地域だより
最終更新日:2015年10月22日
てん菜生産者の優良事例の取り組みについて
2015年10月
1. 高品質てん菜生産出荷共励会について
てん菜作付面積が減少傾向にある中、北海道と一般社団法人北海道てん菜協会では、てん菜の生産振興およびてん菜生産者の作付け意欲の向上を図るため、平成23年度から、高い生産技術により高品質なてん菜を生産している生産者を表彰する「高品質てん菜生産出荷共励会」を実施している。
本稿では、「第4回高品質てん菜生産出荷共励会」において、「独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞」を受賞した北海道斜里郡小清水町の桑迫 孝幸氏の事例を紹介する。
2. 北海道斜里郡小清水町の概況について
北海道斜里郡小清水町は、北海道の東北部に位置し、周囲の北側がオホーツク海に面し、総面積は287.04平方キロメートルとなっている。
本町は、南北に長方形の形状を示し、オホーツク海の影響を受ける内陸性の気候で、年間を通じて降水量は少なく、日照率の高さは全国でも高くなっている。冬期は、降雪量が少なく、2月から3月にかけて流氷が接岸する。
このような条件のもと、ばれいしょ、てん菜、小麦、大豆の主要4品目による輪作体系の他、ニンジン、ゴボウ、タマネギ、アスパラガスなどの野菜も栽培している。
また、当該地域は、肥沃(ひよく)な土づくりを積極的に推進しており、多数の生産者は、ばれいしょでん粉工場から排出される搾り汁をpH調整後、有機カルシウム資材と混合してできた、有機態の窒素とカルシウムを主成分とする高濃度の液肥(NKゆう水)を活用して肥沃な土壌とするためほ場への散布を行っている。
この他にも、耕種農家などで発生する野菜残さやでん粉の搾りかすを飼料化し、牛の餌として畜産農家へ提供するなどの循環型農業を実施している。
3. 桑迫氏の経営について
桑迫氏は、父、母、妻の4人で、主にてん菜、小麦、ばれいしょ、ニンジン、ゴボウの5品目を生産している。作付面積は、22ヘクタールで、このうちてん菜については、7.4ヘクタールである。
連作障害を回避するため、てん菜→ばれいしょ→小麦・野菜で着実な輪作体系を確立している。
平成22年から浜小清水地区内の近隣の生産者13戸で構成する「浜小清水地区てん菜育苗集団」を立ち上げ、育苗作業の一部(ペーパーポットに土を入れる作業)を共同で実施している。なお、ポット数は、集団全体で6,700冊程度に及んでいる。
また、桑迫氏を含む近隣3戸の生産者で「北栄トラクター利用組合」を設立し、トラクター、播種機、ハーベスター、ブームスプレイヤーなどの共同利用を行いコストの削減を図っている。
4. 生産性向上の取り組みについて
高品質てん菜生産出荷共励会の、独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞の受賞に当たり、評価された生産性向上の主な取り組みについては、以下の通りである。
(1) 土づくりについて
小麦の後作にえん麦野生種を栽培し、このえん麦の収穫後の10月中旬ごろに、牛ふん堆肥やNKゆう水を散布しており、肥料代の削減を図っている。
(2)育苗について
前述の通り、「浜小清水地区てん菜育苗集団」を立ち上げ育苗作業の一部を共同化している。従来、当該作業については、家族による作業であったものが、共同作業の実施により労働時間が削減され、個々の生産者の育苗ハウスに短期間でペーパーポットを運搬することが可能となり、育苗作業を行う上で、最も効果的とされる50日間程度の育成期間を確保することが可能となった。
また、桑迫氏は、てん菜を栽培する上で健苗育成を心掛けている。常に低温育苗を意識し苗ずらしについては、2回行う。
1回目は育苗ハウス内で行い、2回目は徒長防止のため外気に触れさせながら行っている。
(3)除草・中耕作業について
こまめにほ場を巡回し雑草の状況を確認し、移植作業後の6月上旬ごろに薬剤の散布や6月中旬から7月上旬にかけてカルチベータによる畦間除草を行っている。
手取り除草については、除草剤や機械除草で取りこぼした雑草などについて実施している。
(4)防除作業について
糖業者、農協などの関係機関の指導に基づき着実に実施し、適期防除に努めている。
また、ほ場をくまなく巡回することで、病害虫の早期発見や生育の被害を最小限にとどめるよう心掛けている。
(5)品種の選定について
複合病害抵抗性や多糖量を特徴とする品種(パピリカ、レミエル)を使用している。
5. 平成26年産の実績について
桑迫氏の平成26年産の実績については、前述するよう「土づくり」、「健苗育成」などの生産性の向上に向けた取り組みを行った結果、以下の通りの成績となっている。
- 10アール当たりの収量・・・8473キログラム(全道平均6210キログラム)
- 根中糖分・・・17.7%(全道平均17.2%)
- 10アール当たりの糖量・・・1500キログラム(全道平均1068キログラム)
6. おわりに
先代から受け継いだ良質なほ場を連綿と受け継いでいる桑迫氏であるが、「昨今、高齢化による離農からほ場が拡大しており、てん菜の投下労働時間は、他作物に比べて長時間に及んでいる。いかに、てん菜の作業時間を低減するかが今後の課題である。育苗作業や収穫作業などを地域で行うことが重要である上、活性化にもつながると思う」と常に地域の発展を念頭に置き、省力化栽培による農業経営が農畜産業振興機構理事長賞を受賞した一つの要因であることが、今回の取材を通して痛切に感じられた。
また、良質なてん菜を栽培する上では、土作りや健苗育成を心がけているため、平成26年産の成績が全道平均を超える好成績につながっていることも納得できる。
平成27年産のてん菜の生育については、5月下旬から7月中旬まで干ばつ傾向となったものの、その後適度な降雨があり良好な生育状況となっているため、昨年に引続き、高収量・高糖分となるよう今後の天候に期待したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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