「平成28年度かんしょでん粉の食品用途拡大に関する展示会」の開催について
最終更新日:2017年4月10日
「平成28年度かんしょでん粉の食品用途拡大に関する展示会」の開催について
2017年4月
【要約】
当機構は平成29年2月21日(火)、大崎ブライトコアホール(東京都品川区)において「平成28年度かんしょでん粉の食品用途拡大に関する展示会」を開催した。食品の試食・展示のほか、さまざまなテーマで講演やプレゼンテーションを行い、過去最高の来場者を記録した。
はじめに
当機構は平成29年2月21日(火)、大崎ブライトコアホール(東京都品川区)において「平成28年度かんしょでん粉の食品用途拡大に関する展示会」(以下「展示会」という)を開催した。
展示会は、鹿児島県で製造されている国内産かんしょでん粉の特性やかんしょでん粉を使用した食品について、もっと知ってもらおうと企画したもので、今回で6回目の開催となった。
東京で初開催となった今回は、出展者、来場者ともに過去最高を記録し、約240人の参加があった。
1.開催の背景
かんしょでん粉は、南九州地方(鹿児島県および宮崎県)で生産されるかんしょ(さつまいも)を原料とするでん粉で、工業的規模で製造されているのは国内では鹿児島県のみである。
平成26年産(10月から翌9月まで)の仕向け割合(3万9000トン)を見ると、水あめや異性化糖などの糖化製品が最も多く約7割(2万8000トン)を占め、次いで菓子類や麺類などの加工食品などが約2割(9000トン)、デキストリンなどの化工でん粉が約1割(2000トン)となっている。
以上のように、かんしょでん粉は私たちの食生活に深く根付いた身近なものであり、でん粉工場は、地域経済の一翼を担う基幹産業となっている。
しかし近年、生産者の高齢化などによる労働力不足を背景として、かんしょ(さつまいも)の生産量が減少傾向で推移しており、このような状況が今後も続けば、地域における農業生産の停滞はもとより、原料不足に伴うでん粉工場の収益性の悪化などにより地域経済の活力も失われてしまうことが懸念されている。
こうしたことから、産地ではでん粉生産の収益性向上を図るため、より付加価値の高い加工食品向けへの利用拡大を進める取り組みが行われている。当機構もこれを後押しすべく、23年度からかんしょでん粉製造事業者などと実需者とのビジネスマッチングや交流を促す場を提供している。
2.展示会の概要
今回、初の試みとして、関係団体との共同で開催するとともに、趣旨に賛同する企業・団体からの協賛、協力を受け付けた結果、全国農業協同組合連合会(JA全農)、鹿児島県経済農業協同組合連合会、全国澱粉協同組合連合会、鹿児島県さつまいもでん粉食品用途拡大推進協議会および当機構の5団体による主催、農林水産省、鹿児島県およびフード・アクション・ニッポン推進本部の後援、金融機関、新聞社および小売業関係の業界団体など10者の協賛・協力の下で実施することができた。
過去の取り組みを踏まえ、出展者、来場者双方の新たなビジネスチャンスを創出するため、参加要件を緩和するとともに、講演会や出展企業による製品のPRイベントを行った。
(1)試食・展示会
出展した19の企業・団体は、かんしょでん粉やそれを使用した加工食品などの試食および展示を行った(
表)。
各出展ブースは、試食につられ足を止める来場者で大変にぎわい、出展者の説明に真剣に耳を傾ける方の姿も多く見られ、活発な情報交換などが行われた。
(2)講演会
講演会では、かんしょ(さつまいも)およびかんしょでん粉の生産状況、かんしょでん粉の特性および食品への利用について、2人の講師の方にそれぞれの立場から講演いただいた。
主な内容は以下の通り。
ア.かんしょ(さつまいも)・でん粉の生産状況について
〜鹿児島県農政部農産園芸課技術主査 日史子氏〜
鹿児島県は、かんしょ(さつまいも)の生産量が全国1位の県で、平成28年産の生産量は、全国の約4割の32万2800トンである。同県のかんしょ(さつまいも)生産における大きな特徴は、その使用用途にある。27年産においては、生産量が全国2位の茨城県、同3位の千葉県では生産量の80%以上を生食用として使用しているのに対して、鹿児島県では約40%をでん粉用が占めており、焼酎用と併せて約9割が原料用途である。かんしょ(さつまいも)は鹿児島県の普通畑の約2割で作付けされており、耕種部門作物における農業産出額は、米に続く第2位となっている。
かんしょ(さつまいも)の栽培面積は、高齢化などの労働力不足を背景に、近年やや減少傾向で推移しており、28年産は1万2000ヘクタールとなっている。同年産におけるでん粉原料用かんしょ(さつまいも)の10アール当たり収量は、植え付け後の気象条件にも恵まれたことから、苗の活着が良く生育も良好で、平年以上の豊作が期待されたが、10月に、気温の高い夜が長期にわたって続いたことや、多雨とこれに伴う日照不足により、最終的には平年並みの収量(10アール当たり2730キログラム、平年比103%)となった。
でん粉工場の操業については、かんしょ(さつまいも)の生産量が過去10年で最も落ち込んだ27年産と比較し、生産量が平年並みに回復したことから、原料集荷量は前年比112%の約12万9000トンを見込んでいる。
日氏は、今後とも、でん粉原料用も含め、かんしょ(さつまいも)分野のさらなる発展のため、尽力してゆくと述べた。
イ.かんしょでん粉の特性と食品への利用について
〜鹿児島県大隅加工技術研究センター参事付 時村金愛氏〜
かんしょでん粉は、粒子の形状・大きさ、糊化特性(熱を加えたときの粘度性)、老化特性(硬くなりやすさ)などが他のでん粉と比較し中間的な特性を有し、特徴が少ないことから、その利用用途は他のでん粉でも代替可能な糖化製品向けが約7割を占め、より付加価値の高い加工食品向けは一部に限られていた。このため、鹿児島県では、関係者が一体となって、加工食品用途への利用拡大に向けた取り組みを行っている。
近年、新たに開発されたかんしょ(さつまいも)品種「こなみずき」のでん粉は、二つの大きな特長がある。一つ目は、低温糊化性(注1)を有するため、ゲル性菓子(わらび餅など)に使用すると優れた耐老化性(注2)や冷凍耐性を示すこと。二つ目は、従来のかんしょでん粉がソフトな弾力感や口溶けの良さを特長であるのに対して、「こなみずき」でん粉は、より弾力があり、歯切れが良くなるなどの食感改良効果に優れることである。これらの特長から、「こなみずき」でん粉は、ゲル性菓子、麺類、水産練り製品、ベーカリー製品、餅加工品など、加工食品用途での幅広い利用が可能となっている。その他にも、従来のかんしょでん粉と「こなみずき」でん粉をミックスすることで、さまざまな食感に調整することができるため、焼き菓子の用途での活用も期待されている。
同センターは、安心安全な国産素材であり、食品に幅広く利用できるかんしょでん粉を新商品開発などの現場で積極的に使用を検討してほしいと考えている。
(注1) 低温糊化性とは、「こなみずき」でん粉が、従来のかんしょでん粉と比較し、約20度低い温度(58度程度)で糊状になる性質のこと。
(注2) 耐老化性に優れるとは、保水力が高く、弾力感やしっとり感といった食感を長期間維持できること。
(3)出展者による製品PRイベント
出展者によるPRイベントでは、五つの企業・団体が4回に分かれて、自社の製品などについてプレゼンテーションを行った。
主な内容は以下の通り。
ア.甘藷澱粉を原料とした低甘味水あめ「サナストリンSL75」のご紹介
〜サナス商品開発部商品開発課 井上洋平氏〜
サナス(本社鹿児島県鹿児島市)は、昭和11年創業の日本で唯一かんしょでん粉工場とコーンスターチ工場を持つ糖化メーカーで、さまざまな糖化製品やでん粉製品などの製造、販売を行っている。
同社は、新製品「サナストリンSL75」の開発に当たり、食品メーカーが水あめを使用する理由について改めて分析を行った。その結果、主な使用目的が食品の保存性向上や色つやを良くすることにある場合、食品の他の素材の持ち味を生かすために、より甘味度の低い水あめを望むケースが多くあることが分かった。
低甘味水あめ「サナストリンSL75」には二つの特長がある。一つ目は、甘味度が砂糖の約5分の1、同社既存製品と比較し約4割の甘味カットに成功していること。これにより、麺つゆなどの用途では、従来使用されている水あめの代わりにサナストリンSL75を使用することで、保存性向上などの機能を残しながら甘味を抑え、だしの風味をより引き立てることができる。二つ目は、白濁しないこと。コーンスターチではなく、かんしょでん粉を原料とすることで、最終製品における白濁の防止に成功している。白濁は主にでん粉の老化によって生じる現象であるが、食品メーカーから見ると、見た目の問題から品質劣化だと誤解されることもあるため、白濁しないことにこだわって製品を開発した。
同社では、主に調味料、菓子を中心とした食品用途での利用を期待している。
同社は、かんしょでん粉の可能性を引き出すため、今後もかんしょでん粉の研究・開発を行ってゆきたいと考えている。
イ.かんしょでん粉を使用した新しい国産春雨について
〜森井食品開発室室長 本田博也氏〜
森井食品(本社奈良県桜井市)は、明治20年創業、日本で初めて国産春雨を製造した会社で、国産春雨の製造や販売などを行っている。同社では、国産かんしょでん粉の需要拡大のため、平成28年にJA全農との共同出資で日本はるさめ(本社奈良県桜井市)を立ち上げ、「新食感国産はるさめ」を開発した。
国産春雨類の販売量は、近年上昇傾向にあり、27年では7500トン程度となっている。一方、輸入春雨類(主に中国産春雨)は、近年微減傾向にあり、同年では1万2000〜1万3000トン程度となっている。
「新食感国産はるさめ」の一番の特長は、春雨の原料であるスラリーから気泡(空気)を取り除くことで、今までの国産春雨にはない中国産緑豆春雨と同等の細さと強さを実現した点である。中国産緑豆春雨と比べて保水力に優れ、ゆでた翌日でも作りたての食感を維持することや、温度耐性が高いことから、高温ボイル殺菌や長時間のゆで作業、急速冷凍に対応していることも魅力である。
同社は、国産かんしょでん粉などの国産品を主原料にした「新食感国産はるさめ」で、輸入春雨類からのシェア獲得を目指してゆきたいと考えている。
ウ.「外食産業等と連携した農産物の需要拡大対策事業」の概要と取組状況について
〜公益財団法人日本特産農産物協会調査指導部部長 波川鎭男氏〜
この事業は、国産農産物の需要拡大を図るため、産地と複数年にわたる原料供給契約を締結し、一定の要件を満たした外食・加工業者などに対して、新商品の開発などに補助金を交付するもの。
同協会は、事業実施主体として、今後食料自給率を上げるためには、加工食品に国産農産物を使用することで、需要拡大を図る必要があると考えており、本事業への積極的な応募を期待している。
エ.かんしょでん粉(こなみずき)を使った商品紹介
〜ゆめふく 田中優子氏〜
ゆめふく(本社福岡県福岡市)は、平成28年に東福岡米穀協同組合(本社福岡県福岡市)と城北麺工(本社山形県山形市)の共同出資で設立された会社で、こなみずきでん粉を使用した加工食品の開発や販売を行っている。
こなみずきでん粉は、鹿児島県のみで生産されている希少なでん粉で、かんしょの新品種「こなみずき」から生産されている。特長は大きく分けて三つあり、一つ目は従来のかんしょでん粉より耐老化性に優れていること。二つ目に低温糊化性を有すること。三つ目に食感改良性に優れていることが挙げられる。
同社では、こなみずきでん粉の商品開発を行うきっかけとなった餅をはじめ、そうめんやラーメンなど5種類の製品を開発している。同社製の餅は、煮ても溶けにくいこと、歯切れが良いことが特長である。
また現在は、農林水産省の補助事業「外食産業等と連携した農産物の需要拡大対策事業」を活用し、こなみずきでん粉を使用したそばや甘酒ヨーグルトの開発にも着手している。そばは、原材料に全て鹿児島県産を使用し、地産地消を推進している。甘酒ヨーグルトは、こなみずきでん粉を知るきっかけになる商品を目指し、佐賀大学や酒蔵の協力の下、開発を進めている。
同社は、今後ともかんしょでん粉の新たな可能性を広めるために商品開発に取り組んでゆきたいと考えている。
オ.廣八堂の商品紹介とかんしょでん粉の方向性
〜廣八堂鹿児島工場常務取締役工場長 榎木靖氏〜
廣八堂(本社福岡県朝倉市)は、明治8年に創業し、今年で142年になる。主に、本くず・わらび・かんしょでん粉の製造・加工・販売および冷凍食品の製造販売を行っており、平成26年には、本くずの海外輸出も開始している。福岡県と鹿児島県の三つの工場で製品を製造している。
同社は、本社冷凍工場および鹿児島工場でISO 22000を取得するなど安全な製品の提供を重視しており、輸出先である英国などでさらに厳しい安全水準が求められていることから、ISO22000をさらに発展させた世界食品安全イニシアチブ(GFSI)が制定するFSSC22000の取得に向けて、29年に監査を受ける予定としている。
本くずミックス粉は、現在同社が販売を推進している製品で、本くずとこなみずきでん粉などをミックスしている。それぞれの製品の良いところを生かしており、でん粉だけの場合と比較して、包あんしやすいことが特長である。
榎木氏は、かんしょでん粉はコスト面の課題があり、より付加価値をつけて販売する必要があると考えており、そのためには、外部認証を積極的に取得する必要があると述べた。
おわりに
本展示会の来場者に対しアンケート調査を行った結果、展示会の満足度は「満足」または「やや満足」との回答が全体の85%を占め、「多種多様な用途があり、新たな発見があった」「講演、製品のPRイベントが面白かった」「試食が多く食感がよく分かった」など肯定的な意見が寄せられた。一方、「出展者をもっと増やして欲しい」「講演をもっと増やして欲しい」などの指摘もいただいた。
他方、出展者からは、「希望した来場者に必ずしも出会えなかった」「来場の業種を増やして欲しい」など、来場者募集に関して改善を求める声が寄せられた。
当機構は、より付加価値の高い食品用途への利用拡大を着実に進めるためにも、出展者、来場者、関係者の皆さまから寄せられたご指摘、ご意見、ご要望を真摯に受け止め、今後とも、より効果的かつ効率的な展示会を開催してまいりたいと考えている。
最後に、今回、産地関係者の一員として、かんしょでん粉の用途拡大の取り組みに微力ながら貢献できたことに喜びを感じるとともに、講演やブースへの出展ならびに共催、後援および協賛・協力をいただいた企業・団体の皆さまをはじめ、ご協力いただいた関係者の皆さまに深く感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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