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平成23/24年期さとうきび低収の環境的要因と技術的要因

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最終更新日:2013年1月10日

平成23/24年期さとうきび低収の環境的要因と技術的要因

2013年1月

鹿児島県農業開発総合センター 徳之島支場 作物研究室長 小牧 有三
 


【要約】

 平成23/24年期は平成22年秋から平成23年春の低温・少雨・寡照による生育遅延と、さらに沖縄・奄美地域では台風2号による潮風害、メイチュウ(イネヨトウ)被害及び干ばつが加わり、著しく単収が低下したことで、さとうきび生産量が100万tを割り込むこととなった。そこで、平成23/24年期の低収要因について、鹿児島県の試験データを基に気象等の環境的要因が減収にどの程度影響したか整理した。その結果、沖縄・奄美・種子島の共通の減収要因であった生育初期の気象の影響が最も大きく、次いで5月下旬の台風2号の潮風害、メイチュウ被害、8月〜9月上旬の干ばつの順に影響が大きかったのではないかと推察した。また、当センター徳之島支場内試験において、春植え、株出し栽培は過去9年間で最低の単収ではなかったことから、低単収は単に環境要因の影響だけでなく、基本技術が十分に実施できていないことにより減収が助長された可能性も示唆された。これまで機械化体系の普及を進めることにより収穫面積の維持拡大が図られ、さとうきびの増産や地域経済の安定に貢献してきた。その一方、基本技術の実施という面では更に改善の余地があり、今後は向上が図られてきた作業能率などを維持しながら、基本技術を実践できる機械化システムの開発に取り組む必要がある。

1.はじめに

 南西諸島の基幹作物の一つであるさとうきびの生産量は、平成2/3年期に200万トンを割り込んだ後、減少傾向が続き、平成16/17年期には120万トン程度となった。平成18年度に「さとうきび増産計画」が策定されてから増産傾向に転じ、平成19/20年期〜平成22/23年期には150万トン程度まで回復していた。しかし平成23/24年期は平成22年秋から平成23年春の低温・少雨・寡照による生育遅延と、さらに沖縄・奄美地域では台風2号による潮風害、メイチュウ被害、干ばつが加わり、単収が著しく低下したことで、100万トンを割り込むこととなった(図1、図2)。特に沖縄・奄美地域の単収低下は著しく(平年比でそれぞれ71%、66%)、昭和20年代の奄美地域の水準となり、種子島地域(平年比84%)と比較して著しく深刻な状況であった。
 
 
 そこで、平成23/24年期の低収要因に関する気象等の環境的要因について鹿児島県の試験データを基に検討するとともに、気象災害を助長した技術的要因についても整理し、今後のさとうきびの安定生産に向けた方向性について報告する。なお、本稿で示した減収率等の数字は限られた情報を基にしたものであり、平成23/24年期の実態を必ずしも正確に反映していない可能性があることをご理解の上で参考にしていただきたい。

2.生育初期の気象による減収要因について

 平成23/24年期の単収を栽培型ごとに平年と比較すると(図3)、沖縄・奄美地域においては、夏植えの減収率が最も大きく(それぞれ平年比70%、64%)、ついで株出しで(同平年比73%、69%)、春植えは比較的小さかった(同平年比83%、72%)。夏植えがほとんどない種子島においても株出しの方が春植えより減収率が大きかった(平年比:株出し84%、春植え87%)。
 
 さとうきびの生育初期にあたる平成22年11月〜23年6月までの奄美地域(徳之島・伊仙)における気温、降水量、日照時間の推移を図4に示した。平均気温は1月と3月が平年と比較して低く、降水量は12月から4月にかけて平年より少なく、日照時間は1月〜2月及び5月が少なかった。夏植えは2月〜5月の長期間にわたり低温・寡照及び少雨の影響を受けており、春植え、株出しと比較して生育が抑制された期間が長かったことで減収率が大きくなったと推察された。春植え、株出しについては3月の低温、2月〜4月の少雨が発芽、萌芽の遅れに繋がり、これに5月の寡照が加わって初期生育が抑制された。株出し予定のほ場における収穫は春植えの植付けより早くから始まり、萌芽が春植えの発芽より早いほ場が多かったことから、株出しの方が春植えより低温・寡照の影響を長く受けたことにより減収率が大きくなったものと推察される。

 5月までの気象がさとうきびの初期生育に与えた影響は、沖縄、奄美、種子島の各地域で多少異なる点はあるものの、低温・寡照及び地域によっては少雨による発芽・萌芽の遅延、初期生育の停滞は共通したものと考える。平成23/24年期の種子島では、沖縄・奄美と異なり5月頃までの生育初期の低温・寡照等による生育抑制以外に低収要因はなく、その後は順調に生育したにも関わらず平年比84%の単収であったことから(図2)、沖縄・奄美においても生育初期の気象による平年からの減収程度は15%程度であったものと推察される。
 

3.台風2号による被害

 平成23年5月下旬に沖縄・奄美地方に接近した台風2号は、28〜29日にかけて奄美地方に最接近し(伊仙アメダスで、最大瞬間風速35.7m、降水量28日15.5mm、29日0mm)、それ以降降雨がなく、通過後は5月31日まで晴天が続いたため潮風害が発生した(写真1)。

 強風による葉身の折れの他、展開していた葉は潮風害により春植え・株出しでほぼ全部、夏植えでも数枚を残して枯死した。その後の適度な降雨と日照時間により葉は回復し、7月1日の調査では平年より1〜3枚程度少なかったが、春植え、株出しでは7月15日時点で、夏植えでは8月1日時点で平年並み以上に回復した(図5)。潮風害を受けてから葉数が平年並みに回復するまで1カ月半〜2カ月の間新しい葉を展開するために養分が利用されたことで、生育が大きく遅延したものと推察される。
 
 

4.メイチュウによる被害

 平成21/22年期から被害が目立つようになっていたメイチュウによる芯枯れ被害が、平成23/24年期は沖縄・奄美の各地で発生し、立ち枯れによる全損などの被害が問題となった。

 奄美の徳之島においては全損ほ場52ha、一部被害ほ場96haとの報告があり(徳之島生産対策本部)、仮に一部被害を50%とすると、被害面積は100haとなり、徳之島全体の収穫予定面積3,770haの2.6%が収穫できなかったことになる。

 メイチュウ被害は立ち枯れ以外にも、メイチュウが茎内に侵入して食害した部位から強風などの影響で折損し、減収する事例も見られる。徳之島支場が平成23年度に実施した奨励品種決定調査現地試験で折損茎率を調査した結果、品種によって2〜10%の折損があり、平均で7.4%であった(図6)。この試験の折損はほとんどが根元からの折損であり、メイチュウに根元を食害された被害茎が強風で折損したものと推察された。このことからメイチュウ被害は立ち枯れにまで至らない場合でも、折損による茎数の減少が単収低下をもたらすことが示された。仮に本調査の平均被害茎率程度の被害が奄美地域全体であったとすると、メイチュウ被害により約8%の単収減となったことになる。また、メイチュウの食害部は糖度が低下することから、メイチュウ被害は品質低下への影響もあったと推察される。
 

5.干ばつによる被害

 5月下旬の台風2号の潮風害後、6月〜7月の適度な降雨により生育に回復の兆しが見られたが、8月〜9月上旬に降雨が少なく、干ばつ気味になり再び生育の停滞がみられた。この干ばつの影響を検証するために、徳之島支場内で実施したかん水試験の結果を図7に示した。栽培型は平成22年、23年とも株出し栽培1回目で、かん水は梅雨明け後から10月上中旬まで週2回実施した。供試した2奨励品種(NiF8およびNi23)の平均値を用いて原料茎重を比較したところ、平成23年度のかん水区は、平年並みの単収年であった平成22年度のかん水区と比較して68%で、この差は初期の低温・寡照や台風2号の潮風害など干ばつ以外の要因による減収であることが示唆された。平成23年度については無かん水区の原料茎重は、かん水区に対し93%で、干ばつによる減収率7%と推定された。
 
 

6.奄美地域の減収要因のまとめ

 奄美地域の平成23/24年期の単収は平年比で66%であったが、これまで述べたデータに基づいて、生育初期の低温・寡照等による減収率15%(平年比85%)、メイチュウ被害による減収率8%(同92%)、干ばつによる減収率7%(同93%)とすると、この3要因で平年比73%まで説明できる(0.85×0.92×0.93≒0.73)。このことから台風2号の影響を算出すると、平年比90%、減収率10%と推定された(0.73×0.9≒0.66)。

 奄美地域における単収減の要因を図8に整理した。ここに示した減収率の数字については一つの試算に過ぎないが、生育初期における低温等の気象要因が最も影響が大きく、次いで台風2号による潮風害、そしてメイチュウ被害及び干ばつの影響もあったことが示唆された。
 
 

7.単収低下の技術的要因について

 ここまで、平成23/24年期の単収低下の環境的要因について考察したが、今回の単収低下は環境的要因以外に技術的要因からの問題も指摘しておく必要がある。

 平成15〜23年度の奄美地域の実績単収と徳之島支場内での奨励品種決定調査における単収(NiF8、Ni17、Ni22、Ni23の奄美地域4奨励品種平均)を栽培型別に比較した結果を図9に示した。平成23年度(平成23/24年期)の奄美地域の単収は、春植え、夏植え、株出しの全栽培型とも9年間で最低の単収である。しかし、徳之島支場内の試験成績をみると、夏植えは最低であったが、春植え、株出しについては平成23年度より低い年度があることが明らかになった。徳之島支場内の奨励品種決定調査は、新植時は脱葉し水浸漬した蔗苗を3月中旬頃に手植えし発芽後に補植も行っている。収穫は人力で行い、株出しでは収穫後できるだけ早く株揃え、根切り作業を実施している。また、茎数が確保できた時点で培土作業を行っている。このように徳之島支場の調査ほ場では最低限の基本技術が実施できているが、生産現場においては基本技術が十分にできていない実態があり、減収を大きくしていないか検証する必要がある。
 
 近年徳之島では製糖の早期開始、早期終了により適期の春植えや株出し管理への環境が整いつつある一方で、ジャガイモ栽培面積が増加傾向にあり、さとうきびに加えジャガイモの収穫作業との競合により、株出し管理作業や春植えの植付け作業が遅れ気味になっている。そのため基本技術を若干犠牲にしても作業効率を優先せざるを得ず、このことが災害に対する緩衝力を低下させていることが考えられる。このため以下のような観点を含め問題点を整理し、今後に活かすことが安定した生産に繋がると考える。

(1)蔗苗に適する苗を生産するための専用ほ場を設置することが望ましいが(特に苗選別が困難なプランタ植付けにおいて)、原料出荷用ほ場からの採苗により発芽能力の低い苗の比率が高くなっていないか。

(2)プランタ植付けでは困難だが、人力植付けも含めて苗の水浸漬が行われないことによる発芽率の低下はないか。

(3)植付け苗数の不足(特にプランタ植付けの場合)、発芽後の補植作業の未実施により新植時から欠株が多くなり、これが株出しでの欠株にもつながっているのではないか。

(4)ハーベスタによる株の引き抜きが問題となっているが、これはハーベスタだけが問題なのか。新植時の植付けの深さが浅くなっていたり、培土が不十分だったりすることで引き抜きを助長しているのではないか。

(5)株出しの初期生育が劣ったり、茎数が少ないのは、収穫後の管理作業の遅れによるものではないか。

 これまでハーベスタやプランタの普及により、さとうきび栽培においても作業の効率化や規模拡大が進み、収穫面積の維持拡大が図られてきた。このように機械化の進展は、これによる効率化・省力化を通じてさとうきびの増産及び地域経済の安定化に大きく貢献してきた。しかしながら、確実な基本技術の実践という観点で見た場合、これまでの機械化システムでは十分に対応できていない面があり、通常の栽培環境であれば問題はなくても、平成23/24年期のような厳しい栽培条件では生産が不安定になると考えられる。

 そのうえで、さとうきびの安定生産のためには引き続き機械化を進めることは必要であり、作業効率を維持しながら基本技術も実施できるシステムの構築が求められる。このようなシステムの一例としては、以下のような形が考えられる。

 これまでの採苗・調苗は、人力で刈り取り手作業で脱葉・切断を行っており、重労働で時間も要するが、苗専用ほ場を設置し、ハーベスタで収穫した苗から良質苗を選別しこれを水浸漬・消毒などの処理をして植え付けるシステムに変更することができれば、採苗・調苗の軽作業化と苗の予措など基本技術の実施が可能となる。また、春植えの場合は蔗苗に適さない原料部分は製糖工場に出荷することで苗生産コストを下げることにもなる。

 沖縄・奄美地域では、平成24/25年期も相次ぐ台風の襲来により、前年ほどではないものの2年連続の低単収となる見込である。今後は現在の機械化システムと基本技術の検証を進めつつ、現場だけでは解決困難な部分については作業能率を維持しつつ基本技術を実践できるシステムの構築に向けて早急に取り組み、生産性の安定につなげていく必要性を感じている。
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