独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター 生産体系研究領域 主任研究員 石川 葉子
(前九州沖縄農業研究センター 作物開発・利用研究領域 主任研究員)
【はじめに】
台風の襲来や夏季の干ばつなど作物にとって厳しい気象条件が重なっている南西諸島では、そのような環境でも栽培できる作物としてサトウキビが基幹的な役割を果たしている。しかしながら、そのサトウキビにしても度重なる台風や長期化する干ばつに遭遇しては、深刻な減収を避けることはできない。サトウキビは初期生育に時間がかかる作物であるが、植物体の小さい生育初期は気象災害の被害を受けやすい時期でもある。台風や干ばつの襲来する夏季までに十分な生育を確保しておくことが、サトウキビ栽培の成否を分ける1つの重要なポイントといってもよい。そうした面でサトウキビを従来の収穫期である1月から3月よりも早い時期に収穫する早期収穫には、その後の株出し栽培のスタートを早め、生育期間の延伸を図ることができるという利点がある。
現在、鹿児島県大島地域では、「NiF8(農林8号)」、「Ni17(農林17号)」、「Ni22(農林22号)」、干ばつ耐性を具えた「Ni23(農林23号)」等の品種が栽培されている。農林8号や農林17号は早い時期に糖度が上昇する早期高糖性とされているものの、12月の早期収穫では糖度の上昇が十分ではないという問題があった。さらに早期収穫後の株出しで、萌芽が不安定になることも、これらの品種を用いて早期収穫を行う上での障害となっていた。
こうした背景の下、優れた早期高糖性を具え、12月に収穫可能な農林22号の栽培面積が広がってきたが、農林22号は茎が細く脱葉性が「中」と機械収穫を前提とする品種であるため、必ずしも全ての生産者が利用できるものではなく、早期収穫のさらなる普及には農林22号を補う新たな品種の選択肢が求められてきた。さとうきび農林30号(以下、農林30号)は優れた早期高糖性を具えているだけでなく、茎径や脱葉性の面で農林22号とは異なる性質を有しており、新たな品種の選択肢にふさわしい品種といえる。ここでは、農林30号の来歴と特徴、栽培上の注意点などについて紹介する。