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精製糖工場排水の省・創エネルギー処理法の開発

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最終更新日:2013年1月18日

精製糖工場排水の省・創エネルギー処理法の開発

2013年1月

三井製糖株式会社 開発生産本部 生産統括部 技術開発課長 河合 俊和
 


【要約】

 産業排水処理や下水処理などは水環境の保全のために必要不可欠であるが、一方で多くのエネルギーを消費する。一般に活性汚泥法などの好気性排水処理が用いられるが、その消費電力は国内電力消費の0.6%(下水処理として)に相当すると言われている。また、処理に伴って発生する余剰汚泥は有機系産業廃棄物の40%を占め、その処理にも多くのエネルギーを消費する。当社では環境問題への取り組みの一つとして、独立行政法人国立環境研究所(国環研)および長岡技術科学大学(長岡技大)で開発された省・創エネルギー型排水処理システムを用いて実際の精製糖工場排水で評価し、実用化に向けて研究開発を進めている。この排水処理法の背景やシステムの特徴について紹介する。

1.研究開発の背景

 排水処理には様々な方法があるが、糖類などの有機物の多い排水には、微生物を使った排水処理である生物処理法が有効である。生物処理法には大きく分けると酸素を必要とする好気性処理法と酸素を必要としない嫌気性処理法の2種類がある。

 好気性処理とは「空気を好む」と書くとおり、処理に空気(酸素)が必要な生物処理で、曝気処理(空気を排水に吹きこむ)により酸素を排水に溶かし込む必要がある。好気性処理は処理水質が良好であることがメリットだが、排水を処理する微生物(汚泥)が増え易いため、余剰汚泥を処理するためのエネルギーが必要である。

 一方、嫌気性処理は字の通り「空気を嫌う」ため、曝気は不要である。また、高濃度の有機物排水にも適用することができるが、水質が十分に確保できないため、別の処理と組み合わせる必要がある。嫌気性処理では、微生物が活性化する条件に制約があり、適度な有機物濃度や温度(35℃や55℃)にする必要がある。

 活性汚泥法(注1)などの好気性処理は処理性能が非常に優れているため、国内においては都市下水や産業排水の主要な処理技術となっており、我が国の水環境保全に大きく貢献している。しかし、一方で多大なエネルギーを必要とするデメリットがある。

 また、開発途上国においては、水環境汚染が深刻な問題となっているが、排水処理に必要なエネルギーや運転コストを十分に確保できないなどの理由から、既存技術である活性汚泥法の普及だけでは対応できない状況である。

 嫌気性排水処理では運転に必要なエネルギーが少なく、余剰汚泥の発生が少ないため、省エネルギー型の排水処理が期待できる。しかし、都市下水や食品工場排水など有機物濃度の低い常温の排水に用いることは困難とされてきた。

 このような背景から国環研や長岡技大では、(1)嫌気性処理(メタン発酵法)による低濃度産業排水の無加温排水処理技術の確立、(2)嫌気性処理と省エネルギー型好気性処理の組み合わせによる処理試験を進めてきた。

(注1)下水、廃水に空気を吹き込んで、好気的な微生物に水中の有機物を分解させ、浄化する方法

2.技術開発の歩み

 国環研では、常温でも低濃度の排水処理ができる嫌気性処理を開発するために、嫌気性グラニュール汚泥床法(Anaerobic Granular Sludge Bed : AGSB)を検討してきた。グラニュール汚泥とは、メタン生成古細菌(注2)など排水を処理する嫌気微生物群が数ミリ径の粒状になったもので、通常はある特定の条件で排水を処理するに従い、自然に形成される。また、汚泥床法とはグラニュール汚泥が集積した層のことを指し、そこに排水を流すことで高濃度に集積した汚泥の層(汚泥床)で排水を処理し、メタン化する方法である(図1、文献(1)より転載)。
 
 水温や有機物濃度が低いとメタン生成古細菌の活性が低下し、細菌の増殖も悪くなるためグラニュールが形成されにくくなる。また、水の粘度が上がるためにグラニュール汚泥内部に存在するメタン生成古細菌に排水の有機物が届きにくくなる(拡散律速)、発生したメタンガスがグラニュール汚泥から分離しにくくなるといった問題があった。

 そこでまず、他の排水処理で得られた汚泥を装置に充填して汚泥床を形成することと適切な有機物負荷量を与えることで、グラニュール汚泥形成阻害の問題を解決した。また、処理水を循環し、排水の流速を上げることで、排水と微生物の接触性を改善し、グラニュール汚泥からのガス分離性を向上させる試みを行った。

 図1のような排水処理装置を用いて、まず実際の排水を模した合成排水にて20℃での低温処理試験を行った(図2、文献(1)より転載)。その結果、時間経過とともに20℃でのメタン生成古細菌の活性が著しく増加した。次いで、処理水温を20℃から15℃、10℃と下げていった結果、低温に耐えられるメタン生成古細菌が汚泥の中に増えてきた(図3、図4,文献(1)より転載)。
 
 
 
 さらに、低有機物濃度の排水への対応については排水供給条件の最適化を検討した。一定時間毎に処理水の循環を行うことで、安定的で非常に高い有機物除去効率を得ることができた。

(注2) 高濃度の塩水や高酸性高温の温泉水の中など、特殊な環境で生育する細菌の総称
(注3) 水中の有機物を酸化剤で分解する際に消費される酸化剤の量を酸素量に換算したもの。水質の汚濁状況を測る代表的な指標

3.システムの概要・特徴

 図5の排水処理システムを当社の精製糖工場排水に適用し、その処理性能を評価することを目的に国環研と共同研究を実施した。本システムでは、国環研で開発した低濃度有機性排水対応のAGSBと長岡技大が開発した省エネルギー型後段好気処理法である懸架型スポンジ担体による好気性ろ床法(Down-flow Hanging Sponge: DHS)を組み合わせた。
 
 DHSとはスポンジを吊したものに排水を垂らして、スポンジに付着した微生物で排水を処理する散水ろ床法の一種である。スポンジの上から排水を垂らすと、スポンジを伝って排水が下へ落ちるが、スポンジには小さな空隙がたくさんあるため、その中で繁殖した好気性微生物が有機物を分解する。スポンジ担体の表面積が大きいので、外気中の酸素は排水に溶けやすくなる。このように曝気を必要としないため、省電力型の好気排水処理法といえる。

 図6には精製糖排水の連続処理実験の結果を示した。供給した精製糖工場排水は微生物生育に必要な栄養塩濃度が低かったため、実験開始77日目より排水に無機栄養塩、微量金属類、重炭酸ナトリウム(pH 緩衝剤)を添加し運転を行った。その結果、処理性能が回復し安定的な処理水質が得られ、グラニュール汚泥床のみで全COD 除去率 85%、流出全COD 濃度 49 mg/L となった(図6、文献(1)より転載)。
 

4.砂糖など食品産業への利用展望

 当社と長岡技大は当社の工場排水を処理するユーティリティ会社に、上昇流嫌気性汚泥床法(Upflow anaerobic sludge blanket, UASB法)+DHS法のパイロットプラント(図7)を設置し、実排水を用いた試験を実施した。なお、本排水は食品工場のコンビナートの排水であるため、当社以外の食品産業の排水も多く含まれていた。
 
 実排水での試験により、リンを除く全ての項目で排水基準以下を達成し、特にSSおよび有機物に関して高い除去性能を示すことが確認できた(表1、文献(2)より転載)。リンの除去については硫酸バンドで処理することで排出基準内にすることができた。また、本システムでの消費電力量および余剰汚泥発生量は、活性汚泥法の1/10程度に抑えられ、排水処理に要するコスト削減が期待できることが示唆された(表2、文献(2)より転載)。なお、精製糖工場排水のみならず多種の食品産業からの混合排水でも処理が可能なことから、食品産業で幅広く適用できることが示唆された。
 
 
 当社、国環研および長岡技大では、本UASB+DHSシステムを精製糖排水やその他食品排水だけでなく、宮古島バイオエタノール大規模実証プラントの排水でも実証試験を進めてきた。また、国環研および長岡技大では、その他にも長岡市やインドの下水処理試験をはじめ、国内外の都市下水および産業排水の省エネルギー処理に取り組んでいる。

 京都議定書での削減目標であった1990年比6%のCO2は8000万トンに相当するが、現在の有機性排水処理での消費電力と汚泥処理におけるCO2発生量は700万トン〜1000万トンと言われている。本システムでは活性汚泥法と比較すると80%〜90%の消費エネルギー削減が期待できる。更に発生したメタンを利用できれば、逆にエネルギーを創出する排水処理システムとなる。

 将来こうした環境に優しい排水処理システムが主要な排水処理システムとなるように引き続き実用化に向けた検討を進めていきたいと考えている。

参考文献

(1) 国立環境研究所特別研究報告SR-86-2009「省エネルギー型水・炭素循環処理システムの開発」、 ISSN 1341-3635、(独)国立環境研究所 珠坪一晃

(2) 蝶勢智明、 出濱和弥、 谷川大輔、 若林敬史、 平田昭夫、 高橋優信、 山口隆司、UASB-DHSシステムによる食品総合廃水の処理評価、 第30回土木学会関東支部調査研究発表会論文集、 pp.466-467、 2012.
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