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さとうきび品種「農林30号」の特性と利用

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最終更新日:2012年8月10日

さとうきび品種「農林30号」の特性と利用

2012年8月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター 生産体系研究領域 主任研究員 石川 葉子
(前九州沖縄農業研究センター 作物開発・利用研究領域 主任研究員)      

 

【はじめに】

 台風の襲来や夏季の干ばつなど作物にとって厳しい気象条件が重なっている南西諸島では、そのような環境でも栽培できる作物としてサトウキビが基幹的な役割を果たしている。しかしながら、そのサトウキビにしても度重なる台風や長期化する干ばつに遭遇しては、深刻な減収を避けることはできない。サトウキビは初期生育に時間がかかる作物であるが、植物体の小さい生育初期は気象災害の被害を受けやすい時期でもある。台風や干ばつの襲来する夏季までに十分な生育を確保しておくことが、サトウキビ栽培の成否を分ける1つの重要なポイントといってもよい。そうした面でサトウキビを従来の収穫期である1月から3月よりも早い時期に収穫する早期収穫には、その後の株出し栽培のスタートを早め、生育期間の延伸を図ることができるという利点がある。

 現在、鹿児島県大島地域では、「NiF8(農林8号)」、「Ni17(農林17号)」、「Ni22(農林22号)」、干ばつ耐性を具えた「Ni23(農林23号)」等の品種が栽培されている。農林8号や農林17号は早い時期に糖度が上昇する早期高糖性とされているものの、12月の早期収穫では糖度の上昇が十分ではないという問題があった。さらに早期収穫後の株出しで、萌芽が不安定になることも、これらの品種を用いて早期収穫を行う上での障害となっていた。

 こうした背景の下、優れた早期高糖性を具え、12月に収穫可能な農林22号の栽培面積が広がってきたが、農林22号は茎が細く脱葉性が「中」と機械収穫を前提とする品種であるため、必ずしも全ての生産者が利用できるものではなく、早期収穫のさらなる普及には農林22号を補う新たな品種の選択肢が求められてきた。さとうきび農林30号(以下、農林30号)は優れた早期高糖性を具えているだけでなく、茎径や脱葉性の面で農林22号とは異なる性質を有しており、新たな品種の選択肢にふさわしい品種といえる。ここでは、農林30号の来歴と特徴、栽培上の注意点などについて紹介する。

1.品種の来歴と特徴

(1)来歴

 農林30号は、1998年に財団法人甘味資源振興会が南アフリカ共和国糖業試験所から導入した種子の分譲を受けて、九州沖縄農業研究センター・作物開発・利用研究領域・さとうきびグループ(当時の九州農業試験場作物開発部さとうきび育種研究室)が、1999年に育成を開始した品種である(図1)。2002年に系統名「KN00-114」を付し、育成地での生産力検定試験、系統適応性検定試験、鹿児島県、沖縄県での特性検定試験を経て、2006年から各地の試験に供試した。

 「KN00-114」は鹿児島県全域で良好な成績が得られた。特に、奄美地域では様々な作型で好成績がみとめられた。沖縄県では沖縄本島北部地域の名護での試験成績が良好であったが、先島地域など南方での成績は振るわなかった。北部地域では現在も試験が継続されている。

 このような経過を経て、「KN00-114」は奄美地域を対象に鹿児島県の奨励品種に採用された。2011年に「KN00-114」として品種登録申請を行い、2012年には農林水産省から「さとうきび農林30号」の認定を受けた。
 
 
(2)形態および生態的特性

 農林30号の発芽性は農林8号と同等の「良」、萌芽性はやや劣る「やや良」で、分げつ性は農林8号よりも優れる。茎は直立し、初期伸長性は農林8号と同じ「良」である。登熟性は農林8号の「やや早」に対して「早」とより早い。出穂は農林8号よりもやや少ない。葉焼病、さび病類、モザイク病など葉に症状の現れる病気に対して概ね抵抗性であり、梢頭部腐敗病に対しても抵抗性である。黒穂病については、その多発地帯である与論島を含めて試験期間を通じて発生は認められず、栽培上重要となる圃場抵抗性は「強」と判定している。メイチュウ類に対する抵抗性は農林8号と同等の「中」である。風折抵抗性は農林8号よりもやや劣るものの、耐倒伏性は農林8号と同じ「やや強」である。茎径が「やや細」、脱葉性が「やや易」と農林8号よりやや劣るが、早期収穫用品種の農林22号よりも収穫しやすい。
 
 
 
 
 
 
(3)収量性および品質特性

 農林30号の収量性は種子島にある育成地および普及対象の奄美地域において、春植え、株出し、夏植え、夏株出しの全ての作型で、農林8号と比較して同等かあるいは高かった。育成地では春植え6回、株出し5回の試験が行われたが、原料茎収量が農林8号を下回ったのは2005年の春植えと2006年の株出しだけである。奄美地域の鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場の試験では、春植え5回、株出し4回の試験が行われ、その全てで農林30号は農林8号よりも高い原料茎収量を示している。農林30号の多収の要因は、原料茎数が多く原料茎長が長いところにある。

 農林30号の品質は、育成地では農林8号よりも優れ、奄美地域では農林8号と同等かやや優れている。奄美地域での早期収穫品質は春植え、株出しともに農林8号より優れており、年次によっては農林8号より1%程度高い甘蔗糖度も認められた。
 
 
 
 
 
 

2.栽培上の注意点

 農林30号の試験期間を通して、育成地のある熊毛地域で14回、普及対象地域の奄美地域では12回の台風が襲来した。その結果、育成地では目立った折損被害は認められなかったものの、徳之島の株出し栽培では農林8号と比較してやや高い折損被害が観察される傾向にあった。台風による折損危険のある圃場での栽培は避けることが望ましい。また、農林30号は農林8号と比較してやや萌芽性が劣るため、収穫後は直ちに株出し処理を行い十分な萌芽数を確保することが推奨される。

3.おわりに

 先に、農林30号は奄美地域の早期収穫用品種の新たな選択肢であることを述べた。同地域ではすでに、耐干性を具え高収量が特徴の農林23号、早期高糖で株萌芽に優れた農林22号などが栽培されている。これらの品種と今回新たに加えられた農林30号をうまく組み合わせることにより、品種の能力を引き出す工夫と早期収穫をはじめとする栽培面の工夫の両面から厳しい気象条件下でも高い収量をあげるサトウキビ作りの実現を期待する。農林30号は南アフリカ共和国から導入した種子から育成された品種である。農林7号や農林24号など、過去にも南アフリカ共和国から導入された種子から品種が育成されたことがあり、海外のサトウキビの遺伝資源からわが国の南西諸島での実用に耐える品種を育成することが可能なことを改めて示した例となった。今後も引き続き、海外の研究所と遺伝資源の交換を行うとともに、導入した遺伝資源を様々な形で利用することで、南西諸島に適した品種の育成につなげたい。農林30号の育成を通じて明らかとなった問題は今後の品種開発に反映していきたい。
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