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メイチュウ類の防除対策と産業連携による単収向上への取り組み

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最終更新日:2013年7月10日

メイチュウ類の防除対策と産業連携による単収向上への取り組み
〜奄美大島での取り組み〜

2013年7月

鹿児島事務所 丸吉 裕子

【要約】

 奄美大島におけるさとうきび生産量は、2年連続の記録的な大減産となった。減産に至った主な要因は、度重なる台風襲来やメイチュウ類による食害のほか、経年的な地力低下に伴う単収低下が挙げられる。島内では、適切な防除作業の徹底が奨励されるとともに、圃場へのかん水設備の充実や、島内の産業連携(さとうきび生産者・肉用子牛生産者・富国製糖株式会社・奄美市有機農業支援センターなど)による地域資源の循環の中で製造された堆肥を活用した土壌改善といった単収向上への取り組みが進められている。

1.はじめに

 鹿児島事務所では、平成23年産の鹿児島県産さとうきびが、台風などの気象災害やメイチュウ類をはじめとする病害虫の被害などにより大幅な減産となったことを受けて、平成24年産さとうきびの収量確保に向けた各島での取り組みについて調査し、当機構ホームページ上の「地域だより」のコーナーを通じて報告をしてきたところである。今回は、主に奄美大島での産業連携によって進められているさとうきび生産性向上への取り組みについて報告する。
 

2.平成24年産の生育および収穫状況

 奄美大島における平成24年産さとうきび生産量は、前年産に引き続き過去最低の記録を更新した。富国製糖株式会社(以下「富国製糖」という)によれば、平成24年産の原料処理量は1万6658トンと、メイチュウ類などの病害虫の甚大な被害を受けた昨年の1万6996トンをさらに下回り、2年連続の2万トン割れとなった。

 当事務所が平成24年産を通じて調査訪問した生産者奥輝人氏の圃場の単収も、例年なら春植で10アール当たり5〜6トン、夏植で同8〜10トンが見込まれるところ、前年産に引き続きその半分以下にまで減少しているという。

 このような減産の要因として、1)平成24年8〜9月の大型台風の度重なる襲来による葉部の損傷や倒伏、2)メイチュウ類による食害、3)化学肥料の多用による経年的な圃場の地力低下に伴う成長不良−などがあげられるのではないか、という分析が島内の砂糖産業関係者内で行われている。このうち、メイチュウ類への防除対策や土壌改善による単収向上への取り組みは、早急に対応しなければならない課題として、島内で検討・実施されている。以下、その取り組みについて紹介する。

3.メイチュウ類防除対策の取り組み

 平成24年産さとうきびの平均糖度は、平成23年産さとうきびの13.73度に対し14.58度と高くなったが、1月下旬からの気温上昇により島内でのメイチュウ類の頭数が増加したことによる食害のため、さとうきび重量が軽くなるという被害があった。メイチュウ類成虫が交尾したのち卵からふ化した幼虫は、茎部に穴をあけ内部に食入し、さとうきびの生長点に達して芯枯れを起こさせたり、中齢幼虫になると、他の茎へ移動しながら茎内部に侵入し数節にわたって暴食したりする(被害圃場の例:写真2、3)。鹿児島県病害虫防除所は、メイチュウ類頭数増加による被害の拡大が懸念されるとして、メイチュウ類を寄せ付けやすい除草の徹底や適切な防除作業の実施を促している。

 島内の圃場では、鹿児島県農業開発総合センター大島支場による交信かく乱法(注)による防除効果の実証試験が行われている。一定の効果が見られるとのことだが、設置されるフェロモンチューブの有効期間は2〜3カ月であり、化学農薬を散布する一般の防除作業との並行利用が必須だという。

 平成24年産においては、国の産地活性化総合対策事業(さとうきび全島適正防除推進事業)を活用した薬剤散布などの防除が行われ、かつ、防除作業の重要性が生産者に再認識された結果、作業実施回数が増加し、メイチュウ類による食害は昨年度より減少したと言われるが、今後も適切な防除作業の実施が求められる。

(注)交信かく乱法
 交尾するために雌が雄を誘引するために放出する性フェロモンと同じ匂いが封入されたロープ(フェロモンチューブ)を圃場に張り巡らせることによって、雌がどこに居るのかを雄にわからないようにし、交尾を阻害する方法
 

坪枯れが発生している様子

 
 

収穫期のさとうきび梢頭部も食害されている様子(○で囲んだ箇所)

 

 

県農業開発総合センター大島支場により実証試験が行われている
 

 

 調査先の奥輝人氏は、自ら防除対策資料をまとめ、適切な作業実施に努めている

4.土壌改善などによる単収向上の取り組み

(1)面積の限られた強酸性の圃場

 奄美大島は、周囲460キロメートルと奄美群島で最も大きい島であるが、山林が多く北部以外にまとまった農地は少ない。このうち、島内のさとうきび収穫面積は、近年600ヘクタール前後で推移しており、富国製糖の調べでは、24年産についても604ヘクタールであった。同島の砂糖産業の維持発展のためにも、この収穫面積が維持・拡大されることが望まれる。

 奄美大島の土壌は、元来、水はけが悪く酸性度が高い赤土である。県の土地改良事業を活用したかんがいが進められているが、経年的な化学肥料の多用により土壌は痩せてきており、減収の一要因となっていると言われている。限られた農地の能力を最大限に引き出すため、干ばつを防ぐ取り組みや土壌を改善していく取り組みが重要であると、富国製糖や調査先の奥氏をはじめとする生産者は認識している。

 単収向上の取り組みとして、1)国や県による土地改良事業、2)ダムから送水したスプリンクラーによるかん水、3)堆肥の施用による土壌酸性化の軽減などが挙げられる。特に須野ダムおよびスプリンクラーによる干ばつ対策と堆肥による土壌改善の取り組みについて、以下に紹介する。
 

かん水を行いつつ海への土壌流出を防ぐため、圃場勾配整備が為されている

(2)須野ダムから送水したスプリンクラーによるかん水作業

 奄美大島北部の笠利地区は、奄美大島でも随一の畑作地帯であり、農業の中核地として、昭和49年度から県営畑総事業を導入して区画整理が実施されている。須野ダムは、安定した畑かん用水を確保し、当該地域の農業生産性の向上を図るため、昭和63年度〜平成9年度の工期で建設された(有効貯水量:95万立方メートル)。ダムからの送水により、生産者の圃場でスプリンクラーによるかん水作業が行われている。ダムの送水能力の範囲内で、希望する生産者は、1割の自己負担でスプリンクラーを設置でき、年間10アール当たり3,500円で利用できる。夏期の干ばつ対策として、調査先の奥氏も、割り当てられた利用日に基づいてかん水を行っていた。夏期の土壌の乾燥は減収の大きな原因となるため、かん水は必須だという。単収の向上のため、さらなるかん水設備の普及が望まれる。
 
(3)堆肥の施用による土壌酸性化軽減の取り組み―地域資源循環による土壌改善

 化学肥料の多用により圃場の地力が低下してきていると言われる奄美大島において、さとうきびに次ぐ第2位の農業産出額を誇り、主要な農業である肉用子牛生産から発生する排泄物が、以前から堆肥として利用されてきた。奄美市が管理する奄美市有機農業支援センター(以下「ゆうのうセンター」という)では、肉用子牛生産者から排出される牛糞のほか、大規模養鶏経営からの鶏糞および富国製糖からのハカマやバガスなどの甘しゃ糖副産物などを混合した堆肥を製造・販売している。地域の資源循環の中で製造された堆肥の施用により、圃場の土壌改善の取り組みが行われている。以下に、その模式図を示し、各者の概要を説明する。
 
(3)−1 肉用子牛生産者

 調査先の奥輝人氏は、さとうきび生産と共に肉用子牛生産を行っており、現在15頭の繁殖雌牛を飼養し、年間10〜15頭の子牛を出荷している。子牛へは配合飼料と輸入牧草を、繁殖雌牛へは配合飼料および自家生産するローズグラスのサイレージに加え、さとうきび収穫期には近隣の手刈り生産者から提供してもらったさとうきびの梢頭部を主に給与している。さとうきびの梢頭部は栄養価が高く、繁殖雌牛における嗜好性も高いという。

 奥氏はまた、ゆうのうセンターから提供されたバーク(樹皮)を、敷料として利用し、定期的な牛舎清掃の後、堆肥舎に牛糞がたまると、ゆうのうセンターへ運搬する。自身の圃場へは、堆肥舎にある牛糞を笠利町受託組合からマニュアスプレッダーを1日当たり5,000円で借りて散布しているが、作業負担軽減の観点から、ゆうのうセンターからの堆肥購入を検討しているという。
 
(3)−2 富国製糖

 島内のハーベスター稼働台数は24台で、全収穫量のうちハーベスター収穫率は、88パーセントに上り、25年産では9割を超えるのではないかと予想されている。ハーベスター収穫率の上昇は、圧搾期間の短縮が期待できる一方、雨天による稼働休止やトラッシュ(夾雑物(きょうざつぶつ)(梢頭部・枯葉・土砂など))の増加をもたらすことが懸念される。このため、国60パーセント・市町(奄美市・龍郷町)20パーセント・その他(富国製糖・JAあまみ)20パーセントの負担割合で平成18年度産地活性化実践事業により導入された精脱葉施設(デトラッシャー)が稼働している。

 当該設備では、風圧によるハカマの除去のほか、担当者4名による梢頭部の除去が行われている。除去された梢頭部は集められ、1トン当たり2,000円で島内の肉用子牛生産者に提供されている。

 一方、除去されたハカマはロール状にされ、堆肥を製造するゆうのうセンターへ無償で提供している。また、バガス(圧搾工程後の残渣)や製糖時に熱源となるボイラーから発生する灰(バガスの燃えカス)、ケーキ(清浄工程における連続真空濾過機から発生する糖分が取り除かれた不純物。有機物が含まれる)も、ゆうのうセンターへ運搬されている。平成24年度の運搬実績は、ハカマ251トン、バガス3.7トン、灰41トン、ケーキ867トンである。かつては、灰・ケーキ処理施設の悪臭・汚水処理が課題となっていたため、その解消にも役立っている。
 
 

手前に風圧除去されたハカマが排出されている(○で囲んだ箇所)

 

選別された梢頭部は、肉用子牛生産者へ提供される

 

ハカマはロール状に成形され、、ゆうのうセンターへ提供される


(3)−3 ゆうのうセンター

 ゆうのうセンターは、中山間地域総合整備事業の特認整備施設として国70パーセント・県25パーセント・市町村5パーセントの負担割合で設営され、平成18年度に施設全体が完成した。堆肥化方式は自走式攪拌機を使用したエンジン自走攪拌式である。平成23年度の堆肥出荷量は1,342トン、平成24年度は1,301トンである。

 同センターでは、平成24年度鹿児島県堆肥コンクールで優秀賞を獲得した「ゆうのう1号」(1トン当たり8,000円)のほか、同年度からさとうきび作専用堆肥「キビ堆肥」(1トン当たり3,000円)を製造・販売している。

 「ゆうのう1号」には、富国製糖から提供されるケーキ(65パーセント)、ハカマなどの刈草類(4パーセント)、牛糞(8パーセント)、鶏糞(8パーセント)、島内のチップセンターから提供されるバーク(15パーセント)が混合されている。主にかぼちゃや露地野菜、タンカンなどの果樹の生産者に販売されている。

 一方「キビ堆肥」は、堆肥利用促進のため、低価格化および散布労力の軽減化を目的に、主にバーク(10パーセント)と牛糞(90パーセント)のみを混合して水分調整し、搬入・攪拌から約7カ月で出荷、1トン当たり3,000円で販売している。「キビ堆肥」は、生産者へ実施したアンケート内の要望から製造が決定した。化学肥料の多用やハーベスター収穫により酸性度がさらに高くなり堅くなったと言われる奄美大島の圃場の、地力回復への効果が期待されている。同センターでは、24年産の「キビ堆肥」の施用圃場の効果分析の実施も今後検討していく予定だという。

 「キビ堆肥」の平成24年度出荷数量は434トンである。今後も、圃場の土壌調整に活用してもらおうと、奄美市の広報誌などを通じてPRしていく予定だ。同センターでは、圃場散布用のマニュアスプレッダーも保有しており、奄美市内では1台当たり1,500円で散布作業を請け負っている。生産者の負担を軽減しながら土壌改善を促していきたいとのことである。

 なお、大島本島さとうきび生産対策本部(奄美市・龍郷町・富国製糖・JAあまみ大島事業本部からなる組織)は、平成24年度補正予算により、国が助成する「さとうきび等安定生産体制緊急確立事業」を活用し、メイチュウ類などの病害虫対策のほか、地力増進対策として、生産者が当該キビ堆肥を購入する際の費用を支援する予定としている。不作が続く状況にあって、事業を契機にキビ堆肥の利用が増え、生産回復につながることが望まれる。
 

層状に積み上げた原料を、自走式撹拌機によって撹拌する

 

堆積させたものを、ホイルローダーによって3〜4回切り返しを行いながら発酵させる

 
 
 

保有するマニュアスプレッダーで、圃場への散布も行っている

 

5.おわりに

 奄美大島における平成24年産のさとうきび生産量は、度重なる台風襲来やメイチュウ類による食害、経年的な地力低下に伴う単収低下により2年連続の大幅な減産となった。島内では、春植の推進や株出し管理、適期の防除作業の徹底が確認されると同時に、単収向上に向けた土壌改善への取り組みが地域資源を活用・循環させることで実現されつつあり、関係者一丸となって平成25年産のさとうきび生産量の回復を目指している。

 今回の調査によって、さとうきびが、鹿児島県南西諸島において他農業や製糖業などの地域産業を結びつける、まさしく「基幹作物」であることを再確認するとともに、今後も、各産業が連携により共栄し、さとうきびの生産性向上につながることを願うばかりである。

 製糖期のご多忙中、本調査の実施にあたってご協力いただいた関係者の皆様に厚く御礼申し上げる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713