徴である。
 
 
 
 

3.土壌改良材としての利用(土壌炭素貯留)

 バガス炭の土壌施用によって大気中CO2の長期(永久)固定化を目指してきたが、以前より炭の施用には作物の増収や品質向上などの効果が知られている。バガス炭の施用によって同様の効果が得られるか否かを調べるために、さとうきびの生育試験を何回となく実施してきた。2010年度土壌炭素貯留事業におけるさとうきびの生育状況を図4に示す。これまでのさとうきびへの施用試験の結果を要約すると、(1)増収効果は認められる、(2)重量混合比1〜2%程度の土壌で効果が高く、(3)堆肥との複合施用がそれぞれの単独施用より効果が大きい、などが確認できた。また、土壌中のバガス炭が少なくとも7年間はそのまま残存することを確認した。ほかの作物への施用効果もデータが揃いつつあり、それぞれの施用マニュアルを作成する予定である。
 
 

4.吸着特性の利用

 バガス炭は大きな比表面積によって優れた吸着能力を発揮する。炭の調湿作用や脱臭作用が知られているが、これらは微細孔と表面構造による物理・化学的吸着作用によるものである。土壌にバガス炭を施用すると大きな保水能力を示す。さらに、化学肥料や堆肥などから溶脱した硝酸態窒素やその他の肥料成分を吸収する結果を得た。これは化学的な吸着ではなく、これらを含む溶液を細孔中に保持するために生じる。

 畜ふんなどによるメタン発酵で残る消化液にはわずかながら悪臭が残っているが、バガス炭を投入したところ臭いはなくなった。そこで、 25%アンモニア水を気化させて60ppmに調節した5L密閉容器に、乾燥バガス炭1gを入れ、時間ごとに検知管で濃度を測定したところ、アンモニアガスの吸着は開始後5分でほぼ完了した。除去率は、400℃(pH7.0)で99.2%、750℃(pH10.2)で75.0%となり、pHが低いほど高くなった。乾燥バガス炭より湿ったバガス炭の方が吸着能力は高く、アンモニアガスの吸着には水分を含む低温炭が適している。豚舎や牛舎などでバガス炭を敷料に加えて利用すれば、脱臭効果に加え、炭入り堆肥の原料も得られる。メタン発酵などで発生する有毒ガスである硫化水素(H2S)の高濃度ガスを密封した容器内に乾燥バガス炭を入れ、静置状態で吸着量を測定した。また、乾燥バガス炭を封入した容器と硫化水素発生容器を接続して循環状態で吸着を行った。その結果、両者の吸着率はいずれも90%を超える結果を示した。最終的な吸着率は表面積・細孔容積と比例関係にあるが、吸着量は硫化水素の濃度にも影響される結果を得た。

5.期待される新技術の展開

 以上は、従来技術の延長上にある利用法であるが、開発した新しい利用技術のひとつが太陽光の集熱である。バガス炭の微細孔はさとうきびの構造的特徴から整然と並んだ蜂の巣(ハニカム)構造を呈している(図5)。この中に太陽光が入ると熱に変換され、バガス炭の温度は上昇する。この熱を活用するために、バガス炭を水(溶液)に分散させると、熱は水に吸収され高温水を得る。太陽電池の発電効率は最高でも30%程度で、太陽熱温水器の変換効率は60〜70%とされている。一方、バガス炭分散液では、ほぼ100%の変換効率を発揮することを明らかにした。

 夏場に葉野菜がまったく栽培できない沖縄では、植物工場による生産が期待されている。これは照明と空調に多大のエネルギーを必要とし、現状では導入が難しいために、「沖縄型植物工場」が期待されている。その中心となる技術がバガス炭の集熱作用を利用した空調(冷房)である。バガス炭で得られた高温水を用いて吸着式冷凍機もしくは吸収式冷凍機を動かし、植物工場の空調を行う。この技術の国際特許も取得しており、実証実験に向けて準備中である(図6)。分散バガス炭の量を調節すれば、太陽光の一部は透過するので、栽培に必要な照明を得ることもできる。太陽熱空調システムは一般の建築物でも使えるので、熱帯・亜熱帯地域の空調システムを根本的に変えるポテンシャルをもっている。散乱光も吸収するので曇りの日でもある程度の能力を発揮し、効率的なエネルギーシステムとなる。この集熱能力を利用した海水淡水化・製塩システム、汚水浄化システムなども検討中である。バガス炭は野菜栽培における培地としても利用できる。水耕栽培ではポンプを継続的に動かす必要があるが、養液を吸収させたバガス炭を培地にすれば、時々補給するだけで栽培可能となり、養液管理が簡略化できる。
 
 
 
 

6.むすび

 紙面の都合で簡単な紹介に終わったが、バガス炭は大きな可能性を持っている。宮古島バイオ・エコシステム研究センターでのプロジェクトの終了を目前に、今後の展開について思案中である。バガス炭の比表面積は活性炭には劣るが、脱臭や吸着ではかなり近い能力を示し、対象によってはむしろ優れている。バガス炭の細孔分布と吸着物質の特性との関係で吸着速度などが決まるので、研究を継続するとともに事業化を模索していきたい。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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