子どものむし歯予防のために
最終更新日:2012年6月11日
子どものむし歯予防のために
〜お砂糖との上手な付き合い方〜
2012年6月
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 小児歯科学分野 教授 仲野 道代
【要約】
砂糖の摂取はむし歯の原因の1つとなりますが、砂糖は子どもにとって必要なエネルギー源です。
様々な砂糖の代わりになる甘味料(代用糖)がありますが、子どもにとって必要な栄養素でかつエネルギー源としての砂糖を越える優れたものはないと思います。ですから、むし歯にならないよう砂糖と上手に付き合うことが大切だと言えます。
1.むし歯発生のメカニズム
お口の中のむし歯菌(ミュータンスレンサ球菌)が出すグルコシルトランスフェラーゼという酵素が、砂糖(スクロース)をぶどう糖(グルコース)と果糖(フルクトース)に分解します。そして、この酵素が、さらにたくさんのグルコースをつないでいく働きによりグルカンという物質が作られます。グルカンはたいへんネバネバしていて、むし歯菌と一緒に歯の表面に付着します。これが、いわゆる歯垢(デンタルプラーク)と呼ばれているものです。歯垢の中でさらに砂糖をエネルギー源として菌は代謝し、酸を作り出します。この酸によって歯の表面が脱灰と呼ばれる状態になり、むし歯の始まりとなります(図1)。
これをわかりやすくまとめたのが、「Keyesの3つの輪」(図2)と呼ばれる考え方です。むし歯は、歯に関する要因、むし歯菌に関する要因と砂糖の摂取に関する要因の3つが関わり合ってはじめて発生します。「Keyesの3つの輪」では、それぞれが1つずつの輪として描かれており、3つの輪が重なったところがむし歯の発生を表しています。これらの3つの要因に注目して、むし歯を考えていくことができます。これらの輪はどれも完全になくしてしまうことはできませんが、重なり合う部分の面積を小さくすることはできます。砂糖は、確かにむし歯を引き起こす原因の1つになりますが、体にとっては必要な栄養素であることも事実です。そこで、他の輪と重なる部分をできるだけ小さくするように工夫することが重要です。
2.おやつとむし歯
むし歯菌が酸を作り出せないようにするために、砂糖に代わる糖(いわゆる代用糖と呼ばれているものです)が作り出されてきました。最近、コマーシャル等により、「むし歯になりにくい」や「むし歯を作らない」というイメージから、保護者の方が、キシリトールをはじめとする代用糖を好む傾向がみられます。
代用糖は大きく3つに分類されます。1つがキシリトールに代表される糖アルコール類(注1)、2つ目がパラチノースに代表されるスクロース構造異性体(注2)、そして3つ目がカップリングシュガーなどのオリゴ糖類(注3)です。糖アルコール類については、むし歯菌が利用して酸を作り出すことはありませんが、多量に摂取すると下痢を起こすことが知られていますので、子どもの摂取においては、充分気を付ける必要があります。スクロース構造異性体は、糖アルコールのように下痢を起こすことはなく、むし歯を作る作用は低いことから、むし歯を予防する代用糖としては有効とされています。しかし、甘味は砂糖の半分であり、砂糖から作られるため製造コスト的に不利であると言えます。また、オリゴ糖は、砂糖と一緒に摂取するとむし歯の発生を抑える効果があるとともに、自然界に存在する食品の中にも存在するものですので、甘味料としては有効な使い方ができる可能性が高いと思います。ただし、甘味度はカップリングシュガーの場合、砂糖の半分程度です。
このように各代用糖はむし歯予防の面で一定の機能を有してはいますが、砂糖の優れた点である(1)すばやく吸収されてエネルギー源となる(2)安価である(3)安全で無害である(4)十分な甘味を持つ(5)熱に安定である−という全てを兼ね備える代用糖はこれまでのところ開発されていません。そのため、砂糖とうまく付き合いながら、むし歯にならないように工夫することが大切だと言えます。
もちろん、砂糖とうまく付き合うことによってむし歯を予防することは可能です。砂糖を最も摂取する機会としてあげられるのは、間食です。子どもは体の割に多くの栄養を必要とし、1日3回の食事では必要量を摂取することができません。そのため、栄養学的に、子どもにとって、これらの栄養を補足するためのものが間食です。平均1日1〜2回の間食が勧められています。
一方、間食とむし歯は密接な関係があることが古くから知られています。おやつの回数が多いこどもにはむし歯が多く、特に1日3回以上の間食をとると、2回以下のこどもと比較すると格段にふえていることが言われています。また、だらだら食べてしまうと、お口の中は、むし歯菌にとって住みやすい環境になってしまいます。むし歯にならないように間食を与えるには、時間と場所を決めて、保護者の方が用意したものを食べることが大切です。時間を決めることにより、回数を守ることができます。また、場所を決めることによりだらだら食べることを防ぐこともできます。さらに、砂糖の入った間食を食べる際に、むし歯を抑制する効果があると言われているポリフェノールを含むウーロン茶を一緒に飲んだり、間食にりんごや梨などお口の中をきれいにする果物などを組み合わせるなどの工夫により、むし歯になりにくい間食の取り方をすることができます。そして、時間と場所をきめることによって、おやつが家族のコミュニケーションの場となり、子どもにとっても楽しい時間になると思います。ここで重要なことは、あくまでも間食を取り過ぎないことです。間食はあくまで栄養量の補足のためですので、3度の主食をしっかりとることが非常に重要であるということは忘れないようにしないといけません。3度の食事とその間の間食、規則正しい食生活を送ることはむし歯を予防する第一歩です。
3.むし歯予防のための歯磨き
むし歯を予防する方法の2つ目は、歯磨きです。歯磨きによって、歯垢の中に存在するむし歯菌を除去します。乳幼児の歯磨きは保護者の方にかかっています。寝かせ磨きでブラッシングをしてあげて下さい。膝の上に頭をのせて上からみるような形で磨くと、保護者から、お子さんのお口の中が最も見えやすい状態です。また、お子さんの方からも、磨いてくれる方の顔が良くみえますので安心してもらえます。磨き方は、あまり真剣になりすぎ、力を入れすぎないようにすることが大事です。歯ブラシは、幅は子どもの指2本分、毛の長さは大人の方の半分程度のものが理想的です。また、食べ物を食べた後に歯磨きをすることが必要ですが、寝る前の歯磨きは特に大切です。就寝中は、唾液の分泌がほとんどなくなるため、むし歯になりやすい環境になっています。また、就寝前の間食やミルクスポーツドリンクの摂取は避けるようにすることが大切です。また、歯磨きの自立は9歳頃といわれているように、実は細かいところまで磨くことは大変難しいものです。小学生になっても、自分だけではまだきちんとした歯磨きができていませんので、保護者の方に点検磨きしてもらう必要があります。
4.最後に
むし歯にならない強い歯をつくるためには、歯科を定期的に受診し、フッ素塗布などの予防処置を受けることも大切です。子どもの時期のむし歯は保護者によって作られると言っても過言ではありません。歯が生えてきたら、ブラッシングを開始し、小さい子どものうちから、歯を磨く習慣をしっかりと身につけさせるようにしましょう。
むし歯の予防法は、
(1)ブラッシングをする。
(2)間食は規則正しく、保護者の方が選んで与える。
(3)間食は時間と場所を考えてだらだら食べないようにする。
(4)歯科を定期的に受診し、フッ素塗布などの予防処置を受ける。
これらを繰り返し行うことにより、健康な歯を守っていくことができると思います。規則正しい食生活を送り、砂糖と上手につきあうようにしてくことが大切です。
参考図書
大嶋 隆、浜田茂幸(編):う蝕予防のための食品科学—甘味糖質から酵素阻害剤まで—、医歯薬出版、1996
大嶋 隆:小児の歯科治療—シンプルなベストを求めて—、大阪大学出版会、2009
(注1)糖アルコール:糖質に水素を添加(還元)し、化学的に安定させたもの。(むし歯予防のための代用糖の例:マルチトール、パラチニット、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなど)
(注2)スクロース構造異性体:砂糖(スクロース)と同じくぶどう糖(グルコース)と果糖(フラクトース)で構成されるが、結合部位が砂糖とは異なる物質。(同:パラチノース、トレハルロースなど)
(注3)オリゴ糖:グルコースなどの単糖類が2個〜数個結合してできた糖。(同:パノースオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、カップリングシュガーなど)
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