かんしょの加熱調理法の違いによるレジスタントスターチ量の変化
最終更新日:2017年4月10日
かんしょの加熱調理法の違いによるレジスタントスターチ量の変化
2017年4月
【要約】
でん粉性食品であるかんしょを用いて、加熱調理方法の違いが難消化性でん粉であるレジスタントスターチ量にどのような影響を及ぼすのかを調べた。その結果、生のかんしょの状態では難消化性であったでん粉が、調理によって糊化が進み消化されやすい状態のでん粉に変化した。さらに調理法の違いにより、難消化性でん粉の消化性への変化は異なっていた。
はじめに
難消化性でん粉であるレジスタントスターチは「健康なヒトの小腸内で消化吸収されないでん粉およびでん粉分解物」であり1)、適量を習慣的に摂取することにより、食物繊維と同様に健康に寄与することができる機能性成分として注目されている。レジスタントスターチの主な栄養生理機能としては、小腸では消化率が低いことから、血糖値抑制作用や血液中コレステロールおよび中性脂肪の低下などが挙げられ、さらに大腸では、腸内細菌によって発酵し、短鎖脂肪酸、特に酪酸を産生する。この酪酸が腸内細菌叢を変化させ腸内の有用な菌を増殖させたり、がん細胞の増殖を抑制させたりする、との報告もある2)3)4)。
かんしょや里芋などの芋類は私たち日本人にとって身近なでん粉性食品であり、食物繊維も多く含まれている。日本食品標準成分表2015年版(七 訂)5)では、生のかんしょ(皮むき)100グラム中の炭水化物量は31.9グラム、総食物繊維量は2.2グラム 、水溶性食物繊維0.6グラム、不溶性食物繊維1.6グラムとなっている。さらに調理を行った焼いたかんしょ100グラム中の炭水化物は39.0グラム、総食物繊維量は3.5グラム 、水溶性食物繊維1.1グラム、不溶性食物繊維2.4グラムと調理によって食物繊維量が増加している。
津久井ら6)はかんしょ、ばれいしょ、里芋、ヤマノイモの4種類6品種の芋類を蒸す、ゆでる、焼く、電子レンジ加熱および油で揚げるなどの操作で加熱調理して、加熱調理前後の総食物繊維量を定量し、その変動について検討した。その結果は蒸す、ゆでる操作の場合の各種芋類の総食物繊維量は増加が見られた。この結果について津久井らは、増加した総食物繊維量はレジスタントスターチの生成によるものではないかと考察している。Yang,Yら7)の研究では、市販されている4品種のばれいしょの調理法の違い(ゆで、焼き、電子レンジ加熱)によるレジスタントスターチ量の影響について調べたところ、焼きと電子レンジ加熱調理のばれいしょはゆでたばれいしょと比べてレジスタントスターチ量が高いという結果であった。また、Raatz,Sら8)による研究は、3品種のよく食されているばれいしょの調理法(焼く、ゆでる)と保存方法の違いがどのようにレジスタントスターチ量に影響するのかを検討している。その結果、Raatz,Sらは水分量が少ない調理法での加熱はレジスタントスターチを生成し、水分量の多い調理法ではでん粉分解が進むのではないかと考察している。
これらの研究により、芋類の調理によるレジスタントスターチ量の変化が示唆されている。しかし、これまでの芋類の調理におけるレジスタントスターチの研究についてはばれいしょが多く、国内においては、日本人がよく食するかんしょの調理法の違いによるレジスタントスターチ量変化についてはほとんど研究されていない。そこで本研究においては、でん粉性食品であるかんしょを試料として加熱調理方法の違いがレジスタントスターチ量にどのように影響を及ぼすのかを調べることとした。
1.実験概要
かんしょは徳島県産の鳴門金時を使用した。かんしょを2センチメートルの厚さに輪切りした後、クッキー型(直径約4センチメートル)でくりぬいたものを用いて、おのおのの調理法で加熱を行った。 ゆで調理は、水1.5リットルを入れた鍋の中にかんしょを入れ9分後、沸騰してから15分間加熱した。ゆで時間は合計24分間であった。蒸し調理は皿の上にかんしょを載せ、お湯が沸騰してから蒸し器の中敷きの中央に置き、鍋に濡れ布巾をかけて20分間加熱した。電子レンジは日立過熱水蒸気オーブンレンジMRO−BX10を使用し、皿の上にかんしょを載せ、皿全体にラップをかけた状態で200ワット5分間加熱した。これら三つの方法を用いて調理を行った時のかんしょはいずれも食せる状態であった。
ゆで調理と蒸し調理中のかんしょ内部温度はサーモロガー(AM-8000)を使用して測定した。電子レンジ加熱においては、電子レンジ加熱前後の内部温度を測定した。加熱調理したかんしょは、すぐに乳鉢ですりつぶし均一化した。生のかんしょはフォースミルFM-1(ケニス)を使用して破砕した。
図1はゆでる、蒸す、電子レンジ加熱の三つの方法を用いて調理を行った時のかんしょの内部温度変化を表したグラフである。調理時間は常温の水に試料を入れて加熱したゆで加熱が一番長く、また温度上昇も一番緩やかな上昇であった。かんしょの温度が100度付近に達するまで、ゆで加熱は15分以上要しているが、蒸し加熱は12分程度で100度付近に達していた。電子レンジ加熱においては、かんしょの内部温度測定ができなかったため、電子レンジ加熱前後の内部温度を測定して直線で結び温度上昇を推定した。調理時間がわずか5分であり、その直後のかんしょ内部温度は100度近くに達しており、電子レンジ加熱が短時間で一番急激に内部の温度が上昇していることが分かった。
生のかんしょとゆでる、蒸す、電子レンジ加熱調理後のかんしょの水分量を
図2に示す。生のかんしょの水分量は63.1%、ゆで加熱後は66.9%、蒸し加熱後は63.6%、電子レンジ加熱後は56.8%で、生のかんしょと蒸したかんしょの水分量はほぼ同じであり、ゆでたかんしょの水分量は生のかんしょより有意に高くなり、電子レンジ加熱後は生のかんしょより有意に低い水分量となった。
熱と水によってでん粉が膨潤あるいは崩壊することを糊化という。でん粉性食品を調理すると軟らかく粘りを持った状態に変化するが、これが糊化である。Alvarez,M.D.ら
9)の研究では、ばれいしょのゆで調理において60度では糊化はとても遅く、70度においても一部の糊化であったが、80度では5分あるいは90度では3分の調理時間で完全に糊化されたことを報告している。本実験はかんしょであるが、三つの調理法の調理加熱温度は電子レンジ調理5分を含めていずれも100度付近まで上昇し、調理後の水分量は一番少ない水分量の電子レンジ加熱後においても56.8%であったことから、これら3条件の調理方法による加熱調理において、かんしょでん粉の糊化条件は十分満たされており、食することができる状態となっていた。
次に、これら3条件の調理方法による加熱調理後のかんしょに含まれるレジスタントスターチ量に違いがあるかどうかを調べるためにレジスタントスターチを測定した。レジスタントスターチ測定はMegazyme社のRS ASSAY KIT(AOAC Method 2002,AACC Method 32-40)により行った。
図3は生のかんしょとゆでる、蒸す、電子レンジ加熱調理後のかんしょのレジスタントスターチ量を表したグラフである。生のかんしょのレジスタントスターチ量が一番高く12.0%、ゆで加熱と蒸し加熱そして電子レンジ加熱後のレジスタントスターチ量は8.8%、10.2%そして5.2%であり、調理3条件のレジスタントスターチ量は生のレジスタントスターチ量と比較して有意に低い値となった。生でん粉の消化性が低いことは従来、よく知られているが、今回の疑似消化による方法においても、かんしょでん粉は生の状態では消化されにくく、レジスタントスターチとして存在していることが明らかとなった。また、生ではレジスタントスターチであったでん粉も、調理方法によって違いはあるが、加熱によってある程度消化性でん粉に変化することが分かった。
調理3条件の間においては、蒸し加熱のレジスタントスターチ量が一番高く、電子レンジ加熱のレジスタントスターチ量は一番低い結果となった。ゆで加熱と蒸し加熱を比較すると、ゆで加熱のレジスタントスターチ量は、蒸し加熱のレジスタントスターチ量より低い結果となった。ゆで加熱は蒸し加熱と比べて、水分量が多く調理時間も長く、温度も緩やかに上昇することによって内在のでん粉消化酵素の活性が長く持続し、糊化が進んで消化されやすい状態に変化したと考えられる。従って、生でん粉のレジスタントスターチが調理により消化性でん粉に変化する際、ゆで加熱の方が蒸し加熱と比べて、より多く消化性でん粉に変化したと考えられる。
さらに、電子レンジ加熱後のレジスタントスターチ量は一番低い値となった。電子レンジ加熱はマイクロ波を照射して食品内部で電波エネルギーを変換して加熱する方法である。食品自体が発熱するため温度上昇が早く、調理時間は他の2方法と比べて非常に短く、またかんしょの水分も蒸発して三つの調理方法の中で一番低い値だったが、電子レンジ加熱は難消化性でん粉を消化性でん粉に変化させる量が一番多くなっているのではないかと考えられた。マイクロ波照射によって、かんしょ内部からの急激な温度上昇がでん粉を消化しにくいものから消化しやすいものへと、素早く変化させていることが考えられた。
2.まとめ
でん粉性食品であるかんしょを試料として加熱調理方法の違いがレジスタントスターチ量にどのように影響を及ぼすのかを調べた結果、生のかんしょのレジスタントスターチ量が一番高く、次に蒸し加熱、ゆで加熱、そして電子レンジ加熱後のレジスタントスターチ量の順に低くなった。生の状態では難消化性であるでん粉が、調理によって糊化が進んで消化されやすい状態に変化したと考えられた。さらに調理法の違いにより、難消化性でん粉の消化性への変化は異なっていた。
現在は、かんしょの調理後保存時の温度低下からの老化によるレジスタントスターチ量の変化、さらに再加熱後のレジスタントスターチ量の変化について研究を進めている。
参考文献
1)Englyst H. N, Kingman S. M,Cummings J. H(1992)「Classification and measurement of nutritionally important starch fractions.」European Journal of Clinical Nutrition46,pp33-50.
2)Birt.F.D,Boylston T,Hendrich S,et al(2013)「Resistant starch: Promise for improving human health.」Advances in Nutrition, 4,pp587-601.
3)森田達也(2010)「レジスタントスターチの栄養生理機能に関する基盤解析」日本食物繊維学会誌,14,pp91-103.
4)Nils-Georg Asp(1997) 「Resistant starch- An update on its physiological effects.」Dietary Fiber in Health and Disease. Volume 427 of the series Advances in Experimental Medicine and Biology,pp201-210.
5)文部科学省『日本食品標準成分表』2015年版(七訂) http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365419.htm
6)津久井亜紀夫,鈴木敦子,小口悦子,永山スミ(1994)「いも類の食物繊維量の加熱調理による変化」日本家政学会誌,45(11),pp1029-1034.
7)Yang,Y., Acharandio,I. &Pujola,M.(2016)「Effect of the intensity of cooking methods on the nutritional and physical properties of potato tubers.」 Food Chemistry,197,pp1301-1310.
8)Raatz.S.K,Idso,L,et al(2016)「Resistant starch analysis of commonly consumed potatoes: Content varies by cooking method and service tenmperature but not by variety.」 Food Chemistry,208,pp297-300.
9)Alvarez,M.D,Canet.W,Tortosa.M.E(2001)「Kinetics of thermal softening of potato tissue(cv.Monalisa) by water heating.」European Food Research and Technology,212,pp588-596.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713