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糖尿病ってどんな病気?

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最終更新日:2012年2月10日

糖尿病ってどんな病気?

2012年2月

順天堂大学大学院 教授 河盛 隆造

 「糖尿病」は今やきわめてありふれた病気になりました。しかし何故糖尿病を発症するのか、その予防は?的確な治療法は?などに関して残念ながら一般の方々に正しく理解していただいている、とはいえない状況ではないでしょうか。

 体の中では、食事や運動といった日常の行動に直ちに対応し、元の安定した状況に戻すシステムが働いています。運動すると筋肉が血液中のブドウ糖を積極的に取り込み、それをエネルギーに変えて長時間でも活動し続けることができます。ブドウ糖は脳、神経をはじめ全身細胞のエネルギー源ですから血液中で減少しては困ります。そこで肝臓が的確な率で絶えずブドウ糖を放出して、血液中のブドウ糖レベル(血糖値)を一定に保ちます。このように巧みな調整は、膵臓から分泌されるホルモン、インスリンが筋肉にブドウ糖を取り込ませ利用することと、同じく膵臓から分泌されるホルモン、グルカゴンが肝臓からのブドウ糖放出を高めることによって行われます。

 一方、私どもは絶えず暴飲暴食しますが、血糖値が上昇し過ぎて尿中にブドウ糖が漏れ出る(尿糖が出る)ことはありません。胃腸に流れ込んできた食物は、胃の裏にある膵臓から大量に分泌された消化液により、糖質、タンパク、脂肪などがミキサーに掛けられたようになり分解され、吸収されやすくなります。「糖質」は炭水化物とも呼ばれ、主に穀類、イモ類、豆類などの食物に含まれるでん粉が主成分です。食事から摂取されると唾液や膵液のアミラーゼにより分解され、最終的にはブドウ糖と果糖になり血液中に吸収されます。ブドウ糖と果糖は肝臓に流れ込みます。一方、食事を摂ったという情報が腸、脳を経て直ちに膵臓に伝わりインスリンが分泌されます。肝臓にはブドウ糖とインスリンが流れ込み、肝臓はブドウ糖の放出を抑え、同時にブドウ糖を取り込みます。肝臓を通り抜けたブドウ糖により全身の血糖値が上昇しますが、インスリンの働きによりブドウ糖は筋肉をはじめとする全身細胞でエネルギー源として利用されるのです。その結果、食後に少し上昇した血糖値はすぐに食前の値に復します。すなわちインスリンの分泌量や、そのインスリンがどのように全身細胞に働いているか、により血糖値が規定されています。“糖尿病”になった場合には、このシステムのどこかが破綻し血糖値が高い状況が続いているのです。

 糖尿病が発症するまでの一般的な経過を説明しましょう。過食や運動不足が続くと、余分な栄養素は脂肪として内臓脂肪組織、肝臓、筋肉などに蓄えられます。この脂肪が臓器でのインスリンの働きを弱め、ブドウ糖の利用を低下させます。過食が続いて血糖値がわずかであれ高めの状況になると、膵臓はがんばってインスリンを分泌し続けます。分泌されたインスリンが摂食した栄養素を全て利用させるので、ますます肥満を助長させることになりますが、糖尿病にはなりません。ところがこのような状況が続いていると、インスリンを分泌している膵β細胞はフル回転しているうちにオーバーワークとなり、インスリンを分泌できなくなってきます。そのため血液中にブドウ糖がだぶついて、血糖値が高い状況になります。「血糖値が高いということはエネルギー源であるブドウ糖が多いことだからいいでしょう」と質問なさる患者さんもいますが、細胞の内ではエネルギー源であるブドウ糖がうまく利用されず、むしろエネルギー不足となり全身の細胞の機能異常を引き起こしてくるのです。加えてインスリンによりコントロールされている血液中の脂肪レベルも同様に高くなってきます。このような血糖値が高い、脂質が高い状態が続いていても症状は全くありません。

 しかし、高血糖の状態が続くと、網膜や腎臓、神経などに栄養を与えている細い血管が特異的に障害され、視力低下につながる「網膜症」や腎機能が低下する「腎症」、手足の指先がしびれたり感覚が鈍くなる「神経障害」などの症状を起こしやすくなります。また、高血糖に脂質異常症が重なると、動脈硬化が早く進行し、脳梗塞、心筋梗塞の引き金となり、生命の危険にもつながります。


 糖尿病は、中高年の肥満の方に多いと思われがちですが、最近は、30代で発症するケースも珍しくありません。さらに子どもにも、大人と同じタイプの糖尿病の発症が増えています。その背景には、若くても過食や運動不足など生活習慣の乱れがあるものと推定され、より早期発見の重要性が増しています。


 「糖尿病はブドウ糖の摂取過剰で発症する、だから糖質を避けるべきである」、という風潮があるようです。そのような誤解が生じる原因の一つに、「経口ブドウ糖負荷試験」が糖尿病の早期発見や、糖尿病の状況を把握するためによく行われることがあるかもしれません。この試験では75gもの大量のブドウ糖を液に溶かして一気に飲んでもらい、その後の血糖値の上昇度やその際の血液中のインスリンレベルを測定して、その時点での体内での“糖処理能力”を精密に調べる検査です。でもこの検査結果が日常生活下での血糖値の動きを反映しているとは、考えにくいですね。私どもがふだんの生活の中で一度に75gものブドウ糖を飲むことはまずないのですから。コーヒーに砂糖をいれておいしくいただく際のブドウ糖量はわずか2〜3g程度にすぎないのですから、経口ブドウ糖負荷試験はあくまで「負荷」試験であるとご理解ください。


 この50年に糖尿病患者数は50倍に激増しました。その理由として常に過食、運動不足が挙げられます。しかし国民一人当たりの一日平均摂取エネルギー量は実は減少し続けています。砂糖の摂取量もこの30年間減少し続けています。一方では脂肪摂取量が激増しているのです。

 したがって、糖尿病を予防する、一度発症した糖尿病を再び糖尿病でなかった時期に戻す治療法として日本糖尿病学会は、バランスのとれた食事内容と摂取エネルギー量を推奨しています。具体的には高脂肪食を控え、適度に糖質を摂ることです。

 前述したように、糖質とは穀類、イモ類、豆類、野菜、根菜類、果物、菓子類などに含まれています。食事で摂る糖質は消化酵素で徐々に分解されブドウ糖となりますので吸収されるまで時間がかかります。さらに野菜や穀類には食物繊維が多く、これらは糖質の分解・吸収を緩やかにする働きがあります。食事では同時に脂肪やタンパクを摂ります。脂肪は糖質の分解を遅らせるのです。すなわち、良く噛み時間をかけて種々の内容物を摂る際にはブドウ糖の吸収はさほど速くありません。もし、糖質を控えた食事にすると、相対的に脂肪やタンパクを多く摂らざるをえません。脂肪はインスリンの働きを低下させますし、タンパクが分解されたアミノ酸は膵臓からのグルカゴンの分泌を高めて、むしろ血糖値を上げる方向に作用します。すなわちバランスのよい食事を摂っていると、食後に肝臓に向かって流れ込むインスリン・グルカゴン・ブドウ糖のカクテルの比率が理想的であり、肝臓がブドウ糖を的確に処理することになります。糖尿病の発症予防に、さらに治療法として、食事の摂り方がますます大切になっていることをお気付きいただける、と思います。


 「糖尿病の発症イコール砂糖の取り過ぎ」のように言われる場合がありますが、糖尿病は遺伝や生活習慣、ストレスなどさまざまな要因によって起こる血液中の高血糖が原因で、腎臓から糖が尿中に漏れ出ている状況を表しています。

 また、砂糖と糖質は同義ではなく、ブドウ糖とも異なります。砂糖は果糖とブドウ糖に分解されますが、果糖がブドウ糖の吸収を遅らせることも解ってきました。

 実は砂糖には多くの利点が認められています。砂糖の「甘さ」は人間が本能的に求める味で、脳は活性化し心身ともにリラックスする、意欲が高まることが知られています。

 日本料理の旨み文化は、砂糖と醤油によりもたらされています。砂糖はさまざまな調理特性を有しています。親水性、保水性を保つ、防腐効果、油の酸化を防止する、気泡を安定化させる(メレンゲ)、ジャム、マーマレード作りに利用されるようにゼリー化作用がある、焼き色、照り、つやなどをつける、など視覚的にも美しい食事にしてくれるのです。

 2型糖尿病(注)の治療は、血糖値をコントロールすることが目的ではありません。究極的に、(1)糖尿病に特有とされる糖尿病性細小血管障害や、糖尿病に多発する心筋梗塞や脳梗塞の発症・進行を防止することになります。(2)もう一つ、大切なことは「膵臓のインスリン分泌能力をいつまでも長持ちさせる」ことです。このおかげで安定した良好な血糖コントロールを維持することが可能となります。なぜなら、分泌されたインスリンはまず肝に流入し、肝でその作用を発揮するからです。インスリン分泌を有効利用して血糖値を食後も高値にしないことが、結果的に(1)の血管障害を防止することになります。

 食事内容に関心を持ち、満足して楽しんでいただくこと、砂糖と糖質とは同義語ではないこと、など理解し、家族ぐるみで予防や治療に取り組んでいただきたく思います。


(注)
1型糖尿病:膵臓のインスリンを出す細胞(β細胞)が破壊され、インスリンの絶対的不足が生じることにより発症する。自己免疫疾患やウイルス感染などにより小児や若年層にも発病する。

2型糖尿病:全身細胞でのインスリンの働きが低下して、インスリンの需要量が増加しているのに、十分なインスリン分泌が見られなくなっているため、高血糖が引き起こされる。糖尿病患者の大部分はこのタイプ。
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