中国の砂糖生産・消費の動向
最終更新日:2012年3月9日
中国の砂糖生産・消費の動向
2012年3月
調査情報部 審査役 河原 壽
中司 憲佳
日高 千絵子
【要約】
・中国の砂糖生産は、甘味資源作物の作付面積におけるサトウキビの割合が増加しており、サトウキビ由来の砂糖の割合が増加傾向にあり、てん菜由来の砂糖の割合は減少傾向にある。この結果、砂糖生産は、2009/10年度では94%がサトウキビから生産され、最大の産地である広西自治区が66%を占める。
・北方地域のてん菜生産は、1999年における製糖企業のてん菜栽培農家への未払いに起因する農家に対する製糖企業の信用力の低下により低迷しており、トウモロコシ等の他作物との競合の激化、労働者確保や労働者賃金上昇などによる生産コストの上昇など、てん菜生産を取り巻く経済環境は厳しいものがある。
・主産地である南方地域のサトウキビ産地では、分散錯圃、労働者確保や労働者賃金上昇に対応するため、土地集積の推進、中・小型収穫機などの開発・導入が産地の維持・発展には不可欠であろう。
・中国政府は、「国産砂糖で国内需要を基本的に満たすという発展の原則」を貫くことを基本にしているが、広西自治区に生産が集中している状況において、広西自治区における気象変動による生産変動が中国全体の砂糖需給に与える影響は大きく、消費量が拡大する中で恒常的輸入国への転換が懸念され、中国の世界の砂糖需給に与える影響は拡大すると推察される。
・今後5年間において砂糖生産量1600万トンを目標とする、製糖業界の「第十二次五カ年計画」の動向が注目される。
はじめに
ブラジル、インドに次ぐ世界第3位の生産国であり、インドに次ぐ世界第2位の消費国である中国の生産・消費動向が、国際需給に及ぼす影響への拡大が懸念されている。
中国は近年の急速な経済発展にともない所得も向上し、生活様式などのライフスタイルが大きく変容し、牛乳・乳製品などの畜産物の消費が拡大しており、砂糖の消費も年々拡大している。また、その消費水準を一人当たり消費量で見ると、2010年においてアジアの平均消費量17.7kgと比較しても11.1kgと少なく、中国の経済発展を考慮すると、食の洋風化などの進展・拡大により今後ますます増加することが予想される。
一方、砂糖生産量は、2007/08年度に過去最大の生産量を記録し、2008/09年度も歴代2番目の生産量となったが、2009/10年度には低温に続き100年に1度といわれる干ばつにより大幅な減産となった。2010/11年度も多雨、その後の低温・干ばつなどの天候不順により2年連続の減産となったが、2011/12年度は回復基調になると見込まれている。しかし、甘味資源作物(以下、糖料作物という。)の作付面積は、サトウキビの作付面積が増加し、てん菜の作付面積が緩やかな回復基調となっているものの、糖料作物全体の作付面積は1990年代の水準にとどまっている。
他方、現在の中国は、経済発展に伴う賃金や資材価格の上昇から生産コストが上昇し雇用労働力の確保も難しくなっており、また、価格・収益差による糖料作物から野菜やトウモロコシなどの競合作物への作物転換も生産の維持・拡大には大きな問題となっている。消費量が堅調に増加する中、収穫手段の主体は手刈りであり、農地の分散錯圃、傾斜地が多い中、中・小型収穫機の開発・導入が生産力に維持・拡大には不可欠となっている。
本稿では、生産と消費の動向に基づき現在の需給構造を分析し、2011年9月および12月に実施した現地調査結果、中央政府の砂糖政策などに基づき、今後の需給の動向の考察を行う。
1 生産動向
中国の糖料作物は、黒龍江省、新疆自治区、内蒙古自治区においててん菜が、広西自治区、雲南省、広東省などにおいてサトウキビが栽培されている。2010年の糖料作物の作付面積では、サトウキビが88.5%を占め、サトウキビが糖料作物の主体となっている。
糖料作物の生産状況を見ると、南方地域におけるサトウキビの生産が拡大し、砂糖の生産量も増加傾向となっているものの、年々消費量が拡大し、ほとんどの年で生産量が消費量を下回っている。5年をサイクル(2年豊作と3年不作)(参考文献1)とする生産の循環変動が指摘され、これに近年頻発している干ばつ、多雨などの大規模な気象変動が加わり、輸入量が急増している。
中央政府の備蓄政策による輸入備蓄砂糖の放出が続いているが、その在庫の急激な減少も指摘されており、今後の中国の輸入急増が砂糖国際需給に与える影響が懸念されている。
(1)糖料作物の生産
作付面積は、てん菜においては1991年の78万3000ヘクタールをピークに減少傾向に転じ、1999年以降には大幅な減少となり、その後は回復基調となっているものの緩慢な回復にとどまり、2010年は18万6000ヘクタールと激減している。一方、サトウキビにおいては5年の周期的変動を繰り返しながら増加傾向となっており、2008年には174万3000ヘクタールと過去最大となり、2009〜2010年は天候不順による不作、定植期の水不足や苗不足から2010年には168万6000ヘクタールに減少した。こうした中でサトウキビの作付面積は糖料作物の作付面積の88.5%を占め、最大の産地である広西自治区はその56%を占めるに至り生産の集中化が進んでいる。
なお、1999年におけるてん菜作付面積の大幅な減少は、調査によれば以下のような背景があったとされる。1994、1995年の国内砂糖価格の高騰を受け、北方地域のてん菜製糖工場ではてん菜買付価格を引き上げ砂糖生産の拡大に取り組むこととなったが、当時の国家貿易が未整備であったことからブラジル、タイなどから約300万トンの密輸入が生じたことにより砂糖価格が大幅に下落(砂糖の消費者物価指数:前年比84.9%)し、この結果、国営製糖工場の負債が増大し、1998年には構造調整が開始され、負債および資金難でてん菜を仕入れができない工場が閉鎖された。この製糖工場の減少を受け、てん菜作付面積も減少した。また、製糖企業の資金難に伴う製糖企業の農家へのてん菜代金未払いもてん菜作付面積の大幅な減少の要因であった。このことは、農家の製糖企業への信頼を大きく損なうこととなり、その後のてん菜作付面積の低迷の主な要因となる。この結果、中国における砂糖生産は、広西自治区のサトウキビの生産動向が大きく影響することとなった。
(2)砂糖生産
中国の砂糖生産は、糖料作物の作付面積におけるサトウキビの割合が増加していることから、サトウキビ由来の砂糖の割合が増加傾向にあり、てん菜由来の砂糖の割合は減少傾向にある。この結果、砂糖生産量は、2009/10年度では94%がサトウキビ由来のものであり、最大の産地である広西自治区における生産量がその66%を占める。
てん菜由来の砂糖生産量の減少の主な要因は、前述した1999年における作付面積の大幅な減少、近年国内価格が高騰しているトウモロコシなど競合作物との収益格差に起因する作物転換により作付面積が低迷していることによる。
(3)中国の砂糖
中国の砂糖は、主に白砂糖、綿白糖、赤砂糖・紅糖に分類される。
白砂糖:亜硫酸法あるいは炭酸法により結晶化された砂糖
綿白糖:綿糖または白糖と呼ばれ、生産過程で2.5%程度のシロップが加えられ、白砂糖よりも純度が低い砂糖
赤砂糖・紅糖:サトウキビ由来の簡易石灰法で処理された含蜜糖
精制糖:精製糖
原糖:粗糖
(4)製糖工場
中国の製糖企業は「第十次五カ年計画(2001年〜2005年)」期間に構造調整が行われたため、製糖工場数は構造調整前の500社強から約290社に減少し、製糖工場の年平均生産量は2万トン弱から5万トン以上に増加した。国有企業の比率は徐々に減少する一方、民間企業の中でも外資系、株式会社の比率が年々上昇している。製糖工場の集団化経営も進展しており、27の重点企業集団の砂糖生産量はすでに全国総生産量の70%以上を占めている。(参考文献2)
「製糖業界の『第十二次五カ年計画』期間中の発展計画」によれば、「第十一次五カ年計画」期間中においては、「製糖業界は徐々に優位性を有する地域に集中、移転し、砂糖の生産を行う省・自治区の数は18から15に減り、広西自治区、雲南省、広東省、海南省、新疆ウィグル自治区、黒龍江省の6つの主要生産省・自治区の砂糖生産量が全国の総生産量に占める割合は98%に達した。製糖業界の中心となる企業はその実力を強め、2009年/10年の製糖期には砂糖の年間生産量が40万トンを超える企業が10社に達し、その生産量が全国の砂糖生産総量に占める割合が67%に達して、生産の集中度がこれまで以上に高まった」となっている。
2 砂糖消費
(1)砂糖消費
砂糖消費量は、2000/01年度以降において著しく増加しているが、2000/01年度から2011/12年度の12年間における平均増加率は、生産量平均増加率(5.87%)が消費量平均増加率(4.84%)を上回っている。また、気象変動による生産変動が大きく、2006/07年度以降においては、過去最高の生産量となった2007/08年度を除き、消費量が生産量を上回っている。2007/08年度に次いで過去2番目の生産量となった2008/09年度においても消費量が生産量を上回っている。このことは、現在の需要量を満たすためには、糖料作物の作付面積の維持・拡大、単位収量の向上に加え、気象変動に対応できる生産体制が必要とされていることを意味する。
砂糖消費量の増加の背景には、人口の持続的な増加、所得の向上と生活および食生活の洋風化にともなう飲料や菓子類など砂糖を含む食品の消費増加と都市化で農村部より砂糖消費の多い都市部の人口の増加などによる一人当たりの消費量の増加がある。
一人っ子政策による影響により生産年齢人口(15歳〜64歳)が2015年以降減少傾向に転じるとの予測(中国社会科学院の2000年人口センサスに基づく予測。なお、国家統計局によれば、生産年齢人口は2011年末において前年度末から0.1ポイント低下し、2002年以来初めての低下となった)もあり、人口増加による消費量増加は抑制される可能性があるものの、一人当たりの消費量は、ISOによれば2010年では11.1kg(中国糖業協会の推計10.6 kg)となっており、世界の消費量23.9kg、アジアの消費量18.3と比べ少なく、経済発展による所得向上から今後も増加が見込まれる。また、都市化の進展による都市人口の増加も考慮すると、砂糖消費量は加速度的に増加する可能性もあると推察される。
1) 砂糖の消費構造
砂糖の用途別消費量は、業務用が65%程度を占め、35%程度が家庭用となっている。また、業務用用途においては、菓子類・ビスケットが24.7%を占め、次いでキャンデイなどの飴類が23.0%、飲料が21.6%を占めている。
また、砂糖以外の甘味料としては、でん粉糖(異性化糖)や人工甘味料(サッカリン)が生産・消費されており、その市場規模は、砂糖が53%、でん粉糖と人工甘味料が各々23%を占めている。
人工甘味料の太宗を占めるサッカリンの生産は、食品への過剰な添加や製造に伴う環境汚染の問題から、1998年8月31日に国家経済貿易委員会より「サッカリン生産能力、生産量、国内販売の制限に係る通知」が公表され、その生産が制限されることとなった。中国糖業協会の資料によれば、近年のサッカリンは主に輸出用に生産され、国内消費量は抑制されている。
一方、トウモロコシから生産されるでん粉糖の生産量は、近年の砂糖需給のひっ迫の影響を受けて増加傾向にある。2010年においては、国内砂糖価格の高騰もあって大幅に増加した模様である。
しかしながら、でん粉糖の主原料であるトウモロコシの需給も、畜産業における飼料需要の増加、砂糖価格の高騰によるでん粉糖需要の増加により非常にタイトになっており、国内価格も高騰している(飼料の状況については当機構「畜産の情報」2011年12月号、でん粉の状況については当機構「でん粉情報」2011年12月号の「
中国におけるトウモロコシの需給動向」を参照願いたい)。
これに対し中央政府は、食料を優先させる政策のもと、基本的にはトウモロコシの自給体制を維持する方向であることから、総消費量に対する加工業消費量の割合を目標である26%以内に抑制する方針であり、でん粉糖の生産も抑制されることとなろう。
3 生産・貿易に係る政策
(1)生産政策―糖料管理暫定規則(弁法)―
中央政府の政策は、2002年6月「糖料管理暫定規則」に基づいて実施されている。当該規則において、製糖企業と農家における契約栽培を推奨しており、県レベルの地方政府は、製糖企業が、その生産能力、輸送距離、過去の買付実績などに基づき作成した糖料作物地区の申請書を村などからの意見に基づき審査し、糖料作物地区または県レベル以上の地方政府が認定することとなっている。地方政府は、製糖企業および生産者が契約を遵守し、計画に基づき収穫・販売されるように両者を指導・監督するとともに、技術普及、小型水利施設の整備、糖料作物地区の道路の建設・修繕など生産の支援の義務を負っている。
製糖企業は生産者に対し、苗などの生産資材購入のための資金を提供すること、栽培管理技術の提供などの義務を負い、生産者は栽培・販売と製糖企業の購入計画に基づく収穫・輸送、生産資材購入資金の返還などの義務を負っている。なお、製糖企業は定められた栽培地区以外での栽培に対する支援、取引市場の開設は禁止されている。これは、糖料作物地区として製糖工場に原料買い付け範囲を設定することで、複数工場による原料の奪い合いを防ぐことが目的とされる。
製糖企業と栽培農家における買付契約においては、栽培面積、品種、売渡時期・価格、製糖企業の栽培農家へのサポート方法、決済方法の掲載が定められている。買付価格は、省レベルの価格主管部門が価格決定公聴会制度、専門家評価審査制度を通じて決定する。さらに、製糖企業と栽培農家間における決済方式にも言及されており、「糖料作物購入価格と食用砂糖販売価格を連動させ、糖料作物代金の二次決済を行う方式を徐々に推進し、糖料作物生産者と製糖企業が利益を分かち合い、リスクをともに負うメカニズムを構築していかなければならない」としている。
二次決済方式を実施する場合には、価格主管部門は搾汁期に入る前に、生産者の生産コストに基づく買付最低価格、買付最低価格と食用砂糖生産コストに基づく食用砂糖連動価格を定め、一次決済として製糖企業から生産者に対し買付最低価格に基づく支払いが決定される。さらに、価格主管部門はシーズン終了後、食用砂糖市場の平均販売価格を公表し、食用砂糖市場の平均販売価格が食用砂糖連動価格を上回る場合は、その差額に基づき第二次決済価格を決定し、製糖企業から農家への支払いは、買付最低価格と第二次決済価格に基づき支払われることとなる。食用砂糖市場の平均販売価格が食用砂糖連動価格を下回る場合は、買付最低価格に基づく支払いとなる。なお、二次決済方式を行わない場合は、価格主管部門は搾汁期に入る前に、生産コストおよび食用砂糖販売予測価格に基づき買付価格を制定・公表する。
二次決済方式は、南方地域において砂糖価格の高騰時、農家が価格上昇を見込んでサトウキビの販売を抑制し、サトウキビの品質劣化や製糖企業の工場稼働率の低下を招いたことから、農家のサトウキビ販売の円滑化を図るため2002年に導入された。
しかし、二次決済方式は、南方地域では広西自治区以外における普及は進んでいない模様である。雲南省では、国内価格の高騰を受け、ようやく2011/12年度から省令に基づき本格的に導入された。
北方地域では、製糖企業の農家へのてん菜代金未払いによる1999年の大幅な作付面積の減少以来、農家の製糖企業への信頼がなくなったこと、二回目の支払いが少額であったことから、抽出期に入る前の砂糖企業から提示される契約価格に基づき代金決済が行われる事例が多い模様である。黒龍江省、内蒙古自治区における調査においても導入は進んでおらず、北方地域(黒龍江省、内蒙古自治区、新疆自治区)のてん菜産地においては、南方地域(広西自治区、雲南省、広東省、海南省)の製糖企業が展開する製糖企業において導入されている状況であった。
(2)貿易政策
中国はWTO加盟交渉時の合意により、穀物、油、砂糖、毛皮等の農産物輸入に対し関税割当を実施することとなった。中国政府は1999年に160万トン分の砂糖輸入関税割当を行い、5年間において毎年の割当量を5%ずつ拡大した後、2004年には砂糖輸入関税割当を194.5万トンとすることを承諾した。この割当数量には輸入砂糖の国内消費量のみならず、加工企業の数量も含まれる。この割当では、粗糖輸入関税は20%、白糖は30%であり、2004年には15%まで引き下げること、割当外の輸入関税を2004年に76%から50%に引き下げることを約束し、現在、中国の輸入割当及び関税は2004年の水準を維持している。砂糖輸入は国家発展改革委員会が統括しており、その内の70%が国営企業に、30%が民間企業に分配されている。中国政府は国内の需給情勢により、国家貿易により砂糖の輸入量や輸入時期を調整することが可能である。(参考文献2)
食用砂糖の輸入関税割当数量は、2012年現在も194.5万トン,その内70%が国営企業への配分であり、輸入割当に対する関税はすべての砂糖において15%である。なお、一般関税は125%、最恵国への関税は50%である。
(3)備蓄政策
中国の砂糖備蓄制度は1991年に始まり、国は毎年一定量の砂糖を備蓄用として買付・放出して市場の均衡を保ち、砂糖価格の安定化を図っている。具体的には、国家貿易により備蓄用粗糖をキューバから輸入したり、国内の生産販売企業から砂糖を買い付けしたりといった方式を採っている(参考文献2)。
現在の備蓄制度は、2008年1月に制定された「中央備蓄糖管理規則」に基づき実施されている。当該規則の第二条において、「国が、市場の調整や重大な自然災害、公共の保健事象またはその他の突発事象によって引き起こされた市場の異常な変動への対応に用いるために備蓄する食用砂糖を指す。これには、備蓄原糖(粗糖)ならびに備蓄精製糖が含まれる」とされている。
また、第四条においては、備蓄糖の市場調整管理の責任は国家発展改革委員会が担い、「発展改革委員会は商務部、財務部ならびに中国農業発展銀行と協議のうえで備蓄糖の年度調整総量計画および総量計画内の市場調整の時期、備蓄補充、放出の数量等の意見を提示し、国務院に報告して許可を受ける」とされ、さらに、第五条において「商務部は備蓄糖の市場調整の具体的な組織実施ならびに保管、更新ローテーションの管理の責任を持って行う。備蓄糖のローテーションが必要な場合には、商務部が発展改革委員会、財政部ならびに中国農業発展銀行と協議のうえで意見を提示し、国務院に報告して許可を仰ぎ、商務部がこれを組織実施する」とされ、高騰時における備蓄糖の放出は、商務部により一定要件を兼ね備えた企業に対し入札で実施される。
中国の砂糖備蓄量の変化はかなり大きく、最も少ない年では30万トン強、最も多い年は2008/09年度末の約240万トンであった(参考文献2)。
(4)今後の砂糖生産政策
工業・情報化部、農業部、商務部は、製糖業界の持続的で健全な発展を促進するとする『製糖業界の「第十二次五カ年計画」期間中の発展計画』を制定した。 その中で、2011から2015年の5年間で、製糖業が産業の集中度を高めること、砂糖主要生産省・自治区の中心的製糖企業が強者同士で連合し、地域を超えて合併再編を行うことを奨励・支持することが示された。また、業界全体の省エネ・汚染物質排出削減目標達成のため、稼働率が50%に満たず、サトウキビおよびてん菜の1日当たりの処理能力が各々1000t未満、800t未満の製糖企業の淘汰による、製糖企業の生産効率向上が示されている。
「第十二次五カ年計画」期間中の製糖業界の発展の主な目標は、
・砂糖年間生産量 :1600万トン前後とする
・砂糖年間生産能力:1800万トンに到達させる
・糖料作物の1日当たりの処理能力:121万トンに到達させる
内訳 サトウキビ:105万トン
てん菜 :16万トン
・工場の糖料作物の1日平均処理能力を4500トンに引き上げ
・サトウキビ糖の標準石炭消費量:100トン当たり5t未満
・てん菜糖の標準石炭消費量:100トン当たり6t未満
・化学的酸素要求量の排出総量:2010年比で10%引き下げ
とされている。今後、製糖企業の合併再編・淘汰が進むであろう。
支持政策の面では、財政支援により「製糖企業、精製糖企業の技術改造、省エネ・汚染物質排出削減、クリーン生産、自主ブランド構築等の重点的事業をサポートする。糖料作物生産専用設備の購入に対するサポートに力を入れ、農業機械合作社を通して収穫機等を徐々に普及させ、糖料作物主要生産地域が大規模栽培や機械化生産に向かうよう誘導する」としている。
この他、製糖企業の建設事業の設計規範の改訂を急ぎ、業界参入基準を引き上げることで、低レベル工場の重複建設を回避するとしている。
また、人工甘味料については、引き続き「人工甘味料の生産制限、販売制限等管理に力を入れ、砂糖市場に対する人工甘味料の影響を効果的に抑え、糖料作物を栽培する農業従事者の根本的利益を保護する」としている。砂糖以外の天然甘味料の開発には、「甜葉菊等の低カロリー、高糖度の天然甘味料に対する研究と生産に力を入れ、甜葉菊に対する企業の研究開発能力の向上を奨励しサポートし、その生産加工規模を拡大するとともに、研究開発、生産、加工に必要な政策的サポートを行う。甘味料の合理的な消費を科学的に誘導し、食品の安全を強化して、国民の健康を保障し、国民の生活水準を高める」としている。
(7)雲南省における品種改良の動向
研究機関からの聞き取りによれば、中国においてサトウキビが開花する環境にあるのは雲南省、海南省で、この2地域に品種改良基地が設立されている。雲南省は多様な気候があるため多く品種資源を有し、試験ほ場の確保が可能であり、全国唯一の品種の保全場所としている。省レベルでは、品種改良のため4つの研究所(広西自治区、雲南省、広東省、海南省)が作られている。中国におけるサトウキビの品種改良は、1978年改革解放政策後に始まり、2000年から国の投資が増加し、単位収量およびショ糖含有率の向上に貢献した。現在までは、ショ糖含有率の向上、耐干性、耐寒性、耐病虫害性の品種改良を行い、2000年は、サトウキビ作付面積300万ム(20万ha)で砂糖生産70〜80万トンであったが、現在、同405万ム(27万ha)で同223万トンまで増加した。また、1トンの砂糖を作るのに、11〜12トン必要だったサトウキビが7〜8トンとなった。耐寒性では、栽培の限界が標高1400mから1800mとなった。
今後の品種改良は、機械化に向けた改良である。農民の出稼ぎによる労働力不足により、雲南省では小型ハーベスタを開発中である。今後の機械化を見据え、葉(梢頭部)が落ちやすい、倒れにくいなどの特性を持つ品種の開発が必要と考えている。
一方、前述の「製糖業界の『第十二次五カ年計画』期間中の発展計画」において、現段階では、「台糖公司のサトウキビ品種がサトウキビ栽培面積の80%、ドイツKWS社のてん菜品種がてん菜栽培面積の90%を占めている。栽培品種が過度に単一で輸入依存度が高いことから、糖料作物栽培のリスクは大きく、それが産業の安定的発展にとって深刻な脅威となっている」と指摘し、「国内で育てた、国内に知的財産権がある糖料作物の優良品種に依拠したのでは製糖業界の急速な発展のニーズを満たすことはできず、科学研究に対する投資が不足し、資源が分散していることから、糖料作物の良種良法の応用普及が緩慢になっている」としている。2000年以降に本格化した品種改良の成果が、今、問われている模様である。
なお、遺伝子組み換えについては、栽培は認められていないが、耐病性、単位収量の向上などの研究は行われている。
4 主要産地の生産状況(関係機関、関連企業聞き取り)
(1)黒龍江省
製糖工場は4社(英糖海外中国有限公司(英国ABF子会社)、南華糖業集団、黒龍江省寧安糖厂、黒龍江省拜泉糖厂)であるが、英糖、南華は大規模工場、寧安、拜泉は小規模である。現在、製糖工場は、てん菜の不足により稼働率が低い状況にある。作付面積は、1998年には600万ム(40万ha)であったが、1999年以降、減少傾向にあり、近年では2002年の300万ム(20万ha)をピークに減少となり、2011年の作付面積は150万ム(10万ha)で、水害や害虫被害により収穫面積は120万ム(8万ha)程度と見込まれている。
単位収量は、1ムあたり3トン(45トン/ha)程度。4トン(60トン/ha)の地域が存在する新疆と比較すると、黒龍江省の単位収量はやや低く、潜在能力60トンまで引き上げることが目標としている。なお、新疆自治区の砂糖生産量が黒龍江省の砂糖生産量を上回っているのは、生育期の積算温度が新疆は3500度と黒龍江省の2700度を上回ることによる(2010年:新疆自治区65トン、黒龍江省22トン)。雨量は7〜8月は130mm/月と、4〜5月を除けば単位収量への影響はないとしている。
今後、単位収量の向上には、施肥、直播、灌漑、防虫の改善が必要とのことであった。春まきの直播では、労働時間は短縮となるが、苗の過密や欠株を招くことから、雨量が不足する春先(4月〜5月)の灌漑設備の整備の必要性を指摘していた。なお、直播のメリットは、コスト削減、生育期の短縮、密植であり、直播はポンプで種子を散布するとのことであった。てん菜の栽培は,生産コストが高く自社栽培では採算が取れないため、通常は企業と農家との栽培契約に基づいて栽培されている。
製糖企業のてん菜買付価格は、砂糖の市場価格とトウモロコシ価格に基づくてん菜とトウモロコシとの収益格差に基づいている。買付価格は、企業が前年の販売価格を参考に収穫量に応じて春に固定価格として決定し、農家と契約を行う。買付価格は、国際価格と競合するトウモロコシ価格に影響されることもあるが、政府が介入することはなく製糖企業が決定する。2011年の買付価格は例年より高く、トン当たり500〜600元(1999年の生産が落ち込んでいた時はトン当たり300〜370元)であり生産意欲が向上することを期待していた。
一方、外資企業である英糖は、農家などからの借地により栽培から製糖まで自社で実施している。当初、英国から種苗を持ち込んだため、黒龍江省の気候に適合できず、生産は不振であったが、現在は、黒龍江省の気候に合う種苗を用いているため、収穫量は順調に伸びているとのことである。黒龍江省は、春先(4月〜5月)雨が不足するため、それに適した種苗を使用することが必要であり、大学の研究員によると、種苗はドイツ産が主流(94%を占める)でショ糖含有量が多い品種である。
また、二次決済方式については、製糖企業は独立しており(地方)政府は指導できず企業が買付価格を決定する。製糖企業は20社から4社に淘汰されており、製糖企業としては、固定された買付価格でリスクを負っているとの認識であった。また、近年、人件費が上昇しており、耕起などで機械化がすすんできている模様である。
なお、遺伝子組み換え苗については、根腐れ対応の品種があるが栽培はされていない。
(2)内蒙古自治区
内蒙古では、1950年代にてん菜を原料とする、砂糖生産がスタートし、1955年に最初の製糖工場が建設された。1990年代が最盛期であり、てん菜処理量は1日当たり2万2000トン、砂糖生産量は年間31万トンであった。1994、1995年の砂糖価格高騰を受け、製糖工場はてん菜買付価格の引き上げ、砂糖生産の拡大に取り組んだものの、国家貿易制度が未整備であったことから、ブラジル、タイなどから約300万トンの砂糖が密輸入され砂糖価格が下落し、この結果、製糖工場の負債が増大することとなった。製糖工場の経営悪化を受け、1998年から産業調整が開始され、負債を抱え、資金難でてん菜仕入れができない工場が閉鎖された。製糖工場の減少を受け、てん菜作付面積も減少した。さらに、製糖工場から農家へのてん菜代金の未払いも生じ、農家における製糖工場の信頼は失われ、その後、北部でのてん菜生産は回復していない。
現在の内蒙古のてん菜処理量は1日当たり1万4000トン、砂糖生産量は年間15〜20万トンであるが、5年以内に30万トンとする増産を計画している。製糖企業は18社から5社となり、てん菜処理量は1日当たり大規模工場で3000トン、小規模で500トン、理想的な年間稼働日数は120日間だが、てん菜不足で100〜110日間にとどまっている。
てん菜買付価格は、砂糖の市場価格(鄭州、広西、昆明、天津卸売市場)とトウモロコシなど他の農産物価格に基づき決定されており、鄭州市などの先物取引所の価格は参考程度であった。秋に予測価格が算定され、春に決められる。
製糖工場は、農家に種子、肥料、農薬などを提供し、収穫時に清算する。利子は工場負担となる。
なお、中国糖業協会が草案を作成した「糖料作物管理暫定規則」における二次決済方式については、内蒙古でも以前導入されたものの浸透しなかった。この原因は、1999年の砂糖価格下落によるてん菜代金未払いによる農家の製糖工場への不信が大きい模様である。農家は、二次決済代金が発生すること自体、当初の価格決定を意図的に低くしたことによると理解しているようであった。
地方政府の支援策は、製糖工場に対する減税がある。てん菜仕入れ価格が1トン当たり400元の場合、減税申請をすると20元の還付がある。農家への支援金では、製糖工場における仕入価格100元/トンのアップというような生産奨励金の形で行われる。中央政府からの支援は無く、穀物と同様、支援するよう求めている。
種子の大半は、スイスのシンジェンタ社、ドイツのKWS社など輸入種子である。政府は、食料安全保障の観点から国産種子の使用拡大を目指している。
一般的に若者は農業に興味がなく、出稼ぎにより人手不足となり賃金が上昇していることから、機械化は重要としている。ペーパーポット(日本製)を用いる育苗技術、移植機も導入している。しかし、灌漑など土地条件の改善を行っても、てん菜生産ができる土地は他の作物も生産できることから、条件次第で他品目を栽培することもあり砂糖生産を増やそうと投資しても、農民が野菜などを作ってしまうケースもあるとのことである。
(3)内蒙古自治区外資系製糖企業
一方、外資の参入も進んでいる模様である。買収により100%外資となった、てん菜年間処理量25〜30万トン、自社てん菜生産基地5000ム(333ha)の製糖企業によれば、英国資本の参入により、その資金力を背景に、農家に対し質の高い機械、肥料、種、栽培・管理技術を提供することで農家の生産意欲を高めることに成功し、農家間の賃貸借による土地集積・経営規模拡大が進んでおり、経営面積が1000ム(66.7 ha)以上の農家も少なくない模様である。また、てん菜の単位収量は、土壌を分析し施肥を調節するなどの栽培技術の向上、海外種子の採用により、2011年現在1ha当たり45トン程度と2002年に比べ1ha当たり7.5トン向上したとのことである。中国企業では、提供するものが限られていた模様である。
製糖企業は、個別農家と契約栽培を行っており、製糖工場のてん菜買付価格の決定後、契約希望の農家が製糖企業に連絡する仕組みとなっている。ここ2〜3年はてん菜生産が回復基調にある。その要因は、砂糖価格の上昇と製糖工場の農家支援が充実してきたこと、砂糖価格が下落し収益が減少しても、てん菜代金の支払を行い、農家との信頼関係を構築していることとしている。
てん菜買付価格は、砂糖市場価格と他の農作物(主にばれいしょ、トウモロコシ)価格を参考にして決定される。契約は、てん菜作付け前の春に締結され、てん菜買付価格、栽培面積、品種が定められている。
調査地域の地方政府は、1ム当たり30元の補助金を製糖工場に支払い、製糖工場はこれをもとにてん菜買付価格を引き上げている。しかし、農家への直接支援政策は無い。
「糖料作物管理暫定規則」に基づく二次決済方式は、実施されていない。2003年前後に同方式を導入した経緯はあるものの、農家にとっては二次決済方式の2回目の支払額が小さいためあまり魅力的でなく、製糖企業にとっては春の提示価格と秋の二次決済価格の価格差が大きいと、製糖工場の信頼が落ちる恐れがあるとされる。
外資導入による農家への質の高い資材や栽培・管理技術の提供により、生産は増加しているものの、人件費の上昇(収穫労働者の雇用など)に基づく生産コスト上昇により、生産の維持・拡大には機械化が不可欠となっている。移植、収穫、農薬散布時に使用する大型機械は英国製、小・中規模機械は中国製である。大型機械を導入しているほ場は、1,000ム(66ha)程度の規模である。秋に農家と収穫機の賃貸契約を行い、収穫機の操作は工場従業員が代行している。
(4)雲南省製糖企業
雲南省最大、中国国内では第6位(2010/11年度)の製糖企業で、2010/11年度のさとうきび生産量は約300万トン、砂糖生産量は約43万トン(白砂糖)である。工場は、雲南省西部の徳宏州、南部の西双版納州、南東部の紅河州の12工場、日産能力は3万8500トンである。
製糖企業は、農家への支援として、1)無償支援(耕作機作業員への賃金、生産資材の立て替え(サトウキビ買付代金から相殺))、2)契約栽培での前払金(その間の利息は企業もち)を行うことにより、原料確保に努めている。一方、省政府は、農家に対し中耕などの作業機械購入への補助金による支援を行っている。また、中央政府は、金融支援として産業政策に砂糖産業の発展を明記することにより、政策銀行などから製糖企業への融資環境を整えるとしている。
品種は、雲南省は山地が94%を占めることから多様な品種を必要としており、他の産地と違い台湾系は4割、6割は中国の品種である。品種の一部には退化が認められ、育種の強化が課題となっている。調査先企業では、日本の品種も試験的に栽培している。
機械化について見ると、水田後作の地域において、中耕など管理作業の3割は機械化されているが、収穫は100%手刈りである。労賃の上昇、労働者確保などの問題が生じている現状においては、産地の維持・拡大において機械化の必要性があり、小型収穫機の導入を検討している。
(5)広西自治区製糖企業
調査した製糖企業の2010/11年度実績は、さとうきび圧搾量360万トン、砂糖生産量45万トン、広西自治区では生産量第8位である。4つの製糖工場(炭酸法1、亜硫酸法3)を所有し、バガスを原料とする製紙工場やアルコール工場も所有している。工場の稼働日数は110〜120日/年。1日当たりの圧搾能力は3.5万トン、圧搾量は最大600万トンまで可能、生産期間は11月〜翌4月である。
生産する砂糖は、飲料メーカー(コカコーラ、ペプシ、ワハハなど)向けの工業用(粗糖と精製糖の中間的なもの)である。なお、広西自治区においては精製糖を製造する企業は少ないとのこと。
調査企業の生産量は、2007/08年度で原料搬入量が過去最高量600万トン、砂糖生産量40万トンであったが、その後減少傾向にあり、広西自治区全体においても減少傾向にあるとしている。
その主な要因は、米作より利益はあるものの収穫労働(手刈り)等の重労働がネックとなり、平地は稲作が主体でさとうきびは山間地域に追いやられていること、不動産開発やバナナ、キャッサバへの転換が進んでいることである。
労働者不足、労働者賃金の上昇などにより、収穫機の導入など機械化が必要と認識しているものの、農地は丘陵地に分散していること、農地を賃貸借りした場合の利用権喪失に対する不安(中国では農家は土地の所有権を有しておらず、使用権のみを有している)が強いことから、土地集積が進んでいない。収穫機は実験的にやっている程度とのことである。調査製糖企業では、モデル地区(農家からの土地集積、生産組合)の開発を検討している。
製糖企業の契約栽培している村の概要
・村民人口約1000人、200世帯。
・さとうきび栽培面積は5〜10ム(33.3a〜66.7 a)、4人家族で農業に従事
・村の幹部が糖業と契約。農家は最低価格を知らない。
・栽培面積は減少傾向。天水栽培で製糖企業からの肥料の提供もなく、単位収量は1ム(6.667アール)平均6トン、収穫は手刈り。
・製糖企業への販売は、1トン当たり500元、糖価が高いことも知っているが、二次支払いは10元程度。
・製糖企業は、砂糖の生産・販売以外にバガスを製紙会社に1トン当たり600〜700元で販売。
・製糖企業からのさとうきび代金の支払いが遅れたことはなく、収穫後15〜20日で振り込まれる。
(6)広東省製糖企業
製糖工場を11工場(雲南省5、広西自治区2工場、遼寧省1(てん菜)など)所有し、2011/12年度ではグループ全体で砂糖生産量を60万トンと見込んでいる。さとうきび原料では、700万トンから砂糖80万トン(歩留10%強)を目標としている。
調査を行った製糖工場は、稼働日数120日+整備120日/年、1日当たりのさとうきび圧搾量7000〜8000トン、同砂糖生産量約800〜900トンである。工場の稼働率100%になる操業日数は100日程度であり、さとうきび原料は十分に確保されている。製糖工場は、農家との契約栽培の外、20万ム(1.3万ヘクタール)ほ場を所有している。
製糖工場から農家への支援は、無償支援として農道整備、灌漑設備整備など、有償支援(原料支払から控除)として農薬、肥料、雇用賃金の提供である。
二次決済方式は広西自治区で始まり、調査企業では当初から導入されている。その導入は、各省の決定事項であり、強制力はない模様であった。しかし、省によっては、二次決済方式でなく保険会社による災害保険を通じて農民の利益を守るところもある模様である。
機械化の導入は、労働者賃金の上昇から収穫機などの導入が検討されているが、農民の雇用機会への考慮から製糖工場の製造工程における機械化を優先させているとのことである。
省から農業科学技術示範基地の指定を受けた製糖企業のほ場
・高収量・耐病性品種、防除、全行程機械化収穫試験ほ場
・品種:粤糖60号(広州市甘蔗糖業研究所)福農39号(福建農林大学甘蔗研究所)
製糖企業の契約農場の概要
・作付面積は、2010/11年度14.5万ムから2011/12年度17.5万ムに増加。糖価が上がっており、農家は1ム300元で利益が出ることからやる気がある。
・宿根(株出)70%、新植30%。12月植え、翌年12月収穫開始
・2回株出し後3年目品種更新、5〜6年目に他作物(トウモロコシ、イモなど)を植え連作障害に備える。
・灌漑は、地下水を利用。台湾の品種であるROC22が多い模様。
・労働者賃金は100元/トンと上昇しており、農場主の試算では収穫機の導入では40元程度に削減されるとのこと。
・土地の集約はこれからの課題。1000ム(66.7ヘクタール)所有している大規模農家は10名ぐらいいるものの、その農地は分散している。
5 今後の需給動向と生産余力
中央政府は「糖料作物管理暫定規則」(2002年6月)により糖料作物と砂糖の価格連動を推進し、市場の変化に基づいて農家に栽培調整させることを目指している。また、糖料作物の価格については、省レベルの価格主管部門が関連部門の意見を集約し、合理的に決定して一般に公布することを推奨している。
しかし、今回行ったてん菜およびサトウキビ産地の調査事例では、てん菜・サトウキビ買付価格の決定は製糖工場が行っており、砂糖価格の上昇がてん菜およびサトウキビ買付価格に必ずしも反映されていないことから、国内砂糖価格の上昇が農家の増産意欲に結びついていない。一方、製糖工場は、砂糖価格の上昇を背景に増産意欲を高めており、機械の貸し出しや種子の提供などにより農家の生産支援を通じてサトウキビの増産を図っている。
中央政府は2012年1月19日に公表した「製糖業界の『第十二次五カ年計画』期間中の発展計画」の重点的任務において、「糖料作物を栽培する農業従事者が土地使用権で土地経営組織に出資するよう導き、製糖企業が土地資源の整合に参与するよう奨励して、糖料作物の生産の大規模化の実現を急ぐ。糖料作物の生産の機械化を積極的に推進し、適応性が高く、簡単で小型の栽培収穫機械を研究開発し、普及させ、労働生産性を高めることで、農村の労働力不足が糖料作物生産発展の制約となっている現状を変える。科学技術面での投資を拡大し、社会の科学技術資源を整合して、糖料作物の良種を選び育て、生産性が高く、糖分含有量が高く、適応範囲が広い糖料作物の新品種を選び、品種が単一で退化が著しい糖料作物の問題点を解決する。製糖企業が糖料作物の生産基地の水利施設の改造、灌漑形式の改良に力を入れるよう導き、糖料作物生産の基本的水分補給、基本的灌漑を実現し、糖料作物の単位面積当たりの生産量を引き上げ、糖料作物の生産量を増やす」として、土地集積および機械化、品種改良、灌漑施設整備などを進めることとしている。また、製糖企業の役割として、「製糖企業が先頭に立って農業サービス企業を立ち上げるのをサポートし、奨励して、工業による農業育成に力を入れ、糖料作物の栽培、耕地管理、病虫害対策、収穫といった段階につき有償のサービスを提供する」としている。
北方地域のてん菜生産地域において近年の砂糖価格の高騰にもかかわらず作付面積が低迷している最大の要因は、1999年における製糖企業のてん菜栽培農家への未払いに起因する農家に対する製糖企業への信用力の低下にある。現在の糖料作物の生産規模は、1990年代の水準に回復したにすぎない。拡大する消費量に対応した生産水準にまで生産を拡大するには、北方地域のてん菜の生産回復が不可欠であるが、農家の製糖企業への不信、トウモロコシ等の他作物との競合の激化、労働者確保や労働者賃金上昇などによる生産コストの上昇など、てん菜生産を取り巻く経済環境は厳しいもがあると言わざを得ない。
また、主産地である南方地域のサトウキビ産地では、分散錯圃、労働者確保や労働者賃金上昇に対応するため、土地集積の推進、中・小型収穫機などの開発・導入が産地の維持・発展には不可欠であろう。
てん菜の生産拡大が難しい状況において、サトウキビの生産拡大に向けた機械化の進展が,中国の砂糖需給の鍵を握っていると推察される。
中国政府は、「国産砂糖で国内需要を基本的に満たすという発展の原則」を貫くことを基本にしているが、広西自治区に生産が集中している状況において、広西自治区における気象変動による生産変動が中国全体の砂糖需給に与える影響は大きく、中国の世界の砂糖需給に与える影響は拡大すると推察される。
今後5年間において砂糖生産量1600万トンを目標とする、製糖業界の「第十二次五カ年計画」の動向が注目される。
参考文献
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713