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幼児と環境に優しいトウモロコシでん粉を素材とした食器「iiwan®

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最終更新日:2017年10月10日

幼児と環境に優しいトウモロコシでん粉を素材とした食器「iiwan®

2017年10月

株式会社豊栄工業 ブランドマネージャー 美和 敬一

1.開発の経緯

 弊社では、トウモロコシでん粉と乳酸菌を主原料とする生分解性樹脂「ポリ乳酸(PLAPoly Lactic Acid〉)」の射出成形品(注1)の製造販売を射出成形金型の設計および製作、射出成形加工、ブランドマネジメントまで一貫した事業化として行っている。


 ポリ乳酸は、温室効果ガスによる地球温暖化抑止効果を発揮する(ねつ)()()(せい)樹脂(注2)として、2005年に開催された「愛・地球博」において容器、食器の原料に採用されたことなどを契機に、シートや繊維、射出成形品としての商品化の取り組みがさまざまな方面で行われてきた経緯があるが、原材料価格が石油樹脂よりも高価であり、強度や耐熱性の水準が低く、かつ射出成形が樹脂の低流動性により困難であるために、射出成形品の事業化は世界的に見てもなかなかはかどらない状況にあった。


 弊社では、耐熱温度140度レベルの改質ポリ乳酸を採用した幼児食器iiwan(イイワン)®(写真1写真2)の射出成形技術の開発に2007年ころより着手し、製品デザイン、金型技術開発を行ってきた。素材の安全性や生分解性に着目し、ハイエンド製品である幼児食器分野を開拓するビジネスモデルの構築に取り組んできた。その結果、安全で安心な製品としての市場評価が定着するに至り、国内のみならずフランス、イタリアなどでの普及が始まっている。
 2011年にはグッドデザイン賞を受賞し、その市場評価も徐々に高まってきている。

(注1)加熱した材料を金型に充てん(射出)し、成形させた製品。
(注2)熱を加えると軟化し、冷えると固まる性質がある合成樹脂。

写真1 2011年にグッドデザイン賞を受賞した幼児食器「iiwan?」

写真2 iiwan?の商品セット

2.製造方法

 ポリ乳酸は、まず初めに、でん粉を加水分解によりブドウ糖に変化させた後、乳酸菌による乳酸発酵で乳酸を生成する。弊社で使用しているポリ乳酸のでん粉はトウモロコシでん粉(コーンスターチ)であるが、いも類などのでん粉であっても良いし、サトウキビから直接ブドウ糖を利用することも可能である。

 次に、乳酸を脱水してラクチドと呼ばれる化合物を生成し、開環重合(注)プロセスにより熱可塑性樹脂であるポリ乳酸を合成する。ポリ乳酸は、ガラス転移温度が57度程度であり、溶融温度は200度程度の透明樹脂である。シートやペレット、繊維などに加工ができる。ポリ乳酸は、製品の使用用途を終えた後は、土中に埋設するだけでバクテリアによる酵素分解により最終的に水と二酸化炭素のみに生分解される。生分解速度は、温度、ph、水分量などによって左右される。また、河川や海水中においても土中より時間はかかるものの、バクテリアにより生分解されることが知られている。以上のようにポリ乳酸は、光合成によりでん粉へ戻すことが可能なカーボンニュートラルサイクルを実現することが可能である()。世界自然保護基金(WWF)によれば、ポリ乳酸によるカーボンフットプリントは従来比25%減、化石資源43%削減と試算されている(出典:Institute for Energy and Environment Research)。

(注)環構造を持つ化合物の環を解き、2個以上の分子が結合して新たな化合物となる反応のこと。

図 ポリ乳酸のカーボンニュートラルサイクル(イメージ)

 弊社では、ポリ乳酸の耐熱温度を120140度までに高めるために層状(そうじょう)珪酸塩(けいさんえん)(天然粘土の一種)を20ナノメートル級に微粉化させて混合・分散させたナノ・コンポジットポリ乳酸を採用している。ナノ粒子は、ポリ乳酸が冷却固化する際の結晶核として作用し、耐熱温度を上げる効果を発揮する。一般的な家庭での使用環境では、電子レンジによる食品加熱、家庭用食器洗浄機による洗浄に対応することができる(弊社では原材料の生産は行っておらず、国内樹脂メーカーより同ペレットを購入している)。

 ナノ・コンポジットポリ乳酸の射出成形では、高い結晶化度を得るために金型温度を110度程度へ保温する必要があるが、結晶化による収縮でカップなどの成形品は金型の凸形状に強固に固着し、金型からの離型が困難となる。この技術的課題は、小松技術士事務所(福島県いわき市)が日本、米国、欧州で保有する製法特許権の使用許諾を受け、連続成形ができる技術を導入して対応している。

 
弊社では、幼児食器の射出成形工場は、クリーンルーム仕様となっており、衛生的で温度、湿度管理が適切になされた環境で生産が行われている。

 
弊社の幼児食器は、ポリオレフィン等衛生協議(注1)のポジティブリストに適合した素材を使用し、欧州のEN規格(注2)を満たすとともに、食品衛生法による表示基準に従った品質表示を行っている。
 
また、日本バイオプラスチック協会が定めるバイオプラマークの表示許可も得られている。

(注1)熱可塑性樹脂(ポリオレフィン)などを使用した食品用器具および容器包装について、使用される原材料(合成樹脂、添加剤、色材)のポジティブリストと、樹脂別の製品規格の自主基準を制定し、製品またはその原材料に対する自主基準の適合性の確認・証明などを行う団体。
(注2)製品の技術的要件が定められたEU統一規格。製品の特性ごとに「機械指令」、「低電圧指令」、「医療機器指令」、「玩具安全指令」など 25の指令・規則が規定され、それぞれの必須要求事項を満たした製品にCEマークを表示する制度となっている。

3.製品のコンセプト

 iiwan®は、植物由来のトウモロコシでん粉と乳酸菌を主原料としたポリ乳酸から作られており、石油由来の合成樹脂とは異なり、素材中に鉛、水銀、カドミウム、クロムなどの重金属を一切含有していない点が乳幼児に対する食器の安全性という点で新生児の両親から高く評価されている。また、耐熱性を改善するための手法として石油由来樹脂とのポリマーアロイ(注)化や合成結晶化核材を使用する方法を選択せず、天然の層状珪酸塩のナノ・コンポジットによる結晶化度の向上という手法を採用したポリ乳酸を使用しており、弊社が知るレベルでは世界最高水準の天然素材度の耐熱ポリ乳酸である点が特筆される。

 着色材も生分解性試験をクリアした国内メーカーのインクを採用しており、安心して使用できることが担保されている。

 
現在、世界で商品として流通している耐熱ポリ乳酸幼児食器は、iiwan®のみであり、欧米での市場評価もおおむね好評である。

 
実用耐熱温度は、120140度であり、電子レンジによる食品の加熱による樹脂からの危険成分溶出に対する危惧は、日米欧の溶出試験をクリアすることで払拭されている。同様に家庭用食器洗浄機による高温洗浄のシーンでも安心が得られている。

 
201611月4日にCOP21地球の気候変動抑制に関するパリ協定が発効され、フランス共和国では、2015年7月22日に制定された「エネルギー転換法」に基づいて翌9月に世界で初めて、使い捨て食器に生分解素材を50%使用することを義務付ける法律を制定し、2020年に施行される予定である。将来的には60%へ引き上げる見通しであるという。iiwan®は、使い捨てではなく何回も繰り返し使用できるリターナブルをコンセプトとした食器であるが、食器の生分解素材化を推進しようとするフランスのポリシーに合致しており、この流れはフランスだけにとどまらずEU全体へ波及する兆しが感じられる。

(注)2種類以上のポリマー(重合体)が結合した高分子のこと。

4.市場における評価

 iiwan®は、2011年の製品販売開始以来、エコプロダクツ(東京ビッグサイト)、IPF国際プラスチックフェア(幕張メッセ)、国際ホテル・レストランショー(東京ビッグサイト)などでの展示会出展や、メゾン・エ・オブジェ(パリ。写真3)、ル・ジャポン(パリ。ボン・マルシェ・リヴ・ゴーシュ百貨店)などでも出展し、製品の周知を行っている。

 2014〜16年にかけては在リヨン領事事務所主催天皇誕生日祝賀レセプションに招待出展する機会に恵まれ、フランスの政財界の方々へ製品紹介を行っている。(写真4

 これらの地道な活動や、 ウェブサイト(http://iiwan.jp)を通じた国内外への周知活動により、幼児の両親や祖父母から評価を受けており、また出産祝いギフトとしての採用機会も年々増加している。

 顧客からの感想としては、「素材に重金属が一切含まれていないので安心で安全な点が評価できる」「天然素材を可能な限り多く使用していることが好ましい」「国内外の公的な品質評価試験をクリアしているので信頼できる」「最終的には生分解できるので地球環境の保護に役立つことは良い事である」などのコメントを頂戴している。

写真3  インテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」(パリ)出展の様子

写真4 天皇誕生日祝賀レセプションでの招待出展の様子(在リヨン領事事務所主催、 ?Michio Komatsu, Lyon, 2016)

5.今後の展開

 弊社は、iiwan®について商標登録を済ませており、ブランディング活動を推進している最中である。また、欧州を中心とした海外での販売戦略を展開中であり、日本発の植物由来・生分解性樹脂製幼児食器としてクールジャパン製品としての地位を高める活動にも取り組んでいる。この他に、高齢者用食器シリーズやアウトドア食器などへの展開準備を行っている。

 弊社のこれまでのポリ乳酸射出成形品の開発活動や金型技術、超臨界微細射出発泡成形技術(注)活動への取り組み成果について、弊社常務取締役美和敬弘は、平成27年度公益財団法人中部科学技術センター振興賞、平成29年度文部科学大臣表彰 科学技術賞(技術部門)を受賞している(両賞は、小松技術士事務所所長 小松道男氏と共同受賞である)。

 また、現在、名高い賞にノミネートされているところであり、弊社のポリ乳酸製品の技術開発や品質について、第三者の視点からも高い評価が受けられるようになってきている。

 今後もこれまでの取り組み成果に慢心せずに、安全・安心な製品を真心を込めて生産する心構えを忘れずに歩んでいきたいと考えている。

(注)溶融した樹脂に高圧下で発泡剤である超臨界状態の窒素や二酸化炭素を大量に溶解させ、急減圧させることによって多数の微細な気泡を発生させる方法。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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