内外の伝統的な砂糖製造法(14)
最終更新日:2012年8月10日
内外の伝統的な砂糖製造法(14)
〜バングラデシュの「分蜜されていない砂糖」グル〜
2012年8月
昭和女子大学国際文化研究所 客員研究員 荒尾 美代
バングラデシュは、インドの東側に位置し、ベンガル湾に面している。
さとうきびは、バングラデシュの重要な産業のひとつで、特に北西部と南西部の雨の降りやすい地域での主要産業となっている。さとうきびの用途は、53〜57パーセントがグル(Gur)と呼ばれる「分蜜されていない」バングラデシュの伝統的な砂糖生産に使用され、23〜27パーセントが日本のグラニュー糖と同様のチニ(Chini)に、10〜12パーセントがさとうきびジュースとそのままかじって食べるのに充てられ、約10パーセントが次回栽培用の種として使用されている。
このようにバングラデシュでは、「分蜜されていない」砂糖のグルが国民的砂糖の嗜好を支え、農村部での大切な収入源となっている。
「分蜜されていない」というと、私たちは茶色や黒の「黒砂糖」のカテゴリーをイメージする(写真1)。しかし、バングラデシュには、「分蜜されていない」黄砂糖がある。今回は、その実態にも迫りたい。
まずは、バングラデシュでさとうきびの生産高が一番多い、ラッシャヒ県におけるさとうきびから作られるグルの生産模様を写真と共に見ていただきたい。
農村部の家内工業的に作られているので、「工場」ではなく、「工房」といった風情で、グルの生産工房の多くは家の敷地内に設置されている(写真2)。
(1)原料のさとうきびは、4種を分別することなく混合して使用する。
(2)ディーゼルエンジンを使用して、金属製の垂直ローラー式圧搾機で、さとうきびからジュースを搾取する(写真3)。
(3)ジュースを長方形の鍋に入れ、バガスを燃料として加熱する(写真4)。
(4)液を清浄するために、野生オクラ(wild okra)の木の枝をつぶして水に入れる(写真5)。
(5)野生オクラの粘性の水溶液を、加熱しはじめた鍋の中に入れ、浮いてくる不純物をネットで除去する(写真6)。
(6)石灰(lime)、ハイドロサルファイト(Sodium Hydrosulfite)を水で溶かす。
(7)(6)を鍋の中に入れると、糖液の色が明らかに黄色に変わった(写真7)。
(8)液を水の中にたらし、固まるようであったら鍋を竈からおろす(写真8)。
(9)木製の鍬状のもので濃縮糖液全体を冷却し、再びハイドロサルファイトを粉のまま加えてよく混ぜる(写真9)。
(10)長方型の鍋から2つの素焼の深さのある平鉢に濃縮糖液を入れ、棒でよく攪拌する(写真10)。
(11)木を組み立てた箱の中に、平鉢の中の糖液を流し入れ、固まったら木を外す(写真11、12)。
出来上がったグルは、黄色い。これは、脱色剤(日本では砂糖を作る際このような薬剤を用いた化学処理による脱色を行うことはないので、ご安心を!)のハイドロサルファイトによるものだ。瞬時に色を明るくする秘密兵器なのだが・・・。味は、コクのある黄砂糖といったところ。
バングラデシュでいえば、ナツメヤシ(Date palm)、オウギヤシ(Palmyra palm)からもグルが作られている。生産量からみると、僅かではあるのだが・・・。やはり、用途は「分蜜されていない」グルのカテゴリーに入っている。
ナツメヤシは、デーツの名の方が知られているだろう。この実は、乾燥させて市場に出回っているし、日本にも輸入されている。プラムのような乾燥果実だ。
このナツメヤシを原料とする砂糖製造を見るのは初めての経験だった。場所は同じくラッシャヒ県である。
まだ、夜が明けないうち、友人の親戚にあたる家を出発。薄明るくなってきたとはいえ、視界はまだ霧の中。そんな中をニュッと人影が・・・。手には何かしら持っている。それが、ナツメヤシの樹液を溜めた壺だった。初めて見るその光景は、幻想的で、神秘的だった。
猿のようにと言ったら大変失礼だが、スルスルと木を登り、樹液が貯まった容器を回収する。
ナツメヤシの木が乱立する林があるわけではない。道の端に、あぜ道に、ナツメヤシの木が天を臨んでいる。畑の作物や稲、もちろんさとうきびよりも背が圧倒的に高いので、よくわかるのだ。
その作り方は、さとうきびを原料とする場合とほぼ同じの長方形の鍋を使用する方法であった。写真と共に紹介しよう。
(1)午後、ナツメヤシの木に刃物で切りキズをあたえ、壺を括り付ける。
(2)約13時間後の早朝まだ暗いうちに、ナツメヤシの樹液が滴りたまっている壺を回収する。
(3)長方形の鍋で樹液を加熱し、石灰(lime)、ハイドロサルファイト(Sodium Hydrosulfite)、硬化植物油を加える。
(4)3時間弱加熱し、水に糖液を垂らして固まったら火からおろす(写真13)。
(5)さらに硬化植物油を加え、木製の鍬状のものでかき混ぜ冷却する(写真14)。
(6)素焼の平鉢に移し自宅へ運搬する(写真15)。
(7)ハイドロサルファイトとマスタードオイルを加え、よく攪拌する。
(8)木枠に流し込み、固まるのを待つ(写真16)
先に紹介したグルに使用されているハイドロサルファイトとともに、白い硬化植物油が使用されているため色が明るくなっているのである。さらにマスタードオイルを加えてキャラメルのように濃厚な味であり、食べてみる価値があるグルのひとつである。
バングラデシュの隣の国インドのケースであるが、1950年代中ごろに調査をおこなったヒルシュという人が、黒砂糖から白砂糖へのニーズが広がっていることについて、欧米では黒パンから白パンへ、日本でも白米へということと同様という見解を記した。
「白」へのニーズの深層は、万国共通なのであろうか・・・・・。
この点は、これから探求していきたい。
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