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てん菜及びばれいしょ作付減少の実態とその影響

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最終更新日:2012年3月9日

てん菜及びばれいしょ作付減少の実態とその影響〜清水町を事例として〜

2012年3月

北海道大学大学院農学研究院 准教授 志賀 永一
 

【要約】

 近年、てん菜・原料用ばれいしょの作付面積は減少し、工場操業度の低下・加工費の上昇が懸念される状況となっている。この要因と対応策に関して、北海道・清水町を事例に検討を行った。減少要因は、1)飼料価格高騰による酪農経営の作付中止(デントコーン作付への転換)、2)畑作物における相対的収益性の低下、3)ばれいしょ用途間価格差(加工用へのシフト)、4)てん菜移植栽培の労働負担感(経営規模拡大後の作付比率の低下)、5)価格精算制度の複雑さによる精算期間の遅れ、などであった。畑作地帯では小麦過作状況にあり、連作の容認意識にもよるが、両作物の作付減少下でも、てん菜・ばれいしょ・小麦・豆類の4年輪作の励行は順守されていると判断された。これ以上の作付減への対応として、価格引き上げが求められるが、先の減少要因を緩和するために農家への価格精算制度の改善なども求められる。

1.北海道における作付動向

 てん菜、でん粉原料用ばれいしょ(以下、原料用ばれいしょ)の作付は北海道に限られるが、小麦、豆類などの畑作物生産を行う畑作経営が数多く存在する北海道農業にとっては、輪作励行上必要不可欠な作物である。しかしながら、このてん菜、原料用ばれいしょの作付が減少を続けている。2000年、05年、09年の作付面積を順次示せば、てん菜は6万9109ha→6万7501ha→6万4442ha、原料用ばれいしょは2万95ha→1万9690ha→1万5965haである。2000年対比の09年の作付面積指数は、てん菜93、原料用ばれいしょ79である。

 ところで、てん菜、原料用ばれいしょは十勝ならびに網走地域が主産地であり、両地域の北海道におけるシェアはてん菜で83%、原料用ばれいしょで96%である(09年)。この主産地においても作付面積は減少しており、09/2000年の作付面積指数をみると、てん菜は十勝90、網走96、原料用ばれいしょは十勝81、網走92であり、主産地においても減少していることが確認できる。

 そこで、本稿ではてん菜・原料用ばれいしょの作付実態を検討し、これら作物の減少要因ならびにその影響を考察する。以下検討の事例は十勝地域の清水町とした。

 清水町は十勝地域19市町村の中でてん菜・原料用ばれいしょの作付面積は10位以内で作付面積は多く、2000年対比で09年の作付面積指数はてん菜82、原料用ばれいしょ71(ばれいしょ全体では108)である。両作物の作付減少要因を考える事例として適している。また、後述するように両作物の減少には酪農家の作付行動が関連しているとの指摘があり、2009/00年のJA毎の飼料作面積指数をみるとJA十勝清水町では牧草は微減し、デントコーンは増加している。このような作付動向をふまえ事例地域として清水町を選定した注1)

 以下、JA十勝清水町、ホクレン清水製糖工場、JA士幌町澱粉工場注2)などの農業関係機関が把握しているてん菜・原料用ばれいしょの作付減少要因を整理し、その要因をJA十勝清水町の作付や農家調査で確認し、今後の課題を提起することにする。

2.清水町の作付動向と減少要因

(1)清水町の作付概要

 清水町は十勝地域の西部に位置し、道東自動車道の夕張−占冠間の開通により、札幌市へは2時間強でアクセスが可能である。

 清水町の最近20年程の作付動向を図1に示した。牧草作付が最大であることからわかるように、清水町は酪農と畑作が行われている。JA十勝清水町によれば、管内の経営耕地1万4500haのおよそ半分がデントコーンを含めた飼料作であり、残り半分が野菜作を含めた畑作となっている。さて、作付動向に目を転じると、小麦の作付が大きく増加したことを除けば、ほとんどの作物の作付は減少傾向にある。しかしながら、2005年以降に注目すれば、牧草・小麦・てん菜は減少を続けているが、デントコーン・ばれいしょ・野菜類の作付は回復基調にある。
 
 

(2)関係機関の考える減少要因

 農業関係機関はてん菜・原料用ばれいしょの作付減少をどのように考えているのだろうか。把握している減少要因を箇条書きの形で示すと、以下のとおりである。


1)てん菜注3)

・てん菜は播種・育苗作業のため春先から重労働が必要となる。播種から収穫までの期間が長く、1年中拘束されると考えられているのではないか。また、移植作業では家族総出の組み作業が必要となる。地域全体での高齢化進展という事情もある。  

・てん菜は収益があっても労働負担が大きいと考えられている。  

・規模拡大が進み、40haで4作物の輪作のためてん菜を10ha・移植で作付することは、労働負担が大きい。規模拡大した農家では従前の作付割合よりも低位の作付けとなっている。  

・直播は春先の風害などリスクが大きいと考えられている。09年には風害で4ha廃耕となった。  

・手間のかからない小麦が選択される。  

・収量と糖分が高くないと儲からないが、2009・10年と2カ年続きで不作であった。  

・肥料や農薬投入が多いなど、費用のかかる作物であると考えられている。手取り収入が他作物と同水準であっても、労働負担が他作物よりも大きいことからメリットが少ないと考えられている。   

・酪農経営が飼料価格高騰のため、てん菜作付をやめ飼料作を行っている。この背景には、経営所得安定対策などで作付けがなくとも助成金が支払われるという事情があった。経営所得安定対策では固定払い(緑ゲタ)の割合が大きく、単収増が収益性向上につながるという生産意欲を減退させた。  

・てん菜糖64万トンまでの助成という上限設定があり、多収年には収量に見合った収入が得られない経験があった。


2)原料用ばれいしょ  

・加工用ばれいしょ作付が増加し、原料用が減少している。収益性が低いためである。加工用と原料用では2万円/10aほどの売り上げの差がある。  

・固定払い(緑ゲタ)をもらって、加工用や生食用の生産にシフトしている。  

・原料用ばれいしょの処理量減少により、製造費用負担が増加し、農家の手取り収入の減少が懸念される。  

・でん粉工場の排水対策投資の必要性から加工費が上昇し、手取り収入が減少していると理解されている。  

・原料用はオペレータ1人での収穫作業が可能であること、そうか病が懸念される圃場での作付も可能であるなどのメリットもある。

 このほか、両作物に共通した減少要因として、次の指摘があった。  

・価格精算システムが複雑で長期間におよぶこともあり、販売価格が確定できない。このため収益計画を確定できない状況になっている。加工用では年内精算が基本となっている。

 以上のように、収益性の低下、それも他作物に比して相対的な優位性がなくなったこと、農作業・労働力問題、政策・対策上の問題、価格形成システム問題など幅広い指摘があり、さらなる作付減少が懸念されている。


3)生産維持・増加対策

 このような作付減少に対する対応も進められている。JA十勝清水町では、町とともに過去4ヵ年のてん菜平均作付面積からの増加作付に対して1万6000円/10aの奨励金を支払う助成策を行っている。ホクレン清水製糖工場では、生産者アンケートによる減少要因把握や作付拡大に必要となる条件を把握し、生産維持の対策を講じようとしている。

 原料用ばれいしょでは、用途別の価格差・収益差が存在するため生産維持対策は深刻である。生食・加工用生産でも「規格外品」の処理が必要となることから、一定の原料用ばれいしょ生産の義務付けなども対策の一つとして考えられている。2007年には生食用ばれいしょが供給過剰で北海道全体で用途転換対策などを行った経緯があることから、生食用などでの品質基準の強化などによる「規格外品」処理量の増加も考えられている。また、原料用専用品種の開発、そうか病やシスト線虫抵抗性品種開発の期待が強く見られた。


4)てん菜・原料用ばれいしょの収益性

 ここで、てん菜・原料用ばれいしょの作付減少要因のひとつとして指摘された収益性低下、他作物との収益関係を農林水産省の生産費調査によって確認しておく。図2は1997年から2009年の家族労働費と所得の動向を作物ごとに示したものである。図中の右上がりの直線は家族労働費を償えるか否かの「採算線」となる。参考としてコメも示したが、畑作物に注目すれば、2000年ころに採算線前後となる収益低下を向かえ、02年から05年の間は相対的に収益性が向上し、その後07年以降は経営所得安定対策の助成金に頼らなければ家族労働費も償えない状況にあることがてん菜・原料用ばれいしょだけでなく、他の作物にも共通して見て取れる。経営所得安定対策の助成金額が確定できないため、06年までに注目し作物ごとの特徴をみると、大豆は他作物より収益性が低く家族労働費を償えない年次が多い。てん菜は家族労働費が多い、つまり労働時間が多いが、2000年前後に家族労働費を償えないような収益性低下を経験していた。原料用ばれいしょは相対的に変動は小さいが、収益性もあまり高くない状況にあった。こうしたてん菜・原料用ばれいしょに対して小麦は家族労働時間が少ないにもかかわらず、06年までは採算線+1000円以上を保っており、相対的に安定した収益をもたらす作物であった。

 以上のように、過去10年ほどの作物ごとの収益性をみると、てん菜・原料用ばれいしょが優位性を示した年次は数年であり、安定性という点では小麦のほうが優位性を持っていた。このような収益性の動向に農家は敏感に反応したと考えることができる。てん菜・原料用ばれいしょは寒冷地作物であり、冷害時にあっても収量は相対的に安定し、それゆえ収益性が安定し、農家経済の安定のためにも欠かせない作物と考えられてきた。ところが、現実は異なった実態にあり、収益性の安定化が再度検討されなければならないであろう。
 
 
 
 

(3)規模別・経営方式別・拡大対応別の作物選択

 関係機関がてん菜ならびに原料用ばれいしょの作付減少要因として指摘している点をより農家の性格に即して整理すると、ア)酪農家の作付減、イ)規模拡大農家の対従前比の作付減、ウ)大規模層での労働力問題など、があげられていた。

 この点を確認するため、JA十勝清水町の2005年と10年の作付比較を行った。表2がそれである。経営耕地規模別の対応をみると、30ha未満層は農家戸数の減少で10年は05年よりも耕地面積は減少し、耕地面積が増加しているのは30ha以上層であった。てん菜、原料用ばれいしょはすべての階層で作付が減少している。増加しているのは30ha以上層でばれいしょ、20ha以上層で小麦、全階層でデントコーン、50ha以上層で採草となっている。耕地面積を拡大した階層である30ha以上層は、増加した耕地にデントコーン、小麦、ばれいしょの順で作付を増加させたのであるが、てん菜、ばれいしょのうち原料用は作付を減少させていたのである。

 ここで酪農経営の動向を確認するため、10年にデントコーンの作付のある農家、05年も作付のある農家を酪農経営とみなして、その作付変化をみると、経営耕地を増加させているが、作付を増加させたのはデントコーンと小麦のみで、てん菜、ばれいしょ、さらに採草地までも減少させている。飼料価格高騰に対して、畑作作付や採草地まで減少させてデントコーンの作付増加で対応したことがうかがわれる。

 さらに、より畑作専作経営の動向をみるために、デントコーンの作付のない農家を取り上げると、経営耕地規模階層別では小麦、ばれいしょの作付は増加させたが、てん菜は減少し、原料用ばれいしょも減少しており、JA全体の階層別動向と同様の作物選択となっている。そこで経営耕地面積を拡大した農家の対応を、「1ha以上」の拡大、「うち2ha以上」拡大、「うち5ha以上」拡大で区分すると、小麦・ばれいしょは全区分で作付を増加させていることは共通する。また、原料用ばれいしょも増加させている。しかしながら、てん菜の作付は5ha以上拡大した農家で作付増加がみられるだけである。そして、この階層のてん菜作付増加面積も経営耕地の増加面積に比べると極めて少ない。この点は、増加していた原料用ばれいしょも同様である。

 以上のことから、関係機関の指摘にあったア)イ)ウ)は指摘のとおり確認できた。そして、てん菜・原料用ばれいしょの作付減少はJA十勝清水町では全農家に共通した動向であり、経営耕地を拡大した農家で原料用ばれいしょは選択されるが、その増加面積は少なく、てん菜を増加させる対応を行った農家はほとんどおらず、状況は極めて深刻であるといえよう。
 
 

(4)農家の作物選択理由

 これまで検討してきた作付減少要因の確認と他の要因も含めた要因の重要度などを農家の聞き取りから検討する。  事例農家の特徴を表3に、作付概要を表4に示した。表3によれば、No1は小規模な畑酪経営であり、No2・No3は平均規模であるがNo2は畑作4品目を作付し、No3はJAが推進している野菜作付に取り組んでいる。No4は大規模であるが、野菜作にも取り組んでいる農家である。4戸ともに家族労働力は3人である。


 つぎに表4により農家の作付を確認し、作物選択などの理由を検討する。

 No1の作付で特徴なことは、乳牛飼養のために牧草作付があることもあるが、畑作物ではばれいしょの作付がみられないことである。経営の基幹作物は豆であり、その作付間隔を2年以上あけるためにてん菜を位置づけており、てん菜の作付面積に大きな年次変化はない。

 経営の基幹作物が明確であり、輪作の考え方が明確であるならば、作物選択が大きく変わることがないことを示唆する事例である。しかしながら、てん菜は防除作業が多く、1年中休みのない作業が必要で、農薬代もかかり費用のかかる作物という評価をしている。輪作上てん菜が作付されるとしても、労働力問題があり、それを打ち消す収益性水準が重要であることも指摘していた。さらに、過去には、てん菜は販売代金の精算が年を越して長期間数回に分けて行われたこともあり、収益がいくらになるのかわからず、営農計画も立てづらいことを指摘していた。


 No2は典型的な「十勝型4年輪作」を行っている。てん菜、ばれいしょ、小麦、豆類がほぼ1/4の作付で、てん菜の作付面積が年次間で大きく変わることはない。輪作上てん菜の8ha作付は変わらないと回答しているが、てん菜は収益性を確保するため、てん菜育苗センターを利用せず、個人での播種・育苗を行っている。

 ばれいしょの作付は加工用の比重が高まっている。原料用ばれいしょは生食用・加工用を作付できない圃場に作付している。また、ばれいしょが8haほどの面積になると、全面積で生食用・加工用の作付けはできず、原料用の作付が必要になるとも回答している。そうか病などへの懸念、労働力問題が原料用ばれいしょの作付が選択されることを示唆している。また、現在、原料用ばれいしょはでん粉工場まで自家運搬できなくなり、運搬収入がないので単収が低い年の採算は厳しいとの指摘があった。


 No3は畑作のほか、野菜作の導入に特徴があるが、作付では小麦の作付割合が高いことが特徴である。この高さは、戸別所得補償制度の導入時、助成金の仕組みがよくわからないうちに播種作業を迎え、戸別所得補償制度における営農継続支払の2万円/10a助成額を、経営所得安定対策時の緑ゲタのような支払い方式と思い込み増加させたためであった。しかし、これは考え方であり、極端に単収が低い場合を除き、品代に含まれる形で支払われることが、後になってわかったという。この思い込みにより、No3は小麦作付を2ha増加させていた。そして、小麦増加によりてん菜と豆類の作付が減少したのである。次年度は、てん菜・豆類を従来どおりの作付に戻す計画であると回答があった。しかし、経営所得安定対策時には3年後に見直しがあると聞いていたので、過去実績積み上げを目指し9haまで作付したが、これでは輪作がうまくいかないので、9haに回復することはない。てん菜の収益性については、経営所得安定対策時は品代が少ないので、経費がかかって収入が伸びないと感じていたという。

 ばれいしょは種子生産から加工用に変更しているが、従来から原料用の作付はない。種子生産地域では、防疫上ならびに収益上原料用ばれいしょの作付がみられないのは十勝地域では一般的である。種子生産は規格外品が多かったこと、農業機械がそのまま利用できるなどが変更の理由であったが、種子の選別作業を考えると加工用の作業は楽であると評価していた。また、原料用ばれいしょの作付はないが、作付した場合、代金精算の期間が長いため初年度の収入が見込めず営農計画に繰り入れづらいとの意見があった。野菜導入に関しては、小面積でも収入があるためであり、てん菜に関しては努力(単収)が報われる助成方式を希望していた。

 No3からは、安定した、継続した政策が作物の安定作付につながり、輪作の励行にも有効であることが示唆されよう。


 No4は調査農家の中で最も経営耕地規模が大きく、野菜作の導入もある農家である。作付では豆類作付が少なく、小麦作付が50%と過作になっている特徴がみられる。

 小麦過作の理由は、No3同様、戸別所得補償制度導入に伴い助成金水準が高くなると思い込んだためであり、5ha小麦作を増加させていた。次年度は、減少させた豆類を6haに増加させ、原料用ばれいしょも6haに増加させる計画である。ただし、No4の耕地は石レキが多く、根菜類の収量は低くならざるを得ないため、小麦の作付が相対的には多くなるという。

 No4は最近26haから40haの規模拡大を行っている。拡大に伴いてん菜は最大7haであった作付を10haに増加させたが、拡大面積14haの1/4以下である。自家保有の育苗ハウスでは8ha分しか対応できず、1haは直播、1haは委託苗を利用した。再来年に育苗ハウスを増設する計画で、これで10haの苗生産が可能になる。拡大面積が大きな場合、育苗施設、事例ではみられなかったが農業機械更新の必要性などが、労働力問題とともに作付増加を制約することが示唆される。No4は移植作業まで終えれば、てん菜収穫は1人でも可能で労働上の問題はないと回答していた。

 ところで、No4は加工用ばれいしょが増加している清水町の中で、生産を中止し原料用ばれいしょを増加させている。加工用の作付をやめた理由は、ハーベスタの更新期を迎え加工用と原料用の2台を維持することの負担を考えたためである。機械更新を考えるには、2〜3haというどっちつかずの作付面積ではダメだと考えたのである。このほか、規模拡大に伴う労働力問題を指摘していた。No4は可能な限り家族労働力で営農する考えを持っており、そのためにはてん菜、原料用ばれいしょの作付は不可欠であると考えていることが特徴であった。

 この事例でも精算の継続性問題の指摘がみられたが、輪作ならびに家族労働力の活用をめぐる経営の考え方が作物選択に大きな影響を持つことが示唆された。
 
 
 
 

3.農家・農協・工場が指摘する作付減少要因

 これまでの検討で明らかになったてん菜、原料用ばれいしょの作付減少要因は次のように整理できる。

 第1は、価格・収益の低下である。これは作物ごとの収益性低下とともに、作物間の相対的優位性の低下である。

 第2は、経営耕地規模拡大農家の相対的作付減少である。規模拡大を行った農家ではてん菜・原料用ばれいしょの作付を増加させている事例も多いが、拡大前の作付割合を維持するまでに増加していないのである。特に、経営耕地面積の大きな農家では労働力問題から小麦が選択されているのである。労働力問題からは原料用ばれいしょも候補とはなるが、第1の収益性が課題となっている。

 第3は、酪農経営の作付中止である。飼料価格の高騰が、デントコーン作付に置き換わっている。この動きは、経営所得安定対策時の固定払いの存在が後押ししていた。

 第4は、政策の変化と周知問題である。政策が継続せず、助成制度が大きく変わることに農家は不安を抱くとともに、より有利に対応しようとしている。

 第5は、収益性問題とも関連するが、販売代金精算システム問題である。北海道ではJAによる営農・生活資金供給と決済を行う「組合員勘定制度」が広く普及している。この制度では大部分のJAが12月末に決算処理することになっているが、この会計期間と販売代金の入金時期に大きなズレが生じている。

 逆に、作付減少を抑制する条件も存在している。

 第1は、輪作励行への意識である。てん菜、ばれいしょ、小麦、豆類による輪作は十勝地域では合理的な輪作であると考えられており、主に小麦の連作許容意識によって作付比率に違いが発生している。JA十勝清水町全体や事例農家の中にも小麦過作傾向がみられたが、輪作は連作障害回避として意識されており、小麦連作も可能な限り抑え、連作も2年までという対応であった。また、原料用ばれいしょの作付には、そうか病の発生状況がばれいしょの中の作付用途選択に影響していた。

 第2は、労働力問題である。てん菜の移植栽培面積は労働負担で規模拡大により逓減する傾向がみられたが、直播との併用などで作付面積を確保する対応もみられた。直播栽培は春先の風害に代表される災害抑制、安定生産が課題として指摘されていた。このような条件を有するてん菜に対して、原料用ばれいしょはばれいしょの中では労働負担が少なく、規模拡大の進展とともに作付される可能性を持つ。問題は、収益性とともにハーベスタ効率利用をもたらす適正作付面積が選択される経営耕地規模にあるかどうかにかかわると考えられる。

 経営耕地規模=輪作励行=労働力問題は相互に関連しており、大規模層においても野菜作の導入が進む現況においては、線形計画法などによる経営モデルの提供が求められよう。

4.作付減少の影響と今後の課題

 てん菜・原料用ばれいしょの作付は減少傾向にあったが、このことが畑作の輪作励行という土地利用問題に大きな影響をもたらすとは考えにくい。現在、小麦の過作傾向がみられるが、この対応が連作障害などの形をとって問題が顕在化するならば、作付比率を修正する力が働くと考えられる。

 減少傾向にあるてん菜・原料用ばれいしょの作付を安定させるためには、作物の収益性の改善が不可欠であるが、現況ではその改善はきわめて難しい注4)。また、農業政策の安定性、一貫性、継続性が求められるが、この側面も期待をする以外にない。とすれば、作付減少を憂慮している関係者の中で取り組めることは、価格水準や政策のほかに作物選択上の不利な点として指摘された条件を緩和することである。

 これらの中で関係者の間で取り組むべき課題が存在すると考えられる。農家の作付選択において、収益の不確定さが問題として指摘されていた。この不確定さが工場操業にも影響を与えていると考えられる。そこで、複雑な価格決定の仕組みを見直すとともに、年内に100%とはいかないまでも、例えば、原料用ばれいしょにおいてはてん菜で行われている約90%の年内概算払いを可能にする仮払い方式の創設の検討を行うことである。このためには「年内支払基金」といった基金創設が必要になると考えられるが、その計画的運用には数年先の作付計画も必要となろう。数年、例えば3カ年の作付予約によって年内支払い割合を向上させることが考えられよう。てん菜、原料用ばれいしょは工場での加工が必要であり、出荷量把握は可能である。この特徴を利用し、作物選択にかかわる不利性を緩和する対応が求められよう。その際には、アメリカで行われている価格支持融資制度などは検討すべき対策であると考える。

[注]

注1)てん菜・原料用ばれいしょの作付面積については北海道農政部資料、十勝管内JAの飼料作面積については十勝農業協同組合連合会「十勝畜産統計」による。

注2)JA士幌町澱粉工場に関しては、ばれいしょでん粉工場の安定的経営に向けた取組、〜東部十勝農工連澱粉工場・士幌町農協澱粉工場の事例〜、農畜産業振興機構『でん粉情報』2008.8参照。

注3)ホクレン清水製糖工場が2008年に行った工場区域内生産へのアンケート調査によれば、「今後のてん菜作付維持・拡大に向け最も問題(課題)と思われる点(2つ以内回答)」は「経費圧迫」284(総回答数の30.2%)、「輪作体系上無理」216(23.0)、「所得確保困難」164(17.4)、「労働力不足」147(15.6)、「機械更新不可能」129(13.7)であった。回答は分散するが、「経費圧迫」「所得確保困難」という収益をめぐる問題がポイントになると考えることができよう。

注4)北海道では、戸別所得補償制度導入に伴い、てん菜・原料用ばれいしょの作付減少対策として、「産地資金」を活用し、助成額の上積みを行っている。北海道農政部「畑作の産地資金について」平成23年8月参照。


 本報告のために実施した実態調査に際しては、事例農家の方々は当然のこと、聞き取り調査に応じていただいたJA十勝清水町、ホクレン清水製糖工場、JA士幌町澱粉工場、さらにホクレン農業協同組合連合会、農畜産業振興機構の皆様にお世話になった。記して感謝申しあげる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713