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ISSCT第3回マネージメントワークショップに参加して

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最終更新日:2012年1月10日

ISSCT第3回マネージメントワークショップに参加して〜インド南部製糖業の実態〜

2012年1月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 樽本 祐助
クムパワピーシュガー(タイ国)農務事務担当 谷田部 治

1.はじめに

 国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT,International Society of Sugar Cane Technologists)の第3回マネージメントワークショップが、2011年8月24日から27日までの間、インド南東部のタミル・ナードゥ州にあるカーンチプラム県のマハーバリプラムで開催された。本ワークショップでは、効果的なさとうきび研究と技術普及のあり方をテーマとした意見交換がなされた。参加者は、インドを始めとして、タイ、イラン、オーストラリア、モーリシャス、フィジー、日本からの合計42名であった。

2.エクスカーション

 インドの砂糖生産量はブラジルに次いで世界第2位である(2010/11年度)。日本に多くの砂糖を輸出するタイの2倍以上の生産規模を持つ。しかし多くの人口を抱えるため、輸出量はタイに比べて多くなく、シュガーサイクルと呼ばれる砂糖生産量の周期的な変動の影響で近年は輸出入を繰り返している。こうした事情は、砂糖類情報の2010年4月号に詳しい。エクスカーションでは主にインド南部の実態を見ることができた。

 ワークショップのエクスカーションは、24日と25日に行われ、マハーバリプラムから南下したカダルール県のParrys社のネリクパム工場や、試験農場、契約農家などを訪問した。

 本ワークショップのホストでもある製糖企業のParrys社は、金融サービスをはじめとして自転車製造、研磨剤、建築資材、エンジニアリング、肥料、食料加工など、非常に幅広い事業を行うMurugappaグループ(総売上約1000億円 総従業員数:約2万2000人)に所属し、南インドを中心に9カ所の製糖工場を持っている。そのうち4カ所でアルコール生産、8カ所で売電を行っている。

 Parrys社における全さとうきび圧搾能力は3万2500t/日である。さとうきび産業に、15万人の契約農家、4万人の収穫労働者、50万人の零細農家、1万台のトラックが関わっており、地域の重要な産業を構成している。また近年の砂糖需要の高まりから、同社では、処理能力の増強や製糖工場の買収なども積極的に行っている。

(1)ネリクパム工場

 ネリクパム工場は、1845年に操業を開始し、現在の圧搾能力は6000t/日である。日本に比べて大きいが、タイと比べると大きくはない。インドのなかでは比較的大規模な工場になる。ちなみにタイのクムパワピーシュガーの圧搾能力は、1万5000t/日である。

 1997年に24.5メガワット(MW)のコジェネレーション(*注1)プラントをインドで初めて導入し、2006年にはエタノールプラントを新設しており、砂糖生産以外にも積極的に取り組んでいる。

 工場の操業は、12月から9月までと長く、ワークショップ開催時期も稼働していた。この工場は、インドのなかでも特に製糖期間が長い。インドでは通常12月から6月までが製糖のメインシーズンであるが、ネリクパム工場は7月以降をスペシャルシーズンとして製糖を実施している。なお、さとうきびの糖度は3月が最も高い。

 さとうきびの集荷はトラクター牽引のトレーラーを用いているが、牛車による搬入も多く見られた。集荷範囲は工場近郊の約450平方kmの農地で、3万戸以上の農家からさとうきびを購入している。

 工場では主に精製糖を生産しており、その生産量は120t/日である。エタノール工場は300日稼働で75kl/日を生産する。エタノール原料となる糖蜜はすべて自社工場のものを利用している。売電の原料も自社のバガスだけを利用している。

 Parrys社全体の2011年度の売上げ構成では、砂糖が81%、売電が12%、エタノールが7%となっている。しかし利益は、売電やエタノールの方が高く、エタノールおよび発電能力の増強を図っている。

 インド南部における製糖にとって他の北部や西部と比較して有利な点は、
1)集荷対象であるさとうきび畑の土壌条件がよく、水も潤沢であること、
2)畑当たりの砂糖生産量が高いこと、つまり単収や糖度が高いこと、
3)長期間の工場操業が可能であること、
4)港が近いので製品の輸送コストが低いこと―があげられている。
こうしたことから、インド南部を拠点とするParrys社の製糖環境は恵まれているといえる。

(*注1)コジェネレーション:石油やガスなどの1次エネルギーから、「動力+熱」や「電力+熱」のように、2種類以上の2次エネルギーを取り出すシステム。
 
 
 
 

(2)さとうきび作

 ネリクパム工場周辺の降雨量は900mmから1600mmであり、最も降雨が多いのは10月から12月、最も暑いのは5月から6月初旬となっている。1年を通じての最高気温は36度から38度、最低気温は20度から21度となっている。タイと比較すると最高気温は低く、最低気温は高い。競合作物としてはコメ、ピーナッツ、とうもろこし、コリアンダー、バナナ、インディアンコーン、カシューナッツ、綿花などがある。土壌は砂質土壌だが、粘土質で肥沃な土地も多い。水は川から取水できるため比較的豊かである。

 収穫されるさとうきびは手刈りによるグリーンケーン(*注2)が約8割となっており、7割程度であるインド北部に比べ、まだ手刈り収穫が多い。しかしネリクパム工場が近年3台のケーンハーベスタを導入したところ、その委託ニーズは高いようであった。

 豊富で安価な労働力を活用し、手刈り収穫を基本とするインドの製糖産業であるが、収穫労働力が不足し始めている。手刈りの労賃は350Rs/t(1.7円/Rs;インドルピー、8月現在のレート)であり、1人あたり2t/日の収穫が可能である。したがって収穫労働の報酬は700Rs/日となるが、インド経済の成長のなかで、収穫労働報酬としては十分ではなくなっている。一方で、さとうきび価格がおおむね2500Rs/tであることから、これ以上の労賃増加も難しい。こうしたなかで、ケーンハーベスタによる収穫委託料を同様の350Rs/tとすることで、委託希望も増えている。会議のなかで、機械の代理店や製糖工場の方から、日本のケーンハーベスタについての関心も示された。インドのほ場の区画はタイに比べると狭く、雨期でも収穫が行われていることから、雨天に強い小型のケーンハーベスタの優位性もあると考えられる。タイでも、クムパワピーシュガーのある東北部は、手刈り地帯であったが、労賃の上昇や労力不足から今後ケーンハーベスタによる収穫が進むと思われる。

 この地域の平均的なさとうきびの作型は、新植のあとの2回株出しである。その単収は、新植が10t/10a、株出しは8t〜9t/10aと高い。また雨期でもあったため、降雨および灌漑水は十分にあるように見えた。見学した農家では、畝間に水を流す方式(flood irrigation)も行っていた。一方で、Parrys社の試験農場では、チューブ灌水などの試験もしており、それを実践している農家も見た。調査で見聞した範囲では水が豊富に見えたインド南部ではあるが、栽培用水を確保することが難しい地域も存在するため、節水型のさとうきび生産が注目されていた。

(*注2)グリーンケーン:火入れを行わずに収穫されたさとうきび。

(3)試験農場

 Parrys社の研究としては、育種研究(高糖・多収、黄化病(yellow leaf disease)抵抗性)、トラッシュマルチ技術(梢頭部を再切断し、雑草を抑制する)、間作技術、苗の蒸気処理(hot air treatment)を用いた黒穂病や黄化病対策を行っていた。

 またメイチュウに対する天敵昆虫(Trichogramma)について、農村にその繁殖拠点を作り、農家自らの手で増やす取り組みを見た。メイチュウに対してこの天敵昆虫が有効であることはよく知られているが、現在タイでは大規模な工場や研究所でしか繁殖は行われておらず、メイチュウ被害は多い。こうしたインドの取り組みは、参加型の技術普及として参考になる事例といえる。
 
 
 
 

3.報告討論会

 15課題の報告が行われた。そのいくつかを紹介したい。

(1)地理情報システムの活用

 タイのミトポン(Mitr Phol)製糖工場では、リモートセンシング、地理情報システム(GIS)、全地球測位システム(GPS)などを活用したほ場管理を行っている。このシステムは1つの製糖工場(5万ha)でテスト運用され、現在はミトポングループの25万haで運用されている。このシステムは、面積確認とともに、収量予測、干ばつの影響評価、適期の施肥時期の判定などを行う。システムを活用することで、農家への指導を効率化するとともに、農家への融資円滑化が図られている。また、さとうきびの搬入計画にも活用することで物流コストの低減をもたらしている。

 農地情報の維持・管理や時期ごとのデータ収集には、かなりの労力を要していると思われるが、システム化への取り組みとして興味深いものである。今後、タイ全土でのシステム導入も検討されているようだ。

(2)オーストラリアによる適正な施肥管理

 オーストラリアでは、単収最大化を目的とした施肥が行われてきた。しかし費用低減のためには、効率的な施肥が求められるようになっている。また近年では最大の栽培地であるクイーンズランド州沿岸に広がるグレートバリアリーフ保護のために、肥料、農薬などの使用の適正化が州政府によって法制度化された。この規制では周辺海域に特定の肥料、殺虫剤、除草剤などを排出した農家に対して罰金が課される内容となっている。

 こうした背景の中で育種や肥培管理研究を行うBSES社(民営化した元公共さとうきび試験場)は、地域や土壌の違いに応じた施肥管理プログラム、除草剤使用のガイドラインを作成し、農家に対してワークショッププログラムを提供している。ワークショップは1日約7時間で構成され、内容は主に概論と肥料・除草剤の散布時期、散布量に関する講義とその履歴を残すための書類作成方法である。こうした活動を通じて、肥料・除草剤のトレーサビリティも含めたきめ細かいほ場管理が行われている。

 こうした取り組みは、施肥流出による海洋汚染を軽減するため、製糖工場だけでなく政府からの財政的な支援も得られている。

 このようなワークショップによる技術講習は、新技術の普及や啓蒙に有効な手段になっている。しかし、これはオーストラリアのような少数の農家が大規模生産を行う地域では効率的であるが、多数の農家により構成される東南アジアや日本では、さらに工夫が必要だと感じた。ただ将来的にはタイでも求められる環境保全・持続型農業の推進のための先行事例として参考となる。日本でも石垣島などでは赤土流失がサンゴ礁に影響していることから、その対応方策として参考になると考えられる。

(3)モーリシャス島における小規模農家に対する支援活動

 インド洋に浮かぶモーリシャス島では、年間約700万トンのさとうきび生産を行っており、17世紀から続くさとうきび生産の歴史とともに高い水準の研究施設がある。ここでは現在生産量の約3割を占める10ha以下の農家約3万戸に対して単収および糖度向上のためにファーマーサービスセンターと呼ばれる事務所を各地に配置して農家への情報提供を行っている。その中でも先進的だと感じたのはWebや携帯電話でさとうきび品種や栽培情報、施肥量などの指標を即座に確認できるシステムを構築し、農家が頻繁に利用していることである。こうしたシステムはオーストラリアではすでに一般的だが、規模の小さな農家に対してきめ細やかな情報を提供するうえで、こうしたITの利用は有効な方法になると考えられる。

(4)イランにおける製糖

 イランは紀元前1000年頃にはさとうきび栽培が始まり、特に南西部は現地の言葉で砂糖の地と呼ばれるほど、さとうきび栽培が盛んに行われていた。この南西部でのさとうきび栽培はさまざまな理由から減少していたが、現在100t/haの収量を達成している。ここでの気象条件は、最低気温10度、最高気温54度、平均年間降水量は280mmの砂漠ステップ気候である。1959年になって近代的な砂糖工場が建設された。また大型国家事業として砂糖製品工場整備が計画されており、7つのさとうきび工場、4つの精製糖工場の他に合板工場、アルコール工場、家畜飼料工場、紙製品工場、酵母工場が整備されている。この結果、現在イランでは年間約110万トンの砂糖を生産し、そのうちの約60万トンがさとうきび由来、残りの約50万トンはてん菜から生産されている。

 イラン・さとうきび研究教育センターは世界各国から研究者が集まり、特に灌漑についての研究を中心に行なっている。イランは降水量が少ないため、収量を高めるためには灌漑が必須条件であり、点滴灌漑やスプリンクラーなど大規模な灌漑設備の研究所が存在している。また育種や害虫(Stem Borer)についても研究が行われている。

(5)さとうきび生産と製糖工場のシミュレーションモデル

 日本における研究として、さとうきび生産における新技術や製糖工場の意思決定が、さとうきび生産や製糖工場の収益性に及ぼす影響を検討するシミュレーションモデルを紹介した。特に新技術には、早期高糖性品種の導入を対象にし、製糖工場の操業開始時期を考慮した検討を報告した。

 世界的には製糖工場は、隣接する工場との競合関係が存在し、原料確保が重要な課題である。紹介したモデルは一工場を想定したものであるので、その競合関係を考慮できるものにはならないのかという質問があった。また、砂糖だけでなく、エタノールや売電などは考慮できるのかという質問もあった。特に後者については、技術的・経済的なデータがあれば、モデルに組み込むことができるので、今後チャレンジしてみたい。

4.おわりに

 本ワークショップに参加して多くの刺激を得た。強く感じたことを最後に述べたい。第1に、インドは世界有数のさとうきび生産国である。しかし道路事情があまり良くない。このことがさとうきび輸送を制限しており、製糖工場の規模も制約していると思われる。今後、道路インフラが整備されることで、一層の生産力の拡大が可能になると思われる。第2に、世界的に節水型のさとうきび生産が注目されている。わが国でも大東島ではチューブによる灌漑が実施されているが、こうした節水型の生産技術が世界的にも必要とされていることが印象的である。こうした点からの技術開発や各国との連携の可能性は高い。第3に、収穫労働の負担軽減である。豊富な労働力があるインドであっても、現行の収穫労賃では今後、人が集まらない状況が生じる可能性がある。これはタイでも同じである。世界的にみて、労力軽減やそのためのケーンハーベスタ導入などは大きな流れになると感じた。特に日本は小型ハーベスタ技術で先進的な技術をもっており、その可能性を感じた。
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