国際砂糖需給とEUの砂糖制度
最終更新日:2012年2月10日
国際砂糖需給とEUの砂糖制度
2012年2月
調査情報部 審査役 河原 壽
上席調査役 脇谷 和彦
特産業務部砂糖原料課 課長代理 緒方 芳明
【要約】
・ISOの予測によれば、2020年における世界の砂糖消費量は人口と収入の増加などにより2億トンを超えると見込まれ、これを賄うために生産量は2900万トンの増加が必要の見込み。
・必要増加量は主にブラジルとインドによりカバーされる見込みであるが、これまで以上に他の多くの国々の役割が増す見込み。
・ブラジルの2011/12年度の砂糖生産量は、2008年金融危機による新植割合の低下の影響で、2005/06年度以来の減少となる見込みで、2〜3年をかけて回復を目指すと思われる。
・インドの2011/12年度の砂糖生産量は、前年度に続き消費量を上回り2800万トン台の高水準となる見込み。その一方、国内価格の下落により一部でさとうきび代金の支払い遅延が発生し、砂糖生産量が減少に向かう兆し。
・EUでは、2011年10月に欧州委員会が2015年以降の砂糖生産割当廃止を提案。それに対し関係業界間、各国間で様々な反応が表出。今後の議論の行方は不透明。
はじめに
近年の国際砂糖需給は、新興国の人口増加・経済成長に伴う消費量の増加を背景に、天候不順等による主要国の砂糖生産量の変動により不安定な様相を示し、国際砂糖相場も上昇・下降を繰り返している。
このような状況下、2011年11月にロンドンで開催された国際砂糖機関(International Sugar Organization:ISO)セミナーに出席し、主要国における最近の砂糖の需給動向および中期的な見通しについて情報を収集した中から、ブラジルおよびインドの動向とともに、最近新たな取組みにより生産量の回復を目指すキューバの動向について報告する。
また、EUについては、2006年からの砂糖制度改革に伴って砂糖生産量・輸出量が急減し、このことが近年の国際砂糖価格高騰の一因とされる中、2011年10月に欧州委員会から議会に提出された2013年以降の共通農業政策(CAP)改革に関する提案の中では、2015年以降砂糖の生産割当を廃止するという内容が盛り込まれた結果、砂糖生産量が再び増加する可能性が生じており、今後の国際砂糖需給への影響が注目されている。こうした中、各関係者に対して実施した砂糖制度への対処方針などに関する聞き取りに基づき、今後の砂糖制度の方向性について考察する。
なお、断りのない限り、本稿中「T 主要国の動向」中の砂糖数量は粗糖換算、「U EU砂糖制度の情勢」中の砂糖数量は白糖換算である。
T 主要国の動向〜ISOセミナーにおけるプレゼンテーションから〜
1.世界砂糖需給の中期的見通し
〜ISO〜
ISOの中期見通しによれば、世界の砂糖消費量は2012年の1億6800万トンから今後年間約2%のペースで増加し、2020年には2億100万トンに達すると見込まれている(図1)。主な増加要因は人口と収入の増加で、これに国内価格および異性化糖など代替甘味料の動向が影響すると考えられている。著しい増加が見込まれる地域は東アジア、オセアニアおよび南アジア(注1)で、2020年までのこれらの地域の増加量を合わせると、世界全体の増加分の約60%を占めると予測される。
一方、2012年の生産量については1億7200万トンと見込まれており、2020年に上記の消費量2億100万トンを満たすためには、2000年代と同様の伸び率(年間約1.9%)を保ちながら、今後2900万トンの増加が必要であるとしている。
2020年における主要生産国としては、引き続きブラジルとインドを予想し、これら2カ国で上記必要増加量2900万トンのうち1050万トン(ブラジル800万トン、インド250万トン)を担うとしているが、ブラジルについては、肥料代、土地借料、農機具費、種苗費、土地借料など物財費の上昇(注2)により世界における砂糖生産量のシェアの伸びは今後頭打ちとなることが予想され、インドについては、依然中央政府の価格政策による影響を受け、砂糖生産量が大きく変動する可能性があるとしている。一方、他の多くの国々でも生産量が増加し、これら2カ国以外の世界中のいろいろな地域が必要増加量1850万トンを担うと予想している。
(注1)南アジア:アフガニスタン、バングラデシュ、インド、モルジブ、ネパール、パキスタン、スリランカ
(注2)ISO “Input Costs in Sugarcane and Sugarbeet Farming”によれば、ブラジルのさとうきび処理量の約3割を対象とした調査では、2010/11年度の物財費は2007/08年度と比較して21%の上昇(レアル換算、ドル換算では28%上昇)となっている。
2.主要国砂糖需給の中期的見通し
(1)ブラジル〜DATAGRO社〜
ブラジルは世界最大の砂糖生産国である。1990年代から急速に生産量、輸出量が増加し、2010/11年度における生産量は世界の約1/4、輸出量は約4割のシェアを占めている。ここ数年砂糖生産量は過去最高値を更新してきたが、2011/12年度については2005/06年度以来6年ぶりに減少する見込みである。
ブラジルの調査会社DATAGRO社によれば、生産量減少の主な要因は、2008年の金融危機の影響により、さとうきびの新植割合が減少した結果、単収が低下したことである。金融危機によりさとうきび産業への投資意欲が低下して業界は資金不足となり、新植よりコストが低い株出栽培(収穫株からの萌芽を育てて栽培する作型)を選択するケースが増えたが、株出回数が増えると地力が低下し、病害虫の発生が多くなって収量が次第に減少するため、結果的に単収が低下することとなった。
ブラジルではさとうきび植え付けてから3年弱の間に次の新しい種苗に植えかえることが望ましいとされているが、主産地サンパウロで2011/12年度(4月〜10月)に収穫されたさとうきびの通算栽培年数は平均3.8年にも達した。また、通常15〜17%である新植割合が、最近は9〜14%に落ち込んでいる。
その他の要因としては、 (ア)最近3年(2009〜2011)間の乾燥した天候、(イ)2011年6月に発生した出穂(注3)、(ウ)2011年8月に発生した降霜、(エ)機械化収穫による収穫ロスの増加などが挙げられている。
この結果、2011/12年度の砂糖生産量は、前年度の3860万トン(ISO、2011年11月現在)から3520万トン(同)へと減少する見込みである。
株出年数の増加と天候不順は、2012/13年度に収穫されるさとうきびの生長にも影響し、3月から4月にかけては十分登熟したさとうきびを収穫できない恐れがある。このため生産性を犠牲にして運転資金収入を重視する製糖業者が、4月から製糖を開始するとみられる。また、2012年の2月から3月にかけ、栽培期間18カ月のさとうきび植え付けが大規模に計画されていることもあり、2012/13年度の収穫開始は遅くなると予想される。
このようなことから、2012/13年度はさとうきび生産回復へ向けての過渡期となることが予想され、2〜3年をかけて回復を目指すことになりそうである。
(注3)出穂自体は通常の生理現象で、日本では出穂による損失が発生するケースはほとんどないが、ブラジルでは発生時期によって減収要因となる場合がある。
(2)インド〜インド砂糖製造者協会〜
インドは世界第2位の砂糖生産国、世界最大の消費国であり、世界の砂糖需給に大きな影響を及ぼす。同国では、多くの生産地域で水の供給がモンスーン時の降雨量に左右される不安定な生産である上、中央政府による価格政策(Statutory Minimum Price、2010年よりFair Remunerative Price)などに起因するシュガーサイクル(注4)があり、数年を1サイクルとする作付面積および生産量の変動がみられ、さらに、このシュガーサイクルに気象変動などが加わって、豊作年には輸出国、不作年には輸入国となり、世界市場にとってのかく乱要因となっている。2003/04年度および2004/05年度には純輸入国であったが、2005/06年度から2007/08年度は国内砂糖価格の上昇により国内生産が増加し輸出国に転じた。しかし、2008/09年度以降は供給過剰による砂糖およびさとうきび買付価格の下落を反映した生産者の生産意欲減退、穀物価格高騰によるさとうきびから小麦や米などへの転換、2年続けてのモンスーン期の少雨による生産量の大幅な減少から輸入国に転じた。特に2009/10年度には輸入量が400万トンに達し、国際価格高騰の大きな原因の1つとなった。 (注4)製糖会社の販売価格である市場価格が、最低農家支払価格である政策価格を下回ると、製糖会社は赤字となり農家へのさとうきび代金の支払いが滞るため、農家は収益が減少し、さとうきび作付面積を減少させたり、伝統的含みつ糖であるグル、カンサリの製造に仕向けるなどする。他方、市場価格が上昇すると、農家支払価格も上昇するため、農家はさとうきび作付面積を増加させる。このような、市場価格と政府価格という二重価格に起因したサイクル。
2010/11年度については、国際砂糖価格高騰の影響で作付面積が増加して3年ぶりに生産量が消費量を上回り、2430万トン(ISO、2011年11月現在)となった。2011/12年度についても作付面積の増加とモンスーン期の降雨量に恵まれ、前年度を上回る2810万トン(同)が見込まれる。その一方、政府が定める公定さとうきび価格(製糖工場が農家からさとうきびを買い付ける際の最低価格)はここ数年上昇を続けて高水準であるのに対し、国内砂糖価格は2009年後半〜2010年初頭の高騰時に比べて下落しており、一部の工場でさとうきび代金の支払い遅延が発生している。このため、今後さとうきび生産者の生産意欲が低下して作付面積・さとうきび生産量が減少し、砂糖生産量も減少に転じる可能性がある。
インド砂糖製造者協会(ISMA)によれば、人口増加などによって国民1人当たりの砂糖消費量は今後増加傾向で推移すると予想される一方、砂糖生産量については、灌がい設備の不足と手刈り収穫による生産効率の低さが影響して増加率は緩慢であるとし、2020/21年度には、生産量が消費量を下回る可能性もあると予想している。
(3)キューバ砂糖産業の新たな展開 〜キューバ砂糖省〜
キューバはかつて世界の主要砂糖生産国・輸出国であった。1980年代には、キューバの砂糖生産量は800万トンを超えて世界第3位、輸出量は700万トン前後で世界第1位であり、その生産動向は国際砂糖価格に大きな影響力を持っていたが、1990年代のソビエト連邦の崩壊などによりキューバ経済は大きな打撃を受け、砂糖生産量が減少し、輸出量も激減した。2002年にはキューバ革命以前に建設された生産効率の低い工場を中心に95の工場が閉鎖された。現在の工場数は56、さとうきびの収穫面積は93万4000ヘクタールとなっている。
ISO Sugar Year Book 2011によれば、2010年のキューバの砂糖生産量は125万トン、輸出量も50万トン程度となっており、依然低水準が続いている。
このためキューバでは、より効率的な砂糖産業の運営を目指し、同産業の再編成計画が進行中である。同産業の重要課題としては、以下のような事項を挙げている。
(ア)灌がい設備の整備などによるさとうきびの増収
(イ)生成エネルギー、家畜飼料などの副産物や、アルコール、飲料など付加価値のついた商品による事業の多角化、輸出の強化
(ウ)海外資本の導入による中長期的な経営設計
このような課題に対する検討の結果、砂糖省に代わり新たな会社組織が設立された。この決定はキューバ経済と国営産業の改善モデルの一つとも言える。
新しい砂糖企業グループはAZCUBAという略称で、13の企業とそれらが運営する56の工場を統括する。さとうきび生産については、大部分が協同組合組織によって行われ、高収量と生産効率の向上を目指すこととしている。生産性向上のため協同組合数は2010年の939から2011年の6月には814に再編された。
キューバの砂糖産業界としては、2016年までの目標として以下の事項を掲げている。
(a)単収を年15〜20%させ、1ヘクタール当たり45トンを目指す。
(b)投資を灌がい設備の整備に集中し、灌がい面積比率を9%から27%に向上させる。また、農場からの輸送路を整備し、輸送車両を更新する。
(c)砂糖を増産し、生産量250万トン、輸出量180万トンを目指す。
(d)エネルギー効率の向上を図り、余剰電力を売却する。また30メガワットのコジェネレーションプラントを立ち上げる。
(e)製糖工場のオートメーション設備を強化し、砂糖製品の品質向上を図る。
(f)各種家畜飼料、アルコール、ソルビトール、その他バイオテクノロジーを利用した農業資材などの生産により多角化を図る。
このように、キューバは砂糖生産回復に向けて新たなステップを踏み出し始めた。その効果が表れるかどうか結果が明らかになるのはこれからであるが、現在のさとうきび単収が国際的にかなり低い水準であることなど、生産性向上の余地は一定程度存在することから、今後の同国の生産動向が注目される。
U EU砂糖制度の情勢
(1)EUの砂糖制度改革
2006年のCAP(共通農業政策)改革以降、生産割当の削減などの政策の変更を受け、砂糖生産および輸出量が大幅に減少し、EUは世界砂糖市場において主要輸出国(地域)から主要輸入国(地域)に転換した。
2006年改革以前では、高水準の価格支持(最低保証価格の機能を持つ介入価格により無制限の介入買入を行う)により生産過剰となっていたが、介入価格を2006/07年度〜2009/10年度の4年間で36%引き下げた基準価格に代替し、市場価格が代表的期間において基準価格を下回った場合、生産割当を受けている製糖企業に対して白糖の民間在庫のための助成を行うことができる民間在庫助成に移行した。この砂糖価格の引き下げに伴い、てん菜価格も39.5%引き下げられた。
一方、EUは、世界の48後発開発途上国(LDC)に対し大幅な通商上の特典を与えるプログラムに基づき、2001年2月にLDCからの武器を除く輸出に対し原則的に輸入割当や関税を撤廃するEBA(Everything But Arms)措置を導入し、砂糖については段階的な無税枠の増加を経て2009年10月に数量制限を全廃した。ACP諸国に対してもEPAに基づき350万トン(2010/11年度)の無関税輸入割当が措置されている(注5)。
(注5)2014/15年度までの間、以下の要件を同時に満たした場合、セーフガードが発動することになっている。
(a) LDC諸国を含むACP諸国からの輸入量の合計が350万トンを超えたとき
(b) LDC以外のACP諸国からの輸入量が一定量(2010/11年度:145万トン、2011/12年度以降:160万トン)を超えたとき
このようなACP/LDC諸国に対する恵国待遇による輸入増加を前提に生産調整が実施され、生産割当数量は2010年9月までに600万トン(異性化糖、イヌリンシロップを含む)の削減が目標とされ、580万トンが削減された。このような改革は、支持価格の大幅な引き下げを補償するための直接支払いの導入、農業者および製糖業者への暫定的構造調整制度の導入において実施された。
なお、介入価格から36%の引き下げとなった基準価格によるEU域内の砂糖価格の引き下げは、ACP諸国からの保証輸入価格にも適用されることから、ACP事務局はACP諸国への利益を損なうことへの懸念を表明しており、ACP諸国の輸出量は、国内消費量の増加もあるが、砂糖国際価格が高騰する以前の2009/10年度までは低迷が継続した。
(2)最近の需給動向
EUの2011/12年度砂糖生産量は、てん菜の作柄が良好で前年度から増加が見込まれるものの、現在の砂糖制度においては国内消費仕向け量が定められており、生産割当を超える生産量は輸出量または翌年度生産割当量に繰り越し、工業用原料とされることから輸出が増加する見込みである。一方、輸入量は前年度を下回ることが見込まれている。欧州委員会によれば、国際砂糖価格の高騰により、無関税で輸入されるACPおよびLDC諸国からの輸入量が、想定される量(350万トン:ACP諸国の輸入割当数量)を下回ったことによる。このため、EU域内における需給は、タイトに推移している。
このような中、2011年10月、欧州委員会は、2015年以降において生産割当およびてん菜最低買付価格を廃止する砂糖制度改革案を公表した。この改革により域内の生産量の増加、砂糖価格の低下が予想されており、生産割当制度の廃止に伴うWTOの輸出制限枠(137.4万トン)の撤廃により自由な輸出が可能となるとしている。
(3)2015年度以降における新しい提案について
(a)概要
欧州委員会は、2011年10月12日に2013年以降の共通農業政策(CAP)の改革案を公表し、その中で、現行の生産割当制度の適用期間(2015年9月)終了後、てん菜糖の生産割当制度やてん菜の最低価格を廃止する提案を行った。より競争原理を導入することで砂糖産業の競争力を高めるとしている。
欧州委員会の今回の提案に関する研究報告書(注6)によれば、生産割当を廃止した場合、てん菜の生産はより生産効率の高い地域に集約され、てん菜糖の生産量増加と価格の低下による競争力の向上が期待できるとしている。
(注6)Impact Assessment Report SEC(2011)1153
また、異性化糖についてもこれまで生産割当が設けられていた(表2)が、これについてもてん菜糖とで同様に廃止の提案がされている。
(b)生産割当等の廃止に対する関係者の見解
各業界の生産割当制度廃止提案に対する意見の骨子は以下のとおりである。
(ア)CEFS(欧州砂糖製造者協会):域内砂糖安定供給のため、生産割当制度は必要。
(イ)CIBE(欧州てん菜生産者連盟):生産割当を廃止すれば、価格下落による収益性の低下により、てん菜産業は大打撃、てん菜生産は減少の予想。
(ウ)ESRA(欧州精製糖業者協会):精製糖産業とてん菜糖産業との公平な競争の保証を希望。
(エ)CIUS(欧州砂糖需要者委員会):域内の需給ひっ迫問題の解決につながると歓迎。
(オ)ACP/LDP:生産割当廃止は、自国の砂糖産業に打撃と批判。
聞き取りを行ったてん菜糖企業の中には、生産割当の撤廃自体はメリットがあるものととらえている者もみられた。また、欧州におけるてん菜糖製造に係るコスト水準はブラジルに近づきつつあることから一定の国際競争力は有していると認識し、増産が可能になることによるメリットはあるととらえている声もあった。
一方、てん菜生産者は、生産割当が撤廃されることと引き換えに最低価格がなくなることに対し不安を抱えているとし、てん菜糖企業としては、生産者の意見を考慮した場合、生産割当を維持したい、との意見もあった。
精製糖企業においては、ビート糖の生産割当が撤廃された場合、ACP/LDC諸国以外からの粗糖の輸入関税が現状のままであった場合、事業が立ち行かくなることを危惧しており、欧州委員会の政策立案者や政府に対して、関税の撤廃を要望している。
また、欧州の砂糖業界自体てん菜糖企業が大部分を占めるため、精製糖企業は、てん菜糖企業の主張が欧州委員会における今後の政策に反映されてしまうことに対して危機感を抱いている。
また、てん菜糖企業、精製糖企業とも、異性化糖の生産割当廃止によって、異性化糖需要が増大し、砂糖需要に影響が及ぶのではないかとの懸念を抱く声があった。
EU加盟国の中には、生産割当制度の継続を望む声もあり、2011年11月14日に開催されたEU農相理事会においてハンガリーが行った、2020年まで現行の生産割当制度を継続する提案に対し、EU域内でてん菜糖生産量第1位のフランス、2位のドイツを含む11カ国がが支持を表明した。イギリスは、粗糖の輸入関税を撤廃することが条件で欧州委員会提案に賛成となっている。
また、ポーランドは本来継続案に賛成のスタンスであったが、EUの議長国である立場から、中立の立場をとった。
(4)今後の見通し
前述のとおり、砂糖生産と域内の砂糖供給の安定には、生産割当制度およびてん菜最低価格の維持が不可欠との認識が強いと推察されるが、乳製品の生産割当が2015年に廃止されることが決定している中、砂糖についてのみ生産割当制度が残る可能性についての疑問もあり、関係者の中では2015年〜2020年の議論の中で決定されていくのではないかとの見解も聞かれた。
おわりに
ISOのセミナーにおいては、新興国における砂糖消費量が増加していくとの見通しの中、国際砂糖需給においてこれまでメインプレーヤーであったブラジル、インドばかりでなく、他の多くの国々も砂糖生産量を伸ばして国際需給への影響力を強めていくとの見通しが示され、国際需給動向に対するウエイトが上記2カ国からそれ以外の国々へ分散していく可能性が感じられた。
こうした状況の中、EUは、2006年のCAP(共通農業政策)改革により輸出国から輸入国へと転換し世界の砂糖需給に大きな影響を与えたが、2015年以降の改革によっては再び輸出国に転換する可能性もある。また、てん菜糖の生産割当の廃止に併せて異性化糖の生産割当も廃止される案となっており、2011年11月の英国砂糖企業の調査によれば、異性化糖の生産量が、現在の生産割当数量69万トンから約300万トンの砂糖に相当する量に増加する可能性もあり、砂糖の需給バランスに影響することも危惧されている。
EUの砂糖制度の改革および改革に伴うACP諸国への支援体制は、世界の砂糖需給に大きな影響を与えることから、今後のEUの砂糖制度改革の方向が注目される。
主な参考文献
1.是永東彦「EU共通砂糖政策の改革とその影響」、農林水産省ホームページ(主要国・地域の農業情報調査分析報告書平成18年度)
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h18/pdf/h18_europe_01.pdf
2.是永東彦「EUの砂糖制度をめぐる最近の動向について」、『砂糖類情報』2010年11月号、農畜産業振興機構
http://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000184.html
3.小林弘明「EUの砂糖政策と輸出競争力」、農林水産省ホームページ(主要国・地域の農業情報調査分析報告書平成16年度)
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h16/pdf/h16_europe_08.pdf
4.European Court of Auditors “Has the reform of the sugar market achieved its main objectives?”,2010 special report No.6
http://eca.europa.eu/portal/pls/portal/docs/1/5996726.PDF
5.European Commission "Commission Staff Working Paper, Impact Assessment, Common Agricultural Policy towards 2020 Main Report” , Brussels,20.10.2011,SEC(2011)1153 final/2
http://ec.europa.eu/agriculture/analysis/perspec/cap-2020/impact-assessment/full-text_en.pdf
6.European Commission "Commission Staff Working Paper, Impact Assessment, Common Agricultural Policy towards 2020, ANNEX 5”,Brussels 20.10.2011,SEC(2011)1153 final/2
http://ec.europa.eu/agriculture/analysis/perspec/cap-2020/impact-assessment/annex5_en.pdf
7.European Commission “The European Sugar Sector”,2006
http://ec.europa.eu/agriculture/capreform/sugar/infopack_en.pdf
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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