砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など てん菜生産関係 > てん菜新品種「えぞまる」「クリスター」「ラテール」「北海101号」の特性について

てん菜新品種「えぞまる」「クリスター」「ラテール」「北海101号」の特性について

印刷ページ

最終更新日:2013年3月11日

てん菜新品種「えぞまる」「クリスター」「ラテール」「北海101号」の特性について

2013年3月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部 北見農業試験場
 地域技術グループ 研究主査 池谷 聡

 


【はじめに】

 平成21年以降、多収性や高糖分、複合抵抗性等さまざまな特徴を持つてん菜新品種が8つ育成された。前回に引き続き、平成24年に北海道の優良品種に認定された「えぞまる」、「クリスター」、「ラテール」、「北海101号」の品種特性を紹介する。

T 根重および根中糖分が優れる「えぞまる」(旧系統名「KWS9R38」)

1. 背景:「第4期北海道農業・農村振興計画」(北海道、平成23年)では、平成32年におけるてん菜の生産量努力目標を380〜405万tと策定している。しかし近年のてん菜作付面積は減少しており、このまま作付面積の減少が続くと目標を達成できない。生産量を確保するためには、根重および根中糖分が従来の主力品種を上回る必要がある。また、そう根病は土壌伝染性の重要病害で、化学的防除が困難なため、発生圃場では抵抗性品種の作付けが重要である。
 「えぞまる」はそう根病抵抗性を持ち、主力品種の「かちまる」「ゆきまる」より根重および根中糖分がかなり優れる。一方「えぞまる」は褐斑病に弱く、一部の試験地で根腐れ症状が多発していることもあるので、排水不良や病害多発の懸念のない圃場において、「かちまる」「ゆきまる」を「えぞまる」に置き換えることにより、生産性向上やそう根病対策に寄与できると判断された。

2. 来歴:ドイツのKWS種子株式会社が育成し、平成20年に日本甜菜製糖株式会社が輸入した。平成21年から道立農試(平成22年より道総研各農試 以下同じ)、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成24年に北海道の優良品種に認定された。

3. 形態特性:地上部の形態は、中間形でやや小振りである。根部の形態は、根周がやや大きく、“やや短円錐”に分類される。

4. 収量特性(表1):「モノホマレ」と比較して糖量が124%とかなり高く、現行で最も多収な品種である。「かちまる」と比較して、根重は109%と重く、根中糖分は103%とやや高く、糖量は113%と多い。製糖効率を低下させる有害性非糖分の割合である不純物価は低い。「ゆきまる」と比較して、根重は109%と重く、根中糖分は103%とやや高く、糖量は111%と多い。不純物価は低い。
 
5. 耐病性等(表2):そう根病抵抗性は「ゆきまる」同様“強”。褐斑病抵抗性は「ゆきまる」より弱く「かちまる」並の“弱”、黒根病抵抗性は「かちまる」より弱く「ゆきまる」並の“中”。根腐病抵抗性は「かちまる」「ゆきまる」より強い “中”。抽苔耐性は 「かちまる」「ゆきまる」よりやや弱い“やや強”。
6. 適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意は、多湿となった圃場では根腐れ症状の発生が多い傾向があるので、排水不良な圃場での栽培を避ける、褐斑病抵抗性が“弱”なので、北海道病害虫防除ガイドに則った適切な防除に努める、抽苔耐性が“やや強”であるため、早期播種や過度の低温による馴化処理は避けることがあげられる。

7. 普及状況: 平成24年から普及が開始されている。初年目の栽培面積は十勝地方のみで100 ha弱である。

U 高根中糖分で3病害複合抵抗性の「クリスター」(旧系統名「HT32」)

1. 背景:根中糖分は生産者にとって手取り額に大きく影響することから、低糖分圃場では根中糖分向上対策として高糖分品種が利用されてきた。しかし「クローナ」(平成18年育成)を含む従来の高糖分品種はほとんどがそう根病抵抗性を持っておらず、唯一抵抗性を持つ高糖分品種「フルーデンR」(平成16年育成)は、現在の優良品種の中で最も糖量が少ない。
 「クリスター」は根中糖分が「クローナ」より高く「フルーデンR」並であるにもかかわらず、そう根病抵抗性の他、褐斑病、黒根病の3病害に複合抵抗性を持ち、「クローナ」「フルーデンR」よりも糖量が多い。以上より「クローナ」および「フルーデンR」を「クリスター」に置き換えることで、てん菜の安定生産に寄与できると判断された。

2. 来歴:スウェーデンのシンジェンタ種子会社が育成し、平成20年に北海道製糖株式会社が輸入した。平成21年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成24年に北海道の優良品種に認定された。

3. 形態特性:地上部の形態は、やや開平形である。根部の形態は、根周は中程度で、“円錐”に分類される。

4. 収量特性(表3)(表4):「モノホマレ」と比較して根中糖分が106%と高く、高糖分品種である。「クローナ」と比較して、根重は102%でほぼ同等、根中糖分は103%とやや高く、糖量は105%とやや多い。製糖効率を低下させる有害性非糖分の割合である不純物価は低い。「フルーデンR」と比較して根重は113%と多く、根中糖分は同等、糖量は113%と多い。不純物価は低い。
 
5. 耐病性等(表5):そう根病抵抗性は「フルーデンR」同様“強”。褐斑病抵抗性は「クローナ」より強く「フルーデンR」よりやや強い“強”。根腐れ病抵抗性および黒根病抵抗性は「クローナ」「フルーデンR」よりやや強い“やや弱”および“やや強”。抽苔耐性は “強”。以上のように3病害複合抵抗性品種である。
 
6. 適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意はない。

7. 普及状況:平成24年から普及が開始されている。初年目の栽培面積は十勝地方を中心に1,500ha程度である。

V 3病害複合抵抗性で根中糖分の高い「ラテール」(旧系統名「H139」)

1. 背景:近年、褐斑病が多発している。褐斑病は防除が可能だが、適期防除が行えない場合、減収被害の可能性が高くなるため抵抗性品種の有効性は高い。また、そう根病は土壌伝染性の重要病害であり、化学的防除が困難なため、発生圃場では抵抗性品種の作付けが重要である。
 平成13年に育成された「スタウト」は “強”の褐斑病抵抗性を持つ品種だが、そう根病抵抗性をもたない。
 「ラテール」は“強”の褐斑病抵抗性を持ち、そう根病抵抗性も持つ。また「スタウト」より根重、根中糖分が優れ、糖量が多い。以上のことから「ラテール」を「スタウト」に置き換えて普及することで、そう根病、褐斑病の被害回避が期待され、てん菜の安定生産に寄与できると判断された。

2. 来歴:ベルギーのセスバンデルハーベ社が育成し、平成19年にホクレン農業協同組合連合会が輸入した。平成20年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成24年に北海道の優良品種に認定された。

3. 形態特性:地上部の形態は、やや直立形である。根部の形態は、根周が中程度で、“やや短円錐”に分類される。

4. 収量特性(表6):「モノホマレ」と比較して根中糖分が105 %とやや高く、高糖分品種に近い。「スタウト」と比較して、根重は105%とやや重く、根中糖分は103%とやや高く、糖量は108%とやや多い。不純物価は低い。
 
5. 耐病性等(表7):そう根病抵抗性は “強”。褐斑病抵抗性は「スタウト」並の“強”。根腐病抵抗性は「スタウト」より弱い“弱”。黒根病抵抗性は「スタウト」並の“やや強”。抽苔耐性は“強”。以上のように3病害複合抵抗性品種である。
 
6. 適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意は、根腐病が“弱”なので、適切な防除に努めることが挙げられる。

7. 普及状況:平成24年から普及が開始されている。初年目の栽培面積は十勝地方を中心に500 ha程度である。

W 3病害複合抵抗性で黒根病抵抗性が“強”の「北海101号」(品種登録出願予定)

1. 背景:平成22年は、夏期の高温多湿により、昭和61年に糖分取引制度に移行して以来最低水準の根重、根中糖分となった。地球温暖化に伴い、今後平成22年のような年が増えると予想されている。夏期が高温多湿な年には、黒根病、褐斑病やそう根病が発生し、減収の大きな要因となる。褐斑病は、降雨などにより適期防除が行えないことも多く、抵抗性品種の有効性は高い。また黒根病、そう根病は薬剤防除が困難な土壌病害であり、抵抗性品種の作付けが最も有効である。
 「北海101号」は以上の3病害に抵抗性を持つ。特に黒根病抵抗性は、複合抵抗性の代表的な品種「リボルタ」よりも強い“強”であり、現行の品種の中で最も強い。そこで黒根病の多発しやすい排水不良畑を中心に「リボルタ」等の一部品種と置き換えて作付けすることで、黒根病、褐斑病、そう根病の被害を軽減し、てん菜の安定生産に寄与できると判断された。

2. 来歴:北海道農業研究センターが、スウェーデンのシンジェンタ種子会社との共同研究により育成した。平成21年から北農研センター、道立農試、北海道てん菜協会が各種試験を実施し、平成24年に北海道の優良品種に認定された。

3. 形態特性:地上部の形態は、直立形である。葉色は普通の品種よりも淡い“やや淡緑”である。根部の形態は、根周がやや大きく、“やや短円錐”に分類される。

4. 収量特性(表8):「リボルタ」と比較して、根重は101%とほぼ同等で、根中糖分は97%とやや低く、糖量は98%とほぼ同等。不純物価は高い。
 
5. 耐病性等(表9):そう根病抵抗性、褐斑病抵抗性は「リボルタ」同様“強”。根腐病抵抗性は「リボルタ」より弱い“中”。黒根病抵抗性は「リボルタ」よりやや強い“強”。抽苔耐性は 「リボルタ」並の “やや強”。以上のように3病害複合抵抗性である。
 
6. 適地および栽培上の注意:適地は北海道一円である。栽培上の注意として抽苔発生が多くなる場合があるため、早期播種や、育苗中の過度の低温による馴化処理は避けることが挙げられる。

7. 普及状況:今年度は試験栽培段階であり、平成27年から実普及の予定である。

<主な参考文献>

1.黒田洋輔、田口和憲、岡崎和之、高橋宙之 “テンサイ新品種「北海101号」の特性”てん菜研究会報.53,1-7(2012)

2.北海道てん菜協会.“てん菜優良品種の解説”(2012)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713