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てん菜副産物の有効利用

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最終更新日:2012年4月10日

てん菜副産物の有効利用〜ビートトップの飼料化の取り組みについて〜

2012年4月

帯広畜産大学 畜産衛生学研究部門 教授 高橋 潤一
 

【要約】

 てん菜は全国で年間約400万t生産されている。北海道以外では東北の一部でも栽培されているが(注1)、生産量のほぼ100%近くが、北海道で栽培され、その45%が十勝で生産されている。てん菜は収穫された根部から砂糖が生産され、搾った粕はビートパルプとして乳牛用飼料に有効に利用されている。しかし、上部の茎葉(ビートトップ)は十勝では毎年88万tの附存量があるが、大部分は製糖用のてん菜根部の収穫時に切除され、利用されずに畑土壌に鋤き込まれているのが現状である。ビートトップの飼料化を目指し、新しい生菌剤(DFM :Direct-Feed Microbial)資材(BIO-PKC、開発者:丸紅)を用いた新規発酵飼料(DFMビートトップ)の製造を試みた。この飼料を材料とした完全混合飼料(TMR:Total Mixed Rations)DFMビートトップTMRの開発やビートトップ収穫機の改良を行い、効率的な収穫と安全性および栄養価の評価を行なった。その結果、DFMビートトップTMRは残留農薬、シュウ酸、硝酸態窒素、大腸菌数およびマイコトキシンの各項目についての安全性に問題なく、DFM無添加で調製したビートトップサイレージTMRに比べ、高い栄養価を持つことが明らかになった。

ビートトップの収穫

 てん菜は通常、ビートトップチョッパーを設備するハーベスターで、てん菜収穫前にチョップ収穫した。このため、写真1で示すように、ビートトップを収穫するためのハーベスター等の機械の改良を行い、機械化体系についてビートトップの収穫・運搬機の改良及びビートトップの裁断方法を検討した。
 
 

DFMビートトップ及びDFMビートトップTMRの製造と品質評価

 2種類の飼料を以下のとおり製造し、飼料成分と各TMRの保存性と栄養価を検証した。


(1)DFMビートトップTMR

1) ビートトップ原物に対して2%の混合生菌剤BIO-PKC(注2)をミキサーで混合添加
2)水分調製剤としてビートトップ(水分80%)に対して原物比で2:1の割合でビートパルプ(水分10%)と混合して、全体の水分割合を60%に調製
3)細断型ロールベーラー(注3)でDFMビートトップロールベールに成型
4)2カ月間外気温で貯蔵し、発酵処理 
5)TMR構成粗飼料として用いられているアルファルファサイレージと牧草サイレージの給与乾物量の1/2相当量を4)で製造したDFMビートトップで代替したDFMビートトップTMRを調製


(2)ビートトップサイレージTMR(対照区) 

1)DFM無添加でビートパルプと混合し、(1)と同様に水分を調製したビートトップロールベールを製造し、2カ月間外気温で貯蔵し、発酵処理
2)TMR構成粗飼料の1/2相当量を1)で製造したビートトップサイレージで代替したビートトップサイレージTMRを調製

 2種類のTMRについて一般成分、エネルギー、NDF,ADF、ADL、WSC、セルロース、ヘミセルロース、糖類、エタノール、有機酸、ミネラル(Ca、P、Na)、アミノ酸を分析し、安全性について、残留農薬、シュウ酸、硝酸態窒素、マイコトキシン、大腸菌数等の安全性を確認した。表1に各TMRおよび原料ビートトップの一般成分について、表2にミネラル含量を示す。DFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージTMRより粗タンパク質含量が高い傾向を示したが、その他の成分およびミネラル含量には大きな差は示されなかった。表3に各TMRおよび原料ビートトップのアミノ酸含量を示す。アミノ酸の総量および各アミノ酸の含量について、全般にDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージより高い値を示した。

 残留農薬はいずれのTMRにおいてもすべての検査項目において安全値以下であったが、メプロニルはDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージより僅かであるが、低い値を示した。シュウ酸および硝酸態窒素は安全値以下で、アフラトキシンおよび大腸菌群も検出されず、いずれのTMRも安全に保存されていたことが確認された。また発酵品質についてはDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージより乳酸含量が高い値を示した。
 
 
 
 
 
 

めん羊代謝試験による栄養価評価

 帯広畜産大学フィールド科学センター(ズートロン)においてめん羊4頭を用い、DFMビートトップTMRおよびビートトップサイレージTMRの2給与区について、反転法(注4)によるII期の代謝試験(消化・窒素出納試験・エネルギー代謝試験)を実施し、消化率・窒素利用率およびエネルギー利用率を評価した。

 表4にDFMビートトップTMRおよびビートトップサイレージTMRの消化率を示す。

 ADF以外の成分はDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージTMRより高い傾向を示した。
 
 
 表5にDFMビートトップTMRおよびビートトップサイレージTMRの窒素出納試験結果を示す。窒素消化率はDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージTMRより高い傾向を示し、窒素蓄積量および窒素蓄積率(窒素摂取量中の蓄積N%)有意に(P<0.05)高い値を示した。

乳牛給与試験による栄養価評価

 酪農家において泌乳牛9頭を用い、DFMビートトップTMR区、ビートトップサイレージTMR区および対照区(通常TMR)の3給与区について1群3頭で給与試験を行い、飼料摂取量(残飼料)、乳量および乳質を評価した。また給与飼料の整理的な影響を検討するため、血液性状においても検査した。DFMビートトップTMR区およびビートトップサイレージTMR区はいずれも対照区TMRに比べて乾物摂取量に差は示されず、遜色のない乳生産を示した。乳中の対細胞数は対照区TMRおよびビートトップサイレージTMR区では全般に高い値を示したが、DFMビートトップTMR区は試験期間を通し、低い値で推移し、正常乳ぼ対細胞数を示した。乳成分については、乳脂肪、無脂固形分、乳糖および乳タンパク質はいずれも処理間に大きな差は認められなかった。また乳中の尿素態窒素は乳成分と同様に処理間に大きな差は示されなかった。血液性状について、各供試TMRの給与によってとくに問題となるような数値は示されなかったが、DFMビートトップTMR区は血糖、総グルコースおよび遊離脂肪酸の数値が若干低い値を示した。

まとめ

 高水分のビートトップ(水分80%)に対して低水分の乾燥ビートパルプ(水分10%)を水分調整剤として用いることによって全体の水分を60%程度に調製すれば、細断型ロールベーラーによってロールベールとして成型することが可能であることが明らかになった。本研究では保存性と飼料価値向上を目的に新規微生物製剤(BIO―PKC)をビートトップに添加処理し、2カ月間発酵処理を施したビートトップを混合・発酵したTMR(DFMビートトップTMR)を製造し、同期間処理したBIO-PKC無添加ビートトップサイレージを混合して製造したビートトップサイレージTMRと比較した。参考にしたTMRの構成は次のとおり行なった。すなわち、乳牛の飼養試験を実施した酪農家で通常給与しているTMRの構成飼料給与乾物量の半量をDFMビートトップあるいはビートトップサイレージで代替した。乳牛を用いた飼養試験では通常の牧草サイレージを混合して製造したTMRと乳産量を比較した。DFMビートトップTMRおよびビートトップサイレージTMRはいずれも残留農薬、シュウ酸、硝酸態窒素、アフラトキシンおよび大腸菌群について検査した結果、保存性については問題なく、安全な飼料であることが明らかになった。

 DFMビートトップTMRおよびビートトップサイレージTMRの飼料価値についてめん羊を用い、両者の比較試験を行なった結果、消化率は全般にDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージTMRより高い傾向を示した。また窒素出納試験の結果、窒素蓄積率はDFMビートトップTMRの方がビートトップサイレージTMRに比べて、有意に(P<0.05)高い値を示し、新規微生物製剤BIO-PKCによって窒素利用率が改善したものと推察された。

 他方、実際の酪農家で実施した泌乳牛を用いた飼養試験では、酪農家で通常給与しているTMRを対照区としてDFMビートトップTMRとビートトップサイレージTMRとの比較を行なった。乾物摂取量、泌乳量および乳成分には大きな差が認められなかったが、体細胞数に顕著な差が認められ、DFMビートトップTMR給与区では対細胞が低く抑えられ、良好な結果が得られた。これが、BIO-PKCの効果によるものかどうか、さらに長期の調査が必要になるが、ビートトップに対するBIO-PKCの添加により、飼料的付加価値が高まるものと考えられる。てん菜は、輪作体系の中でジャガイモ、コムギ、マメ類と共に栽培されている。このため、土壌の保全や収量の維持を考える上で重要な作物となっている。しかし、現在、検討されているTPPが締結された場合、てん菜を原料として生産される砂糖は厳しい価格競争に晒されることも想定される。こうしたことから、今後てん菜の多角的利用の検討は必須の課題である。今回の研究によりビートトップの利用が確立されたことはてん菜の利用価値の向上に貢献する。

(注1)てん菜糖業年鑑2010(北海道てん菜協会)によれば昭和40年頃には東北で10万トン強の生産があったが、それ以降はわずかに研究機関で試験的な栽培が続けられ、実質的にはほぼ100%が北海道で生産されていると考えられる。

(注2)バチルス菌、乳酸菌、ストレプトコッカス菌、酵母、硝化菌、メタン酸化菌、硫酸還元菌および光合成菌から構成され、パームカーネル油粕を培地とした混合生菌剤

(注3)牧草等の粗飼料を円筒形の大型梱包に圧縮結束する梱包用機械

(注4)処理効果を検定する試験において測定誤差を消去するため、対照区と処理区の試験を反転し、両者の平均値の差を検定する方法
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