地域だより
最終更新日:2014年7月22日
てん菜生産者の優良事例の取り組みについて
2014年7月
1.高品質てん菜生産出荷共励会について
てん菜の作付面積が減少傾向にある中、北海道と一般社団法人北海道てん菜協会では、てん菜の生産振興およびてん菜生産者の作付け意欲の向上を図るため、平成23年度から、高い生産技術により高品質なてん菜を生産している生産者を表彰する「高品質てん菜生産出荷共励会」を実施している。
本稿では、「第3回高品質てん菜生産出荷共励会」において、優秀賞を受賞した北海道伊達市の大坪 光則氏の事例を紹介する。
北海道伊達市の位置
2.北海道伊達市の農業について
北海道伊達市は、道内の中でも四季を通じて温暖な気候のため、稲作や畑作などの「耕種部門」と乳製品を製造する「酪農」に肉牛・豚・鶏などの飼育・生産を合わせた「酪農畜産部門」となっている。これらを組み合わせた複合経営の「都市型近郊型農業」として発展している。
3.大坪氏の農業経営について
大坪氏は、父、母、次男の4人で水稲、てん菜、小麦、ばれいしょ(ポテトチップス用)、長ネギ、レタス、キャベツ、ブロッコリー、スイートコーン、カボチャの10品目を生産している。作付面積は17ヘクタールで、このうちてん菜については2.3ヘクタールを作付けしている。
連作障害を回避するため、てん菜、小麦、ばれいしょ、スイートコーン、カボチャの5品目で着実な輪作体系を確立している。
大坪氏は、移植時に用いる苗を「稀府てん菜育苗共同組合」から購入することで投下労働時間などの削減を図っている。
また、大坪氏を含む近隣4戸の生産者で「長和てん菜機械利用組合」を設立し、移植機や収穫機の共同利用を行いコストの削減を図っている。
4.生産性向上の取り組みについて
高品質てん菜生産出荷共励会の優秀賞の受賞に当たり、評価された生産性向上の主な取り組みについては、以下のとおりとしている。
(1)土づくりについて
毎年、伊達市堆肥施設から牛ふんの堆肥を購入することにより、コスト削減を図っている。なお、ほ場への散布については、10アール当たり3トン程度を目安としている。
(2)移植時の苗の鎮圧について
移植された苗が強風により吹き飛ばされてしまうため、移植機による苗の鎮圧を行うことが一般的であるが、移植時の気温は不安定であり、地温が上昇している際に鎮圧を行った場合葉枯の危険性があるため、移植時の気象には注視するとともに苗に対する鎮圧の有無を見極めている。
(3)除草作業について
除草剤の散布については、移植から25日後に実施し、その後2週間から20日以内に散布することが一般的であるが、移植時から25日後の1回とし、手取除草などにより雑草の密度を低下させている。
(4)防除作業について
北海道糖業鞄ケ南製糖所の広報誌で紹介されている防除作業の方法・時期などに基づき作業を実施し、6月中旬から2週間ごとに防除機械を使用して防除薬剤を散布している。
また、ほ場をくまなく巡回することで、ヨトウガなどの病害虫の早期発見や生育の被害を最小限とするよう心掛けている。
(5)品種の選定について
複合病害抵抗性を有する品種(リボルタ)を使用している。
平成25年度生産改善共励会の優秀賞を受賞した大坪 光則氏
5.平成25年産実績について
大坪氏の平成25年産の実績については、前述するよう「土づくり」「移植時の鎮圧」「除草剤の散布」などの生産性向上に向けた取り組みを行った結果、以下のとおりの成績となっている。
・10アール当たりの収量・・・8439キログラム(全道平均 5904キログラム)
・根中糖分・・・16.2%(全道平均 16.2%)
・10アール当たりの糖量・・・1367キログラム(全道平均956キログラム)
【参考】平成25年産全道てん菜の生産概況について
平成25年産の全道てん菜の生産概況については、作付面積の減少や天候不順の影響により、播種や移植作業の大幅な遅延などにより、10アール当たりの収量は5904キログラムと平年(平成18〜24年産の7中5)対比98%となり、生産量についても前年産から32万3000トン減少し343万5000トンとなった。
なお、根中糖分については、9月の多雨、十勝地域での褐斑病や西部萎黄病の発生などが影響し、16.2%に留まり、産糖量については、過去10カ年で平成22年産に次ぐ低い産糖量の55万1000トンとなった。
特に、作付面積については、生産者の高齢化や農作業による投下労働時間が長くなることなどから、平成16〜17年産の6万8000ヘクタールの水準から、平成25年産では、5万8000ヘクタールと減少傾向で推移している。
適切な管理作業を行っているほ場。平成26年産の生育は良好。
6.おわりに
農業経営を始め、今年で24年目を迎える大坪氏であるが、「計画したとおり作業が進まない上に失敗は全て自分の責任となるが、長年の経験に基づき自分流の農業経営を行い、作物の豊作により収益の向上につながった時は、やりがいを感じ至福の時を迎えます」と農業経営に対する魅力を語った。
また、近年、担い手の不足が農業全般において深刻な課題となっている状況にもかかわらず、昨年から就農した子息が大坪氏から農業経営を習得し、生産性の向上に向けて明るい兆候となっている。
平成26年産の生育については、春先から5月下旬まで干ばつ傾向となったものの6月上旬から適度な降雨があり良好な状況となっており、高収量・高糖分となるよう今後の天候に期待したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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