フィジーの砂糖事情
最終更新日:2013年7月10日
フィジーの砂糖事情〜生産性の向上とEU砂糖制度改革への対応が課題〜
2013年7月
【要約】
かつて日本の粗糖輸入先であったフィジーは、借地問題や政治的混乱によるサトウキビの減産で輸出余力が低下し、現在は伝統的に特恵アクセスを認められているEU向け輸出に注力している。今後、フィジーが砂糖生産を回復させる上では、借地問題の解消が大きな課題になるとみられている。一方で、EUでは2013年6月26日、現行の砂糖の生産割当制度が2017年9月に廃止されることが決定し、このことはフィジーの砂糖産業に大きな影響を与える可能性がある。EUにおける砂糖需給の変化の行方によっては、フィジーはEUに代わる輸出市場を見つける必要に迫られるだろう。
1.はじめに
フィジーは、かつて日本の粗糖輸入先であり、年間2〜10万トンを日本向けに輸出していた(図1)。しかしながら、2008年以降、同国からの輸入は行われていない。この背景には、借地問題や政治的混乱による粗糖の輸出余力の低下がある。一方で、アジア諸国を中心に、砂糖需要は世界的に増加傾向にあり、日本の主要輸入先であるタイや豪州産への引き合いは今後も強まるとみられている。このことから、本稿では再び日本の粗糖輸入先となり得るフィジーの最近の動向を報告する。なお、本稿の年度はフィジー砂糖年度(4月〜翌3月)、砂糖の数量は断りがない限り粗糖換算である。また、為替レートは1フィジードル=55円、1米ドル=102円を使用した。
2.砂糖生産の概況
(1)生産動向
〜借地問題や政治的混乱で減産続く〜
砂糖生産量は10年以上にわたり減少傾向で推移しており、近年は年間20万トンを下回る水準となっている(図2)。この背景には、2000年5月に起きた先住のフィジー系土地所有者とインド系農民間の政治的な対立から、両者間で借地契約の更新が行われなくなり、サトウキビの作付けが減少したことがある。サトウキビの収穫面積は、2000/01年度の6万7000ヘクタールから2012/13年度には4万5000ヘクタールに減少した。また、借地問題をめぐる不安から生産者はサトウキビの植え替え(更新)に消極的であり、肥料や農薬などの使用も抑制しているため、サトウキビの単収と糖度は減少傾向にある。このことも、砂糖生産量が減少する一因となっている。
さらに、2006年のクーデター発生以降の政治的混乱も砂糖産業に影を落としている。フィジーの伝統的な粗糖輸出先であるEUは、2006年に開始したEUの砂糖制度改革によるフィジーの砂糖産業への影響に対する補償として、フィジーに対し3億5500万米ドル(362億1000万円)の資金援助を計画していたが、同国で民主的な選挙が実施されていないことを理由に、援助を停止している(なお、EUの砂糖制度改革の詳細については、『砂糖類情報』2008年3、4月号「EUにおける砂糖制度改革下の域内砂糖需給の変化と改革への対応について」を参照されたい。
3月号、
4月号)。
(2)サトウキビ生産の状況
生産動向
〜単収は減少傾向〜
サトウキビの生産は、作付面積が3ヘクタール程度の小規模農家による生産が主体となっている。フィジーでは土地の大半がフィジー系住民の所有となっており、インド系の農民が土地を賃借し、サトウキビを生産している。生産地は大きく分けて2つあり、1つはビチレブ島西側の沿岸地域、もう1つはバヌアレブ島の北部地域となっている(図3)。国内には4製糖工場があり、このうち3工場はビチレブ島のラウトカ、ララワイ、ペナンにそれぞれ位置し、残る1工場はバヌアレブ島のラバサに位置する。これらの工場は全てフィジー砂糖公社(Fiji Sugar Corporation Limited.)が所有している。
フィジーではかんがい設備が整備されておらず、サトウキビ生産は不安定な状況にある。また、前述の借地問題による更新の停滞で、サトウキビの株出し回数は10〜12回にまで増加し、理想とされる水準(5〜6回)を大幅に上回っている。サトウキビは株出し回数が増えるほど生産性が低下し、悪天候や病害虫の影響を受けやすくなる傾向がある。株出し回数の増加を受け、サトウキビの単収は減少傾向にあり、近年は1ヘクタール当たり40〜45トン(表1)と、主要な砂糖生産国であるタイ(70トン前後)を大きく下回っている。同様に糖度も低下しており、1ヘクタール当たりの砂糖収量は3〜4トンと、タイ(8トン前後)に比べ大幅に低い状況となっている。
収穫制度
〜製糖工場への搬入分散が課題〜
サトウキビ収穫の大半は手刈りであり、10人ずつの集団単位で行う仕組みとなっている。この仕組みは、収穫作業を効率的に行うことよりも地域住民に対する働き口の提供を重視している面があり、各集団に課せられるノルマは1日当たり10トン(1人当たり1トン)と、他国に比べ低い水準となっている。収穫作業の効率性が低いため、サトウキビの糖度が最も高い時期に収穫が行われないケースも多い。また、製糖工場にサトウキビを搬入するスケジュールの調整が行われていないため、一時的に工場への搬入が集中し、収穫から処理までに長時間を要することで、サトウキビの品質が低下する問題もある。特定の時間帯に搬入が集中することは、その他の時間帯に製糖工場が原料不足になる問題も引き起こしている。一部の地域では、収穫作業の効率化のため、2013/14年度に収穫機械の導入を検討しているとされる。
サトウキビ価格の決定方式
〜販売収益を生産者と製糖工場で分配〜
サトウキビの価格は、砂糖および糖蜜の販売から得た収益をサトウキビ生産者7:製糖工場3の比率で分配する形で決定される。2011/12年度のサトウキビ価格は、トン当たり65.5フィジードル(3,603円)であった。サトウキビ価格の決定方式はシンプルで分かりやすい反面、生産者が生産性を高めるインセンティブとならない欠点がある。例えば、ある生産者が糖度の高いサトウキビを生産しても、収益は全ての生産者に均等に配分されるため、その生産者が受け取るサトウキビ価格にはほとんど反映されない。この問題を解決するため、現在、品質に基づく価格決定方式の導入が検討されている。導入する上で課題となるのは、製糖工場への搬入スケジュールの調整である。フィジーでは、サトウキビの糖度が製糖期の中盤にピークを迎えるため、品質に基づきサトウキビ価格が決定されるようになれば、収穫が中盤に集中し、そのほかの時期においては、製糖工場が原料不足の問題を抱えることになる。この問題を解消するため、相対的な品質評価に基づく価格決定方式(relative cane payment system)が検討されている。すなわち、同じ週に搬入されたサトウキビの糖度を相対的に評価し、価格を決定するというものである。この方式であれば、サトウキビの収穫時期による糖度の変化がサトウキビ価格に影響しないため、納入時期の分散を図ることができると考えられている。
(3)製糖工場の状況
〜原料不足で稼働日数減少〜
表2は製糖工場に関する主要指標を示している。サトウキビ生産量の減少を受け、年間稼働日数は2002/03年度の146日間から、2011/12年度には84日間に減少した。各製糖工場の処理能力は表3のとおりである。なお、フィジーでは精製糖は生産されておらず、製糖工場の生産は全て粗糖となっている。
3.消費動向
〜粗糖の直接消費が大半〜
砂糖消費量は年間4万トン程度であり、大半は国内で生産される粗糖(糖度98.8度前後)の直接消費となっている。国内では精製糖の生産が行われていないため、精製糖の供給は全て輸入に依存している。精製糖の年間輸入量は1万トン前後となっており、主に飲料用や製菓用に仕向けられている。
なお、フィジーでは砂糖以外の甘味料は生産されておらず、消費量もごくわずかとなっている。一般的に、砂糖以外の甘味料の消費量は、所得の向上に伴って増加する傾向にあるが、フィジーでは、現時点でこの傾向は見られない。
4.砂糖貿易の概況
(1)貿易動向
〜減産で輸出量は減少〜
生産量の減少に伴い、輸出量も減少傾向で推移しており、2011/12年度の輸出量は12万5000トンと、10年前の半分以下の水準となった(表4)。
近年、粗糖輸出先はEUのみとなっている。2007年までは日本や関税割当が適用される米国向け輸出も行っていたが、生産量の減少を受け、価格が高く無税輸出が認められるEU向けに注力するようになった(表5)。
(2)EU向け輸出の動向
〜貿易関係は徐々に変化〜
フィジーはACP諸国(EUの旧植民地であるアフリカ・カリブ海・太平洋諸国)の一つとして、歴史的にEU市場への特恵アクセスが認められてきた。EUとACP諸国間で1975年から結ばれていたSugar Protocol(砂糖議定書)は、WTOとの整合性を保つ観点から、2009年9月末に終了し、ACP諸国からのEU向け砂糖輸出は経済連携協定(EPA)で規定されることとなった。現在はEPA締結までの移行期にあり、移行期の措置としてEUとACP諸国間で2015年9月末を期限とする暫定協定が結ばれた。暫定協定により、ACP諸国産の砂糖は引き続きEU市場への無税輸出が認められている。ただし、以下の要件を同時に満たした場合は、EUがセーフガードを発動することとなっている。
(a)LDC諸国(後発開発途上国)を含むACP諸国からの輸入量の合計が350万トンを超えたとき。
(b)LDC諸国以外のACP諸国からの輸入量が2009/10年度では145万トン、2010/11〜2014/15年度の間では160万トンを超えたとき。
なお、2015年10月1日以降はEPAのセーフガードが適用されることになっており、EUの砂糖市場価格が2カ月連続で前年度の市場価格の80パーセントを下回った場合に発動されることになる。
このように、現在、ACP諸国からEUへの砂糖輸出には数量の制限が設けられているが、これまでのところ、ACPおよびLDC諸国のEU向け砂糖輸出量は350万トンの上限を大きく下回っている(図4)。
砂糖制度改革に伴い、EUにおける砂糖価格の支持水準(参考価格:Reference Price)が大幅に引き下げられることになったため、当初、ACP諸国はEU向け輸出価格の下落を懸念していた。しかし、実際には、EU域内の需給ひっ迫によりEUの砂糖価格は参考価格を大きく上回る水準で推移しており(図5)、影響は当初懸念されたよりも軽微であった(なお、近年のEUの砂糖需給動向については、2011年11月号『砂糖類情報』需給レポート
「EUにおける最近の砂糖需給動向」を参照されたい)。ただ、世界的な砂糖供給の過剰で国際価格は2012年8月以降下落傾向にあり、EUの砂糖価格も今後下落基調になるとみられる。この場合、フィジーはEU向け粗糖輸出価格の下落問題に直面することになるだろう。
5.砂糖関連制度
(1)国内価格制度
〜輸出収益の減少で継続難しく〜
政府は、これまで補助金により国内砂糖価格を国際価格よりも低い水準で維持してきた。国内価格制度は、EU向け特恵アクセスの恩恵を国内消費者に還元していた面がある。しかしながら、減産に伴い輸出収益が減少したため、国内価格を低い水準で維持することは難しくなった。この結果、政府は財政負担を減らすため、2011年に国内砂糖価格をトン当たり857.9フィジードル(4万7185円)から1,900フィジードル(10万4500円)に引き上げた。
(2)流通管理
〜フィジー砂糖公社に集約〜
以前は、国内で生産される砂糖は全てフィジー砂糖公社の販売部門に当たるフィジー砂糖販売会社(Fiji Sugar Marketing)が一元的に販売を行っていた。しかしながら、政府は2009年、砂糖業界の組織簡素化の一環として、フィジー砂糖販売会社を廃止した。なお、サトウキビ生産者と製糖工場間で問題が発生した際の調整役であったフィジー砂糖委員会も同時に廃止された。フィジー砂糖販売会社およびフィジー砂糖委員会の機能は、フィジー砂糖公社に継承されている。
6.今後の砂糖産業
〜生産性の回復とEUの砂糖制度改革がカギ〜
フィジーの砂糖産業は、2022年までにサトウキビ生産量を525万トンに拡大させることを目標に掲げている。近年のサトウキビ生産量は200万トン前後となっており、この計画はかなり野心的なものと言える。サトウキビ生産量を拡大させる上で大きな課題となるのは、借地問題の解消である。最近では、借地契約の更新が行われる事例もあるものの、問題の解消にはなお時間を要するとみられている。借地問題が解消されれば、生産者の投資意欲は高まり、サトウキビの生産性の回復が期待される。最近では、フィジー砂糖公社がまとまった土地を借り受け、その土地で農民がサトウキビを生産するケースもあり、このような取り組みが増産につながる可能性もある。
また、フィジーが伝統的に粗糖を供給している英国のTate & Lyle社も、フィジーの砂糖産業を支援している。例えば、フィジーの製糖工場に技術者を派遣し、製糖時のロス削減など生産性の向上を高める指導を行うほか、サトウキビの優良品種の普及を促進するため、苗床の設立なども行っている。現在、フィジーで栽培されているサトウキビの大半はマナ(MANA)と呼ばれる品種となっており、同社はマナと登熟時期が異なる品種の普及を図ることで、工場に搬入されるサトウキビ全体の糖度向上を図っている。
一方で、EUでは2013年6月26日、2013年共通農業政策(CAP)改革の合意がなされ、砂糖については現行の生産割当制度が2017年9月に廃止されることが決定した。フィジーの砂糖産業は、これまで特恵アクセスを認められるEU市場を重視してきたが、EUでは、生産割当制度の廃止により、砂糖生産量の増加、域内砂糖価格の下落、輸入需要の減少などが予測されている。今後のEUにおける砂糖需給の変化の行方によっては、フィジーの砂糖産業はEUに代わる輸出市場を見つける必要に迫られるだろう。
参考資料
農畜産業振興機構『砂糖類情報』2010年2月号「砂糖の国際需給とEUの砂糖制度改革後の動向」
ISO “Market Report & Press Summary”
LMC “Country profile on the Fiji” 2013年2月
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713