ロシアにおける最近の砂糖需給動向
最終更新日:2012年2月10日
ロシアにおける最近の砂糖需給動向
〜2011/12年度は増産により輸入量が大幅減少の見通し〜
2012年2月
調査情報部
ロシアは砂糖の年間消費量が600万トン近くに達する世界有数の消費国であり、国内生産の不足を補うため、ブラジルなどから粗糖を中心に毎年200〜300万トンを輸入している。しかし、2011/12年度は、てん菜の増産を背景に砂糖生産量が例年を大幅に上回り、輸入量の減少が見込まれるなど、ロシアの砂糖需給はこれまでと大きく異なる状況となっている。本レポートでは、英調査会社のLMCのレポートなどをもとに、ロシアにおける最近の砂糖需給動向について報告する。
注1:年度は断りがない限りロシア砂糖年度(7月〜翌6月)である。
注2:砂糖の数量は断りがない限り粗糖換算である。
ロシアの砂糖需給動向
ロシアではてん菜を原料として砂糖生産が行われており、主な生産地は中部および南部である。国内には76の製糖工場があり、てん菜生産の大半は大手の砂糖企業と、企業の委託を受けた農家が担っている。砂糖生産量は、ソビエト連邦崩壊に伴う経済混乱と政府の砂糖産業に対する政策の不透明さから1990年代に200万トンを割り込む水準にまで落ち込んだが、2000年代に入ると、砂糖産業への投資が再開されたことで年々増加し、2008/09年度には380万トンに達した。
一方、消費量については、1990年代に食料不足を背景に安価にカロリーを摂取できるパン類や菓子類の需要が伸びたことから、年間600万トンを上回る水準にまで増加した。しかしながら、最近では人口減少の影響を受け590万トン程度で頭打ちとなっている。ロシアは出生率の低下に加え、社会情勢の不安などを背景に平均寿命が低下しており、世界の成長市場として注目されるBRICsの中で唯一人口が減少している。
ロシアは、国内供給の不足を補うため、ブラジルなどから粗糖を中心に年間200〜300万トンを輸入する世界有数の砂糖輸入国である。輸入動向を見ると、国内生産の増加を背景に2008/09年度までは減少傾向で推移していたが、2009/10年度においては、2008年に発生した世界金融危機による投資の減少や天候不順の影響で砂糖生産量が減少に転じ、輸入量が再び増加した。翌2010/11年度は、夏季の深刻な干ばつによりてん菜の単収が著しく低下したため、砂糖生産量は前年度をさらに下回る300万トン(前年度比14.3%減)に減少し、輸入量は330万トン(同23.4%増)と前年度から大幅に増加した。
2011/12年度の砂糖生産量はてん菜の豊作を背景に前年度比約2倍に増加
ロシアでは、2011年7月下旬に2011/12年度の製糖が開始された。ロシア砂糖生産者組合によると、12月末までの砂糖生産量は456万トン(白糖換算;粗糖換算では約492万トン)に達し、前年同期と比べ69%増加した。砂糖の大幅な増産は、原料となるてん菜の生産量が前年度から大幅に増加したことによる。前年度のてん菜生産量は、砂糖価格の高騰と政府の生産奨励策
注を背景に作付面積が増加したものの、夏季に深刻な干ばつが発生し、単収が1ヘクタール当たり19.3トンに落ち込んだため2240万トン(前年度比10.1%減)に減少した。しかし、2011/12年度は、作付面積がさらに増加し、また、好天により単収は同39.1トンと前年度から大幅に増加すると見込まれることから、てん菜生産量は前年度比約2.3倍の5050万トンに増加の見通しである。なお、作付面積の9割は11月末までに収穫が完了したとされる。
注:詳細については、砂糖類情報2011年9月号需給レポート「
ロシアにおける最近の砂糖需給動向」を参照されたい。
2011/12年度の砂糖生産量は、前述の通り12月末までに約492万トンに達し、既に過去最高の水準となっている。2011/12年度の最終的な砂糖生産量については、前年度からほぼ倍増の570万トンの見通しである。しかし、11月に入り低温で土壌が凍結したため、一部のてん菜は収穫することができず、その結果、砂糖生産量を押し下げる可能性がある。また、収穫後、製糖処理が行われるまで貯蔵されるてん菜の保存状態も最終的な砂糖生産量に影響を及ぼす可能性がある。これは、凍結状態で貯蔵されたてん菜が、その後の気温上昇などで融解すると急速に腐敗して糖度が著しく低下し、砂糖生産に使用することができなくなってしまうためである。2011/12年度においては、てん菜生産量が例年の水準から急激に増加した結果、製糖工場の処理能力が不足しており、貯蔵期間が以前と比べ長くなっているため、てん菜の保存状態が悪化する可能性が高い。
このように、2011/12年度の砂糖生産量は、今後の天候やてん菜の保存状態で多少増減の可能性はあるものの、過去5年間の平均(340万トン)を大幅に上回り、過去最高となることは確実な状況となっている。増産に伴い、輸入量は50万トン(前年度比85.9%減)と過去5年間の平均(290万トン)を大幅に下回る見通しである。一方で、輸出量は30万トン(同92.3%増)に増加すると見込まれ、輸出先は近隣の中央アジアやコーカサス地方諸国が中心になるとみられている。世界有数の砂糖消費・輸入国であるロシアの砂糖需給は、例年とは大きく様変わりしている。
増産により国内砂糖価格は下落
ロシアの国内砂糖価格は、国際価格に連動しつつも、可変輸入関税制度によって高い水準に維持されている。この制度は、国際価格の低迷時に高額の関税を設けることで国内のてん菜生産者を保護することを目的としており、関税は国際価格に反比例する。ただし、国産原料由来の砂糖が販売される時期には高く、輸入粗糖の精製が行われる時期には低く設定される仕組みとなっている。すなわち、8月1日から4月30日までの期間は、関税の上限が1トン当たり270米ドル、下限が140米ドルとされ、5月1日から7月31日までの期間は、上限が同250米ドル、下限が50米ドルに引き下げられる。関税は毎月、前月のニューヨーク粗糖市場の先物平均価格に基づいて設定されている。なお、制度の対象となっているのは粗糖だけであり、白糖には年間を通して高い固定関税が適用されている。
ロシアの国内価格は、2009年以降、国際価格の高騰と同国の減産による国内需給のひっ迫を背景に上昇基調で推移し、2011年4月には1トン当たり3万4290ルーブル(約9万1897円、1ルーブル=2.68円注)に達した。国内価格を抑制するため、政府は通常5月に行う粗糖の輸入関税引き下げを3月に前倒しして実施することで輸入の促進を図った。その後、国際価格が下落に転じたこと、また、2011/12年度の生産が例年を大幅に上回り供給が増加したことを受け、国内価格は8月以降続落し、12月時点で1トン当たり2万5000ルーブル(約6万7000円)とピークの4月から3割近く下落した。政府は、国内生産の増加を受け、2012年5月〜7月においては輸入関税の引き下げを行わない方針である。
資料:LMC “Monthly Sugar Report, January 2012”
注:TTS相場12月最終日
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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