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ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ新品種の導入〜JAこしみずの取り組み〜

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最終更新日:2017年11月10日

ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ新品種の導入〜JAこしみずの取り組み〜

2017年11月

札幌事務所 平石 康久

【要約】

 北海道小清水町において、平成29年産より一般の()(じょう)で生産が開始されたジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つコナヒメ、コナユタカは、良好な栽培成績を収め、普及に向けて期待が高まっている。

はじめに

 ジャガイモシストセンチュウ(学名Globodera rostochiensis、以下「シストセンチュウ」とい う)(注)の防除には、抵抗性品種の作付けが有効な手段となるが、普及・定着はさほど進んでいない状況にあった。このような中、北海道では、優れた抵抗性のみならず、多収で、でん粉収量も多いでん粉専用品種の開発が進められ、実用化に道筋が付けられたところである。平成29年産から一般の圃場において、これらの新品種の作付けが開始された小清水町農業協同組合(以下「JAこしみず」という)の取り組みについて報告する。

(注)ばれいしょに寄生する線虫で、根の内部に寄生した幼虫が養分を吸収することにより収量が著しく低下する。一度圃場に侵入すると、根絶は非常に困難であると言われている。なお、この線虫は人畜には無害で、当該線虫が付着したばれいしょを食べても健康を害することはない。

1.小清水町の気象と農業概況

 小清水町は北海道のオホーツク管内に位置し、おおむね夏は冷涼で降水量が少なく、冬の積雪量はそれほど多くないことが特徴である(図1図2)。

図1 小清水町の地図

図2 小清水町の気象

 平成27年の耕地面積は約1万400ヘクタールであり、町の総面積の約3分の1を占める。耕地面積の内訳は、畑地および牧草地・放牧地であり、畑地は、小麦、てん菜、ばれいしょの畑作3品目が大部分を占めている(表1)。

 でん粉原料用ばれいしょは、町の耕地面積の18%、農業生産額の24%を占めており、でん粉原料用ばれいしょ生産の維持拡大を図ることが、小清水町の生産者にとって重要な課題となっている。

表1 小清水町の農業概況(平成27年)

写真1 ばれいしょ作付け風景

写真2 ばれいしょ収穫風景

2.シストセンチュウ対策の現状

 小清水町を管内とするJAこしみずは、耕地面積や農業生産額に占めるでん粉原料用ばれいしょの割合が高い。また、直営のでん粉工場を所有し、付加価値を付けて販売していることもあり、JAこしみずにとってでん粉原料用ばれいしょは、輪作体系を維持するために不可欠かつ地域畑作上基幹的な役割を持つ作物である。

 そのため、ばれいしょの収量を最大で半減させるとされるほど深刻な被害を引き起こすシストセンチュウの対策は、重要な課題となっている。

 北海道では、「北海道ジャガイモシストセンチュウ類防除対策基本方針」が定められており、JAこしみずも同方針に基づき対策を講じている。

 具体的なシストセンチュウ対策としては、まず、生産者はどの圃場が、どの程度の密度でシストセンチュウが侵入しているかを把握することが重要である。このため、JAこしみずはカップ検診法を採用し、生産者自ら土壌検診を行う体制を整備してい る(注1)

 また、JAこしみずは管内におけるばれいしょの作付けについて、圃場条件を考慮の上、抵抗性品種の作付けを推奨している。シストセンチュウ密度の減少率は、非寄主作物では約30%にとどまるが、抵抗性品種では80〜90%とされている(注2)

 加えて、生産者はシストセンチュウが発生している圃場で作業を行った後には、使用した農作業機やトラックを必ず洗浄するとともに、コンテナなどを80度以上の熱湯で滅菌している。
 さらに野良いも(注3)の除去について徹底するよう指導している。

 これらの対策によって、被害の拡大を防ぐとともに、シストセンチュウが存在する圃場においてもその密度を減少させ、ばれいしょ生産が継続できるようにしている。

(注1)詳細については本誌2016年3月号「ジャガイモシストセンチュウの密度低減に向けて〜JAこしみずの取り組み〜」を参照。
(注2)詳細については本誌2016年3月号「北海道におけるジャガイモシストセンチュウの発生状況と対応」を参照。
(注3)ばれいしょを収穫した後に圃場に残留したいも。

3.抵抗性品種の導入

(1)導入の経緯

 平成26年産にJAこしみず管内で作付けされたでん粉原料用ばれいしょの品種は、コナフブキ(でん粉原料用ばれいしょの作付面積に占める割合が65%)、アーリースターチ(同26%)、コナユキ(同5%)などであった(図3)。

 コナフブキは単収やでん粉価が高いこと、でん粉の白度が高いなどの特性を持つものの、シストセンチュウに対する抵抗性がないことから、ばれいしょ安定生産の面からシストセンチュウ抵抗性を有する品種への転換が課題となっていた。

 アーリースターチは、シストセンチュウ抵抗性を持つでん粉原料用品種の中でも、いもの肥大とでん粉価の上昇が早く、早堀り収穫に適しており、輪作の次作物となる秋まき小麦の作付けをスムーズに行えることが利点である。一方、ばれいしょの皮が薄いことから、傷がつくことによって腐敗が発生しやすいという弱点があり、導入当初には積み上げたいもの中にあった傷んだいもから腐敗が広がったこともあったという。このことから、JAこしみずは、アーリースターチに適した肥培管理を試行錯誤の上確立し、傷がつきにくい強いいもを作ると同時に、傷んだいもを収穫前に徹底して取り除くなど、収穫したいもの品質管理に労力をかけている。なお、最終的なでん粉収量は中晩生のコナフブキに比べて少ない。

 また、同じく抵抗性品種であるコナユキについては、固有用途(水産練り製品、麺類、春雨、片栗粉など)に適したでん粉特性を持つものの、いもが小粒なため、「くずいも」とよばれる収穫時掘り残しが発生しやすく、翌年の野良いもが増加する問題があった。

 これらのことから、でん粉収量が高く、シストセンチュウ抵抗性を持つ優良な新品種が待ち望まれていたところである。

図3 平成26年産品種別でん粉原料用ばれいしょ作付け割合

写真3 左からコナフブキ、アーリースターチ、コナユキ

(2)コナヒメ、コナユタカの導入

 こうした中、北海道の優良品種として平成26年1月(コナユタカ)、27年2月(コナヒメ)が相次いで認定された。

 道普及センターやJAこしみずにおいて栽培試験を行った結果、良好な成績であったことから、29年産からの導入が決定され、コナヒメ(92ヘクタール)、コナユタカ(108ヘクタール)合わせてでん粉原料用ばれいしょ作付面積の約1割の規模で作付けられた(図4)。

図4 平成29年産品種別でん粉原料用ばれいしょ作付け割合

 コナヒメは早掘り収穫に適しており、コナフブキに比較していもの平均重は小さく、でん粉価がやや低いものの、1株当たりのいも数が多いことから、10アール当たりのでん粉収量はコナフブキと同程度になることが期待できる。

 コナユタカはコナフブキより枯ちょう期が遅い晩生の品種であるが、1株当たりのいも数やでん粉価はコナフブキと同程度で、いもの平均重が大きいことから、10アール当たりのでん粉収量はコナフブキよりも多いことが期待できる。また、品質特性についても、総じてコナフブキ並みと評価されている(表2)。

写真4 実証圃に作付けされたコナヒメ(平成29年7月撮影)

表2 抵抗性品種の試験結果成績の比較

(3)作付けおよび収穫の状況(平成29年10月時点)

 新品種の作付け圃場は一部に限られている上、平成29年12月ごろにならなければ正式な生育調査試験結果の取りまとめは行えないことから、あくまで原稿執筆時点(平成29年10月中旬)での暫定的な成績についての記述になる。

 コナヒメについては、いも数は多く、いも重も平均的で粒ぞろいも良く、でん粉価についても9月7〜21日の2週間の出荷データを見ると、20.0〜21.3%を記録するなど良好であった。

 また、上いもの10アール当たり収量についても9月上旬で3.5〜3.7トン、9月中旬で4トン強、9月下旬で4.5〜4.75トンと良好な成績であった。早掘り収穫の適性があり、試験結果と同様の成績が実現できていることから、アーリースターチと同様に、秋まき小麦の前作としてよい品種になることが期待されている。

 コナユタカについては晩生品種のため、実績は現時点では不明であるものの、これも試験結果と同様に、いも数は並みであるが、いもの重量が大きいことから、大粒で粒ぞろいが良く、単収も期待されている。でん粉価も収穫前の9月下旬時点で、既に21%を記録している。

 両品種ともJAこしみずで作付けされていた既存の品種と比較して、栽培方法などでの特別な技術や対応が必要とされる場面は、現在までのところ感じられなかったとのことである。

 JAこしみずでは、試験圃場での坪掘調査や、一般の圃場での実績を見ても、両品種とも成績が既存品種を上回り、将来に向けて期待できると認識しており、生産者からのこれら品種の作付け意向が高まると予測している。ばれいしょは増殖率が低く、種ばれいしょの生産量はあらかじめ決まっていることから、来年の作付けについて生産者の要望にどの程度応えることができるかは不明であるが、でん粉原料用ばれいしょは、北海道により設置された北海道産馬鈴しょの安定供給に関する検討会で示された34年までに100%抵抗性品種に置き換えるという全道の目標に向かい、増加させていくことになるであろう。

まとめ

 JAこしみず管内において生産者の圃場で作付けが開始されたコナヒメ、コナユタカの成績は、良好な実績を達成しつつある。

 両品種は現在主力品種であるコナフブキと比較して、シストセンチュウ抵抗性を持つだけでなく、でん粉収量などでも優れた特性を持つことから、今後の普及が待ち望まれるところである。

 最後になりましたが、お忙しい中、本取材にご協力いただいた小清水町農業協同組合販売部木村和夫部長、上本輝幸相談役に厚く御礼申し上げます。
【参考資料】
1)古川勝弘(2016)「北海道におけるジャガイモシストセンチュウの発生状況と対応」『砂糖類・でん粉情報』(2016年3月号)
2)坂上大樹(2016)「ジャガイモシストセンチュウの密度低減に向けて〜JAこしみずの取り組み〜」 『砂糖類・でん粉情報』(2016年3月号)
3)大波正寿(2016)「でん粉原料用ばれいしょ新品種「コナユタカ」の特性」『砂糖類でん粉情報』(2016年7月号)
4)浅間和夫(2009)農畜産業振興機構「でん粉専用品種「コナフブキ」の話」『でん粉情報』(2009年6〜8月号)
5)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 作物育種グループ「目指せ!抵抗性品種作付け100% ジャガイモシストセンチュウに強いでん粉原料用ばれいしょ「コナヒメ」」『第20回オホーツク農業新技術セミナー発表要旨集』(平成28年3月1日付)
6)農林水産省農林水産技術会議ホームページ「農林番号付与品種」 http://www.affrc.maff.go.jp/docs/research_result/norin_number/norin_number.htm(2017年10月17日アクセス)
7)小清水町「第9期小清水町農業振興計画」
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