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地域だより

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最終更新日:2013年8月26日

平成25年度(第48回)さとうきび研究成果発表会の開催について

2013年8月

鹿児島事務所 所長代理 古河謙介
 


 平成25年7月23日(火)に鹿児島市の鹿児島県農業共済会館において、平成25年度さとうきび研究成果発表会(主催:公益社団法人鹿児島県糖業振興協会、以下「鹿児島県糖業振興協会」という。)が開催された。

 同発表会は、鹿児島県農業開発総合センターをはじめ、県内においてさとうきび研究を行っている研究者が日頃の研究成果を県や市町村の担当者および農業団体などに発表し情報を共有することにより、営農活動や病害虫対策の技術向上を図ることを目的に年に一度開催されている。48回目を迎える今年の発表会には、糖業者、学識経験者、行政関係者、農業団体、農業機械会社および農薬会社など約110名が参加した。

 谷口修一鹿児島県糖業振興協会専務理事(鹿児島県農政部農産園芸課長)は開会にあたり「国のさとうきび増産基金の措置により、メイチュウ対策、苗の確保など地域の実情に応じた多面的な取り組みができた。一方、さとうきびは一旦不作となるとその影響が数年続くと言われている。引き続き、農家へはさとうきび共済制度の加入促進に努めたい。同発表会がさとうきび増産の一助となるよう期待している。」とあいさつされた。さとうきび生産は、平成23、24年産と2年連続でかつてない収量減に見舞われており、生産回復が喫緊の課題となっており、同発表会後半に行われたシンポジウムでは「さとうきびの低収要因と対策」と題し、沖縄県からも研究者を招き講演が行われた。

 以下、研究発表内容の概要を紹介する。

●早期高糖で茎重型の熊毛地域向け新品種「KTn03-54」の育成
     
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター
      作物開発・利用研究領域さとうきび育種グループ 主任研究員 境垣内 岳雄 氏

 
さとうきび品種「農林8号」は、高糖、多収で病害抵抗性に優れる品種であるが、一方、製糖開始期の糖度が不安定であり、これに代わる早期高糖性品種の育成が進められている。新品種「KTn03-54」は、甘蔗糖度、純糖率が高く優れた早期高糖性を有しており、既存の早期高糖性品種でタイプの異なる「農林22号」と併用(注:KTn03-54は茎重型、農林22号は茎数型)することで、熊毛地域においては製糖開始期の糖度改善が期待される。当該品種は「農林32号」の申請が予定されている。
 

 ●サトウキビシミュレーターによる技術評価
      独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター
     作物開発・利用研究領域さとうきび育種グループ 上席研究員 樽本 祐助 氏

 
 さとうきび農家と製糖工場などで構成されるさとうきび産業は、それぞれが相互に影響しており、新品種や新技術の導入がある場合にはその影響は複雑である。そこで農家のさとうきび新品種の導入(収量、株出し回数、糖度が異なる)や製糖会社の経営方針(操業開始、1日当たり処理能力、稼働率)の変化がもたらす影響を把握するシミュレーターを開発した。これを活用することにより新品種や新技術の導入の効果を事前に検討することが可能となる。
 

 ●さとうきび品質取引方法の細裂NIR法への移行
      鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場 主任研究員 長井 純一 氏
 
 鹿児島県におけるさとうきびの品質取引については、平成24年産から細裂NIR法に移行した。導入に当たり鹿児島県のさとうきびに適した適正な甘蔗糖度を導き出すため、糖度を補正する換算式を作成した上で、甘蔗糖度算定のための検量線(測定試料に近赤外線を照射し、その吸光度を分析値に変換するための式)を作成した。各製糖工場へ搬入されたさとうきび原料の甘蔗糖度測定結果の調査を行ったところ、対照分析値との差は僅かであり公正な取引が行われたことが確認できた。
 

 ●種子島における近年の低収要因の解析と対策
       鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場 主任研究員 大内田 真 氏

 熊毛支場の気象感応試験から近年の低収要因を解析した。平成23年産は生育初期の低温と分けつ期の日照不足による茎数の不足であり、平成24年産は8月以降の台風と9月以降の低温による茎伸長不良が主な低収要因であった。一方、栽培管理上の要因として、マルチ被覆率の低迷、植付けや管理作業の遅れ、肥培管理の不徹底が挙げられる。今後、規模拡大や品種の特性に応じた栽培体系の確立が必要である。

 ●奄美地域におけるイネヨトウの発生消長と被害
       鹿児島県農業開発総合センター大島支場 主任研究員 嶽崎 研 氏
 
 イネヨトウ幼虫(メイチュウ類)による芯枯れ被害が広く発生している。奄美市笠利町において発生消長と被害実態を調査したところ、同害虫は周年発生しており、芯枯れ茎が確認できるのは、幼虫が茎から脱出した後である。フェロモントラップによる誘殺数と芯枯れ被害の関係について調査したところ、有効積算温量を用いて次世代の成虫の発生を予測できる可能性が示された。

 ●ハーベスタによる調苗方法とビレットプランタ植付時の必要苗数
      鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場 主任研究員 馬門 克明 氏
 
 さとうきび栽培において、採苗・植付作業の機械化は不十分である。近年、ハーベスタ採苗とビレットプランタによる植付けが現場で導入されつつあり、今後の省力化を図る技術となる可能性がある。このため、ハーベスタによる調苗方法とビレットプランタによる植付時の必要本数を調査した。ハーベスタによる調苗方法としては、1) 損傷芽子の発生率は全体の20%以内であること。2) ハーベスタの作業速度は、遅くしないで原料用さとうきびの収穫と同程度とすること。一方、植付時に必要なこととして、1) プランタによる植付本数は、慣行二芽苗の2倍程度、2) 植付前の水浸漬により発芽率が向上することが確認できた。

  続いて、「さとうきびの低収要因と対策」と題しシンポジウムが行われ、出花幸之介沖縄県農業研究センター作物班長が、「沖縄県におけるサトウキビの単収低下の要因解析と今後の対策」と題し基調講演された。出花班長は、講演の中で、復帰後最低の単収となった23年産について、沖縄本島南部(株出し)、石垣島(夏植え)、宮古島(夏植え)における代表的な作型を例に挙げながら、気象要因による生育不良や株出しにおける長期的な有効茎数の減少など、単収が低下した理由などについて報告された。また、気象要因による低収対策として、低温被害、台風被害、潮風被害などの影響を最小限に抑え込む対策を紹介しつつ、優良事例を参考に、緑肥のすき込みや耕盤破砕を行い、作土が深く水はけの良い圃場にしてさとうきびの初期生育を促進することなどが有効な対策として紹介された。

 質疑応答では、株出しにおける単収低下は奄美群島も同様であるが、収量を下げる原因があれば紹介していただきたいと質問があり、出花班長は、大規模基盤整備圃場における安定的な栽培管理法が未確立で発芽不良や欠株が多発したり、圃場では従来の管理作業が疎かになったり、株出し管理で雑草防除や施肥が遅れ施肥量も減るなど栽培管理を省略する傾向があるのではないかと回答された。

 その他種子島、沖永良部島からの現地での取り組みを含め、4事例の発表があった。

 さとうきびを取り巻く状況は厳しいものであるが、県下の研究者の方々のたゆまぬご努力の成果が現場に普及し、生産回復の一助となるよう期待したい。

 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713