岩塚製菓は、中国を代表する総合食品メーカー「
旺旺」の販売網を活用して自社商品を台湾へ売り出す計画だ。インバウンド需要の増加により、同社の商品認知度の向上に手ごたえを感じているからである。
旺旺は、もともと台湾で水産加工業を営む小さな会社であったが、1980年代初めごろ、岩塚製菓から技術提供を受けたことを機に菓子メーカーに転身、その後、巧みなプロモーション戦略で日本独自の菓子「せんべい」を台湾、中国本土でヒットさせ、現在、中国に本社を置き、米菓のみならず、スナックや飲料、乳製品の製造も手掛ける。旺旺の米菓は、日本のものと比べかなり軽い歯応えで、表面を砂糖でコーティングするなど甘めな味付けとなっており、台湾の米菓市場で約9割のシェアを持つといわれている。その主力商品は、岩塚製菓の商品を手本に開発されたものであるが、来日した台湾の観光客には旺旺の米菓を岩塚製菓がまねて製造していると勘違いされることが多いといい、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通じて岩塚製菓の商品が取り上げられる機会が増えている(
写真2)。
また、日本人の嗜好の変化に対応した軽い歯応えの商品が、台湾の消費者に受け入れられるようになったことも輸出展開の決断を後押しした。このことから、SNSで取り上げられた商品を中心に硬さを抑えた米菓を売り込む予定である。
槇社長は「旺旺のおかげで、“米菓”というカテゴリーが幅広い年代・層に認知されていることから、品質に優れる日本の米菓が受け入れられる余地は大きい」としながらも、「現在、日本の米菓は、百貨店などごく限られた店舗でしか取り扱われておらず、日本の米菓に対する認知度はまだまだ低い。われわれは、旺旺の強固な販売網を後ろ盾に、現地の消費者が日常的に利用するスーパーマーケットなどに陳列されることを目指す」と語る。また、台湾におけるメイド・イン・ジャパンに対する高い信頼を生かし、「原材料表示以外は日本語で表記し、パッケージデザインも日本で販売されているものと同じにする」と言う。
同時に、米国への売り込みを視野に入れ、グルテンフリー
(注)商品の開発も進めている。グルテンフリーは、欧米を中心に今後も成長拡大が期待される有望なマーケットの一つであり、すでに日本の大手米菓メーカーが参入している。米国でのテスト販売を通じ、米菓は、グルテンフリー、低脂肪、低カロリーでヘルシーな食品として認知され始めていると言い、アジア系の人種が多く住み、米を食する文化がある西海岸を中心に需要があると見ている。同社の試算では、米国国内に400億円規模の米菓市場があると見込む。
米国向けの商品のコンセプトは、日本や台湾向けの商品のものとは明らかに異なる。米国の消費者は、日本の米菓のように硬すぎるものは受け入れられないが、台湾向けの商品のように軽い歯応えでは物足りなさを感じるようである。また、焼き色が付いたものも評判が良くない。そのため、クラッカーのように全体的に白っぽく、米の粒感を程よく残した見た目で、多少歯応えはあるものの、雑穀を生地に練り込むことでほのかな穀物の風味を利かせ、健康感の高い商品に仕上がっている。年内には、本格的な米国向け輸出に先立ち、広がりの兆しを見せつつある日本国内のグルテンフリー市場に、同様の商品を投入する計画だ(
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(注)小麦アレルギーやセリアック病(小麦や大麦に含まれるグルテンに対する過敏症を主な症状として生ずる自己免疫疾患)の患者向けの食事療法として欧米で始まったものである。欧米におけるセリアック病の正確な有症率ははっきり分かっていないものの、米国食品医薬品局(FDA)の推計では、約300万人の米国人がこの病気に苦しんでいるとされる。この疾患に対する一般的な対処法は、食事から一切のグルテンを除去することといわれていることから、患者にとってグルテンフリーであることが食生活において非常に重要な意味を持つこととなる。