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アメリカのてん菜生産事情

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最終更新日:2011年12月9日

アメリカのてん菜生産事情

2011年12月

特産業務部 係長 宗政 修平
調査情報部 上席調査役 宇敷 貴正

 

【要約】

1.砂糖の自給率が8割の米国にとって、てん菜糖は国内で生産される砂糖約720万トンのうち生産量約440万トンを占める重要な品目である。

2.てん菜の生産は、概ね4地域で行われており、主たる産地は北中西部及び極西部の2つの地域である。

3.てん菜の収穫面積は、約468千haであり、日本と比べて7倍であるが工場の排水や臭気の環境問題から生産規模の拡大は、短期的には困難となっている。

4.砂糖の国際相場の高まり等から、米国のてん菜糖関係者の収益は向上しており、今後も更なる収益性の向上のため、病害虫対策等に対する研究を進める模様である。

はじめに

 米国の2011/12年産におけるてん菜の生産状況等を把握するため、平成23年7月26日から28日の間、米国のてん菜の生産地(ノースダコタ州及びミネソタ州にまたがるレッド川流域)を訪問したので、その概要を報告する。

 2010/11年産における米国の砂糖生産量は、7,208千トンで、うちてん菜糖は4,354千トンで全体の60%を占める。砂糖消費量は10,419千トンで、自給率は82%となっている。

 一方、異性化糖の生産量は、2010年で8,240千トン(ドライベース)、うち1,232千トンが輸出され、78%がメキシコ向けである。

 また、2010年の砂糖の一人あたり消費量は、30kg(精製糖ベース)で、2003年以降8%増加、異性化糖の一人あたりの消費量は、22kg(ドライベース)で、2003年以降20%減少しており、異性化糖からの回帰が起こったものとされている。 注:本稿は、面積及び重量について、単位を原典に標記されたエーカー及びショートトンからヘクタール(1エーカー=0.40469ヘクタール)及びトン(1ショートトン=0.907185トン)へそれぞれ換算した数値を記載している。円/ドルのレートは80円/ドルに換算した数値で記載している。

1 米国の砂糖生産の概要

(1) 米国の砂糖生産状況

 米国のてん菜の生産は、4地域(五大湖、北中西部、大平原、極西部)11州で行われている。農場数(*注)は4,022、収穫面積は468千ha、原料生産量は28,940千トンで、砂糖(てん菜糖)の生産量は、4,354千トンである。

 一方、さとうきびの生産は、南部3州(フロリダ州、ルイジアナ州、テキサス州)とハワイ州で行われている。農場数は692、収穫面積は334千ha、原料生産量は23,281千トンで、砂糖(甘しゃ糖)の生産量は、2,854千トンである(図1)。

 てん菜の生産規模を日米の収穫面積で比較すると、日本の約7倍である(表1)。

 また、米国の生産規模を経年で見てみると、2002年度から2007年度にかけて全体の作付面積は、減少したものの、小規模農場が減少したため、100ha以上の作付面積を所有している農場数の割合は、てん菜で38%から43%、さとうきびで65%から67%と相対的に拡大した(表2)。

(*注)米国の統計では、農家数ではなく、農場数(Farms)を用い、農場の定義は年間1千ドル以上の農産物を生産・販売するところとされている。
 
 
(2)米国の砂糖の需給状況

 米国の砂糖需要量は近年の約10,000千トンで推移している。このうち、国内生産量によるものは、初期在庫を除くと約70%で、不足分は関税割当(TRQ)やNAFTA(北米自由貿易協定)域内の輸入によって賄われている。近年、砂糖業界団体による消費拡大キャンペーンによる効果により、飲料メーカーなどが異性化糖から砂糖に切り替えたことにより、10年前と比べ1,361千トン増加しており、この傾向は、人口増加と相まって続くと予想されている(表3)。

 国内で生産される砂糖については、てん菜糖と甘しゃ糖は、概ね6:4で推移している。米国農業法における砂糖プログラムにより製糖企業に対して、販売割当(砂糖の年間推定消費量(国内食用向け)の85%)の数量が決められており、この販売割当が間接的に、てん菜及びさとうきびの作付面積を調整する役割を果たしている(表4)。
 
 
 また、米国の国内生産量は、販売割当の数量を14%程度下回って推移している。アメリカンクリスタルシュガーCEOのディビッド・バーグ氏によると、この下回っている要因は、工場の排水に関する環境問題であるとのこと。同社の製糖期間は、過去最大で10月から285日間(翌年の7月頃まで)操業したことがあるが、近年、気候が暖かくなる5月以降、工場に隣接する住民より工場からの排水の臭気へ苦情があることから、操業期間を短縮しなければならず、その期間に製造できるだけの量に相当する作付面積にしなければならないとのことである。

 さらに販売割当を満たす生産量を確保するには、排水の臭気を除去する設備が必要で、試算したところ5工場で200万ドル(160億円)かかり、投資するのは不可能であるとのことであり、生産量が販売割当を下回って推移する傾向は続くと考えられる。

2 米国のてん菜の生産状況

 2011年産のてん菜収穫面積は、492.4千ha、単収は、61.8トン/ha、生産量は、27,572千トンと見通されている(表5)。

 2011年産の日本のてん菜収穫面積は、60千ha、単収は、59.1トン/ha、生産量は、3,569千トンと見通されており、米国の生産量は日本の約8倍である。

 てん菜を生産できる権利を所有している者(コントラクトホルダーと称されており、ここでは、「生産者」と定義する。)は6,207名となっている(表6)。
 
 
 てん菜及びさとうきびの作付けに対する政策的な生産調整を行っていないものの、表4に示すとおり、販売割当が間接的に作付面積を調整する役割を担っており、販売割当が増加すれば、それに連動して作付面積が増える形となっている。

 具体的には、てん菜の作付面積は、販売割当から製糖企業が作付面積計画を算出し、毎年、製糖企業へ出荷している生産者組合(16組合)の生産者代表(ボードメンバーと称される者)との間で調整し、生産者代表が作付面積計画に基づき、生産者に割り当て、作付面積が決定される仕組みとなっている。

 さらに、現在は、てん菜の品種改良により単収が増加したため、1エーカー(約40a)あたり80〜85%程度の作付け比率を加えて調整している。この作付け比率は、作付け後の災害や病気等の被害により、てん菜の収量が見込めない場合は、製糖企業と生産者代表で再度調整して、作付け比率を増やす仕組みである。

3 ノースダコタ州のてん菜の生産状況

(1)ノースダコタ州の概要

 ノースダコタ州の面積183,112kuのうち農地が160,256kuと80%以上を占める。農場数は、31,900で、1農場あたりの農地面積は、約500haとなっている。

 2007年の農業センサスによると、農畜産物の販売額は、6,084百万ドル(約4,867億円)で全米18位、そのうちの80%を占める農作物は5,039百万ドル(約4,031億円)で全米9位となっており、主要な穀物生産地となっている。  主な農作物は、てん菜の他、主に小麦、大豆、とうもろこしである(表7)。

 農家の収益額は、2,589百万ドル(約2,071億円)で、1農場あたり81,000ドル(約650万円)となっている。

 降水量は北海道に比べ半分の年間400mmから500mmである。しかしながら、平均気温が低く冷帯に位置するため、蒸散量も少ない。このため、灌漑に頼らなくても作物の栽培が成り立っている。
 
 
(2)ノースダコタ州東部のてん菜の生産状況

 1) てん菜の生産地域

 てん菜の生産量を州別に見ると、ミネソタ州が1位、ノースダコタ州が3位となっており、北中西部地域で米国のてん菜生産量の半数を占める一大生産地である(表5参照)。

 ノースダコタ州の主要なてん菜の生産地は、州の東側のレッド川流地域(Red River Valley)と呼ばれる地域である(図2)。ノースダコタ州とミネソタ州の州境を流れるレッド川(カナダのウィニペグ湖に流れ込む)に沿ったこの地域は、氷河期の氷床が後退する時期に湖底となっていた。このため、湖に沈積した氷積土が層を成しており、農業に適した土壌を形成している。
 しかしながら、このレッド川流域は、自然氾濫原がなく、川幅が下流域においても80mほどと狭いうえに蛇行が著しいため、春先の植え付け時期に、雪解け水など水かさが急激に増した場合、氾濫を起こしやすい。さらに、すりばちのような地形をしており氾濫すると水の逃げ場がなく農地に流れ込むため、作物へ被害が多い。

 レッド川が氾濫するのは、水位が18フィート(約5.5m)に達したときであるが、3月〜4月にかけては、40フィート(約12m)にもなる(図3)。なお、西側については、モンタナ・ダコタてん菜生産者協会の生産地域であり、モンタナ州のモンタナてん菜糖会社のシンディー工場へ出荷される。
2) 2011年産のてん菜の生産見込み

 アメリカンクリスタルシュガーのビル・ヘイル氏によると、レッド川地域は、平年、洪水の被害により、全作物の面積のうち、1,300千haが被害にあうが、今年は、約2倍の面積が洪水の被害にあったことから、てん菜の作付け比率を1エーカーあたり85%から92%まで上げて、収量を確保するようにしたとのこと。

 また、同社のCEOディビット・バーグ氏によると、洪水の被害により土壌が多湿で根腐病などの発生が予想されるため、作付比率を増加させたにも関わらず収量は平年の60トン/haから、10%程度落ち込むと予測している。
3) 輪作構成

 この地域のてん菜生産者の輪作を構成する作物は、てん菜、小麦、大豆、とうもろこしである。

 小麦は、ノースダコタ州全域に渡り生産されており、大豆及びとうもろこしは、レッド川流域で生産されている(図5)。

 輪作体系としては、生産者によって様々であるが、小麦の後に、てん菜を植付ける生産者が多いとのことである。

 これは、収穫時期がてん菜、大豆、とうもろこしは、同時に行うが、小麦は少し早めに収穫を行うため、土壌管理などてん菜の植付けの準備に時間が取れるためである。  作物の収穫は、霜が降りる前までに終了しなければならず、平年10月1日から15日の2週間程度で行われ、大規模な生産者の場合、24時間操業で、20名〜30名を臨時に雇用して収穫を実施する。
4) てん菜の生産状況

 この地域のてん菜、てん菜の全米平均、小麦、大豆、とうもろこしに比べ、粗収益が高く、日本のてん菜の粗収益に比べても高いことがわかる(表8、9)。
 レッド川流域のてん菜の粗収益は2007年の農業センサスで72.49ドル/haであるが、ミンダック生産者協同組合のパット・フレイズ氏によると、2010年産のてん菜の粗収入額は、国際相場の高騰を受け、648ドル/haになったとのことであり、生産コストが一定と仮定した場合、単純に2007年と比べると292.64ドル/haの収入が増加したことになる。  アメリカンクリスタルシュガーのCEOディビット・バーグ氏によると、この収入額が高くなっていることを反映して、生産者のてん菜生産意欲が高まっているものの、てん菜の生産量を販売割当の数量に見合ったものにしなければならないことから、作付面積計画を厳格に運営しているとのことである。

 生産者当たり面積の管理方法は、製糖会社がてん菜の収穫時に生産者の収穫機械にGPSを搭載し、収穫後の測定結果で、作付面積計画どおりの収穫面積かどうかを確認している。生産者が作付面積計画を遵守していないことが判明した場合は、計画以外の分のてん菜は処分しなければならず、あまりにひどい場合は、てん菜を生産できる権利を失い、他の生産者に売らなければならない取り決めになっているとのことである。

 また、てん菜を生産できる権利は、生産者であれば売買が可能であり、カリフォルニア州の生産者がこの権利を購入して、てん菜を生産しているケースがあり、この傾向は、近年増加しているとのことである。


5) レッド川流域の製糖工場

 米国のてん菜糖の製造事業者は、9者23工場で、そのうちレッド川流域には、3者7工場(アメリカンクリスタルシュガー(5工場)、ミンダック生産者協同組合(1工場)、南ミネソタてん菜協同組合(1工場)があり、この3事業者で、約2,000千トンの生産量(米国の約48%)であり、日本の生産量の約3倍となっている(表10)。

 この地域の製造事業者の生産規模は、1日あたりの原料処理能力で約64,000トンである(表11)。
 製糖工場であるミンダック生産者協同組合に伺ったところ、この地域の特徴として上げられるのが、てん菜の長期保存である。冬期の気温が摂氏マイナス30度になることから、てん菜を収穫後、工場の付属倉庫(8万トン×3基)や工場の外の保管場所であるパイリングプラント(7箇所)に保管する際に、金属製の側面に複数の穴が開いているパイプの周囲にてん菜を積み上げ、このパイプから冷気を送りてん菜を凍らし、アイスキューブ状にして、断熱材で覆い保管することで、6月までの製糖が可能であるとのこと。

 パイリングプラントは、飛行機で2週間ごとに近赤外線を計測して、温度が上昇している箇所を確認し原料の管理を行っている。

 また、収益向上の取組みとして30トン級のトラックの素材を軽量のアルミ製にしたことにより、燃料費が下がり、輸送コストが削減されている。

 砂糖の製造工程は、日本と基本的に同様であるが、色価の調整には、日本のようにイオン交換樹脂ではなく、ライムストーン(石灰石)とコーク(石炭を蒸し焼きした燃料)を使用して炭酸飽充処理で行っている(図6)。
 副産物であるビートパルプは、全量、日本の飼料向けに輸出している。

 ここ数年の国際相場の高騰を受け、販売割当の数量を満たしていないことから、現在、イースト向けなどへ販売している廃糖蜜から、砂糖を抽出する製造方法の導入について検討中である。

4 今後の課題

 レッド川流域のてん菜の生産を安定的に確保するうえで、課題となっているのが、(1)てん菜の病害虫対策、(2)てん菜の遺伝子組換え品種の取扱いである。


(1) てん菜の病害虫対策

 この地域の病害虫として上げられるのが、リゾクトニア菌が引き起こす根腐病、サーコスポラ菌が引き起こす褐斑病と、レッドマゲット(テンサイモグリハナバエの幼虫)による根の侵食被害である。

 これらの病害虫対策として、ノースダコタ州にある米国農務省(USDA)の農業研究機関やノースダコタ州立大学(UDSU)で、品種の改良や農薬を使っての実証実験が行われている。

 USDAの農業研究機関では、ワシントン州にある政府のてん菜品種の保管機関に保存してある原品種とかけ合わせを行いレッドマゲットに強い品種への改良を行っている。

 一方、ノースダコタ州立大学では、州政府や寄付金により、3,300万ドル(約26億円)をかけて、新たな研究施設を建設中で、完成すれば全米随一の規模をほこるてん菜研究施設となる。

 また、ほ場において、根腐病に対する農薬散布時の土壌温度と散布量、農薬をコーティングした種による防除効果の評価研究を実施している。

 根腐病の菌を付けたてん菜にアゾキシストロビンという農薬を土壌温度の違う時期(植付け時から生育時)に散布量を変えて散布し、最も防除効果のでる時期の研究を行っている。現在の研究成果として、てん菜の発芽後、土壌温度が摂氏18℃以上になると効果が薄くなるほか、最も効果が出る散布量は8ポンド/エーカーであることが判明している。

 農薬をコーティングした方が農薬の量を減らすことができるので、コストも低減するとのことである。この農薬をコーティングした種は商業生産の許可を環境保護省(EPA)に申請しており、2014年に許可が下される予定である。

 また、USDAとNDSU2つの機関以外に、SBREB(Sugarbeet Reserch & Education Board)と称される3製造事業者7工場(各2名)、ノースダコタ・ミネソタ両州立大学(1名)、3生産協同組合(1名)、USDA(オブザーバー1名)から構成されるてん菜の研究・教育機関がある。この機関が毎年、全生産者に対して、てん菜の栽培や病害虫に対する抵抗性に関する研究テーマを募集して研究事業案を作成し、研究者(官民問わず)に提示し、研究者から提出されるプロポーザルの中から、この機関の投票により研究内容及び研究費が決定される。研究費は、生産者から作付面積に応じて徴収され、研究期間は原則として1年間で、研究者が生産者を集めて成果を発表する。継続する場合は生産者の意見を反映して、この機関が判断する。
(2) 遺伝子組換え品種(GMO品種)の取扱い

 2007年に商業生産が許可されたGMO品種は、除草剤に対する耐性が強く、現在、米国のてん菜品種の約90%がこの品種である。レッド川流域では、このGMO品種は「バイオテックビート」と呼ばれている。

 米国のGMO品種の商業生産は、まず、環境保護庁 (EPA)の有害雑草化されるリスクの審査を経て、USDAの動植物検疫局 (APHIS) が環境アセスメントを含め総合的な判断を下すこととなっている。

 この環境アセスメントの結果、さらに詳細な調査が必要と判断された場合は、人や野生動物への影響、社会的な影響も含めたより包括的な環境影響評価書(EIS)を作成して、商業生産の可否の判断がされる。

 GMO品種は、USDAがこの環境影響評価書を作成せずに、商業生産の許可を出したことから、有機栽培生産者や環境団体による訴訟をおこされ、裁判の結果、USDAがEISを作成することとなり、作成中は原則栽培禁止となるが、2011年はUSDAの管理下のもと条件付きで(非GMO品種にドラフト被害のないようにすることなど)栽培可能となったものの、生産者の植付け時期が遅れた。

 この法廷闘争は、現在も連邦地裁において原告側が控訴し継続中であるが、仮に原告側が勝訴した場合、GMO品種以外で作付けしなければならないが、ミンダック生産者協同組合のパット・フレイズ氏によると、てん菜の発芽率は、保存してある古い種を用いて対応した場合、1年目で68%、2年目で50%、3年目で40%と低くなることから、生産量に多大な影響があるとのことである。

5 おわりに

 砂糖の国際相場の上昇、米国の砂糖消費量は増加傾向と砂糖業界にとっては追い風が吹いているところであるものの、製造事業者にとって販売割当の数量を満たせない状況や生産者にとってのGMO品種の法廷闘争など、米国の砂糖生産に対する不安要因を内包したままの状態であることから、今後も注視していく必要がある。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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