沖縄県農業研究センター 作物班 主任研究員 内藤 孝
【はじめに】
サトウキビは、離島が多い沖縄県において重要な作物である。県内の生産地の中でも、特に南大東島、北大東島の大東地域は、サトウキビ生産では県の総収穫量の約10%を占める。この地域は、1戸当たり耕地面積が県の平均を大きく上回り、約6ヘクタールである。耕地面積が大きいこともあり、大型ハーベスターによる収穫をはじめとした、サトウキビ作の機械化が国内で最も進んでいる。
一方、この地域は、年間降水量が沖縄県の平均よりも20%程度少ないうえに、台風による暴風の被害を受けやすい。また、耕地は、隆起珊瑚礁に由来する石灰岩上に、特徴的な赤い強酸性土壌(大東マージ)が分布する。全般に土層が浅く保水性も乏しいため、深刻な干ばつ害が発生する年も多いなど、県内でも特殊な生産環境にある。
南大東島におけるサトウキビ栽培の作型は、春植え20%、夏植え5%、株出し栽培(収穫後に萌芽したひこばえ(収穫株から生えてくる若芽)を利用する栽培型)が75%である。株出し栽培は、植付けにかかるコストや労力が抑制され、土地利用効率も高く、収益性が良いこともあって、同島の主力の作型である。
南大東島の主力品種は、台湾から導入した「F161」である。「F161」は発芽、伸長性が良好ではあるが、耐干性や株出し性ではやや劣る。過去30年以上にわたって利用されている「F161」に変わる品種として、いくつかの品種が導入された経緯はあるが、上記の不良環境要因などで広く定着していない。近年育成した「Ni26」は同地域に適用できる数少ない品種の一つであるが、黒穂病への抵抗性がやや弱いこともあり、10%程度の普及に止まっている。
そのため、南大東島では台風や干ばつ害に強く、収量性に優れ、株出し性が高く、黒穂病に抵抗性の品種が強く求められていた。そのニーズに応えるため、沖縄県農業研究センター作物班(旧農林水産省さとうきび育種指定試験地)では収量性や、繰り返しの株出し栽培が可能なこと(多回株出し性)、黒穂病抵抗性を重視して選抜を行い新品種「Ni28」(農林28号)を育成した。
ここでは「Ni28」の来歴、育成経過、主要特性等を報告する。